【2024年エイプリルフール企画】ハナミ儀式について
ドーモ、三宅つのです。これまでつのはニンジャスレイヤー世界におけるニンジャ伝承などについて考察して来ましたが、今回は「ハナミ儀式」について、我々の現実世界における「お花見」とかこつけて考察してみました。あまり整理されていませんが、ネタバレやNRSにご注意下さい。
ハナミ儀式とは
ニンジャスレイヤー世界における「ハナミ儀式」とは、モータル(非ニンジャ)がニンジャ(リアルニンジャ)と成るための儀式です。長く厳しいカラテ鍛錬の後、インストラクションを授けたセンセイとハナミ儀式を行い、メンキョを授かることで、モータルの中にニンジャソウルが生まれ、ニンジャと成るのです。ニンジャソウル憑依現象が起こるより前、大多数のニンジャは、このハナミ儀式によってニンジャに成ったと考えられています。
上掲の文章ではドラゴン・ニンジャが自らニンジャと成った時のことをリー先生に語っていますが、この時の彼女はかつての記憶の大部分を忘失しており、かつ無慈悲なリアルニンジャを演じている状況ですから、どこまで本当かはわかりかねます。ただ「ディスカバリー・オブ・ミスティック・ニンジャ・アーツ(19)」によると、全てのニンジャの父祖である「ヌンジャ」カツ・ワンソーはチャドーの開祖でもあり、ドラゴン・ニンジャにその奥義を伝授し、「マスターチャドー」を名乗ることを許したといいます。つまりドラゴン・ニンジャももとはモータルで、カツ・ワンソーからインストラクションを授かってニンジャ化した存在なのでしょう。チャドーの奥義を授かるまでには、さらに長期間の修行を経たのかも知れません。
リー先生の断片的メモ書きとして連載初期に提示された「ニンジャについて」では、ハナミを行うのは「アーチニンジャの座へ上り詰めたものだけ」とされています。とすると、レッサーニンジャやグレーターニンジャはハナミ儀式を経ずしてニンジャ化するのでしょうか?
ニンジャスレイヤーAoMのシーズン3「ネザーキョウ編」では、強大なリアルニンジャ「タイクーン」がネザーオヒガンでハナミ儀式を行い、鍛錬を経たモータル(チューニン)に「コクダカ(タイクーンの持つマジック・パワー)」を授けてリアルニンジャとするシーンが描写されています。この儀式によって誕生した新たなリアルニンジャには、マイトイカラスとドーンブレイドがいますが、彼らは「カイデン」されたとはいえ、アーチニンジャとしてのカイデン・ネーム(ドラゴン・ニンジャやローシ・ニンジャ、ダイ・ニンジャなど)を持ちません。実力でも鍛錬を積んだニンジャソウル憑依者と大差なく、せいぜいグレーターニンジャといったところでしょう。
従って、タイクーンが行ったハナミ儀式は、ネザーオヒガンという環境とコクダカという外付けのブーストを併用した、(ドラゴン・ドージョーなどから見れば)いびつなものであったと思われます。儀式を授かったチューニンのうち数人は注がれたコクダカを受け止めきれずに爆発四散し、リアルニンジャには成れませんでした。しかし数あるニンジャクランの中には、こうした方法をとるものもあります。
ネオワラキアにあるレッドドラゴン/ブラド・ニンジャのドージョーでは、ニンジャの血液をモータルに飲ませ、血中カラテを一時的に高め鍛錬の効率を早めるドーピング(グール・ジツ)を行っています。これはタイクーンのコクダカ付与と似たようなものと言えるでしょう。しかしブラド・ニンジャのドージョーからは、まだ新しいリアルニンジャは誕生していません。モータルがニンジャになるには、通常は長い鍛錬期間が必要なのです。
つまり鍛錬したモータルがニンジャに成ると言っても、普通まずはレッサーニンジャから始まるのです。この時点でハナミ儀式、ないしそれに相当する儀式が行われてニンジャソウルが発生しますが、グレーターニンジャやアーチニンジャに成るためには、さらなる修行とハナミ儀式、メンキョ、カイデンが必要となるのでしょう。メンキョ(免許)とは「師匠が弟子に一通りの技術を授け、それを証明する許可証」ですから、そのクランのドージョーに入門してニンジャに成る時に授かることはできると考えられます。
そしてカイデン(皆伝)とは、文字通り「奥義を含む全ての技術を伝え終わった」ことを意味します。これを授かった者はアーチニンジャと成り、カイデン・ネームを授かります。そして師範(センセイ)として自らのドージョーを開き、自らの名を冠するクランを興すこともできるのです。全てのニンジャがそうするとは限らず、師匠のドージョーにとどまり続ける者もいますし、ドージョーやクランを持たない流浪のアーチニンジャも存在します。
ハナミとハラキリ
重大なネタバレになりますが、ニンジャソウル憑依者がハナミ儀式を行うことでリアルニンジャになった事例が複数存在します。ニンジャスレイヤー/フジキド・ケンジは妖刀ベッピンで刺され、ナラク・ニンジャのソウルを吸収されましたが、ハナミ儀式に相当する状況下において、リアルニンジャ「サツバツナイト/ダイ・ニンジャ」として復活しました。また「クエスト・フォー・ヨモガハマ」において、ヤモト・コキはヨモガハマでハラキリを行い、ハナミ儀式を再現してシ・ニンジャのソウルを自ら切り離し、リアルニンジャ「シキ・ニンジャ」となっています。
ダークニンジャは第二部の最終章で妖刀ベッピンを用いてキンカク・テンプルの下でハラキリを行い、リアルニンジャにはなりませんでしたが半オヒガン的な存在として復活しました。エド戦争の末期に物理キンカク・テンプルで行われたニンジャたちによるハラキリ儀式は、自らのニンジャソウルをキンカク・テンプルに保存するために行われたとされますし、それ以前にドラゴン・ニンジャは黄金イシダキを用いて自らのニンジャソウルの大部分をキンカクへ送ることに「成功」しています。
こうした例から推察するに、おそらく本来のハナミ儀式とは、ハラキリ等を行って自らの肉体を極限まで痛めつけ、死に瀕することでオヒガンと接触し、エテルを引き出す回路を開いて死から復活する儀式だったのでしょう。ニンジャソウル憑依現象も、多くの場合はもとのモータルの肉体や精神が死に瀕した時に起きています。
ダイ・ニンジャとシキ・ニンジャの誕生に際しては、シ・ニンジャにより超自然の桜が咲いていますが、自然界の桜は春分の頃、春のオヒガンに咲くものです。上掲のドラゴン・ニンジャの言葉にいう「美しく晴れた、桜の咲き誇る春の日」とは、その頃にあたるはずです。「澄み渡る空気」「フーリンカザン」「静かな風」とは、当時はオヒガンから現世に濃密に流れ込んでいたエテルのことでしょう。エテルを呼吸して体内に取り込み、死に瀕してオヒガンと接続することで、モータルはニンジャとして復活するのです。
現実世界においては、ユダヤ教の過越祭、キリスト教の復活祭が、まさに春のオヒガンにあたります。古代社会における様々な死と復活の儀式は、常人を半神的な存在「ニンジャ」として復活させるためのハナミ儀式が元だったのかも知れません。
様式化したハナミ儀式
ハナミ儀式とメンキョは、ドラゴン・ニンジャの言葉が真実であれば、カツ・ワンソーの時代から存在しました。各ニンジャクランによって儀式やメンキョ、カイデンの授け方は異なっていたでしょう。平安時代には、こうした儀式は様式化され、厳粛なメンキョ授与儀式が行われるようになって行きます。特に戦国時代には、ニンジャクランがキョートのソガ・ニンジャに免許皆伝のための巻物を多額の上納金とともに上奏し、彼のハンコがこれに押されることで権威をつけ、地位を正当化することも行われました。
モータルの間でも、官位や芸事の免状を授かるため、権威者に上納金を支払うことは古くから行われています。ハナミ儀式もモータルの間で模倣されレジャー化しましたが、「上級者が権限を後継者に譲渡するために行う伝統儀礼」としても伝えられました。これは作中で実際に行われています。
事実上の日本国の最高権力者であるネオサイタマ知事の権限を、選挙を経ずして後継者へ譲渡するための特殊な方法として、後継者によるハナミ儀式が行われたのです。知事本人は瀕死の病人ですからハナミ儀式には参加できませんが、彼のハンコが押されたマキモノを提示し、権威ある名誉職と化した内閣総理大臣がそこにハンコをつくことで、合法的に権限譲渡が成るのです。後継者であるシバタ・ソウジロウはアガメムノンという憑依ニンジャではありますが、知事も内閣総理大臣もモータルですから、これはモータルの社会に伝わる伝統的なハナミ儀式です。とはいえ丸一日にもおよぶ苛酷な儀式であり、通常のモータルが完遂することは不可能に近いでしょう。
我々の世界においては、平安京の京都御所紫宸殿の前に「左近の桜」があります。常緑樹である「右近の橘」と対になっており、もとは梅の木でしたが仁明天皇の時に桜の木に植え替えられ、枯死・焼亡のたびに植え替えられて来たといいます。ニンジャスレイヤー世界にこれに相当するものが存在するのかは定かでありませんが、平安時代はニンジャがモータルをカラテによって支配していましたから、鍛錬を積んだモータル貴族の子弟をこの桜によってハナミ儀式でニンジャ化させることもあったかも知れません。
また日本では会計・学校年度の開始が4月であるため、桜が咲く頃は卒業式や入学式・入社式のシーズンともなりました。それゆえか学校の周囲には桜の木が多く植えられます。花見の頃、桜の下で卒業証書を受け取る様は、いにしえのハナミ儀式と関わりがありそうな気がしますね。ニンジャスレイヤー世界ではたぶんそうでしょうが、我々の世界の日本で会計年度の開始が4月になったのは明治19年(1889年)からで、それも「酒造税の納期開始にあわせるため」という極めて現実的な理由であり、残念ながら古代に遡ることはできません。
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サクラ属(Cerasus)の植物は、日本のみならず北半球全体に分布しています。サクラの名は稲を意味する「サ」が宿る「クラ(座)」であるともいい神秘的なイメージがついて回ります。吉野の桜は天武天皇や持統天皇にも愛されました。奈良時代にはチャイナの影響で梅がもてはやされ、花見といえば梅の花でしたが、平安時代には桜のほうが人気となりました。とすると、ハナミ儀式は他の花でも良いのでしょうか。
聖書においては、サクラ属の植物としてアーモンド(あめんどう/扁桃)が登場します。梅や杏に似た実をつけますが果肉は食用にならず、種子の中の仁をローストするなどして食用とします。その花は桜によく似ており、春一番に咲くことから「目覚めるもの/見張るもの(シャケド)」という名で呼ばれています。
聖書『民数記』17章によると、モーセとその兄アロンに歯向かった人々が神の怒りを買って滅ぼされたのち、神はイスラエル十二部族の族長たちに自分の名を刻んだ杖を1本ずつ持ち寄らせました。このうち神の祭儀を司るレビ族のはアロンに出させ、「私が選んだ者の杖からは芽が出るであろう」と告げました。モーセが杖を集めて「契約の箱」の前に置くと、果たして翌日アロンの杖だけが芽を出しています。そればかりか芽と同時にアーモンドの花が咲き、アーモンドの実がなっていました。
この「アロンの杖」は十戒を刻んだ石板・マナを入れた壺とともに契約の箱の中に入れられ、イスラエル民族の「三種の神器」の一つとなりました。またアロンに授けられる前はモーセが使用しており、エジプトに十の災いを起こした際も、海を割った際も、砂漠で岩から水を湧き出させた際もこの杖が用いられたといいます。ニンジャ的に解釈するなら、この杖にはオヒガンのパワーが宿っており、アロンはまさにハナミ儀式を0101010101010101
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……どうやら深入りしすぎたようです。歴史の闇に不用意に触れることは得策ではありませんから、今回はこのあたりにしておきましょう。
【以上です】