見出し画像

『アニー・ドギーバッグ』シリーズより「十人目、トオル・シンジ」

【八人目へ】

「見ィつけた」

隠れ家のひとつ、屋根裏部屋。十人目は、向こうからやってきた。屋根を音もなくこじ開けて。アタシも有名になったようだ。それを待っていた。

「やあ、アニー。恨みをありがとう。私もおかげでのし上がれているよ」
「こちらこそ。よく来てくれたね、歓迎するよ」

POW! 銃弾を仰け反って回避した、日本系の男―――『トオル・シンジ』。ゲドンが言ってたやつ。レミの直接の仇のひとり。

跳躍して穴をくぐり、屋根の上へ。恨み、恨ませる。もう九人、それ以上殺した。死人と生者の恨みを買った。そのパワーで、こいつをまず殺す。

「いい恨みだ。それを全部、私のものにできるなんて。私は愛されている。幸せ者だな」
「全身イタリアンブランドでかためやがって。顔にも体にも似合ってないよ。ちび

トオルの顔が真っ赤になる。単純な野郎だ。恨みやがれ。おまえの情報は調べ尽くした。指をさす。頭。
「それとさ、頭に乗っかってるのは金髪のヅラだろ? バーコード・ハゲ。あと下半身はさあ……」
くたばれ!

トオルが口から火炎を吐く。恨みのパワーで結構な威力だ。だが、恨まれてるのはあんただけじゃない。POW!POW!POW!POW!POW! 銃弾を後ろへ撃つ。別のやつらが撃たれて死ぬ。このクソが一人で来るはずはない。さっき屋根裏からアタシを蜂の巣にしてりゃ勝てたが、それをしないとは踏んでる。だから待っていた。

稲妻の踏み込み。低く構え、瓦屋根を踏み砕き、一瞬で懐へ。フランツの得意技。恨みのパワーで再現する。
「うッ!?」
弾切れの銃からナイフが突き出て、トオルの下顎から脳みそまで貫く。

「十人目」

まだ……だ!
トオルが悪魔の形相で叫び、燃え盛る口を開いた。

リヴィオに、スターフィッシュに、逆らおうなんて馬鹿はこの町にはいない。物理的に、いなくなる。いや、いることはいる。奴らは恨みを供給するために飼われている。死人からも恨みは得られるが、そのうち薄れて消える。生かしておいた方が、長期的に、効率よく、恨みを買える。リヴィオはそう考え、そうしている。消そうと思えば消し、よそから連れてくる。

リヴィオの勢力は増大する一方だ。いずれ州知事や、ひょっとしたら、大統領にさえなるかも知れない。そうなれば……。

ナイフが口の中の炎で熔ける。トオルはアタシの顔を両手で掴み、熱烈なキスをする気だ。舌の隠し弾も熔かすだろう。だが、そんなことは予想済みだ。奥歯をひとつ外し、プッとトオルの口の中へ吹き入れる。

ヴァヴェルのドラゴン知ってるか」

両手首の仕込みナイフで腱を切断し、トオルの手を引っ剥がす。前蹴りをくれてやり、くるりと縦回転して距離を取る。

「あ、あぼお! てめえ、何を飲ませやが」

KA-BOOOOOOOOOOM!

トオルの上半身が爆発し、薄汚い血肉を撒き散らす。爆薬を飲ませた。

「十人目。次」

序章終わり。次へ】

つのにサポートすると、あなたには非常な幸福が舞い込みます。数種類のリアクションコメントも表示されます。