忍殺TRPGリプレイ【テンタクラー・サーカス】02
前回のあらすじ:アンダーガイオンの一角、ブラッドテンタクルス・ヤクザクランの事務所。ザイバツ・シャドーギルドに逆らった彼らは、他クランとの抗争によって滅亡の危機に瀕していた。さらに彼らを皆殺しにしてレリックを回収するため、ザイバツのニンジャチームが派遣されたのだ!
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電算室ではハッカーヤクザが額からスリケンを生やして死んで、宝物庫では重サイバネヤクザ・バウンサーがキンタロアメめいて両断された状態で死んでいた。すでに傭兵ニンジャたちが荒らした後のようだ。だが手がかりはある。『飾られたミコシを支えるスモトリは強い』『テンタクルスを……』
ミヤモト・マサシのコトワザや、リアルヤクザたちの断末魔がデータとして吸い出され、蓄積されていく。復讐を願う怨念の声のように。ホワイトコマンダーは無表情にそれらを集め、解析していく。「そこの卓上UNIXを回収しましょう」「アイアイ」「宝物庫にもまだ何か残ってないかしらねェ」
メイサは破壊されたガラクタや無価値なヤクザ・トロフィーをかき分け、目ざとく金目のものを発見した。宝石……血のように赤いガーネットだ。「ウフフフ、いいものがあるじゃないの」「それがレリック?」「さあね。売ればカネになるでしょ」事務所の奥ではまだ戦闘が続いているようだ。
三人はまだ事務所全体の三分の一を調べたに過ぎない。なるべく多くの情報と物品を獲得し、持ち帰らねば!
物置
応接室から廊下に戻った三人は、左へ進んで「物置」と書かれたドアの前に立つ。「罠や鍵はなさそうね。けど、何かいるらしいわ」ホワイトコマンダーは慎重にドアを開け、中を調べる。……突き当りにはヤクザスーツ・ロッカーがあり、右手奥の個室にバイタル反応。隠れているヤクザだろうか。
否。個室のドアからは粘液が滴り、触手が伸びてきた!『MYYYHHHH!』ナムサン!これは自動販売機に潜んで不運な人間を捕食する危険バイオ生物「ベンダーミミック」だ!一触即発アトモスフィア!
◆ベンダーミミック幼体(種別:バイオ生物)
カラテ 2 体力 2
ニューロン 2 精神力 2
ワザマエ 5 脚力 0
ジツ - 万札 -
攻撃/射撃/機先/電脳 2/ 5/ 2/ -
◇装備や特記事項
◉麻痺触手攻撃:リーチ+1の近接攻撃、ナナメを含む2マス以内の相手に攻撃可能
射程内であれば最大で2体までの相手に同時に攻撃できる(回避N)
命中すると体力と精神力に1ダメージを受け、脚力がそのターンと次ターン間1になる
また次のターン開始時の獲得回避ダイスが半分(端数切上)となる
●異質な精神:精神攻撃無効
●移動不能:弾き飛ばし無効
能力値合計:9
戦闘開始
「「イヤーッ!」」KRASH!ホワイトコマンダーとグランドジョラスが先手をうってカラテ!『MYAAHHHH!』ベンダーミミックはひとたまりもなくドアを突き破られ、柔らかい肉体を破壊されて即死した。これがニンジャのカラテだ!「チッ、アタシもカラテしたかったのに」「弱いね。幼体か」
戦闘終了
壊れたドアの中には、大型のイカめいたバイオ生物が緑色の血を流して死んでいる。その体内から、未消化の何かが転がり落ちた。厳かなショドーがされた壺だ。『骨』と書かれている。「なにこれ、コツツボ?」「ご隠居の骨がどうとか、ヤクザのデータにあったね。レリックでもなさそうだけど」
三人は顔を見合わせる。値段はつけられそうもない。捨てるか、持っていくか。「一応、持っていきましょうか。このヤクザクランの大事なものには違いないんでしょうし」グランドジョラスがおずおずと挙手し、発言する。メイサは嘲笑う。「そうね。じゃあ、アンタが持ちなさいよ」「ハイ」
ドージョー
物置の奥、廊下の突き当りの左にはフスマがあり、「ドージョー」とショドーされている。フスマは突き破られ、中ではスモトリ崩れのヤクザ二人が物言わぬ死体となってタタミの上に転がっている。ドージョーの奥、トコノマには『血塗れの触手』と書かれたカケジクがかかっているが……。
トコノマに残っているのは紅の蓮めいた奇怪な台座だけで、そこに安置されていたとおぼしきレリック・アイテムはない。オヤブン室で戦闘中の傭兵ニンジャたちが奪ったのだろう。「一応、入って調べてみましょう」ホワイトコマンダーはフスマを開け、二人とともにドージョーへしめやかに入る。
スモトリヤクザたちのマワシには『紅蓮』『台座』と金糸で刺繍されている。スモトリネームであろうか。「……なんか、この宝石……あの台座と共鳴してるわ」メイサが豊満な胸元から、宝物庫で拾った赤いガーネットを取り出す。明らかに、なんらかのシンピテキなレリックだ。「アレもお宝よ」
「妙ね。宝物庫があるなら、この台座と、上にあったはずのお宝も、そこにしまっておけばよさそうなのに」ホワイトコマンダーは首を傾げた。ここに置いておかねばならない、何らかの理由があったのだろうか。「とにかく、あの台座も回収しないとね」メイサは舌なめずりし、トコノマへ駆ける。
……その時!紅蓮の台座は燃えるような光を放った!そして!「「アバー……!」」ナムアミダブツ!斃れていた二人のスモトリヤクザが起き上がった!彼らは両目に紅い光を灯らせ、ゾンビーめいた動きで襲いかかる!「ケッ、たかがスモトリのゾンビじゃない。片付けてやる!」一触即発!
◆スモトリゾンビー(種別:ゾンビー/スモトリ)×2
カラテ 3 体力 3
ニューロン 1 精神力 -
ワザマエ 2 脚力 2
ジツ - 万札 3
攻撃/射撃/機先/電脳 3/ 2/ 1/ -
◇装備や特記事項
◉突撃
◉ネクロカラテ:近接攻撃の回避難易度+1
能力値合計:6
戦闘開始:1ターン目
「「「イヤーッ!」」」KRASH!「「アバー!」」三人のカラテがスモトリゾンビーを打ちのめす!一体は破壊され沈黙!だがもう一体は動く!「アバー!」KRASH!「ンアアーッ!?」ナムサン!ホワイトコマンダーがネクロ・ブチカマシを喰らう!ニンジャ耐久力で耐えるが無視できぬダメージ!
2ターン目
「「イヤーッ!」」KRASH!「アバー!」ホワイトコマンダーとグランドジョラスのカラテが命中!スモトリゾンビーは破壊して斃れ、沈黙した。実際油断ならぬ相手であった。「……スシをよこしなさい」「ハイ」
戦闘終了
「フン、何やってんのよ」メイサは鼻で笑い、今度こそ紅蓮の台座を手に入れる。スモトリの死体は……動かない。台座は燃えるような輝きを放っているが、少し弱まったようだ。「明らかにお宝。あとは、この上にあったはずのものを回収すればいいわけね。傭兵ニンジャたちをブッ殺して……!」
通路
三人は廊下を戻り、応接室に還ってきた。入って右側の扉には、特に鍵はかかっていない。その奥はオヤブン室への通路だ。ヤクザが一人、仰向けに倒れて死んでいる。通路の左側にはドアが三つ並んでおり、「女」「仏」「男」とショドーされている。「セントー?」「ユニットバスのようね」
『駆ける足を持たぬ者……ブッダに触れるべからず……』ヤクザのサイバーサングラスをハッキングしたホワイトコマンダーのニューロンに、超自然的なメッセージが届いた。「……三人いるから、手分けしましょう」「そうね」メイサは「女」、グランドジョラスは「男」、そして……「仏」!
???
メイサは意を決して「仏」のドアを開く。通常のセントーであれば、「仏」のノーレンの奥はドラァグクィーンなど性別を超越した者が入る浴場だ。ホワイトコマンダーは女性であり、性自認も女性。であれば、「仏」に入るのはマナー違反である。今はそれどころではないが……『引き返せ』
ゴーン……ゴーン……「え」気がつくと、ホワイトコマンダーは広大な荒野に立っていた。空には黄金の立方体。『諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽』どこからともなく声が響く。……危険!ホワイトコマンダーは本能的に悟り、振り返った。遥か彼方に一筋の光がある。あそこへ走れ!
「イイイ……イイイヤァアアアーーーッ!」ホワイトコマンダーは全身全霊を振り絞り、ニューロンの速度で飛んだ!然り、ここはコトダマ空間、オヒガンである!ハッカーの心得がある彼女でなければ、01に分解されて消滅していたであろう!『目覚めた者よ』『目覚めた者よ』『さちあれ……』
「ンアアアアーッ!」ホワイトコマンダーは必死で脱出!振り向くと、そこには壁があるだけだ。「え?」前にも壁。「仏」のドアなど初めから存在しなかったかのように。だが……彼女の右手には、小さな赤いブッダ像が握りしめられていた。禍々しいアトモスフィアを放っている。レリックだ。
生体LAN端子がチリチリと痛み、ニューロンが加速しているのを感じる。彼女は……新たな扉を開き、目覚めたのだ。少なくとも、その入り口に立つ資格を得た。このブッダはその証……「どうしました」「ダイジョブ?アンタ」二人は左右のドアから何事もなく出てきた。「なんでもないわ」
「アッソ。女風呂には中古のオイランドロイドがいたわ。ここの慰みものにされてたのね。売ればカネにはなるでしょ」「……カタナを、手に入れました」グランドジョラスは一振りのカタナを手にしている。いい知れぬカラテを感じる業物だ。「使いなさい。残るは……」『グワーッ! サヨナラ!』
KABOOOOOM!オヤブン室でニンジャの断末魔と爆発四散の音がした。果たして勝者は?「行くわよ!漁師がカチグミ!」
【続く】
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