【FGO EpLW 殷周革命】第八節 移山翻江転北斗
(あらすじ:塗山の洞窟。鼎を守る謎のランサーとのイクサの末、謎めいた暗黒空間に招き寄せられたランサー・服部半蔵。そこに出現した謎のランサーの生首は「まさかどさま」と叫ぶ……)
将門様。あのライダーの関係者、か。だが何故今になって。将門公は滅んだはず……一体どこにいる!疑問を口に出す事もできぬが、奴はこちらを見ていない。拙者の心の中に入ったというなら、そこに将門公がいるというのか……。
【私めは桓武平氏千葉氏傍流、「木内惣五郎(きうち そうごろう)」と申す者……。 鎮守府将軍・村岡五郎良文公が後裔にして、将門公が御娘・春姫様の御子、忠常公の末裔……。佐倉城に拠る堀田氏が圧政に抗い、妻子共々死罪となり……祟りを為し……ウラメシヤ……】
真名判明
塗山のランサー 真名 木内惣五郎
知らぬ名だ。拙者の死後の人物か。だがなるほど、千葉氏の裔ならば、奴が将門公に入れ込むのも分かる。そして、拙者が将門公と戦ったことを知り、心の中に残る将門公の幻影、畏怖……そういったものに呼びかけ、復活させようと……。
いかん、やめろ! つまりは、拙者の意識が将門公と此奴に乗っ取られ……三つの鼎が、奴のものに……! 不覚、ウカツ、ブザマ……!
【グググ……然様、然様。左馬允メノ裔ヨ、ソチハ布団(フートン)ノ中デ寝テヲレ……愉快、愉快……!】
奴の首が将門公のものに変わり、大口を開けてこちらに飛び込んで011ooOOooOoOoo101Oo0やめろ!1001ooOoOoOoo01黙れ将門!010ooOOoo10001成仏せ110ooOOo10110ooOOoo100OooOo0
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洞窟奥の断崖に鎮座していた三つの鼎が浮き上がり、黒煙の中へ飛び込む!
「オイ、オイオイ、なんか……やべぇぞ、こりゃ!」
ドクン。
巨大な鼓動が響いた。黒煙が収縮し、ランサーの全身に吸い込まれていく。
先ほど脱ぎ捨てた甲冑のかわりに、禍々しい意匠が刻まれた、輝く青銅の甲冑が全身を覆う。おそらくは三つの鼎が変形したもの。兜の両側面から、巨大な殺人バッファローめいた角が突き出る。
ドクン。ドクン。ドクン。
「ら、ランサー! どうした!なんだそりゃァ!」
マスターが振り返り、呼びかける。頭痛と鳥肌と脂汗、背骨が凍る感覚。味わったことがある。
「これは……もしや、奴が!」
『グググ……然リ。此奴ハ最早、我ガ傀儡(クグツ)ヨ』
ランサーが……否、青銅の甲冑を纏った敵サーヴァントが、顔を上げる。
その手には大身槍が変じた大斧。オニめいたメンポはさらに恐ろしげになり、獣めいた形状に変化していた。おお、ナムサン……彼の眼は四つ!その眼は真っ赤に光り輝き、瞳は黄金色の閃光を放つ!
「ライダー、か」
『ググググググ……グググハハハハハハ!!!』
ZGGGGGGGGMMMM……哄笑と共に洞窟が揺れ動く。パラパラと石が落ち、天井や壁にヒビが入る。崩れる。その破片が、ライダーに吸い寄せられる。周囲の地面も盛り上がり、ライダーに吸収される。もはや砂鉄だけではなく、ありとあらゆる土砂・岩石・鉱物・金属を、貪欲に喰らい、吸収していく……!
『逃げろ!』
「どうやって!」
『どうやってもだ!死ぬ!』
マスターがかぶるエピメテウスが叫ぶ。チャーナキヤはやむなくなけなしの魔力を練り、マスターごと空中へ浮かび上がる。
「どうすんだ!」
チャーナキヤは真言を唱えるばかりで答えず。幻力(マーヤー)を用い、マスターと共に一時的に霊体化。そのまま天井をすり抜け、外へ。
「………ッパはァ! こ、ここまでです! あとは、走って! 私は、ここまで……」
地面にチャーナキヤが膝をつき、倒れ伏す。魔力切れだ。
「うるせぇ! インド人、お前がいなきゃ俺が帰れねぇんだぞ! ついて来やがれ!」
マスターがチャーナキヤの襟首を掴み、必死で駆け出す! カジバヂカラ!
ZGGGGGGGGMMMM……塗山が崩れていく。否。崩壊する塗山をまるごと呑み込んで、奴が立ち上がる。おお、神よ!山が歩き、よろめいたのだ。
「アイエエエーーーエエエ!!!」
チャーナキヤごとマスターがすっ転び、崩れていく山肌を転げ落ちる。樹木に激突して肋骨が折れ、落ちてきた岩にあたって左脚が膝からちぎれ飛ぶ。 さらに転げ、転げ、転げ落ちる。右腕の肘が逆方向に折れ曲がり、チャーナキヤを掴んでいた手も放してしまった。彼は体中の穴から様々な体液を失禁し、気絶寸前だ。エピメテウスが頭部を保護していなければ発狂即死していたであろう。いや、即死していたほうが幾分マシだったかもしれない。
山肌に大きな亀裂が生じる。背中から大岩に激突して背骨が折れ、内臓が破裂し、血を吐きながらそこへ転げ落ちた。深い闇の底へ。
(死にたく……ねぇ……。ジーザス、ゴッド、アッラー、ブッダ、オーディン、トール、クトゥルフ、なんでもいい、助けて……)
薄れ行く意識の中、彼は自分が知るありとあらゆる神々に祈った。だが誰が聞き届けてくれるというのか。ここは特異点、神々の手の届かぬ異界……。
(いや、いたよ、神……アサシン、イシュタム……死神…………楽園へ導く女神……やめろ、まだ死にたく…………)
ナムサン……。そのまま、彼の意識は途絶えた。
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ゴウランガ……。ウシミツ・アワーの闇に、山にも等しいほど巨大な、くろぐろとした影が聳え立つ。ライダー、平将門公。ランサー、木内惣五郎。ランサー、服部半蔵正成。三騎の英霊と、三つの鼎が融合し、ここに恐るべき大怪獣が現臨した。
その上半身は直立した人の如く、頭は牛に似る。四つの眼が爛々と輝き、一対の大角と剣の如き耳鬘を生やす。全身は饕餮文が刻まれた赤黒の甲冑に覆われ、六本の腕に各々武器を持つ。すなわち斧、剣、弓、矢、矛、盾。下半身は獣の如く、鎖で出来た馬の如き尾、八本の脚を有し、牛のような蹄で地を踏みしめる。銅頭鉄身、異形のケンタウロスめいた姿。
これなん、名高き悪神『蚩尤』である。
彼は兵主神、すなわち武器の発明者、戦の神として知られる。未来の人類はそれを発展させ、地球上の人類を滅ぼし尽くす事も可能なほどに殖やした。
人類に戦争、武器はつきものだ。世に戦乱が起きる時、蚩尤は常にそこにおり、崇められる。ギリシア神話におけるアレス、ローマ神話のマルス。あるいはエノク書におけるアザゼル、ヨハネの黙示録にいう『赤き騎兵』。それらと同等の存在なのだ。
知恵を人類が捨てられぬように、戦争を、争いを、諍いを、人類が捨てたことは一度もない。闘争なくして人類は生きることが出来ぬ。ゆえに、我々は彼をこう定義できよう。戦争と武器の創造者、人類が自業自得せし災厄、人類悪、黙示録の獣がひとつ、『ビースト』と。
―――とはいえ、この蚩尤は、虚数世界に放逐された神霊としての蚩尤本体ではない。性質としては近いが、それではない。『平将門公』を中核とし、霊基と宝鼎を切り貼りして顕現した、似て非なる蚩尤。言うなれば将門公の異相、『もう一人の自分(アルターエゴ)』である。
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蚩尤が万雷の如く咆え哮る。その全身から赤銅色の稲妻が散り、曇天を貫く。燃え盛る火は紅く、流れる血は朱く、怒り狂える顔は赫い。おお、見よ……凄まじい磁気嵐により、赤いオーロラ『蚩尤旗』が天空に現れる!
続いて蚩尤が矛を振り上げ、北西の空に向けて差し招く。
『『『徳! 商ヨリ来タレ、我ガ鼎ヨ!』』』
言うが早いか、流星のように輝く物体が飛んで来る。大邑商に安置されていた、将門公の鼎だ。蚩尤は牙が並んだ巨大な口を開き、その鼎を呑み込む。
ドクン。鼓動が大きく轟き、蚩尤の身体がさらに一回り大きくなる。全身の内側が、赤く不吉に光り輝く。
『『『コレニテ、四ツ。残ルハ五ツ……ググググググ……』』』
ずしん。 ずしん。 ずしん。 ずしん。 蚩尤の八つの脚が動き始める。地面が抉れ、砂塵を揚げる。その中から無数の魑魅魍魎が現れる。
ずしん。 ずしん。 ずしん。 ずしん。 大地が割れ、山が砕ける。蚩尤の周囲に同じ姿の、多数の蚩尤が現れる。その数、三十と六!
『『『鼎一ツニテ、影武者九ツ。九鼎揃ハバ、八十ト一也。魑魅魍魎、風伯雨師、夷狄戎蛮、三苗九黎、悉ク我ニ随ヘ!』』』
彼は作乱者。天帝に背き、炎帝を弑し、黄帝に挑みし者。現れるところに兵乱あり、万象を天帝の支配と差配に歯向かわせる。生前の将門公は、成り行き上で朝廷に反旗を翻した形となった為、唆されて『新皇』と号し、坂東に半独立国を樹立せんとしたに過ぎない。而して、蚩尤はそうではない。彼は乱を起こし、天下を覆し、自ら唯一無二の天帝の位を望む者。もし九鼎が揃えば、『ビースト』としての蚩尤とも成り得よう。
『『『我ハ此レ――――「平天大聖・蚩尤」也』』』
彼は己をそう定義した。天を平らげるもの。周と商の鼎を奪い、九鼎を獲て、天地万物を渾沌に還さんとするものと!
真名判明
将門公のアルターエゴ 真名 平天大聖・蚩尤
蚩尤旗を頭上にはためかせ、天地を覆う暗雲と濃霧、おびただしい眷属と妖怪が、彼に付き随う。周囲の川の水が逆巻き、上流に向けて溢れ出す。三十七騎の蚩尤は、同時に弓に矢をつがえる。弾道ミサイルめいて巨大な矢を、天に向ける。狙うは……乾(北西)の空、千二百里の彼方、孟津!
『『『マズハ、アノ小娘ガ護リヲル、周王ノ鼎ヲ奪ハム。小手調ベニ、受ケテミヨ』』』
ぎしりぎしり、と蚩尤たちの牙が鳴る。眼が細くなる。嗤っているのだ。
『『『「震天箭」。射!!!』』』
三十七本の矢を一斉発射!! 矢は夜の闇を引き裂き、流星のように飛翔! さらに一本一本が――――空中で一万本に分裂! 天を覆う!!
◇◇◇
「……来ます!」
孟津、周王の陣営。シールダーは即座に構え、三つの鼎と接続。宝具を展開する。キャスターズを通して、マスターからの念話が通っていたのだ。ランサーが敵に飲み込まれ、あのライダーが復活し、三つの鼎を獲得したと。その凄まじい様子は、シールダーの脳裏にもノイズ混じりの映像として伝えられた。そして……途切れる。
マスターは死んだか。いや、死ぬはずはない。彼はあんなだが、ウォッチャーが守るはずだ。いたぶり、嘲笑い、愉悦を味わうために。しかし……サーヴァントは、こちらのサーヴァントは、斃され得る。ユカタンでは出なかった味方の犠牲者が、ついに出たか。とは言え、ランサーが「飲み込まれた」だけなら、まだ救出する方法はあるかもしれない。そしてキャスターたちは、どうなのか……。カルデアのダ・ヴィンチに諮っている時間は、ない。いずれにせよこの磁気嵐では、回線が開けない。
「来たか」「来たね」
セイバーとアサシンも様子を察し、東南の夜空を見る。途轍もない妖気。天地を震わすほどの闘気と磁気、轟音。数さえも分かる。迫り来る矢は三十七万。この第一波を凌いだとしても、次から次へと撃って来よう。地上を駆けて来るなら、直接奴らが来るまで時間はあるが、どうすればいい。
「シールダー。受け切れるか」
「斜めに、逸らすことは。正面からではキツイし、キリがないです。これから次々来ます」
「アタシらに出来ること、あるかしら」
「周王たちを護っていて下さい。敵本隊が来る前に、逃げ延びることが叶えば……」
来た。発射から到達まで1分ほど。天を覆い、地を貫く、三十七万の魔王の矢。シールダーは呼吸を調え、シールドを空中に多数展開!
逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。矢が弾かれて墜落し、爆発。轟音と共に山を崩す。或いは後方の雲の壁に突っ込み、勢いを失って河水に落下する。
逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。逸らす。
永劫とも思える瞬間の後――――――矢の雨は止んだ。周囲は爆撃により抉り取られているが、孟津の陣営は無事だ。なんたる防御力か。
逸らすことは、可能だ。だがこれ以上地面に落とすと、衝撃で陣営そのものを崩落させかねない。やはり河水へ落とす方が良い。あの雲の壁に当てる。
しかし。
シールダーが振り返った瞬間、その雲の壁が、突然消滅した。これを築いたキャスター、チャーナキヤの死、あるいは限界を意味するのだろう。
ならば。背後から。大邑商から、アーチャー『メーガナーダ』が出陣することが、可能になってしまった。二体の大魔王に挟まれる。シールダーが三つの鼎を持つと言えど、これでは。
………シールダーは呼吸を調え、宝具を維持する。これよりは、地上の地獄。
「抗うのみ!」
抗え! そして抗え!