忍殺TRPGリプレイ【ラーン・スリケン】
邦題:スリケンを習え(Learn SRKEEN)
ドーモ、三宅つのです。これはシニゾコナイザー=サンのソロシナリオ案「モータルの遺跡発掘調査」を元にしたリプレイ小説です。ネタバレにご注意ください。
今回はモータル、それもアウトローですらない一般ネオサイタマ市民が、遺跡の発掘調査に参加して事件に巻き込まれるというシナリオです。つの次元にはすでに多くのモータルキャラがいますが、せっかくですし新たなモータルキャラクターを無から創造してみましょう。
モータルPC創造
一般市民モータルPCを作成する場合、カラテ・ニューロン・ワザマエに合計7ポイントを任意で割り振ります。スタート時の各能力値の最大値は3で、ジツを持てません。カラテやワザマエが2以下でも、脚力は最低2です。
名声は1で、知識スキル2個と交渉スキル1個を任意で選択します。万札20が支給されるので、単品価格が万札10以内のアイテムや装備、サイバネを自由に購入します。取得条件を満たしていれば◉系スキルも取得できますが、スキル1つにつき万札10が必要です。もっとカネが欲しければ万札10をふわふわローンで借りることができます(返済時は12)。切羽詰まって危険そうなビズに参加するような市民なら、借金があっても自然ですね。
ニンジャと異なり、モータルPCは「連続側転」も「アドレナリン・ブースト」も持ちません(◉系スキルとして取得はできます)。また回避判定はニンジャより+1され基本HARDですし、スシで体力を回復させることができず(ドラッグなどで回復します)、どれだけ悪行をしてもDKKを獲得しません(ニンジャスレイヤーが殺しには来ませんが、デッカーなどに目をつけられます)。また攻撃出目で66以上を出してもサツバツやナムアミダブツを発生させられず、代わりに「痛打+1」を得ます。スリケンの生成もできませんから、射撃には銃器を装備している必要があります。
また、モータルPCの各能力値の成長上限は7です(ナンシー=サンなど特殊な人間を除く)。6から7に上昇させるには、成長の壁を取り除く必要があります。さらに強化したいならニンジャか重サイバネになって下さい。そして仲間のニンジャが同行しているか、シナリオ内でニンジャを殺したことがあるかしない限り、敵対ニンジャと遭遇したらNRS判定を強いられます。
とは言っても、あまりイメージが浮かびませんね。まず「生い立ち表」を振ってみましょう。D66で決定します。2D6[66]=生粋のソウカイヤクザ。今回は一般市民なのでアウトローは却下です。2D6[35]=アンタイブディズム・ブラックメタリスト(ABBM)。一般市民とは言い難いので却下です。2D6[34]=スモトリ崩れ。アウトローです。2D6[31]=刀剣マニア。ネオサイタマにまともな市民はいないのでしょうか。2D6[64]=プロテインマニア。筋肉ダルマの変態です。2D6[51]=元ヒキャク・パルクール。ようやくまともそうな市民が出ました。ニンジャであれば常人の三倍の脚力を持っているのですが、一般市民なのでサイバネを装備しているでしょう。
では、カラテ・ニューロン・ワザマエに2ずつ振り、ワザマエを3としてみましょう。万札10で「ヒキャクLV1」を、残りで「◉連続側転」をとり、さらに万札10を借金して「生体LAN端子LV1」を入れます。サンシタニンジャから毛を抜いた程度のモータルができました。アウトローではありませんがこのぐらいの一般市民はネオサイタマには掃いて捨てるほどいるでしょう。知識スキルとして「ビークル」「サイバネティクス」を選び、交渉スキルとして「威圧」を入れます。威圧的ですが一般市民です。ご安心下さい。
最後に性別や名前を決定しましょう。ヒキャク・パルクールの男ニンジャはシャープウォーカー=サンやフライングレッグス=サンがいるため、今回はアユミめいた女性とします。性別不詳や両性具有者もネオサイタマではゴロゴロしていますが。名前は……前につのが作ったランダム人名ジェネレーターで決めてみましょう。
名字は4D6[1616]=ワタナベ、名前は最後の平成女性表から2D6[21]=ユイとなります。このままでもアレなのでネオサイタマ風にひねりを加え、ナワタベ・イユとしましょう。かくしてモータルPCが誕生しました。
◆ナワタベ・イユ(種別:モータル)
カラテ 2 体力 2
ニューロン 2 精神力 2
ワザマエ 3 脚力 3/H
ジツ - 万札 -12
攻撃/射撃/機先/電脳 2/3/3/4
回避/精密/側転/発動 4/3/3/-
即応ダイス:5 緊急回避ダイス:0
◇装備や所持品
▶︎生体LAN端子LV1:ニューロン判定ダイス+2、イニシアチブ+1
▶︎ヒキャクLV1:脚力と回避ダイス+1
◇スキル
○生い立ち:ヒキャク・パルクール
◉知識:ビークル、サイバネティクス
◉交渉:威圧
能力値合計:7
サイバネを二つ積んでおり、そこそこ生き残れそうなスペックです。彼女は無事にネオサイタマへ帰れるでしょうか。では、始めます。
◆◆◆
序
秋、ネオサイタマの北、中国地方。元ヒキャク・パルクール、ナワタベ・イユは困惑していた。ローンの返済期限が迫っており、手っ取り早く日銭を稼げる仕事は、宅配か荒事か、売春か。最後の選択肢は彼女のプライドがノー。宅配も、ノー。サイバネもパルクールの才能も問題ないが、気が短い。
同僚や上司、果ては客ともトラブルを起こし、残る選択肢は荒事だけ。とはいえ格闘技や喧嘩の覚えはないし、ツテもない。必死でIRCで仕事を捜した末、中国地方でのネオサイタマ大学の遺跡発掘調査のアルバイトに参加したのだが……現地に集まってみれば、かなり胡散臭いビズのようだ。
ニューロン判定、難易度HARD。3D6[354]成功。
「えー、私は今回の調査の指揮をとるワキダモです。一応、ネオサイタマ大学で教鞭をとっております」胡乱げな初老の男がアイサツした。「今回発掘調査を行いますのは、古代……古代文明の祭祀場であるとの風説もある、大変重要な遺跡でありまして、皆様のご協力をよろしくお願いいたします」
ワキダモはオジギした。イユが事前にIRCネットで調査したところ、古代ニンジャ文明の遺跡だとかいうバカバカしい噂が流れていた。ニンジャなどフィクションの存在だ。ドラゴンや吸血鬼、エルフと同じようなファンタジーの産物だ。ただ、何かヤバい予感はする。「えー、では、自己紹介を」
ワキダモに促され、イユはアイサツした。「ナワタベ・イユです。パルクール配達員ですけど、興味があって……ヨロシクオネガイシマス」続いて、メガネをかけたスレンダーな美女がアイサツした。この場にあまり似つかわしくない、都会的なアトモスフィアだ。「ヒラタです。ドーモ」
残り三人は男性だが、いずれも異様な風体である。ジュー・ウェアを着て黒帯を締めた男がアイサツした。「おれはカヌマ。武の道を極めるべく己を錬磨しておる。インスピレーションを得たくてな……」
次に、ボロ布をまとった痩身の男。「ヒーヒヒヒ!ヒヒッ、タコサキです!イヒヒッ!」明らかに正気でない。関わりたくない人種だ。
最後に、サングラスをかけた大柄な男。頭髪はオールバックで、ダークスーツを着ている。明らかにヤクザだ。「ゴウジマだ。フリーでやっとる」
イユは早くも後悔していた。だが日当はかなりいい。他に稼げそうな仕事はない。さっさと済ませて帰ろう。「それでは、調査を開始しましょう。何か重要そうなものがあれば、私までIRC連絡を」「「「「了解」」」」」
第一の試練
「あっちへ行きましょう」「ハイ」イユはヒラタに誘われ、男性陣とはやや離れた場所へ向かった。彼らに襲われでもしたら大変だ。イユもサイバネを装備しており、その気になれば戦えなくもないが。「あの、ヒラタ=サンはなぜこの調査に」「それはまあ、おカネよ。あなたもでしょ」「ハイ」
「……それに、興味もあったの。私、子供の頃は考古学者になりたくてね」「へえ」「大学では別の道に進んだけど、独学もしていたの」ヒラタは迷いなく遺跡の奥へ進み、マグライトで壁を照らす。……そこには、腰布を巻いた人間がオスモウをとっている壁画があった。「わあ、スゴイ!」
「これは、古代のスモトリの壁画よ」「スゴイじゃないですか!大発見!」「事前に調べていた通りだわ。知ってる?古代のスモトリは現代のスモトリよりも、遥かに巨大だったってこと」「え?」「古事記にUNIXディープラーニングをかけてAIで分析した結果、彼らの身長は70フィートもあったって」
「70フィート(20メートル超)?7フィートの間違いじゃ?」イユは背筋を寒くした。ヒラタは目を輝かせている。「薬物や八百長に汚染された現代のオスモウなんて子供の遊びよ。真のオスモウとは、全ての格闘技の……!」その時!「GRRRRR……!」遺跡の奥から、獣の声とにおいがした。
ズン、ズン、ズン。異様な気配が近づいてくる。「オルルルルル……!」ナムサン!ここは獰猛なバイオパンダの巣だったのだ!「ひ、ヒラタ=サン!逃げましょう!パンダが!」アブナイ!
ワザマエ判定、難易度HARD。3D6[336]成功。
「イヤーッ!」イユは興奮状態にあるヒラタを抱きかかえ、全速力で遺跡の外へ駆け出した。「は、離して!」「ダメです!死にますよ!」二人はどうにかバイオパンダの追跡を逃れ、脱出した。「ハーッ……危なかった」イユはため息をついた。まともな人と思っていたが、彼女も危険だったとは。
ヒラタは歯噛みして悔しがっている。「キーッ!パンダが何よ!あんなものショットガンで殺せるわ!」「ありませんし、無理だと思います……」その時、バイオバンブー林の彼方で悲鳴!「アイエエエ!アバーッ!」
第二の試練
二人がそちらへ向かうと、岸壁に巨大な洞窟がぱっくりと口を開けていた。洞窟の前には石畳の跡らしきものが見え、古代の遺跡ではあるらしい。近くにはストーンサークルがあり、何らかの祭儀が行われていたことをうかがわせる。そこに、ジュー・ウェアを着た大男……カヌマが倒れていた。
ニューロン判定、難易度HARD。3D6[556]成功。
「カヌマ=サン!」ヒラタが駆けつけようとするが、イユは何らかの危険を察知し、彼女の手首を握って掴み止めた。「ちょっと!」「アブナイです。たぶん、なにか」先程の悲鳴は、カヌマのものではない。初老の男の声。つまりワキダモのものだ。彼はどこに?「うう……!」カヌマが起き上がる。
「GRRRR……!」カヌマは目を血走らせ、口角から泡を吹き、正気を失っている。なんらかの毒ガスでも浴びたのか?狂ったカラテマンのそばに行くのは、どう考えても危険だ。「ワキダモ=サンや、ゴウジマ=サンは?」タコサキは無視する。彼は最初から危険だった。もしや、彼が、何かを?
「イヤーッ!」KRASH!カヌマがストーンサークルの石柱のひとつにセイケンヅキを繰り出した!木人かなにかと思っているのか?カヌマの拳から血が噴き出し、皮膚や肉が破れ、骨がむき出しになる。「イヤーッ!」KRASH!狂気!「に、逃げましょう、ヒラタ=サン」「待って……あれは?」
KRASH!石柱の一本が倒れ、穴が開く。すると洞窟の前の石畳に亀裂が生じ、ゆっくりとスライドした。階段だ!まさか、あれがスイッチになっていたとは。「ハハハハハ……!我がカラテ、無敵なり!」カヌマは狂い笑う!だが!ボゴン!彼の足元に大きな穴が開き、落下した。「アバーッ!」
……ナムアミダブツ。二人が恐る恐る近づくと、穴の底には多数のタケヤリが仕掛けてあり、カヌマは串刺しになって即死していた。「うえっ……」イユは震えた。帰りたいが、ワキダモへのIRCが通じない。「……調査を、続けるわよ」ヒラタはためらうことなく、出現した階段に歩み寄る。
第三の試練
階段を慎重に進んでいくと、行き止まりだ。「古代の墳墓のようね。この石の扉の奥に玄室があるわ」「けど、ダイナマイトもないですよ」こんな大規模な発掘調査だとは誰も思っておらず、せいぜいスコップやショベル程度しか持ってきていない。「どこかに、開けるための仕掛けがないかしら」
ワザマエ判定、難易度NORMAL。3D6[313]失敗。精神力1を消費してニューロン判定、3D6[325]成功。残り精神力1。
何がどうあれ、ワキダモを見つけて連れ帰らねば日当がもらえない。借金が返せず、奴隷オイランになるかカニキャッチ漁船で働くか、内臓を売るしかなくなる。イユは必死に脳内UNIXをフル回転させ、石の扉や階段の周囲を探し回る。「……これは!」壁の一部に、歯車めいた形状のくぼみがある。
恐る恐るそれに触れ、くぼみの真ん中をグッと押し込む。「痛ッ!」針が突き出して、イユの指の腹を少し刺した。血がついたくぼみはさらに沈み込み、何らかの仕掛けを作動させる。ガゴン、ガゴンガゴン、プシュー……!ズズズズズ……!石扉がぐるりと回転し、横を向いた!「ヤッタ!」
「スゴイわ」二人は慎重に、石扉の中を伺う。細い通路の先に石造りの広間があり、中央には祭壇があって、歯車型の金属片が祀られている。否、歯車というより、まさか、これは……!
NRS判定、難易度NORMAL。現有精神力で判定。1D6[1]失敗!恐怖で精神力を1失う。残り0!
「「アイエエエ!?」」二人は同時に絶叫した!これは、スリケン!ニンジャが投擲する恐るべき殺人武器だ!ニンジャ!バカな!ニンジャなどいるはずがない!けれど、目の前にはスリケンが!「ほ、本当に……ここは、古代ニンジャ文明の遺跡……!」ヒラタは涙を流し、フラフラと祭壇に近づく。
その時!「アアーッ!」ボロ布をまとった狂人、タコサキが物陰から襲いかかってきた!右手には血に濡れたカタナ!左手には初老の男、ワキダモの生首が!ナムアミダブツ!「それに近づくな!邪教徒めがーッ!」狂気!
回避判定、難易度HARD。4D6[1263]成功!
「い、イヤーッ!」イユは涙を流しながら、脚部サイバネで飛びかかる!とっさに体が動いていた!ヒラタをかばい、石の床に押し倒す!「チィーッ、コシャクな!貴様らも我が神の生贄としてくれるわ!」タコサキは怒りと狂信に燃える目で二人を睨み、カタナを振り上げた!その時だ!
BLAMN!「アバーッ!」タコサキは銃撃を受け、血を吐いて倒れる!「そこまでだ、タコサキ・ジョンジ。連続殺人事件の真犯人として逮捕する!」声の主はゴウジマ!「ドーモ、NSPDのデッカー、ゴウジマです。カヌマ=サンとワキダモ=サンは気の毒だったが、おかげで犯人を確保できた」
エピローグ
ゴウジマは二人に近づき、NSPDのデッカー証を見せる。「は、ハイ」イユは混乱し、涙を流した。「俺は潜入調査員だ。見ての通り、こいつはカルト野郎でな。このへんの遺跡に調査隊を派遣させては、罠にかけて殺し、生贄に捧げていたというわけだ」「アッハイ」「協力に感謝する。無事か」
「ハイ……」「あ、アバッ」タコサキは重傷を負い、動けない。イユは腰を抜かしていた。「あ……ありがとう、ナワタベ=サン」押し倒されたヒラタが、顔を赤らめて感謝した。「アイエッ、いえ、無事でよかったです!」「私、考古学のことになると興奮しちゃって……気をつけるわ」「ハイ」
ゴウジマは手早くタコサキを拘束し、ワキダモの生首を拾い上げた。「さて、帰ろうか。アンタたちは重要参考人だ、一緒にNSPDまで来てくれ。表彰するぜ」「アッハイ。ここのことは、マスコミに知らせますか?」「そうしたがいいかもな。カルト教団がねぐらにしたら厄介だしな……」
「それで、その、おカネは」イユが問うと、ゴウジマは笑った。「ああ、そうだな。お嬢さんには謝礼を支払わなきゃならん。ここの遺物を博物館に売却したら、発見者として売り上げの一部をやるよ」「アリガトゴザイマス。ただ、ローンの返済が近くて」「アイアイ。とにかく、NSPDへ行こうや」
調査終了
……こうして、恐怖の遺跡発掘調査は終わった。二人の犠牲者は出たものの、遺跡で殺人を繰り返していた犯人は逮捕され、スガモ重犯罪刑務所送りとなった。ヒラタは謎めいた古代遺跡の発見者としてマスメディアに取り上げられ、忙しい日々を送っている。イユは無事に借金を返済した。
「……けど、仕事がないのは変わらなくて。ヒラタ=サン、スタッフとして雇ってもらえませんか」「もちろん、いいわよ。歓迎するわ」二人は笑って握手した。ヒラタ・クルミは、美人タレントとしてマスメディアで成功しつつある。そして……彼女の机の引き出しには、あのスリケンがあったのだ。
【ラーン・スリケン】終わり