【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第4回 趙・怪盗追跡!!
「ねえ『ヒトー』。あのプリンス・チョウ・コウメイって方、いったい何者なの?」
虚無の曜日の夜。
学院の自室で、ルイズは趙公明と同じ世界から来たという巨大なインテリジェンスソード、『飛刀』と対話していた。壁にかかる大剣に現れた顔が、彼の知る限りの趙公明の情報を話す。
「ん~~、何ちゅうか、恐ろしいお方よ。華麗でゴージャスで貴公子なんだが、『戦闘狂』ってやつでな。もとは俺たちの世界でも上位に入るツワモノで、何千年も生きているから暇なのか、ゴージャスな闘技場を作っては強い敵を招いて戦うんだわ。勿論大体勝っている。あの人に勝つには、大陸クラスの大メイジが束になってやっとだろうな」
中国大陸の東西の果てに浮かぶ二大仙人界。その東側の金鰲列島で、大幹部を務めていたのが趙公明だ。しかも彼の行動は東西冷戦状態を作り出し、後の『仙界大戦』にも繋がった。大変傍迷惑な男である。
「それと、あの方が持っているのは『宝貝(パオペエ)』っちゅう秘密兵器だ。持主の力を吸って魔法のような力を発揮する、いわばマジックアイテムだな。ただ、使いこなすだけの才能がないと、全身のエネルギーを吸われてミイラになっちまうから気をつけな。今持っている『縛竜索』はただの鞭型宝貝だが、スーパー宝貝『金蛟剪』を使いこなせるのは、あの方と妹さん方、それに哪吒って野郎だけさ。メイジ連中が宝貝を使えるかは、わからねえがよ」
「御妹君がおられるんだあ……きっと素敵な美人なんだろうなあ」
「…………まあな。きっと一生忘れられないぐらい、凄いぜ」
無論、精神ブラクラ的な意味で。
「まあ、口で説明するよか、見てもらった方が手っ取り早いわな。ちょっとオレの剣身を見てみなよ……これをどう思う?」
悪戯心が湧いた『飛刀』は、鏡のような剣身をルイズに注目させ、徐々に映像を投影していく。そこに映ったのは…………。
「……いっ……いやあああああああああああああ!!!」
それは某メーガス三姉妹を彷彿とさせる、おぞましい三体の化け物どもであった。学院寮に、ルイズの悲鳴が響き渡る。すぐに『飛刀』がルイズと趙公明からお仕置きされたのは、言うまでもない。
【ルイズのSAN値(正気度)が減少した!】
◆
翌日、学院長室。禿頭の中年教師が、興奮気味にノックをする。
「オールド・オスマン! コルベールです! ご報告したい事があって参りました」
「なんだね、ミスタ・ゴルベーザ。もうひといきじゃ、パワーをメテオに」
「いいですとも! って違います!! コルベールですよ!(ガチャ)」
確かに学院長オールド・オスマンは、あの月の民に似ていなくもなかった。どうでもいいですとも。
「ミス・ロングビルは外ですかな? まあよろしい、丁度いい。学院長、あの方の左手のルーンは、明らかに伝説の『ガンダールヴ』のものです!」
「ガンダム? ああ、あの伝説の巨大ゴーレムの事かね。とうとう奴らが復活しおったか」
「『ガンダールヴ』です! 六千年前、始祖ブリミルの『盾』となり、あらゆる武器を自在に操った、あの伝説の使い魔なんですよ!! ミス・ヴァリエールの召喚したプリンスは!」
「なるほど、ゲッターロボの方じゃったか。たちの悪い奴らじゃと聞いてはおるが」
「耳が遠いのか、脳味噌が悪いのかどっちですか!!?」
「まあ落ち着きたまえ、ミスタ・ゴルバチョフ」
「私の名前はコルベールだと言ってんだろうが人の話聞いてんのかこのドMがァ―――――ッ(ゴシャアァ)」
オールド・オスマンのボケ倒しは、コルベールにツッコミ倒された。結局何も伝わっていない。
【コルベールは『●メテオ』をおぼえた!】
◆
その夜。学院の本塔、宝物庫の傍に、黒いフードの女が立っていた。盗賊だ。
「この塔の壁にヒビを入れるなんて……あの『貴公子』は何様なんだろうねえ……」
仮にも魔法学院の宝物庫である。マジックアイテムとは言え、たかが鞭の一撃や青銅のワルキューレがぶつかった程度では、ヒビ一つ入らないぐらいの『固定化魔法』はかけてあるのだ。まあ、ヒビぐらいではビクともしない厚い壁だが、これなら破る手段はある。盗賊は唇の端を上げた。
「まあ、誰でもいいさ! この『土くれ』のフーケの手間を省いてくれて、有難うよ!!」
フーケは、巨大なゴーレムを大地から創造し、豪腕の一撃で宝物庫の壁を砕いた。
「あはははは! 『土くれ』のフーケ、魔法学院より『火竜の杖』を頂戴いたしましたよッ!! ざまあみやがれ、能無しども!」
ゴーレムの立てた轟音と地響きに、学院は騒然とした。魔法がポンポンと飛ぶが、ゴーレムには通用しない。後に残されたのは、無惨に破壊された宝物庫と、怪盗フーケの犯行声明だった。
◆
「奪われたのは宝物庫の中のマジックアイテム『火竜の杖』のみでした。 宝物庫の修繕費も高くつきますが、学院の失われた信頼はプライスレスです」
翌朝、学院長室に教職員一同が集まり、緊急会議を開いている。オールド・オスマンの美人秘書ミス・ロングビルからの調査報告を終え、討議に移る。
「ならば、わしらの誰かがフーケから秘宝を取り戻さねばな。ついでにフーケ自身を探し出し、捕縛か退治できれば、これに勝る手柄はない。さあ、誰か功名をあげてみたい者はおらんか!? 立候補する者は杖をあげよ!」
だが、誰も呼びかけに答える教師はいない。情けないことだ。
「(バン)待ちたまえキミたち!! この僕が立候補しよう!!(タラタタータータータッタターン)」
全員が振り返り、開かれた扉の方を見る。杖(鞭)をあげているのは、趙公明だ。ルイズにキュルケ、タバサもギーシュもいる。ロングビルは思わぬ闖入者に驚き、慌て、青褪める。
「ぷぷぷ、プリンス! これは学院側の不祥事、貴方様のお手を煩わせるわけには」
「いいじゃないか、ミス・ロングビル。僕は歯ごたえのある好敵手と戦いたいのさ! 僕の有り余る力を以って、怪盗くんを見事捕まえてみせよう!(アイセイェーズットー)」
「「「私(僕)も行く」」」
四人の生徒も、一斉に杖を掲げた。趙公明に唆されたか。
「ふふん、決まりじゃな。これ教師諸君、勇敢なる彼ら彼女らを見習うのじゃぞ。ふぉふぉふぉ!プリンスとその仲間の力を以ってすれば、容易く事件は解決じゃ! では、ミス・ロングビルも捜索隊に加わってくれんかのう」
「は、はい………」
ミス・ロングビルは、なぜかガックリと肩を落とした。
◆
「……で、情報は集まったの? ミス・ロングビル」
「はい。西の山中にある山小屋に、夜な夜な黒いフードを被った人影が現れるという噂が。酒場で薪売りの男から聞いただけですので、確証とは言えませんが」
「でも、行ってみる価値はあるわ! 何かの手がかりは掴めるかもしれないじゃない!」
ルイズは『ゼロ』の汚名を返上しようと大張り切りだ。捜索開始から三日目、初めての有力情報である。
「では、早速そこへ向かおうじゃないか!(ヴァヴァヴァン)」
「プリンス! 華麗なる戦いをお見せ下さい!」
六人は馬車を学院から借り、怪しい山小屋へ向かう。『飛刀』も一応積まれた。当然馬車は趙公明がロココ調に改造しており、道中目立つ事この上なかったが。
「……で、『火竜の杖』ってどんな秘宝なの? 火のメイジとしても、興味あるわ」
「ええ、なんでも天空に棲まう火竜の息を鍛えて作ったもので、二本で一セット。投げつけると回転して炎を放ちながら飛び、自動的に手元に戻ってくるとか。悪用されると危険ですね」
「むむ? それは……僕の知識にある『火竜鏢』ではないかな? キュルケくんのような火の高位メイジなら、使えるかもしれないな」
仙人界に伝わる宝貝の一つだ。さほど強力でもないが、人間の数十人程度なら焼き払えるだろう。趙公明や余化・飛刀と同様、こちらに召喚されていたか。面白い、あちらと行き来する方法が見つかるかも知れない。
「プリンスはやはり博識でいらっしゃいますのね。是非使ってみたいですわあ」
◆
一行は何事もなく、目的の山小屋に着いた。家捜しすると『火竜の杖』他盗品も発見できたため、ここがフーケの隠れ家の一つだろうとの確証はできた。だが……。
「では諸君、肝心のフーケを、どうやって誘き出す?」
「そりゃあ、ここに身を潜めて、奴が戻ってきたところを袋叩きよ!」
「そーね、秘宝もあるんだし、夜になれば一度ここへやって来るはずよ。ねえ、タバサ」
「…………空腹」
いい方法も見当たらず、一行は山小屋の内装をバロック調に改装して潜み、フーケを待つことにした。
「あの、プリンス……快適にはなりましたが、今の改装はどうやって?」
「ギーシュ。あのお方に不可能はないのよ、分かる?」
◆
だが、深夜になってもフーケは来ない。精進フレンチ料理とワインに舌鼓を打つ一同だが、眠くなってきた。見回りに行く、とロングビルは山小屋の外に出て行ったが……。
ズドオオンと地響きがして、小屋の前に高さ30メイルもある土のゴーレムが現れた!
「うひゃあ!? 何だ、どうした!?」
「フーケよ! ついにお出ましね!!」
眠気は吹き飛び、臨戦態勢に入る。ロングビルは無事だろうか?
「このゴーレム相手なら、遠慮はいらないわね! 行けぇ、『火竜の杖』!!」
キュルケが長さ1メイルほどの湾曲した『火竜の杖』を投げると、それは回転しながら飛翔し、岩をも融かす高熱の炎を放ってゴーレムの表面を焼く。そして自動的に手元に戻る。
「お……面白いわっ! でも普通の魔法より数段魔力を吸われるわね……」
「周りを焼かれても、すぐ再生しているじゃないか! これはトライアングル級の実力者だぞ」
ギーシュのワルキューレなら焼き尽くせる威力だったが、デカブツすぎる。
タバサやギーシュも魔法を放ち、ルイズも『錬金』を唱えて爆発を喰らわせるが、効果はいまいちだ。ゴーレムは建物のような手足で暴れまくり、山小屋を踏み潰してしまう。
「諸君、下がっていたまえ。僕がやってみよう」
「プリンス! お願いします」
ビシュッと『縛竜索』が伸び、ゴーレムの手足を切断するが、土くれが集まってすぐに復活する。
「これじゃあ、埒が明かない! 操っている本体はどこ!?」
「まあ、なかなかやるじゃあないか。しかし」
その時、シュルシュルと趙公明の掌から『ツタ』が伸び、ゴーレムに突き刺さる。ツタはゴーレムの表面を見る見る覆いつくし、養分を吸い尽くして『砂』に変えてしまう!
「木は土を剋す。『土くれ』では僕に勝てないよ、怪盗フーケくん」
「せ、先住魔法か……!?」
「そして本体くん。そこにいるね!?」
「きゃあ!」
茂みで誰かの悲鳴が聞こえ、倒れる音もした。ルイズたちが駆け寄ると、ロングビルがツタに絡まれている。
「ミス・ロングビル!? 大丈夫ですか?」
「いいやルイズ、彼女こそが『怪盗フーケ』さ。密かに周囲の地面にツタを張り巡らし、怪しい動きをする者を捕らえさせた。もうゴーレムは動かないし、新手も来ないだろう?」
ロングビル……いやフーケは、観念して自白する。
「ああ。流石だね、異世界のプリンス。これ以上逆らっても無駄みたいだし、降伏するよ」
かくして、ロングビルこと『土くれ』のフーケは捕縛された。ルイズたちは功績を認められ、シュヴァリエの爵位を授けられた。その夜の舞踏会は、トリステイン魔法学院始まって以来の豪華なものになり、長く語り伝えられたという。