『アニー・ドギーバッグ』シリーズより「十人目、トオル・シンジ」
【八人目へ】
★
「見ィつけた」
隠れ家のひとつ、屋根裏部屋。十人目は、向こうからやってきた。屋根を音もなくこじ開けて。アタシも有名になったようだ。それを待っていた。
「やあ、アニー。恨みをありがとう。私もおかげでのし上がれているよ」
「こちらこそ。よく来てくれたね、歓迎するよ」
POW! 銃弾を仰け反って回避した、日本系の男―――『トオル・シンジ』。ゲドンが言ってたやつ。レミの直接の仇のひとり。
跳躍して穴をくぐり、屋根の上へ。恨み、恨ませる。もう九人、それ以上殺した。死人と生者の恨みを買った。そのパワーで、こいつをまず殺す。
「いい恨みだ。それを全部、私のものにできるなんて。私は愛されている。幸せ者だな」
「全身イタリアンブランドでかためやがって。顔にも体にも似合ってないよ。ちび」
トオルの顔が真っ赤になる。単純な野郎だ。恨みやがれ。おまえの情報は調べ尽くした。指をさす。頭。
「それとさ、頭に乗っかってるのは金髪のヅラだろ? バーコード・ハゲ。あと下半身はさあ……」
「くたばれ!」
トオルが口から火炎を吐く。恨みのパワーで結構な威力だ。だが、恨まれてるのはあんただけじゃない。POW!POW!POW!POW!POW! 銃弾を後ろへ撃つ。別のやつらが撃たれて死ぬ。このクソが一人で来るはずはない。さっき屋根裏からアタシを蜂の巣にしてりゃ勝てたが、それをしないとは踏んでる。だから待っていた。
稲妻の踏み込み。低く構え、瓦屋根を踏み砕き、一瞬で懐へ。フランツの得意技。恨みのパワーで再現する。
「うッ!?」
弾切れの銃からナイフが突き出て、トオルの下顎から脳みそまで貫く。
「十人目」
「まだ……だ!」
トオルが悪魔の形相で叫び、燃え盛る口を開いた。
★
リヴィオに、スターフィッシュに、逆らおうなんて馬鹿はこの町にはいない。物理的に、いなくなる。いや、いることはいる。奴らは恨みを供給するために飼われている。死人からも恨みは得られるが、そのうち薄れて消える。生かしておいた方が、長期的に、効率よく、恨みを買える。リヴィオはそう考え、そうしている。消そうと思えば消し、よそから連れてくる。
リヴィオの勢力は増大する一方だ。いずれ州知事や、ひょっとしたら、大統領にさえなるかも知れない。そうなれば……。
★
ナイフが口の中の炎で熔ける。トオルはアタシの顔を両手で掴み、熱烈なキスをする気だ。舌の隠し弾も熔かすだろう。だが、そんなことは予想済みだ。奥歯をひとつ外し、プッとトオルの口の中へ吹き入れる。
「ヴァヴェルのドラゴン。知ってるか」
両手首の仕込みナイフで腱を切断し、トオルの手を引っ剥がす。前蹴りをくれてやり、くるりと縦回転して距離を取る。
「あ、あぼお! てめえ、何を飲ませやが」
KA-BOOOOOOOOOOM!
トオルの上半身が爆発し、薄汚い血肉を撒き散らす。爆薬を飲ませた。
「十人目。次」
【序章終わり。次へ】
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