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忍殺TRPGリプレイ【ザ・ストリート・ファイターズ】02

 前回のあらすじ:ネオサイタマの反体制違法放送レディオ「キツネ・ムレ・チイサイ(KMC)」の放送に、奇妙なノイズが混じっていた。これを解析したところ、ネオサイタマの地理ガイドと謎めいたハイクが現れた。KMCはこの秘密を解くため、二人のストリートニンジャに調査を依頼する……。

 DJは顎を撫でる。ニスイとルイナーはUNIXモニタとにらめっこし、やがてネオサイタマ南西、タンボ平原に指を向けた。「「ここだ」」「なるほど」DJも頷いた。ここはネオサイタマ市街と磁気嵐荒野の間にある穀倉地帯で、比較的大気汚染が穏やかなため、カチグミの別荘や療養施設もある。

 上空から俯瞰すれば、この地で栽培される二種類の作物……バイオ米「トマコマチ」とバイオネギ「万能」が、青と緑のチェスボードめいた模様を形作っている。春と秋の二回、米とネギを交互に植え替える二期二毛作プランテーションの徹底により、ネオサイタマには安定して食料が供給される。

 データによれば、およそネオサイタマで消費される炭水化物の85%が、このタンボ平原から賄われているという。当然ながら、ここには暗黒メガコーポ連合による厳重な警備体制が敷かれている。「ここで、直線というと……鉄道だな」DJが地図を拡大する。「新幹線の路線が二本、走ってる」

 タンボ平原の北側には、チョッコビン・エクスプレス社。南側には、ヨリトモ&ベンケイ・レールウェイ社の新幹線が走っている。後者はキョート共和国系の資本によって運営されていたため、戦時中の現在は停止中だ。北側もキョートまでは通じておらず、最前線へと兵士や物資を輸送している。

「この間に、テンプルは……あった。今はもう廃墟だが、デカシタ・テンプルってのがあったらしい」DJとクルーたちはタンボ平原の地理データを収集し、情報をたちまち引き出した。「さしあたっての目的地はここだな。行くぞ」「ああ」ルイナーは立ち上がり、デリヴァラーも続く。行動開始!

タンボ平原

画像は「AoS:ネオサイタマ地理ガイド」から。以下同じ。

 数時間後。輸送用トラックの荷台を乗り継ぎ、ニンジャ野伏力で警戒線を突破して、二人は問題の廃テンプルにたどり着いた。時刻は朝だが、東から流れてきた重金属酸性雲が空を覆い、薄暗い。それでもネオサイタマ市街に比べれば段違いの汚染度の低さだ。「……ここか」畑の中に、小さな竹藪。

 半ばそれに埋もれ朽ちた、全くの廃墟。本堂の天井は崩れ、雨ざらしになったタタミからはバイオバンブーが何本も突き出している。少なくとも人が住んでいる気配はない。「こんなところに何があるってんだか」「何もなきゃ空振りだ」ルイナーとデリヴァラーは、警戒しながら捜索を開始した。

ニューロンかワザマエで調査判定、難易度H。デリヴァラー/DVは9D6[434164563]成功、ルイナー/RNは10D6[3221221624]成功。

 集中したニンジャの感覚は、モータルを遥かに凌駕する。さらにニンジャ第六感は、単なるカンを超えた直感でエテルを読み、コトダマにアクセスして真実を解き明かす。二人は鋭敏な知覚で、不自然な形跡を見出した!「この井戸だ」「ああ」本堂脇の井戸の傍らに、鎖製の吊り梯子がある。

 周囲とは不釣り合いに新しいが、泥で汚れている。足跡だ。井戸の周辺にも足跡。「これを使って、井戸の底へ降りた……って感じか」「底に水はないな。涸れてる」デリヴァラーがサイバーサングラスで観察する。降りてみるしかあるまい。二人は吊り梯子を利用し、慎重に井戸の底へ降りた。

 涸れた井戸の底には、さらに横穴だ。泥水がチョロチョロと流れ、ネズミが逃げていく。その奥に、やや広くなった空間があり、鋼鉄製の檻がしつらえられ、その中には、ナムアミダブツ……白骨化した複数の死体が転がっている。ネズミや虫が死体に群がり、肉や骨をかじり取っている。

「ここに監禁されて、そのまま……か」ルイナーは眉根を寄せた。ヤクザクランなどに背いた者の末路、といったところだろう。そして、これらの死体は消息不明になったKMCのリスナーなのか?それはもはやわからないが……ただ事ではない。それは確かだ。「もう少し調べてみよう」「ああ」

再び調査判定、難易度H。[126646355][1654433353]成功。

 二人は、最も新しいと思われる……まだ衣服が朽ちずに残っている死体を調べ、ピンバッジを見つけ出した。それには『オナタカミ工業』と刻まれている。「オナタカミ?暗黒メガコーポの関係者が、こんなとこに?」「敵対企業のしわざか、それとも……」「オナタカミの敵といや、オムラか……?」

 なんにしろ、重要な証拠品だ。KMCの放送に、オナタカミ絡みの案件と思われる秘密情報がノイズとして仕込まれるなど、ただ事ではない。「オナタカミ・トルーパー……ハイデッカー」デリヴァラーがつぶやいた。最近ネオサイタマに出現した治安維持組織の装備は、全てオナタカミ社製品だ。

 死体の顔や肉体はネズミに食い荒らされており判別できないが、衣服からは男性のようだ。手には石ころをペンのように握っており、石ころと鉄格子には削れた跡がある。おそらく拷問を受けてここに投げ込まれ、最期の力を振り絞って、ここにメッセージを書き遺したのだ。それは……!

『KMC』『△』『キモン』……そう読み取れた。「リスナー=サンか。ナムアミダブツ」二人は手を合わせ冥福を祈った。「オナタカミ社の関係者で、KMCのリスナー。なんだか繋がって来たぜ」「電子ノイズにメッセージを乗せて内部告発をしようとしたってことか。じゃあ、キモンは……?」

 キモンとは「オニのゲート」を意味する古い日本語だ。古事記によれば、フジサンには巨大な桃の木が生えて地上を覆っていたが、その北東に枝の隙間があってキモンといった。桃はオニを追い払うパワーを持つが、キモンにはその力が及ばないため、オニの出入りする門になっていたのだという。

 フジサンの北東は、まさに現在のネオサイタマにあたる。キョート人がこの地域をオニのすみかとみなして貶めたのではないかともいうが、これにちなんで北東は日本において不吉な方角とされ、現在でさえ建築物のキモンの方角に呪術的防御アイテムを設置するなど、様々に気を使っているのだ。

 そしてKMCとキモンの間の『△』も謎だ。古事記にもとづけばフジサンとなろうが、であればネオサイタマを指すものか。「……とにかく、父さんに報告しよう」「ああ」二人は地上に戻り、これまでに得た情報をデリヴァラーのサイバーサングラスを経由してDJゼン・ストームへ送信した。

『……なるほどな。こっちはノイズに仕込まれた秘密情報のさらなる解析を進めてたんだが、またハイクが出てきたぜ』DJは低い声で告げた。「ハイク?」『ああ。「ネオサイタマに聳え立つ/フジサンの/キモン」とな。これもなかなかポエットだ。なんかの歌詞にしたいぐらいだ』「キモン……」

ニューロン判定、難易度H。DVは[126511441]成功、RNは[214613]成功。

 ネオサイタマからもフジサンは見えるが、ネオサイタマ「に」となると、本物のフジサンではないだろう。フジサンによく似た、何か……三人は推理を重ね、結論に達した。「カスミガセキ・ジグラットだ。それがフジサンであり、△ってわけだ」「ああ。そのキモンとなると……スゴイタカイビル

???

 ネオサイタマ、マルノウチ地区。その中心をなすのは官公庁と暗黒メガコーポが高度に癒着した、ピラミッドめいた巨大な伏魔殿カスミガセキ・ジグラット。その北東に聳え立つのがマルノウチ・スゴイタカイビルだ。どちらも高さは1000メートルをゆうに超え、重金属酸性雲の上に頂上がある。

 午後。タンボ平原から戻ってきたルイナーとデリヴァラーは、このビルを見上げていた。「ここに何があるんだか……」『ニスイ、ちょっとサイバーサングラスの電波感度を上げてみてくれ』「了解」彼が父に言われる通りにすると、微弱な電子ノイズが感じ取れた。デリヴァラーはそれを父に送る。

『……これだ。zzzg、zzzg。例のノイズに似た、妙な電波が飛んでやがるぜ』「秘密暗号か?」『たぶんな。ハッカー・カルトの違法電波かと思ったが、オナタカミ絡みとは……どっかそのへんにモデムがあるはずだ。アンテナみたいなやつ。それが発信源だ。探してくれ』「「了解」」二人は頷いた。

調査判定、ニューロンかワザマエで難易度N。DVは[423314225]成功、RNは[5653223166]成功。DVはニューロン判定、難易度H。[131145463]成功。

 彼らはサイバーサングラスとニンジャの感知力で、難なくそれを見つけ出した。数年前のマルノウチ抗争での犠牲者を追悼する慰霊碑の脇の植え込みに、それはあった。一見すると無線LAN中継スポットのようにも見えるが……「接続を切る!」デリヴァラーは状況判断し、父との通信接続を遮断した。

「どうした」「……これが、俺の生体LAN端子やサイバーサングラスに勝手に接続して、情報を抜き取ろうとしていた」ルイナーは眉根を寄せた。「情報を抜き取るだと」「父さんの居場所を知られたら、KMCはオシマイだ。アブナイだった」「……じゃあ、これをどうする」「壊してから持ち帰る」

 KRASH!デリヴァラーは怒りとともにモデムを握り砕いて、バラバラにした。「……電波が止まった。これでいい」二人は宵闇の迫る中、KMCの秘密アジトのひとつへ向かって移動を開始した。

???

 翌日。DJゼン・ストームやクルーたちと合流した二人は、集めた情報を整理する。「……つまり、オナタカミがそのモデムを設置して、勝手に市民の情報を抜いていると」「ありうるね。あいつらとハイデッカーが結びついてんのは公然の秘密だろ。ファック、暗黒管理社会!」クルーたちは憤った。

「ヤバ過ぎるな。KMCレディオでリスナーに伝えるか?」「モデムを探してくれれば……」「それが狙いかもよ。リスナーをたぐってイチモ・ダジーンってのがさ」「キョートの工作員やテロリスト扱いってか」クルーたちは激しく議論し、意見を交換する。「どのみち、リスナーは捕まってるな」

 ルイナーは顎を撫でる。「ノイズを解析して探し回った末、オナタカミ・トルーパーにとっ捕まったんだ」「助けなきゃ!」「殺されてる可能性が高い。だが……それこそスキャンダルだ。少しでも市民の目を開かせてやる」DJゼン・ストームは、静かにそう告げた。「それが、俺たちの戦争だ」

「モデムの破片とノイズから、もう一つハイクが出てきたぜ」クルーのひとりがメモ書きを示した。『戦いを挑め/脳髄横丁で』とある。「センテンスがふたつしかないが、レベリオン的だな」「モデムにってことは、地下牢で死んでたオナタカミ関係者が、最初からこのメッセージを仕込んでたのね」

 このハイクもまた暗号だ。何に戦いを挑むのか? ここまでくれば、オナタカミのことだろう。あるいは暗黒メガコーポが支配する、このマッポーの世に。「脳髄横丁というと、どこだ」「調べはついてる。ケオサキだ。ネオサイタマの南端、オナタカミ本社要塞の対岸にある寂れた区域だな」

「モデムを調べたところ、収集したデータの送り先は……いろいろ経由しているが、実際ケオサキだ。オナタカミの秘密工作のためのアジトが、そこにあるってわけだな」「了解。リスナーたちのアダウチだ」デリヴァラーは拳を手のひらで叩き、立ち上がった。「やつらの企みを台無しにしてやる!」

【続く】

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