忍殺TRPGリプレイ【ダーク・ブルー・デイ】02
前回のあらすじ:ネオサイタマ、ウシミツ・アワー。ソウカイニンジャ・ブルースクイッドは、一億円相当の未公開株券が詰まったボストンバッグを密かに竹林に埋め、隠そうとしていた。だがその時、彼をつけていた青黒の死神、ニンジャスレイヤーイビルが姿を現す!カラダニキヲツケテネ!
◆
「貴様、なぜここに……!」ブルースクイッドは震え上がった。強化ハチマキの下からダラダラと脂汗が流れた。「状況判断だ、ブルースクイッド=サン。そこのバッグが気になってなァ」ニンジャスレイヤーイビルは、邪悪に目を細めた。「よこせ。俺はカネが要るんだ……競馬でスッちまってよォ」
「貴様、なぜ俺の名を……!」「アイサツしろや」ゴクリ。ブルースクイッドは唾を飲み込んだ。ニンジャはアイサツされれば、アイサツを返さねばならない。古事記にも書かれた礼儀だ。だが、ニンジャの戦闘に大切なボストンバッグを巻き込むわけにはゆかぬ。これまでの全てが水の泡となる。
「マッタ」ブルースクイッドは片手を広げ、青黒のニンジャと睨み合ったまま、ボストンバッグのチャックをゆっくりと閉めていった。その指先は、緊張でかすかに震えていた。……そして、チャックを閉め終えたバッグを、少し離れた竹藪の間に置いた。「よこせ、っつったぞ。死にてぇのか?」
ニンジャスレイヤーイビルは苛立ち、声をあげた。ブルースクイッドは名残惜しむように、あるいは情婦か何かを扱うように、バッグの表面をぽんぽんと叩いた。勝利し、すぐに迎えに来るとでも言いたげに。……誰にも、少しでも、その中身を分け与える気はなかった。己の命を賭けてでも。
これを終えると、ブルースクイッドの目つきは背水の陣を敷いて覚悟を固めたサムライめいて、強く厳しくなった。先ほどの僅かな動揺も、ボストンバッグを抱えていた時の軟弱さも、跡形もなく消え失せていた。そして隙の無い動きで横歩きし、ついに青黒のニンジャと向かい合ってオジギした。
重金属酸性雨が強く降り始めた。竹林に妖気と剣呑なアトモスフィアが満ち、空気がミシミシと鳴った。「……ドーモ、ニンジャスレイヤーイビル=サン。ブルースクイッドです」一触即発!
忍
戦闘開始:1ターン目
アイサツ終了直後、両者はほぼ同時にスリケンを投じた!「「イヤーッ!」」ガガガッ!空中で両者のスリケンが衝突、相殺、対消滅!だがニンジャスレイヤーイビルのスリケンの方が一枚多い!恐るべき飽和射撃だ!「イヤーッ!」ブルースクイッドは間一髪でスリケンをブリッジ回避!
「愚かなりニンジャスレイヤーイビル=サン!貴様の死のカウントダウンは既に秒読み状態だ!致命的な隙にあわせて投擲される俺のポイズンインク・スリケンで、お前は悶絶しながら死ぬだろう!」ブルースクイッドは勝利を確信し、両手に神秘のニンジャパワーを籠める!「イヤーッ!」
ドライアイスめいた暗黒の瘴気が両掌から発散され、危険な唸り音を立てながら、黒い星がその中心に形作られていく!BOOMBOOM!それは凶暴な黒い猟犬めいて、ニンジャスレイヤーイビルに襲いかかる!「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーイビルはとっさに開脚ジャンプしてこれを回避!
「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーイビルは空中で連続回転し、竹を蹴り、ブルースクイッドへ恐るべきトビゲリを放つ!SMASH!「グワーッ!」命中!だが浅い!この程度の負傷は計算のうちだ!ブルースクイッドは愛するものを守るべく昂奮し、ギラギラとサイバネティクス・アイを輝かせる!
2ターン目
「イヤーッ!」BOOMBOOM!ブルースクイッドは飛び離れながらポイズンインク・スリケンを乱射!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーイビルは見切って躱す!「ちょこまかと……ダラク!起きろ、ダラク!」彼は背負ったゴルフバッグを降ろし、チャックにかかった四桁ダイヤルキーを合わせる!
(((うるせぇなあ……!)))精神内の茶の間に敷かれたやすらぎフートンで、彼に憑依した邪悪なるダラク・ニンジャは大儀そうに身じろぎした。ニンジャスレイヤーイビルはゴルフバッグから恐るべきチェーンソーを取り出し、紐を繰り返し引いてエンジンをかける!ドルッ……ドルルルル!「行くぜ!」
「ヌウッ……だが距離を取れば恐るるに足らず!イヤーッ!」ブルースクイッドは連続側転しながらポイズンインク・スリケンを乱射!BOOMBOOM!「イヤーッ!」ガキィン!青黒の死神はスリケンを弾き落とし、恐るべき速度でブルースクイッドへ駆け寄る!「くたばりやがれーッ!」ウオオオン!
青黒い炎をまとったチェーンソーが、ブルースクイッドを両断すべく迫り来る!まともに食らえば即死だ!「い、イヤーッ!」ブルースクイッドは海中のイカめいて素早く動き、致命的な攻撃を躱す!さらに反撃のキックをも繰り出していた!「クソが!イヤーッ!」青黒いニンジャはブリッジ回避!
3ターン目
「イヤーッ!」BOOMBOOM!ブルースクイッドは闇の中にホタルイカめいた残像を残しながら跳ね回り、恐るべきポイズンインク・スリケンを乱射!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーイビルは見切って回避!「ウオーッ!」ZZZZZ!チェーンソーが唸り、バイオバンブーを切り倒しながら迫る!
「い、イヤーッ!」ブルースクイッドは股間を狙った致命的な斬撃を紙一重で回避!ワザマエ!だがこの狭い空間では、ニンジャスレイヤーイビルの死神の鎌めいた攻撃から逃れられぬ!否、それは相手も同じ!「イヤーッ!」スリケン乱射!BOOMBOOM!「イヤーッ!」ブリッジ回避!ワザマエ!
殺
「Wasshoi!」野太く粗野なカラテシャウトとともに、ニンジャスレイヤーイビルは跳躍!必殺のチェーンソーを敵の脳天めがけて振り下ろす!どくん……ブルースクイッドはアドレナリンをSMAAASH!「アババババーッ!」ナムアミダブツ!脳天にチェーンソーが直撃!青黒の炎が燃え移る!
彼は己の敗北を、死を悟った。虚しく放出されたアドレナリンが、死へと続くジゴクの苦痛の長さを何十倍にも引き伸ばした。ニンジャスレイヤーイビルに傷一つ負わせることもできず、あのボストンバッグを守り抜くこともできず、誰にも知られることなく、この竹林で死ぬのだ。「サヨナラ!」
KABOOOOM!ブルースクイッドは爆発四散した。
結
「シューッ……!」ニンジャスレイヤーイビルは熱く禍々しい息を吐き、ザンシンした。ドルンドルンドルン……ドルン。ダラク・チェーンソーは停止し、青黒い炎も消え去った。彼に憑依したダラク・ニンジャは強力ではあるが怠惰であり、凄まじい力を貸すことでイクサの時間を短縮させるのだ。
「ヘヘヘ……ちょいと手こずったが、所詮はサンシタだったなァ。ともあれこれで、一億円は俺のもんだぜ!」ニンジャスレイヤーイビルは邪悪に目を細め、竹藪に置かれたボストンバッグに大股で近寄った。ブルースクイッドの遺産だ。彼はオイランを襲うように、下品に笑いながら手を伸ばす。
あのサンシタが結局チクったのか、金づるにしていたカチグミたちはソウカイヤの脅しを受け、自分を体よく追い払った。イービアスやゲトームーンはこの街に適応して暮らしているが、ニンジャスレイヤーイビル……ワルキド・ゲンは日々ギャンブルにのめり込み、稼ぐそばから失うばかり。
だが、この一億円があれば大丈夫だ。ギャンブルは安全な投資に変わり、カネがさらに莫大なカネを呼ぶ。馬券の全ての組み合わせに万札をつぎ込めば、必ずどれかは当たるのだ!それを繰り返せば……「ン?」ワルキドはボストンバッグのチャックを開き、中身を見ると、訝しんだ。これは、何だ。
そこにあったのは、未公開株券でも万札の束でも、トロ粉末でも黄金インゴットでもなかった。ナムアミダブツ……それは、哀れなオイランの生首であった。ブルースクイッドは狂っていたのだ。ボストンバッグを持ち歩き、十分ごとに中身を確認しては独り言を呟き、自己暗示をかけていた……。
この血塗られたボストンバッグは彼を軟弱にした。それを手にする前よりも、彼を遥かに軟弱にした。古事記において仲間に囲んで棒で叩かれ、すべての骨を失ったイカのように。何が彼を狂わせたのか。このオイランか。それとも……とにかく、カネにならないことは確かだ。「ブッダファック!」
ワルキドは口汚くブッダを罵った。無駄な追跡とイクサだった。彼は舌打ちしながら、ボストンバッグから生首を掴み出すと、ブルースクイッドの掘った穴へ投げ込んだ。ついでぞんざいに土をかけて埋め、伐採された竹を突き刺し、散らばったサイバネアイの破片など金目のものをかき集めた。
「フーッ……ナムアミダブツ!供養してやったんだからよ、今度は俺に恩返ししろや!一億円ぐらいよォ!」ワルキド・ゲン、ニンジャスレイヤーイビルは苛立ちながら生首オイランにそう言い捨て、ボストンバッグを担いで立ち去った。多少のカネにはなるだろう。後には、簡素な墓が残った。
ここはいかなる道とも、いかなる扉とも接していない、ビル壁に囲まれた秘密の竹藪だ。竹の墓標と重金属酸性雨に濡れた土の下で、オイランはブルースクイッドの帰りを待つこともなく眠り続けることだろう。永遠に。
【ダーク・ブルー・デイ】終わり
リザルトな