エッテクルッバの森
「王様は死んだ! 王様万歳!」
血塗れの棍棒を持つ若い男に、蓬髪の老人はそう呼びかけた。
今からこの男が王だ。王を殺したのだから。男は震える声で問う。
「お前も、俺を殺すのか?」
「んにゃ。わしゃ殺されとうないでな。見届けるだけだ」
某県の深い山中。日本中から犯罪者、無宿者、多重債務者、自殺志願者、狂人、徘徊老人、不法難民、その他諸々が集った廃村。そこには人知れず、小さなコミュニティが形成されていた。
その王は持ち回りだ。金枝篇の通り、王を殺した者が次の王になる。
王に実権や特権はない。いずれ殺されるだけの、象徴的な代表に過ぎない。それでも王になろうとする者はいる。王という肩書を求めて。殺人の快感と追われるスリル、自らの死を求めて。またはその全てを。
王になるのに金枝は不要。誰か証人を立て、前の王を木製の棍棒で殴り殺せばいい。いつしかそういうしきたりになっていた。
その棍棒は『エッテクルッバ』と呼ばれていた。
【続く】
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