【聖杯戦争候補作】Warship March
……海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言立て…… ―――大伴家持『賀陸奥国出金詔書歌』より
夕暮れ時。
冬木市の郊外、海に突き出した小さな岬。釣りの穴場として少し知られ、近くには小さな海水浴場もある。そこへ、ひょこひょこと歩いていく小柄な人影がある。杖を突いた老婆だ。彫りの深い西洋的な顔で、漁師町の住民ではない。観光客か。フードを目深に被り、腰を曲げ、皺の寄った手で木の杖を突いて歩いている。四国遍路の持つ金剛杖に似ていなくもない。道行く人々は、そんな見知らぬ老婆を気にも留めない。家路を急ぐ者、仕事のある者、酒場に出かける者、それぞれだ。今日は釣り人もいない。
老婆は、海岸へ降りていく。懐かしい磯の香り。ごつごつした岩場を苦労して歩き進み、人も寄り付かぬ岬の崖下へ。そこには、ありふれた海蝕洞が口を開けていた。ここがよい。老婆は微笑を浮かべ、そこへ入っていく。
入口は狭いが、中の高さと奥行きは意外とある。洞窟には海が入り込み、足を滑らせれば傍らの海へ落ちてしまうような場所だ。岩壁に残る線を見るに、満潮になっても完全に水没はしないようではある。とは言っても、荒れ模様になれば危険だろう。少し高くなったあたりに老婆は座り込み、目の前のもう一段高くなったところに、手に持った杖を立てかける。
老婆は懐から何かを取り出した。……金の延べ棒だ。いくつか大粒のエメラルドが散りばめられてすらいる。どこかから盗んできたのか。否、これは彼女のものだ。彼女が崇める神だ。愛おしげに金の延べ棒を擦ると、木の杖の隣に立てかける。老婆はその即席の祭壇の前に跪き、合掌し、額を地に擦り付ける。そして目を閉じ、涙を流して一心に祈る。
「おお、おお。憐れみ深く、慈悲深い神々よ。まことにあなたがたは、哀れなる嫗、このはしためをここに導かれました。私は感謝します。今一度命を与え給い、生きる時を与え給うた神々に。わだつみの主と、神々の母なる御方に。ここに宿り給え、大いなる神々よ。この家に、この岩屋に。私はまごころをもって仕え奉り、みことばのままに行います。今ここに建てる神の宮に鎮まり給い、我が国を護り、さきわい給え。そして、聖なる杯を与え給え。すべての船を護り導く、我が神々よ!」
祈りの言葉が終わるや、木の杖と金の延べ棒は光り輝き、天井につかえるほどに大きく、長く、太くなる。岩の壁が伸びて洞窟の入口を覆う。燦々たる威光が洞窟の中を照らし、老婆は歓喜の涙を溢れさせる。『神殿』の完成だ。そして、我が国がここに蘇ろうとしている。海の中に聳え立つ女王、わだつみを支配する母なる都。薄汚れた内陸の、あの蛮人どもの町のようではない、美しく気高き我が町が。
全ては、ここから始まるのだ。
◆
―――『魔女め!淫売め!呪われよ!』
ああ、裏切り者め。なんと素早いことよ。任された戦場を捨てて舞い戻ったばかりか、主君に弓を引きおって。愛する息子は、死んだ。おそらく孫も。既に包囲された。もう終わりだ。いや、少しでも、時を稼ぐ。無様には死なぬ。老いた肌に念入りに化粧し、アイラインを濃く塗る。最上級の衣服と装身具を纏う。王の母、王の妃、王の娘としての、せめてもの抵抗だ。威厳を示せば、あるいは。
裏切り者が、軍勢を率いて堂々と町の門に近づいて来た。私は門の上の窓辺に出て奴を見下ろし、叫ぶ。愚か者め、七日天下で終わった先例を知っていよう!
奴は見上げて冷笑し、私ではなく背後の者たちに呼びかける。ああ、そうするのか。背後の者たちは、私を抱え上げ、投げ落とした。全身に激痛。骨が折れ、血が壁に飛び散る。咄嗟に頭をかばい、まだ生きている。だが、瀕死の重傷だ。このまま無様に死ぬだろう。
奴は内側から門を開けさせ、後ろの軍勢に命令を下した。このまま進めと。戦車を引く馬たちの脚が、蹄が、目の前に。全身が踏み潰され、骨が砕け、内臓が破裂していく。血と泥と砂埃に塗れ、馬の糞が落とされる。いい加減にしてくれ。息の根を止めてくれ。難儀なことに、まだ意識がある。体はぴくりとも動かない。
嘲笑いながら軍勢が通り過ぎると、痩せ犬たちが集まって来る。牙をむき、涎を垂らし。まさか。
苦痛と屈辱と絶望の中で、私は命を落とした。
◆
私は―――『イゼベル』は、その後も悪女の見本として、ヤハウェの信者らに語り継がれた。母国テュロスの繁栄をやっかみ、バビロンやローマと重ね合わせ、堕落した都の象徴として。あるいはアシェラト、アスタルテ、アタルガティス、イシス、ハトホル、アフロディテなど、「邪教」の女神と意識無意識に重ね合わせて。有難く、名誉なことだ。無惨に殺された哀れな女を、さような方々と並べてくれるとは。私に神々の、魔の力を与えてくれるとは。
そうして、私は聖杯戦争に招かれた。万能の願望器という『聖杯』。
ヤハウェの子とも言われる、ナザレ人イェホシュアの血を受けたとかいう、あれか。あるいは別物か。出処はこの際どうでも良い。千載一遇の好機がやって来たのだ。私の母国、麗しのテュロスを地上に蘇らせるその時が。
私自身は弱くとも、神々のご加護がある。そして、心強い味方がいる。
「ああ、来たかえ」
強い光がおさまった頃、背後の海中から気配がした。イゼベルは涙を拭うと、振り返ってにっこりと笑い、迎える。
洞窟の中の海面が泡立ち、波打ち、黒い影が二つ同時に浮かび上がる。片方は竜、もう一方は子供。否、竜と子供は、一つの個体だ。竜の白く太い胴体は、子供の腰の後ろに繋がっている。あるいは逆に、竜が子供の尾か。
竜の頭は、黒い鋼の船のよう。牙を並べた大きな口。頭のあちこちに筒が突き出し、胴体には黒い鰭のようなものが並ぶ。
子供は……少女は、黒い外套を纏っている。頭にフードを被り、首に縞模様の布を巻き、白い背嚢を負う。外套の前をへそまではだけ、胸を隠す黒い肌着をあらわにしている。その肌の色は、まるで死人のよう。老婆のように白い髪の毛。大きな瞳は邪悪な光を宿し、口には無邪気な、だが兇悪な嗤いが浮かぶ。
少女は、イゼベルの目の前の海面に立ち、右手を側頭部の上に翳して元気よく敬礼した。
「レ!」
「よう来た、よう来た、『マスター』。いい子にしておったかえ。準備ができたよ」
彼女こそはイゼベルのマスター、『戦艦レ級』。人類に仇なす謎の異形生命体「深海棲艦」のひとつである。人に似て人に非ず、竜に似て竜に非ず、船に似て船に非ず、死人に似て死人に非ず。判明していることは、破壊と殺戮を目的とし、海上を航行する者を攻撃し、海底へ引きずり込もうとする、ということだけ。そのような存在であることを、精神感応で知ったイゼベルは困惑したが、一方で納得もした。
結局のところ、彼女は船だ。悪霊であり、竜であり、荒振る海の娘、戦をするための船なのだ。そうであれば話は早い。我らフェニキアの民にとって、海と船こそは富の源泉、最も身近な友ではないか。さてはまた、我が宝具、我が神々を宿せし柱こそは、海と船の守り神。この恐ろしい幼子に、ご加護を与えてくれよう。彼女が私、フェニキアの王女イゼベルを呼び寄せたか、あるいは逆か、両方か。いずれにせよ、お互いによい協力関係が自然と結べる相手だ。
戦艦レ級は、岩場に手をつき、のたのたと這い上がろうとする。彼女の足は、足首から先がないのだ。海中や海上では自由自在に動き回れても、陸に上がれば不便なものだ。イゼベルは憐れみをおぼえ、手を伸ばして引き上げてやる。そうして、この可哀想な娘に、我が弟や妹、我が娘、我が息子、我が孫を重ね合わせ、涙ぐんで抱きしめる。レバノンの雪のように白く冷たい肌。言葉も満足に話せず、戦うことしか知らぬ、この異形の子を、どうか神々よ護り給え。イゼベルはそう願った。
◆
その時、戦艦レ級は、深い深い海の底で退屈していた。ここには、誰も来ない。時折仲間が通りかかるが、彼らに用はない。
かつて、この海の上で、激しい戦いがあった。砲弾と魚雷と艦載機が飛び交い、何万という人間が死に、多数の船と飛行機が沈んだ。それから長い時が流れ……彼らの怨念が寄り集まってか、それを誰かが利用してか……レ級たち深海棲艦は生まれた。生まれたのは、戦って殺して壊して沈めるため。沈めた船舶は餌食になり、あるいは新たな深海棲艦になった。世界中の海にそれらは現れた。なりは小さくとも、搭載する兵器の威力は本物だ。しかも霊的兵器とも言える深海棲艦には、銃砲もミサイルもBC兵器も核も効かない。 仮初には消し飛ばせても、すぐに再生してしまうのだ。それらは無数に湧き、海上交通を遮断し、航空機を撃ち落とし、陸さえも浸蝕し始めた。
ある時、レ級たちに似た連中『艦娘』がやって来た。こちらと同じように、艦砲を撃ち、艦載機を飛ばし、魚雷を発射し、昼も夜も戦った。彼女らは、深海棲艦を排除するため、陸の上の連中が送り込んできたらしい。戦争が始まった。多くの仲間が戦い、沈められていった。だが、レ級は抜群に強かった。彼女たちが行う攻撃の全てを、異常な威力で放つ事ができた。沢山の敵と戦い、その多くを大破させ、沈めた。レ級は楽しかった。戦い、殺し、壊し、沈めることが。歯ごたえのある連中を壊すのは特に気分が良かった。逃げていく連中は追わなかった。
そのうち、レ級よりも強い奴らが次々と出てきた。艦娘の側にも、深海棲艦の側にも。レ級は無敵というわけではなく、流石に時々はやられた。深海に沈み、海底の物資を喰って傷を癒やすことも多くなった。
やがて――――この海は、静かになった。危険過ぎると恐れをなしてか、艦娘さえも滅多に来なくなった。餌が減ったことで、この海域にいた深海棲艦たちの多くは、他の海域へ移動していった。そうして、レ級が残った。
なぜ残ったか。理由は分からない。生まれ故郷のここが好きだったし、仲間ともさほど交流はしなかった。じっとしていれば腹も減らない。深海生物が行き交う暗黒の海を眺めているだけでも、暇潰しにはなった。
でも退屈だ。戦いたい。殺したい。壊したい。沈めたい。食欲以外の衝動、すなわち破壊衝動が、彼女をなお駆動させていた。深海棲艦同士で戦うのは好きではない。もともと沈んでいる存在なのだから、沈めても沈め甲斐がないのだ。浮かんでいる奴らを沈めたい。
そんな衝動を持て余し、かと言って動く気も起きない時……カードが彼女のもとに舞い降りて来た。
◆
気がつくと、見知らぬ陸地の波打ち際にいた。傍らに、一人の老婆がかがみ込んでいた。
ランサー・イゼベル、と彼女は名乗った。いつの間にか記憶の中に入っていた言葉は、聖杯、英霊、サーヴァント、マスター。知らない言葉ばかりだった。だがどうやら、自分に『戦え』と言っているらしい。よろしい、自分は戦いたかったのだ。勝ち残れば何か賞品をくれるらしいが、戦えればそれでいい。賞品はこの、ランサーにあげよう。それをとても欲しがっているようだし、自分にとても優しく接してくれる。彼女が何者かなどどうでもいい。
軽く情報交換した後、ランサーは陸を歩いて見回り、ここに辿り着いて拠点を作った。自分は海中を進み、洞窟を通って浮上、ランサーと合流した。
この洞窟は気分がいい。この柱から、自分の疲れを癒やす力が放出されているらしい。戦って疲れたら、ここへ戻れば良さそうだ。負傷の回復、武器弾薬の補給。ひょっとしたら、さらなる強化。そうした施設ということになろう。ならば、この快適な場所を攻撃されるわけにはいかない。見つかってはならない。ランサーとこの場所を、護らねばならない。戦うために。ランサーとこの柱を深海に匿えればよかったのだが、生憎そうもいかないようだ。この柱は、陸にしか立てられないらしい。補給のために帰って来たら、後をつけられドカン!では、目も当てられない。帰る時は先程のように、海から帰るのが鉄則だろう。
――――かくて、二人の棄てられし者は、二本の柱の前で誓い、基本方針を立てる。戦って生き残り、聖杯を獲得する。そのためならば何でもしよう。相手を騙し欺き、罠にかけることも。互いが生命線。戦うすべを持たぬイゼベルと、補給のすべを持たぬレ級。二人が揃えば、戦い抜く事ができる。戦闘は、戦艦(バトルシップ)であるレ級に任せる。戦略や交渉は、ランサーが考える。互いの能力を念話等で確認したのち、ランサーは作戦を練る。
陸に上がれずとも、艦載機や砲弾は遠くまで届く。レ級が本気で攻撃すれば、この町は焦土に変わるだろう。あまり派手にやればルーラーに咎められ、討伐令を出されることもあるという。しかし艦砲や爆撃機を操るレ級に「静かに戦え」というのは無理な注文だ。では、どうする。あえて討伐令を出させ、攻めてくる連中を片っ端から沈めるか。レ級は喜ぶだろうが、参加者の強さや能力も不明な現状、無謀過ぎる。
陸上を歩けるランサーが、正体を隠して偵察を行い、弱い主従を確実に見定めて各個撃破、あるいは交渉を持ちかける。これはどうか。妥当だが、困難。ランサーが単独行動中に襲われた場合、陸上行動が困難なレ級では護りきれない。やはりランサーは動かない方がよい。
ランサーは、祭壇に並ぶ二本の柱に跪拝した後、そのうちの一本を……エメラルドが散りばめられた黄金の柱を、恭しく手に取った。見る間に柱は縮み、細くなり、金属製の杖に変わる。黄金の輝きは失せ、鈍色の鉄の棒となっている。
「これは我が神、メルカルト様の宿りし杖。貸してあげる。これがあなたを護り、力を強めるでしょう」
彼女が差し出したその棒を、レ級は座ったまま手を伸ばして受け取る。ずしりと手に重く、その掌から体中に魔力が注がれ、漲ってくる。レ級の足に届いた魔力は、その先に仮初の足先を形成した。黒い靴のような足先を。これでどうにか、陸上を歩けそうだ。尻尾はどうしようもないが、夜の闇がある程度隠してくれるだろう。杖を突いて立ち上がったレ級は、ランサーの意図を読み取り、嗤う。瞳が鬼火じみて輝く。
「ヤセン、トクイ」
じきに日が沈む。人目が減り、他の主従も動き出す。いかに隠匿しようとしても、戦闘は始まる。それを横から殴りつければ良い。闇に紛れて水路を進み、迂闊な標的がいれば殺す。敵に追跡されぬよう行動し、必要物資を集めて、朝までに帰還。これが最初のミッションだ。この神殿は、木の杖……アシェラト女神の柱があれば維持できる。万一の時は柱を杖に戻し、海中や民家に潜み隠れることもできよう。
出撃を前に、ランサーは、レ級の手をぎゅっと握る。大丈夫だ。この子には、メルカルト様のご加護がある。バアルとモトほどにも、ヤムとレヴィアタンほどにも、アナトとアスタルテほどにも強くあれ!
「さあ、戦争を始めましょう。我が娘よ!」
「レ!」
◆
【クラス】
ランサー
【真名】
イゼベル@史実(旧約聖書・列王記)
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
嵐の航海者:B
船と認識されるものを駆る才能。船舶や海洋生物を乗りこなす際、有利な補正が掛かる。つまりレ級にも乗れる。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。古代の海洋民族フェニキア人の王女であり、海上都市テュロスの王族として、船舶には慣れ親しんでいる。彼女自身が戦争の指揮や遠距離航海を行った形跡はないものの、神々の加護とフェニキア人の偉業によりランクアップしている。
黄金律:B
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。裕福な国の王女で、王妃にもなれた金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。神々の偶像である宝具をしかるべき場所に設置することで、“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。
無辜の怪物:C
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。抹殺されて汚名を着せられ、「魔女」として貶められたため、かえって高い魔力を得た。代償として若さを失い、老婆の姿になっている。
魔術:C
基礎的な魔術を一通り修得していることを表す。戦闘力はないが魅了・洗脳・幻術などに長け、一般市民の中に紛れ込んでも誰何されない。
【宝具】
『破門の石(ストーン・オブ・アナテマ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1
葡萄畑の持ち主ナボトを「神と王を呪った」と偽証させ、石打ちの刑で殺させた逸話が宝具化したもの。外見は握りこぶしほどの石。標的が殺人・裏切り・冒涜・姦淫・魔術・偽証などの「罪」を犯したことが、ランサー本人を除く二人以上の証人によって証言された時、ランサーがこれを標的に投げつけると必ず命中し、無数の石が降り注いで埋めてしまう。威力は相手の罪の重さにより変動する。ランサーや証人が悪人でも関係ないが、証人がランサーの立てた偽証人だった場合、石はランサーと証人に対して降り注ぐ。滅多に使わない。
『メルカルトの柱(ピラー・オブ・メルカルト)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:30
テュロスの主神メルカルト(都市の王)の偶像である黄金の柱。伸縮自在。エメラルドで飾られて光り輝いている。メルカルトは雷神バアル・ハダドと女神アスタルテの息子ともいい、テュロスの富の源泉である海を司る神、また太陽神であった。ギリシア人は彼をヘラクレスと同一視し、地中海各地に立てられたメルカルトの偶像を「ヘラクレスの柱」と呼んで崇めたという。
サムソンがダゴン神殿の柱を倒した話や、ソロモンの神殿の門の左右に立てられた青銅の飾り柱も、こうした柱への崇拝がもととなっている。
この宝具を発動させると、メルカルト神の権能を一時的に振るうことができ、天候を操って雷を落としたり、敵の攻撃から守ったりできる。またヘラクレスの相を取れば、所持者の筋力・耐久・敏捷を一時的にブーストし、柱を棍棒代わりに振るって敵と打ち合うことも可能である。雷神の側面がレ級の砲撃概念と融合して黄金色の重機関銃と化し敵を薙ぎ倒すさまは圧巻の一言。
『アシェラトの柱(ピラー・オブ・アシェラト)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10
古代レヴァント地方で広く崇拝された女神アシェラトの偶像であるレバノンスギの柱。伸縮自在。アシェラトは「海を行く貴婦人(rbbt 'trt ymm)」「神々の生みの親(qnyt ilm)」「女神(ilt)」とも呼ばれ、最高神エルの妃、神々の女王として崇められた。レバノンスギは彼女の聖木であり、生命力を象徴すると共に、船舶の建材として用いられ、フェニキア人の海外活動を支えた。
この宝具を発動させると、アシェラト神の権能を一時的に振るうことができ、船舶に加護を与えて強化したり、生命力を賦活したりする。従って、船舶であるマスターを修理・補給・改装できる。資材や生贄があれば効果が増す。妖精さんはコシャル&ハシス。丸太なので『彼岸島』風に振るうことも可能。
【Weapon】
宝具である二本の柱。武器として使う場合、ランサー本人は貧弱なのでマスターが振るう。『破門の石』は柱二本と同時には使えず、どちらかを解除する必要がある。
【人物背景】
Jezebel。旧約聖書『列王記』に登場する女性。フェニキア(テュロスとシドン)の王エトバアルの娘で、イスラエル王アハブの妃。名は「君主はいずこ('iy-zbl)」を意味し、天候神バアル・ゼブルが冥府へ降って雨が降らぬ夏季に生まれたことを示唆する(イザベルではない)。彼女は先進国フェニキアの文化をイスラエルに持ち込み、母国の経済力で夫を支援し、アラム(シリア)やアッシリアなど他国との戦いを助けた。また娘アタリヤはユダの王ヨラムに嫁ぎ、アハジヤを産んだ。だがナボトという男の葡萄畑を奸計により略取したため、ヤハウェの預言者エリヤに非難され、彼らを迫害。アハブの死後は太后として権力を握り、我が子アハジヤとヨラムを相次いで王位につけた。
しかし紀元前842年頃、エリヤの弟子エリシャに唆された将軍イエフが反乱し、王を殺害。ユダ王アハジヤとイゼベルも殺され、彼女の死体は犬の餌にされたという。これによりイエフは周辺諸国を敵に回し、アッシリアに服属することで権力を保った。アタリヤはユダで太后として権力を握るが、こちらもクーデターで殺された。とは言え、ユダの王位を継いだヨアシはアタリヤの孫、イゼベルの曾孫であり、以後の歴代ユダ王はイゼベルの血を引いている。なお新約聖書『ヨハネの黙示録』2章には、テアテラの教会の信徒らを惑わす女預言者として「イゼベル」の名があげられている。
孫アハジヤの享年が23歳なので、推定享年は55-60歳程。外見年齢はスキルによりそれ以上。性格は悪いが身内には優しい。自分と一族郎党を惨殺させたヤハウェの預言者を恨んでおり、死に様の影響で犬も嫌い。ほぼキャスターに近いランサーで、戦闘よりも魔術や支援、策略に長ける。
【サーヴァントとしての願い】
テュロス王国の再建。
【方針】
聖杯狙い。ランサー自身の戦闘力は低いが、マスターをサポートし加護を与えることで充分に戦える。万一ランサーが狙われたらやむなく神殿を解除し、柱を持って霊体化して逃げ、民間人の中に紛れ込むかマスターに護ってもらう。
【カードの星座】
山羊座。
【マスター】
戦艦レ級@艦隊これくしょん
【Weapon】
『艤装』
戦艦として必要な各種装備品。武装は尻尾の先端の頭部に集中している。主砲塔は16inch(40.6cm)三連装砲、副砲塔は12.5inch(31.75cm)連装副砲。
尻尾に沿うように分割された飛行甲板があり、小型の艦載機「飛び魚艦爆」(総数140機)を発艦させ、爆撃を行う。さらに高速深海魚雷(22inch魚雷後期型)を発射する。これらは魔力によって補給され、船舶を守護するランサーの支援により(多少時間はかかるが)回復可能。資材を調達すれば回復も早い。
見かけは小型化していても、艤装の威力は実物のそれと遜色なく、かつ小回りがきき反動も小さく霊体にも効くというトンデモ兵器(概念礼装の類)。
16inch砲は射程30-40km(曲射)で、徹甲弾なら1tの砲弾が超音速で飛んできて40-50cmの装甲鋼板をも貫通し、衝撃波と破片を撒き散らす。命中すれば人体程度は粉微塵になり、都市区画ごと吹っ飛ぶ。榴弾を使用すれば辺り一面が火の海に変わる。威力的には室蘭艦砲射撃などが参考になろう。副砲は「Mk12 5inch(12.7cm)砲」の誤記と思われるが、そのまま概念化して12.5inch(31.75cm)という主砲並みの威力になっている。発射の際の衝撃波だけでも周囲を薙ぎ払うには充分であるが、砲弾装填にやや時間がかかる。
懐に飛び込まれると危険だが、強固な装甲(バリア)で防げる。装甲値が通常版ですら110あり、戦艦大和の最大値(108)より硬い。耐久に至っては大和の倍近い180。火力・雷装・対空も高く、動きも素早く艦載機も強力。
【能力・技能】
『深海棲艦』
人類に仇なす謎の異形生命体。深海に棲み、海を自在に移動し、様々な兵器を用いて船舶を襲撃、海上交通を封鎖する。艦載機を飛ばすなどして航空機も撃墜する。過去に海に沈んだ艦船や乗員たちの怨霊の集合体とも考えられており、その生態や由来には謎が多い。通常兵器が通用しないため、同種の霊的兵器として艦娘が投入されている。
撤退時・非戦闘時は海底に潜めるが、「戦艦」という概念に縛られているためか、攻撃に際しては海上に出なくてはならない(魚雷は水中でも撃てるか)。海から遠くは離れられないものの、砲撃や艦載機は陸上まで届く。河川や水路、下水道を遡ることもできる。幽霊のような存在であるため、魔力・霊力を帯びていない物理攻撃、毒や窒息、精神攻撃などは効果がない。遠目・夜目も利く。防御時はバリアを張る。
【人物背景】
『艦隊これくしょん』に登場する深海棲艦。キャラデザインはおぐち氏。青白い肌をした白いショートヘアの少女の姿をしており、黒いレインコート状の服を纏う。爪にはマニキュア。頭にフードを被り、首にアフガンストールを巻き、胸からへそまでははだけ、黒い水着風のブラを露出し、背中には白いリュックサックを背負う。脚は生足だが足首のところで断ち切れ、黒い靴のようなものをつけている。腰の後ろからは白くて太い尻尾が生え、その先端には戦艦を模した機械獣の頭部がある。どちらが本体かは諸説あるが、少女体の瞳は怪しく輝き、牙をむき出して嘲笑うような表情を浮かべている。いわゆるゲスロリ。今のところセリフがないのでCVもない。
「戦艦レ級」という名称は、おそらく発見された順番と積載兵器による陸上勢力側の命名であり、彼女らが自称しているわけではたぶんない。南太平洋はサーモン(ソロモン)諸島沖の海底生まれで、北にはポナペ島もあるので、ひょっとしてクトゥルフ案件かもしれない。ガタノトーアやタンガロアかも。
ボスキャラに相当する「鬼級」「姫級」ではない一般艦種(イロハ級)のザコ敵なのだが、なぜかボスキャラに匹敵・凌駕する万能の戦闘力を持つ「一人連合艦隊」。高い耐久と装甲を持ち、正規空母並の量と質の艦載機、強力な砲塔と魚雷を操り、開幕航空戦・先制雷撃・砲撃戦・夜戦及び対潜戦闘の全てのフェーズにおいて攻撃可能。もはや戦艦(航空戦艦)という名の何かであり、チート級の深海棲艦として忌み嫌われている。これでも最弱の通常版であり、強化版のeliteに至っては……。
2014年「サーモン海域北方・第二次サーモン海戦」(通称5-5)で初登場。あまりの強さと人気のゆえか、他の海域やイベントステージでは滅多に登場しない(出禁?)。最近では戦力のインフレが進み、レ級といえども最強とは言えなくなってきてはいるが、その手数の多さは今なお数多の提督を苦しめて余りある。雷や朝潮とは多分無関係。
自我と知性を持つが人格は破綻しており、人語もほとんど話さない。『マスター』でありながら、その有り様から反英雄ないしシャドウサーヴァントの類とも考えられる。火力だけなら宝具並み。少女の姿のKAIJUじみた一人連合艦隊が街中でドンパチやらかすと考えれば、冬木炎上待ったなし。討伐令も待ったなしか。
【マスターとしての願い】
戦闘と破壊と殺戮以外頭にないので、特に願いはない。ランサーにあげる。元の世界に帰ったら、積極的に他の海域にも出て行きたいな。<(゜∀。)
【方針】
慎重に行動しつつ皆殺し。補給拠点がなくなると困るので、ランサーを極力護り、戦いに巻き込まないようにする。魂喰いや資材調達も行い、eliteやflagshipへの強化を行う。
◆◆◆
これは逆噴射プラクティス作品の「オーシャン海サーガ」や「加賀の潜戸」の元ネタだ。イゼベルをひねってジゼバーにした。聖書はこういう暴力的な話もガンガン出て来るので実際面白い。ただ悪人とされたやつを悲劇の善人にしてちやほや褒めそやすのはおれとしてはあれなので、悪のままにした。悪には悪なりのエゴと信念があり、おれはそれを尊重する。歴史や神話伝説を扱う時もだ。おれの作品にはあまり善人が出て来ないが気のせいだ。
艦これには詳しくないが、キャラクターでは戦艦レ級が一番すきだ。なんかフィギュアも出ている。艦娘と深海棲艦の関係には諸説あり、公式でもいろいろだが、おれはこう考えている。深海棲艦に通常の物理攻撃が通用するなら、艦娘という奇妙な存在が戦場に出る必要もないはずだ。攻撃力も人類存亡の危機にならなければ辻褄が合わない。こうしてレ級はKAIJUめいた存在となったが、バランスを取るため歩けなくし(やつの足をみろ)、イゼベルは戦闘力を低くしてサポート役にした。結構気に入っている。
【続く】
※追記:レ級はちょうどアーケード版にも出ているようです。コワイ!