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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第十三話 港町ラ・ロシェール

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貴族議会《レコン・キスタ》による反乱に揺れる、天空の王国アルビオン。
ルイズたちがアンリエッタ王女から授かった任務は、国王ジェームズ1世・皇太子ウェールズら《王党派》を、どうにかしてトリステインに亡命させる事である。そのために、空港の町ラ・ロシェールへまず向かうのだが……。

「でも、戦時中の国にトリステインの貴族が入国していいものかしら?」
「なあに、戦時中でも物資の行き交いはあるようだし、僕がついていれば大丈夫さ。婚前旅行の舞台としては、少々血なまぐさいかもね。僕のルイズ」
「こっ、婚前旅行だなんて、そんなまだ早いわ」
「年はちょっと離れてはいるが、僕ときみは許婚同士じゃないか!」

ワルドは、グリフォンにルイズとらんまを乗せ、両手に花状態であった。
シリアスなときは決めるものの、普段は結構女好きの俗物らしい。

「……けっ、ギーシュといいおめーといい、トリステインの貴族はこんなのばっかりかよ。ちゃんと前を見てグリフォンを運転しやがれ」
「いやいや、こーしていれば、僕らが密命を受けて動いているとは思われないんじゃないか? あるいは僕が《レコン・キスタ》に潜入して、内側から奴らを探り、きみたちを密かにニューカッスルに送り込むという策も、ないではないし……」

トリステイン魔法学院からラ・ロシェールまでは、早馬でも二日かかる。
だが、このグリフォンならその倍以上の速度で行ける。今夜には着くだろう。アルビオン行きのフネ……飛行船が出港するのは、三日後の朝なのだが。

「っつっても、《王党派》はまだ何百人か残ってんだろ? 王様と皇太子はもちろんだけど、そいつらも敵の包囲から脱出させねーとなー」
「捲土重来・王政復古のためにも、《王党派》の人員はなるべく救出したいのはやまやまだが、ニューカッスルは十重二十重に包囲されているらしい。いくらかの犠牲はやむを得まいな……」

先を急ぎながら策を練る一行。時刻は日没、断崖に挟まれた街道を抜ければ、もうじきラ・ロシェールの町だ。

しかし突如、その前の地面に火矢が射込まれる。そして夕闇の中、それを目印として何十もの矢が降り注いだ!

「きゃあっ! き、奇襲よ!!」
「くそっ、盗賊か!? 『エア・シールド』!!」

ワルドの魔法でぶわっと風の盾が作られ、矢の雨を逸らす。敵は崖の上にいるようだ。ワルドは風の盾を周囲に纏ったままグリフォンを急上昇させ、敵を見下ろす。
「グリフォンに乗るほどの貴族を襲うとは、命知らずな奴らだな! しからば道掃除をしてやろう、『ウィンド・ブレイク』!!」

敵の集団に竜巻を叩き込み、混乱したところへグリフォンを急降下させ、一気になぎ倒していく。らんまもデルフを抜き払い、すれ違い様に峰打ちで盗賊どもをぶちのめす。ルイズはワルドにしがみついているが……。

「ほらルイズ、あいつらの足元の地面に『錬金』をかけてみろ!」
「え、でも私は」
「いいから、こーいうときには役に立つって!」
ルイズが言われるままに『錬金』をかけると、地面は爆発して盗賊どもを吹き飛ばし、敵は崖下へコロコロと落ちていく。
「へへっ、お見事。与えられた才能は活用しなきゃーな、ご主人様」
「……あんまり、嬉しくない……」

ものの10分ほどで、盗賊は蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

「ふん、歯ごたえのない連中だ。メイジもいなかったし、ただの食い詰め者どもかな」
「アルビオンには、こういう連中がうようよしているんでしょうね。傭兵だの蛮族だの、亜人だのが……」
「……いや、新手みてーだぜ。気をつけろ」

らんまはかすかな羽ばたきの音を聞きつけ、その方向へちゃきっとデルフを構えた。ワルドとルイズも警戒する。だが、その背後の地面がもここっと盛り上がった! がしっとらんまの背後に、何者かが組み付く!

「「!! しまっ……」」

だが、そいつの正体は。
「ああっ、『おさげの女』ミス・ランマよ!! かわいいぞおぉぉぉぉぉ!!」(すりすりすりすり)
「どわああああ、ギーシュ!? てってめーは、いきなり湧いて出るんじゃねえーーーっっ!!」(どかっ)
「って、何でギーシュが!? あ、ヴェルダンデも」

ばっさばっさと舞い降りてきたのは、タバサの使い魔の風竜・シルフィードだ。
「やっほー、ルイズにランマちゃーん、お元気? 私たちにナイショでお出かけなんて、水臭いわよ」
「キュルケにタバサ、何でここまで!?」
「貴女たちが心配なのと、そこのイケメンが気になってね。よろしく、ワルド子爵」

どうやら、ギーシュの使い魔ヴェルダンデの鼻で、ルイズの持つ『水のルビー』を嗅ぎつけたらしい。理由はともあれ、強力な仲間だ。一行は合流して、ラ・ロシェールの町に入る。

山あいの町ラ・ロシェールは、かつてスクウェア・クラスのメイジが岩山を切り拓いて作ったという。人口は多くないのだが、各地から集まる旅人でいつも賑わっている。フネの発着場は岩山の上に聳え立つ『世界樹(イグドラシル)桟橋』である。ワルドとルイズはフネの予約をし、一番上等な宿『女神の杵』亭で部屋を取る。

「じゃあ、私とランマ、キュルケとタバサ、ワルドとギーシュの部屋割りでいい?」
「おおルイズ、なぜ僕ときみが別々の部屋なんだい?」
「あのねワルド、自重してよ。わ、私たちはまだ、そんなのじゃないんだから」
ルイズが頬を染め、らんまやキュルケはニヤニヤする。

「んじゃワルド、このブタとこいつの荷物を預かっといてくれ。傷はほとんど治ってるみてえだぜ。お湯かけたら全裸のバンダナ男になるから気をつけろよ。水をかければブタに『戻る』から」
「ああ、分かったよミス・ランマ。僕のルイズの護衛、よろしく頼む」
ワルドはらんまに殴られて気絶したままのギーシュを引きずり、部屋に入っていった。

ルイズとらんまも、部屋に入って荷物の整理をする。それから風呂を浴びて汗を流し、夜の食事をしてから就寝となる。
「ふーっ、やれやれ。まぁ二日ばかり休んで、英気を養おうぜ。ここんとこ事件続きだもんなあ。んじゃ、おやすみルイズ」
「おやすみ、ランマ。……ワルドとは、本当にまだそんなのじゃないんだからね」
「わあってるって、俺は別にヤキモチなんて妬かねーよ。それに惚れられても困るぜ、元の世界に帰らなきゃならねえんだしさ。へへっ」

「……ふんだ、ランマのバカ」
らんまの答えに、ルイズは不満げであった。少しはヤキモチを妬いて欲しいらしい。

翌朝、朝食後。
ワルドはこのところ魔法をたくさん使ったので、魔力を溜めると称して部屋でゴロゴロしている。ギーシュは同室のワルドとチェスをしているらしい。なんかじじむさい。残る四人娘は、一階の食堂のテーブルでだべっている。タバサは本を読むばかりだが。

「……アルビオンへ行くったって、戦場でしょ? 大丈夫なの?」
「まあ、ワルドが何か用があるってことでな。詳しい事情は聞かないでくれ」
「はいはい、大体の事情は推理できるし、私も言わないでおくわ。危険な物見遊山もいいか。でも今度の内乱だって、『博打王』ことジェームズ1世の失政によるものじゃない。プリンス・オブ・ウェールズは有名だけど、彼一人で《レコン・キスタ》は止められないわよ。各国も見放しちゃっている状況だもんねえ」

「……『博打王』って、聞くからにろくでもなさそうな響きだなー……」
「一応、トリステインの先王陛下の兄君でもいらっしゃるんだけど……」

と、二階の部屋でどたばたと暴れる音がする。ワルドの部屋のあたりだ。
 「てっ、てめーっ、ここはどこだここはっ! いきなりあんな電撃食らわせやがって、死ぬかと思ったじゃねえか!!」
 「いやいや、すまなかったねリョーガくん。まあこのとおり謝罪するから、服を着てくれないか」

「ん? あの声は。」
「良牙とワルドじゃねーか、ブタにお茶でも零しちまったか? まぁ、気がついてよかったぜ」
らんまたちは食堂を出て、良牙の様子を見に階段を上がった。

「……で? ここはラ・ロシェールって港町で、これから浮遊大陸のアルビオンへ向かうだと?」
「ああ、そうさ。きみはミス・ランマの友人だろう、協力してくれると嬉しいんだが」
「友人じゃねぇよ。あいつは……乱馬は俺のライバルだ! あいつのお蔭で、俺がどれだけ不幸な目に遭ったか……くっ」
ワルドとギーシュの前で、拳を握り締める良牙。そこへ、噂のらんまが現れる。

「よー、良牙。すっかり治ったみてえだな、よかったよかった」
ぎん、と良牙はらんまを睨む。
「てめー乱馬! こないだお前があかねさんの悪口を吐いたから、俺があんな目に遭ったんじゃねーか!! 今ここであの暴言を取り消せ、でないと俺の気が晴れん! そしたら協力してやってもいいぜ」

まあ確かに、事件の発端は自分の暴言だ。らんまは渋々、良牙の要求を承諾した。
「……わあーーったよ、取り消すって。あかね、ごめんなー」
「ふん、よかろう。どーせ俺もお前も、地球に帰らねばならん身だしな。ここは協力してやるぜ」

しかし、ルイズは首を傾げる。
「ねぇ、アカネって、あんたの許婚の『男』よね。乱暴者でカナヅチとかなんとか。リョーガの恩師かなんかなの? 悪口言われてそんなに怒るなんて」
「何だと、あかねさんは「わー待て待て良牙、おめーが喋るとややこしくなるっ。ほら、ブタに『戻って』ろよっ」(ばっしゃ)

そんなこんなで、割と平和な一行であった。

さて一方、目指すアルビオンのニューカッスル城では。

「議長閣下、もうすぐ『スヴェルの夜』。明日の夜にはラ・ロシェールから物資が届きます。ニューカッスルももう一押しというところですな」
「うむ、ボーウッド卿。そして《王党派》を潰せば、次は小国トリステインを狙う。そこを足がかりとしてハルケギニアを統一し、《聖地》を奪回するとしよう」

この議長閣下と呼ばれた男こそ、《レコン・キスタ》の首領オリヴァー・クロムウェル。三十過ぎの痩せぎすの男で、もとはただの地方司教、しかも平民出身者に過ぎない。だが今や、彼はアルビオンのほぼ全土を掌握し、さらにはハルケギニアの統一すら画策していた。

「ふん、しかし《人魚の肉》は危険性が大きすぎるか。やはり、この《アンドバリの指輪》が一番だな。見ていろよ、私を侮った王族も貴族も平民も、ことごとく私の膝下に這い蹲らせてやる」

いかにも悪そうに笑うクロムウェル。その指にあるのは、水の精霊の力が凝縮された秘宝だ。トリステイン王国のラグドリアン湖から二年半ほど前に盗み出され、クロムウェルの革命戦争で活躍してきた。その力は『死者に仮初の命を与え、操る』というものなのだ。

ちなみに《人魚の肉》を用いても死者を復活させる事はできるが、魂のない悪鬼になり、人肉を食ったりする。その点《アンドバリの指輪》ならば、死者とは思えないように動き、思い通りに操れるのである。

「そしてもうひとつ……アルビオンに隠された『始祖の秘宝』。それは選ばれた者から、伝説の『虚無』の力を引き出すというが……」

その頃、地球の日本国東京都練馬区、天道道場では。

「うーむ、なかなか見つからんなあ、手がかりは……」
天道一家と早乙女夫妻、それにコロン・シャンプー・右京・小太刀らは茶の間に集まり、八宝斎の蔵書を引っ張り出して、早乙女乱馬を異世界に引きずり込んだと推測される『銀色の鏡』についての記述を捜していた。しかし、もう何日間も捜しているのに、それらしいものは見当たらないのだ。天道なびきはうんざりして諦めた。

「あーもう、本当に乱馬くん、『銀色の鏡』ってのに入ったわけ? 何も状況証拠がないでしょーが。普通に寝ている時に賊が忍び込んで、熟睡する女の子・らんまちゃんを連れ去ったんじゃないの?」
「でも、足跡も気配も全く残ってなかったのは確かね! 窓には鍵かかってたあるよ!」
「然様、いかにわしでも、隣で寝ている我が息子(女体化)が攫われて、気付かないなどとゆーことが……」
「あるじゃないの、今こーしてっ」

はー、と皆は溜息をつく。乱馬(と良牙とPちゃん)が帰ってこない日常は、なかなか寂しいものであった。
「……それにしても、もう失踪から20日を過ぎちゃったわねえ」
「むー、八宝斎のじじいまでいつの間にかおらへんし、こんなんうちには解読でけんわぁ。何やねんこのミミズがのたくったよーな字ぃは」
「それ、おじいちゃんの直筆ね。まぁおじいちゃん自身も自分の字が読めないぐらいだし、右京には無理よ」

そこへ、ひょーいと小さな老人・八宝斎が帰ってくる。
「たっだいまーっと。おお皆、わしの秘蔵コレクションを勝手に広げて、なーにしとるんじゃー?」
「「お・お師匠さま、お帰りなさいませっ」」
「あらおじいさん、お帰りなさい。どちらまでお出かけでしたの?」
二人の弟子、早雲と玄馬は平伏するが、天道かすみは全く動じない。八宝斎も素直に答える。

「んー、よぉ分からんが、銀色の鏡っぽいものに飲み込まれてのー、どこぞの村に迷い込んでおったんじゃ。ああ、あれは実に筆舌に尽くしがたい体験じゃった……!」

意外すぎる発言に、皆が色めき立つ。
「『銀色の鏡』!? そ、それよおじいちゃん!! 何があったの、詳しく聞かせて!」
「うむ。……あれはもう、《胸》だの《ちち》だのとゆう言葉では言い表せん。そう、いわば革命。《胸革命(バスト・レヴォリューション)》と言うべきじゃろう。あの大きさ、柔らかさ。それに反して持主の華奢、清楚にして可憐なことといったら……」

「……いやあの、本気で何やっておられたんですか、お師匠さま」
天道早雲は、つっこまずにはいられなかった。

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