忍殺TRPGリプレイ【ザ・ピュア・ヤクザズ・キラー・キッス】(全テキスト版)
01
ネオサイタマ、ニチョーム・ストリート入口にランドマークめいて立つ、12階建てのストリップ雑居ビル「ゼン・トランス」。斜めにカットされたT字路沿いの壁には、巨大なエロチックブッダ黄金坐像が埋め込まれ、虹色にライトアップされている。各階のバルコニーからは無数のPVCノボリ。
少し離れた公道沿いの電柱には、マッチョな極太ゴシック体で書かれた「爆破して破壊」「ニチョームが悪い」「法案を通すぞ」などのアジテーション紙が無数に。ニチョームを快く思わぬ者は、少なからず存在する。公道はニチョームのテリトリー外で、住人達には剥がすこともままならない。
ニチョームの周囲には道路沿いに装甲防壁が立ち並び、外部からの暴力的な侵入者を防ぐのに一定の役割を果たしている。装甲バンなどで内部に突入してくれば、ニチョーム内のヤクザクランやサイバネ傭兵から成る自警団の出番だ。その程度の戦闘は、ネオサイタマではチャメシ・インシデントだ。
「手助けする必要はなさそうね」ゼン・トランスの屋上。大通りでの戦闘をサイバネアイで観察しながら、傭兵ニンジャ・ファイアランナーは状況判断した。非ニンジャの自警団で片付くのなら、彼らに任せておけば良い。下手にニンジャが介入すればシツレイにあたり、彼らのメンツを損ねるからだ。
「ああ、被害はゼロだ」狙撃銃を構えた自警団員タギザワは、くわえ煙草をくゆらせながら言った。足元には薬莢が2個。「いい気分じゃねえけどな。今日のはヤク中のABBMどもだが、ガキみたいな連中だ。どうしようもねえ時だけさ、撃つのは。……前はこんなじゃなかった。日に日に物騒になる」
「難民がキャパオーバーしてるからなァ」傭兵ニンジャ・ドゥームキラーもため息をつく。数日前の「人狼」事件の黒幕ニンジャ・マインドハッカーは狂っていたが、彼なりのやり方で「侵入者」を排除しようとしたのだろう。事件は解決したが、ニチョームは「テロリストの巣窟」とみなされ始めた。
ネオサイタマ各地でマケグミやホームレス、ヤクザクランやカルト教団を追い出し、治安の維持改善に努めているのはハイデッカーだ。彼らは日本国の警察機構に所属し、トップにはシマカタ長官、シバタ知事代行、そしてラオモト総理大臣がいる。国家権力に逆らえばニチョームはオシマイだ。
ザクロことネザークイーンは、現在ゼン・トランス内でニチョーム自治会や市会議員、上級マッポと秘密会議中だ。ニチョームに迫る政治的圧力は日に日に大きくなり、明日にもハイデッカーの大部隊が攻め込んで来るかも知れない。ソウカイヤはラオモトの手下であり、あまり頼りにはできない。
「やっぱ、あのカルト教団を匿ったのはマズかったんじゃねえか?ソウカイヤが嗅ぎつけて、引き渡せって言って来たら」「でも、あいつらをカラテや説得で追い出せるの?」教団説得の功労者、ドミネイターは腕組みした。「それは……うーむ」ドゥームキラーは唸った。自警団は戦力不足だ。
……その時!
ブガー!ブガー!緊急事態ブザー音と共に、ゼン・トランス各地の非常ボンボリが明滅、回転する!その色は赤!レッドアラートだ!「何だ!?」「み、見ろ!」タギザワが指差す先には、大量の黒塗り防弾ヤクザベンツ!「「「ザッケンナコラー!」」」「「「スッゾスッゾコラー!」」」
KRAAASH!KRAAASH!ヤクザベンツはニチョームの正面ゲートを次々に突き破り、バリケードを破壊!ヤクザ自警団や観光客を轢殺し、銃弾を撒き散らして射殺する!ナムアミダブツ!なんたるアトロシティか!「来やがった!大量のヤクザだ!何ダースいやがる!?戦争でも始める気か!?」
「私たちの出番ね」「ああ」3人はキアイを入れた。ザクロからの指示はまだ届かないが、放ってはおけない。「少なくともハイデッカーじゃねえぞ。クロスカタナ紋だ」タギザワは震える声で告げた。「ソウカイヤだ」
◆レイド・トゥ・ニチョーム……ビギニング◆
02
「「「ザッケンナコラー!」」」BRTTTTT!BRTTTT!クローンヤクザ軍団の一糸乱れぬ統制射撃!「「「アババーッ!」」」「「「ペケロッパ!」」」観光客や野次馬、ペケロッパ教徒らが巻き込まれて死亡!ナムアミダブツ!「ソウカイヤだと……」ドゥームキラーは脂汗を垂らした。完全にマズイ。
「……ザクロ=サンや、警備隊長のテガタ=サンとの通信ができない。大規模な通信妨害が起きてる」ファイアランナーは下唇を噛む。「外部との連絡を断ち切り、支援が来る前に潰すつもりね」「させない!」ドミネイターは拳を打ち合わせた。「正当防衛だ!」「仕方ねえな、やるとするか!」
すでにニチョームの四方は封鎖され、大量のクローンヤクザがなだれ込んで来ている!他の自警団やニンジャも応戦しているが、通信妨害によって分断され、連携できていない。とにかく侵入者を迎撃せねば!「「「イヤーッ!」」」3人のニンジャはゼン・トランスの屋上から飛び降りる!
「「「イイイヤァアアアーーーッ!」」」3人のニンジャは猥雑なネオン看板やポルノショップの壁を蹴り渡り、嵐のようにクローンヤクザ部隊に飛びかかる!BLALALALAM!BOBOBO!SLASHSH!「「「アバババーッ!」」」「「「アバババーッ!」」」ナムアミダブツ!クローンヤクザ部隊全滅!
「テガタ=サン!」「す、済まねえ……バリケードを突破されちまった……」警備隊長のテガタはヤクザベンツで跳ね飛ばされ重傷、他の自警団も戦える状態ではない!南側正面にはなおも整然と並ぶクローンヤクザ部隊!さらに東西からも北からもヤクザの大量波状攻撃!もはや万事休すか!だが!
「「「アバーッ!」」」サツバツ!北側から攻め込んだクローンヤクザ部隊が3人まとめて眉間を撃ち抜かれ即死!ゼン・トランス屋上の熟練スナイパー・タギザワの狙撃だ!「「「ウオーッ!」」」BRTTTT!BRTTTTT!ヤクザ自警団はこれに勇気づけられ、アサルトライフルでヤクザ部隊に反撃!
「「「アバーッ!」」」数体のクローンヤクザが薙ぎ払われ、緑色の血を流して死亡!だが侵攻側は圧倒的な数だ!「「「反撃スッゾコラー!」」」BRTTTTT!BRTTTTT!「「「アバーッ!」」」ヤクザ自警団数人が薙ぎ払われ死亡!ナムアミダブツ!バリケードがなおあるとはいえ多勢に無勢!
「手分けして防衛するか!?」「こっちを手薄にすればまた突破される!」「他のニンジャは!?」「相手にニンジャはいるの!?」現場は通信妨害により混乱!ファイアキラーやブライカンはどうしているか?コブラ教団はどう動く?しかし後者に関しては、出てこられると話がややこしくなる!
とにかく襲ってくる敵を迎撃し、隙を突いて誰かが脱出し、ソウカイヤやオナタカミに掛け合わなくては!それが可能なのは……「イヤーッ!」ゼン・トランス8階の窓から色付きの風が飛び降りて着地!「ドーモ、ネザークイーンです!ここは任せて、他の防衛に回って!」「「「了解!」」」
ネザークイーンは両腕を大きく広げ、非ニンジャ自警団をかばうように立ちはだかる!「ここは通さネッゾコラー!責任者出て来いオラー!」ヤクザスラングを叫び威圧!だがクローンヤクザ部隊はゲートの彼方から銃口を向けるのみ!「撃つなら撃てッコラー!ここは政治的中立地帯だコラー!」
4人は背後を振り向く。東と西の戦況は不明だが、ここから見える北側のヤクザ自警団はほとんどやられ、今にも突破されそうだ。援護すべし!「「「「イイイヤァアアアーーーッ!」」」」ネザークイーンは振り向き様にスリケン投擲!他の3人も連続側転で北へ動きつつ銃撃&スリケン!
「「アバーッ!」」「「アバーッ!」」クローンヤクザたちが眉間に銃弾やスリケンを受け即死!だが防弾ヤクザベンツ遮蔽により数発は防御!堅牢なバリケードやマキビシによりこれ以上の突撃はできないが、このままでは!BLAMN!「「「アバーッ!」」」西側ヤクザ部隊が狙撃貫通死!ワザマエ!
「「「ザッケンナコラー!」」」BRTTTTT!BRTTTTT!ニチョーム・ヤクザ自警団は雑多な小火器で必死に反撃!「「アバーッ!」」クローンヤクザ2名射殺!「「「スッゾコラー!」」」BRTTTTT!BRTTTTT!クローンヤクザ部隊が反撃!「「「アバーッ!」」」「「「アバーッ!」」」多勢に無勢!
「ファック!3方向に分かれるわよ!」ファイアランナーは状況判断!しかし相手はあまりにも多勢!その時だ!「それにゃあ及びませんぜ!イヤーッ!」「イヤーッ!」近くのビルから2人のニンジャが飛び降りた!「ドーモ、遅れやした!ブライカンです!」「ファイアキラーです!任せて!」
さらに!BASHSHSHSH……東側のクローンヤクザ部隊に、別のビルから矢の雨が降り注ぐ!「「「グワーッ!」」」さらに矢を食らったヤクザたちの肉体が黒く変色し、膨れ上がる!「「「アバーッ!」」」KABOOOOOM!爆発して毒液を撒き散らし連鎖爆発!なんたる恐るべき攻撃か!「げっ」
ドゥームキラーは眉根を寄せた。おそらくあれは、コブラ教団のニンジャたちによる攻撃だろう。実際頼もしいが、あれでは居場所を知らせるようなもの!「東はダイジョブそうね。じゃあ私たちは……北と西へ!」「「「了解!」」」「……南は!?ザクロ=サンだけでダイジョブ!?」
ドミネイターは背後を振り向いた。睨み合いが起きているが、いつ再突入してきてもおかしくない。「ドミネイター=サンは南へ!」「了解!」
03
「「イイイヤァアアアーーーッ!」」ファイアランナーは北へ、ファイアキラーは西へ向かい、クローンヤクザ部隊へ襲いかかる!BLALALAM!SMASH!SMASH!「「「アババーッ!」」」「「「アバババーッ!」」」クローンヤクザ部隊が薙ぎ払われ即死!タツジン!残るは西の1隊のみ!
「イイイヤァアアアーーーッ!」ドゥームキラーは西へ跳躍し、ビルの壁やネオン看板を蹴り渡りながらカタナで斬りかかる!SLAASH!「「「アバババーッ!」」」クローンヤクザ3人の首が飛ぶ!タツジン!「……任せた!」ドミネイターは状況判断し、ネザークイーンを援護すべく南へ駆け戻る!
「東、西、南はよし。とすると、こっちか」ブライカンは油断なく四方に眼を光らせ、四つ辻の北寄りに歩み出る。「非ニンジャの皆さん、ご苦労さんでやした。逃げなせェ」「「ハイ!」」生き残りのヤクザ自警団は、負傷した仲間を引きずって付近のビルへ逃げ込む。周囲からの追撃は、まだなし。
周囲のビルでは、ニチョーム住人達が息を呑んでストリートの戦闘を見守っていた。これで流れが変わるか?……誰もがそう思った矢先!
ドッドッドッドッドッ……サイドカー付きの大型武装バイクが、ニチョーム南側のゲートから侵入してきた。ヘッドライトの強烈な光がネザークイーンとドミネイターを照らし出す。バイクには巨漢ニンジャがまたがり、サイドカーには小柄なサイバネニンジャが乗っている!「いよいよお出ましね」
一瞬の沈黙。サツバツとした風が吹き、ズタズタになった街宣ビラが宙に舞う。ニチョーム勢は先手をとってアイサツした。「ドーモ、ネザークイーンです」「ドミネイターです」侵入者たちはアイサツを返した。「ドーモ、ソウカイ・シンジケート、ディスエイブラーです」巨漢はオジギした。
続いて、小柄なサイバネニンジャが電子音声でアイサツした。『ドーモ、バイセクターです。これより貴様たちを排除する』
「……不可侵条約を忘れたの?」ネザークイーンが低い声で唸る。自身も、その言葉にほとんど意味が無いことを悟りながらも。「ソウカイ・シンジケートは裏切りを許さん」ディスエイブラーはハーレーから降りる。『待て』バイセクターが機械音声で制止する。『こちらのアイサツがまだだぞ』
バイセクターは顎をしゃくって、相方に指図する。「おっと」嗜虐行為への期待に我を忘れかけていた巨漢ニンジャは、思い出したように背中のカンオケのスイッチを押す。直後、ディスエイブラーに背負われていたカンオケが、勢い良く開け放たれた!漂うのは墓場のにおい!『……キョムー……』
姿を現したのはユーレイじみた灰色のニンジャローブを纏う、見るからに不吉なアンデッド・ニンジャ!顔はフードに隠れ、足は無く、ネガティブ・カラテの力により空中30センチ付近を浮遊している!巨漢ニンジャは嘲笑った。「代わりにアイサツしてやるぜ。こいつはスペクター=サンだ!」
ナムサン、3対2だ。他のニンジャ自警団員を合わせれば数では勝るが、彼らを呼べばニチョームにヤクザがなだれ込む!「アータたち、マジでソウカイヤ?ゲイトキーパー=サンやフューネラル=サン、デンパルス=サンたちと話がしたいんだけど」ネザークイーンは慎重に交渉を望む。『ダメだ』
バイセクターは無慈悲に告げた。『皆殺しにする』『キョムー……』「ウオーッ!」ディスエイブラーは盛りのついた犬めいて血の混じった涎を垂らし、嗜虐心に目を血走らせている。もはやモンドムヨー!
04
『イイイヤァアアアーーーッ!』まず動いたのはバイセクター!背負った巨大なギロチンチャブを投擲し、ネザークイーンの首を狙う!「イヤーッ!」ネザークイーンはとっさに身を伏せて回避!だがギロチンチャブはそのまま遥か彼方まで飛び、ブライカンとファイアランナーにも襲いかかる!
「「イヤーッ!」」2人のニンジャはとっさに身を伏せて回避!ワザマエ!ギロチンチャブはブーメランめいて旋回し、たちまちバイセクターの手元に戻る。なんたる恐るべき武器か。だが当たらなければ意味はない!「正当防衛よ!」ドミネイターが進み出て拳を構える。ネザークイーンは止めない!
「イイイヤァアアアーーーッ!」ドミネイターはバリケードを蹴って跳躍しバイセクターへ殴りかかる!BOBOBO!『イヤーッ!』バイセクターは見切って躱す!『キョムー……』スペクターが体勢を崩したネザークイーンへ襲いかかる!「い、イヤーッ!」ネザークイーンは紙一重でタッチを回避!
スペクターに触られることは危険だと直感的にわかっている。だが動きは緩慢!ネザークイーンは腰のひねりをきかせて、痛烈な右回し蹴りを叩き込む!「イヤーッ!」BOOM!手応えは……皆無!躱したのではない、攻撃がスペクターの体をすり抜けたのだ!形をなした濃霧か、水面の影のように!
「何よコイツ!オバケ!?バカじゃないの!?」ネザークイーンは脂汗を垂らした。「南側にニンジャが3人!加勢しやすぜ!」ブライカンは状況判断し、四つ辻から南へ駆け抜けつつスリケン投擲!「イヤーッ!」『キョムー……』だがスリケンはスペクターの体をすり抜ける!物理攻撃無効!
「イイイヤァアアアーーーッ!」ディスエイブラーは両腕の鉤つき鎖を振り回し、射程範囲内に入ったドミネイターへ射出!アブナイ!「い、イヤーッ!」間一髪でブリッジ回避!ワザマエ!そしてディスエイブラーにはタギザワの狙撃弾が迫る!「イヤーッ!」銃弾の軌道を見切り、弾き落とす!
「「「ザッケンナコラー!」」」「「「スッゾコラー!」」」ゲートの外のクローンヤクザ部隊は一斉にチャカガンを構え、ニチョーム内のニンジャたちへ一糸乱れぬ一斉射撃!BLALALALAM!「「「「イヤーッ!」」」」「ムテキ!」「ンアーッ!」ナムサン、ドミネイターが被弾!このままでは!
「大通りじゃあ不利ね。路地裏へ誘い出す?」ネザークイーンは状況判断する。大通りへのクローンヤクザ部隊の突入を許すことになるが、そっちはビル内からの住人や客の銃撃で対処できるだろう。しかし、ニンジャやヤクザ部隊がビル内に突入すれば非ニンジャは皆殺しだ。ここはどうすべきか?
「「イヤーッ!」」ファイアランナーとファイアキラーは状況判断し、路地裏に飛び込む!ネザークイーンは前に飛び出し、負傷したドミネイターをかばう!『無駄だ!イヤーッ!』バイセクターはドミネイターへ拳を乱打!しかしカラテはタツジンではない!「イヤーッ!」見切ってスウェー回避!
「イヤーッ!」ドミネイターはそのまま連続バック転を繰り出し、東側の路地裏へ逃れる!ドゥームキラーもファイアキラーを追って南西の路地裏へ!『キョムー……!』スペクターはネザークイーンに追いすがり、節くれだった長い腕を伸ばしてカラテを吸収せんとす!「イヤーッ!」回避!
「イイイヤァアアアーーーッ!」ブライカンはネザークイーンの傍らへ駆けつけ、バイセクターへ目にも止まらぬイアイ斬撃を繰り出す!狙うは腕だ!SLASHSH!『イィヤーッ!』バイセクターは致命的な攻撃を紙一重で回避!「ドーモ、オヒケエナスッテ!ブライカンです!オミシリオキヲ!」
「ドーモ、ソウカイ・シンジケートのディスエイブラーです!こいつらはバイセクター=サンとスペクター=サンだ!」巨漢ニンジャは代表アイサツを返す。「ちょこまかと逃げ回りやがって……そこらの店のドアをぶっ壊して非ニンジャのクズを嬲り殺すのも面白そうだが」彼は邪悪に目を細める。
「まずは貴様からだ!カンオケに放り込んでやる!イイイヤァアアアーーーッ!」ディスエイブラーはネザークイーンめがけ鉤つきの鎖を大蛇めいて射出!「イヤーッ!」見切って回避!だが大きく体勢を崩す!BLAMN!『ヌウッ!』タギザワの狙撃がバイセクターに迫る!『イヤーッ!』紙一重回避!
「「「ザッケンナコラー!」」」BLALALALAM!南側ゲートの外からクローンヤクザ部隊が一斉射撃!「ムテキ!」「イヤーッ!」キキィン!ネザークイーンとブライカンは問題なく弾く!だが東・北・西のゲートからはヤクザ部隊が再突入!「「「スッゾコラー!」」」「「「テメッコラー!」」」
その時!「「「イヤーッ!」」」3つの影がビルから飛び降り、ゲート前に立ちはだかる!「ドーモ、シャドウティアーです」「ナーガストラです」「ブレードルークです。ここは通さねえぜ!」コブラ教団のエントリーだ!
これで南側へ戦力集中可能!「イイイヤァアアアーーーッ!」ファイアランナーは路地裏から飛び出し、バイセクターへアンブッシュをかける!『イヤーッ!』バイセクターはサイバネアイを光らせとっさに防御!「スキアリよ!イヤーッ!」ネザークイーンは回し蹴り!SMASH!『ピガーッ!』
「TAKE THIS!」BLAMBLAM!西側の路地裏からファイアキラーがアンブッシュし銃撃!「イヤーッ!」ディスエイブラーは剛腕で銃弾を叩き落とす!「ちッ」ファイアキラーは舌打ちした。得意のハッキングは通信妨害で使えない。ならばカラテあるのみ!『他を手薄にして、集まって来たか……』
バイセクターは状況判断する。複数のニンジャが南門前へ集結中。ギロチンチャブ投擲で狙うのはネザークイーンかブライカンか、アンブッシュしてきた新手のニンジャたちか。負傷したドミネイターは東側の路地裏へ逃走。追跡……路地裏……死神……彼の脳裏に何か不吉なビジョンがよぎる!
『知能も高い……狭い路地裏に……』バイセクターは忌まわしい電子的デジャブに囚われ、うわ言を呟く。そして迷いを振り切るように、ドミネイターを追って猛然と路地裏へ!『イイイヤァアアアーーーッ!』ニンジャアトモスフィアから位置を推測し、先回りしてギロチンチャブを縦回転投擲!
ギャギャギャギャ!恐るべき殺戮機械は大質量で路地裏の劣化アスファルトを切り裂き、ドミネイターに襲いかかる!「イヤーッ!」ドミネイターは跳躍回避!ビル壁を飛び渡り、ブーメランめいた軌道でバイセクターの手元へ戻るギロチンチャブを躱しきった!『死神を……殺す……前とは違う……!』
バイセクターはうわ言を呟きながら震え、隙だらけだ!勝機!「イイイヤァアアアーーーッ!」ドミネイターはビル壁を蹴って勢いをつけ、嵐のような精密ジャブ連打!BOBOBO!SMASH!『ピガーッ!』命中!しかし堅牢なサイバネボディは生半可なカラテでは壊し切れぬ!『死神を……殺す……!』
「おいおい、どうしたバイセクター=サン。あの小娘を嬲り殺したくなったのか?」ディスエイブラーは東の路地裏へ視線を向ける。その時!「イイイヤァアアアーーーッ!」西の路地裏からドゥームキラーがイアイ・アンブッシュ!狙うは脚と頭!「何ッ!?」ディスエイブラーは振り向いた!
躱しきれない!「イヤーッ!」彼は瞬時に腕を大きく上に伸ばし、体をひねって奇妙な構えをとる!SLAAAASHSH!「グワ、アバーッ!」ナムアミダブツ!巨体が上から下に切り裂かれ、アキレス腱からこめかみにかけて裂傷!しかし!「アアーッ……イイーーッ!」巨漢ニンジャは歓喜に震える!
ゴボゴボゴボ……!ディスエイブラーの傷口に血と肉が盛り上がり、瞬時に塞がった!これが自らに与えられた苦痛をエネルギーに変換する恐るべきジツ、イタミ・ジツだ!「虚像だろ」「フーッ……心地よいイタミだ……ドーモ、ディスエイブラーです」彼は平然とアイサツを繰り出した。
「ファイアランナーです」「ファイアキラーです」「ドゥームキラーです」3人はアイサツを返す。「多勢に無勢だ。大怪我しねェうちにお帰り願いてェが」「寝言は寝て言え……おお、気持ちいい……」ディスエイブラーは負傷が治りきらないのか、恍惚の表情でふらついている。『キョムー……?』
スペクターは増えた標的のどれを襲うか迷い、まごつく。彼の自我は希薄なのだ。『キョムー……』ひとまず手近のファイアランナーへ接近!「イヤーッ!」回避!「あっしは……ドミネイター=サンの援護にまわりやす!イヤーッ!」ブライカンはとっさに状況判断し、東の路地裏へ連続側転!
「シューッ……貴様にも心地よいイタミを味わわせてやろう!イヤーッ!」ディスエイブラーは凄まじい殺気を放ち、距離を取ってフックつき鎖をドゥームキラーへ投擲!狙うは脚だ!どくん……ドゥームキラーはアドレナリンを過剰分泌し、これを……SMASH!「グワ、アバーッ!」アキレス腱断裂!
「アアーッ!イイーッ!」ディスエイブラーはメンポの隙間から涎泡を噴きこぼし、歓喜に身を震わせる!彼は嗜虐趣味と被虐趣味を併せ持つ変態だ!「ドゥームキラー=サン!」ネザークイーンは負傷したドゥームキラーをかばう!クローンヤクザ部隊の一斉射撃!
「「「ザッケンナコラー!」」」BLALALALAM!「ファック!」ファイアランナーは残った遮蔽物で防御!「ンアーッ!」ファイアキラーが被弾!ここで戦うのはやはり危険だ!ネザークイーンは指示を飛ばす!「全員、路地裏へ撤退!」「「「了解!」」」ニチョームでのイクサはさらに激化する!
05
「イヤーッ!」ファイアランナーは東の路地裏へ飛び込み、サイバネアイでバイセクターを捕捉!「TAKE THIS!」BLAMBLAM!援護射撃!『イヤーッ!』バイセクターは見切って回避!「「「イヤーッ!」」」ネザークイーンとファイアキラー、ドゥームキラーは西の路地裏へと撤退!
『イヤーッ!』バイセクターはドミネイターの頭上を飛び越えテクノカラテ連打!「イヤーッ!」ドミネイターはスウェーで避け、壁を蹴って懐へ飛び込み精密ジャブ連打!「シューシュシュシュ!」BOBOBO!SMASH!『ピガーッ!』命中!ワザマエは高くとも、カラテはさほどでもない相手だ!
『キョムー……』大通りから標的が消え、スペクターはキョロキョロと周囲を見回した。向かうは……東側の路地裏!『キョムー……!』物陰に潜んでアンブッシュの機会をうかがっていたブライカンは、背後から迫る寒気に肌を粟立たせた。「い、イヤーッ!」恐るべきドレイン・タッチを危うく回避!
「イイイヤァアアアーーーッ!」そのまま壁や看板、ゴミ箱を蹴り渡り、バイセクターの死角へ!回転しながらカタナを振り抜く!SMASH!『ピガガガガーッ!』KRASH!ナムアミダブツ!バイセクターはアンブッシュを回避できず、弾き飛ばされて南側の壁に激突!サイバネボディが火花を散らす!
「ハハハ……鬼ごっこか」ディスエイブラーはフラフラと歩き、タギザワの狙撃弾を意に介することなく弾き、西側の路地を長身で塞ぐネザークイーンに追いつく。背後には負傷した2人のニンジャ。「どけ」「どかないわよ」「どかしてやる!イヤーッ!」ディスエイブラーは剛腕で殴りかかる!
「ムテキ!」ガキィン!ネザークイーンはクロス腕防御!その体が衝撃を吸収し、ピンク色のオーラを帯びる!互いに同じタイプのジツ!
『イイイヤァアアアーーーッ!』バイセクターは体勢を立て直し、ブライカンめがけてギロチンチャブを縦回転投擲!どくん……ブライカンは迫りくる巨大質量スリケンの軌道を見切り、「イヤーッ!」跳躍回避!だが!ギャルルル……ギロチンチャブの軌道が変化し、ブーメランめいてブライカンへ!
SMASH!「ンアーッ!」命中!ブライカンは落下!だがドミネイターはすでにバイセクターの懐へ飛び込んでいる!「イイイヤァアアアーーーッ!」BOBOBO!SMASH!『ピガーッ!』精密ジャブが命中し、よろめく!ブライカンは落下途中で看板を蹴り、猛然とバイセクターへ斬りかかる!
「イイイヤァアアアーーーッ!」『イヤーッ!』ガキィン!バイセクターは瞬時に体勢を立て直し、腰を回転させてカタナを防御!飛び戻ったギロチンチャブをキャッチする!油断ならぬ強敵だ!「肉切り包丁で骨も切る、たぁ行きやせんが……サイバネを斬りやすぜ」『……路地裏……死神……殺す!』
「ウオーッ!」ディスエイブラーは狂乱しながら路地裏を進み、奥へと逃げ込むネザークイーンめがけ鉤つき鎖を投擲!「ムテキ!」ガキィン!防御!もう少し奥へ引き寄せ、囲んで叩く!「「「スッゾコラー!」」」「「「ザッケンナコラー!」」」クローンヤクザ部隊が南門から再び突入!
「『イイイヤァアアアーーーッ!』」BOBOBOBOBO!バイセクターとドミネイターは色付きの風と化して路地裏を飛び回り、目にも止まらぬカラテ応酬!応酬!応酬!応酬!SMASH!「ンアーッ!」ミニマルな拳の打ち合いを制したのは……バイセクターだ!サイバネで底上げされたカラテは強い!
『キョムー……』スペクターはドミネイターへ襲いかかる!「アブナイ!イヤーッ!」ブライカンはふらつくドミネイターをかばって引き寄せ、バイセクターもろとも切り払う!SLAASH!『キョムー……』無効!『イヤーッ!』見切って回避!この勝負、互いに譲らずだ!「へへへ、やりやがる……!」
BLAMN!「「「アバーッ!」」」南門から再突入したヤクザ部隊がタギザワの狙撃で貫通殺!タツジン!「ウオーッ!」ディスエイブラーはさらに路地裏を進み、ネザークイーンに鉤つき鎖を投擲!「ムテキ!」ガキィン!防御!ピンク色のオーラが強く光り輝き、暗い路地裏を照らし出す!
「TAKE THIS!」ファイアランナーが路地裏の闇から飛び出し、ディスエイブラーにピストルカラテ・アンブッシュ!状況判断だ!「イヤーッ!」ディスエイブラーはとっさにイタミ吸収の構えをとる!ガガガガガッ!「アアーッ、イイーッ!」巨漢ニンジャは邪悪に目を細め愉悦!なんたる厄介さか!
「かかったわね」ネザークイーンはクロス腕防御を解き、輝くピンク色のオーラを……解き放つ!「ザッケンナコラー!」FLAASH!ディスエイブラーめがけてハート型のエネルギー・スリケンが放出され、ゼロ距離で着弾!KA-BOOOOOOM!「グワ……アバーッ!?」ゴウランガ!ゴウランガ!
「アバッ……バカな……!?」ディスエイブラーはイタミ吸収の構えを維持するが、苦痛を吸収して回復することが……できない!自分が与えたイタミを返されたゆえか?「イイイヤァアアアーーーッ!」SMAAAAASH!吐血する巨漢ニンジャのみぞおちに、ネザークイーンの強烈なチョップ突きが炸裂!
「グワ、アバババーッ!?」ナムアミダブツ!エネルギー・スリケンで切り裂かれた箇所にチョップ突きを叩き込まれ、ディスエイブラーの心臓が一瞬止まる!たとえイタミは吸収できても、内臓へのダメージは防ぎきれぬ!「アバッ……ムン」巨漢ニンジャは白目を剥いて悶絶し、仰向けに倒れた。
「や、やった!」ファイアキラーとドゥームキラーが物陰から姿を現した。アンブッシュして囲んで殴るつもりだったが、その必要はなさそうだ。「カイシャクする?逃がしたら厄介だよ」「……そうね」ネザークイーンは状況判断し、頷いた。ニチョームの客や住人を何人も殺した侵略者の一人だ。
彼本人はニンジャだけを相手にしていたとはいえ、逃がせばまた襲ってきて、今度こそ非ニンジャを殺すだろう。ならば……「OK!イタダキマス!」BLAMN!ファイアキラーは仰向けに倒れたディスエイブラーの眉間を容赦なく撃ち抜いた。「サヨナラ!」KABOOOOM!爆発四散!インガオホー!
『ヌウッ!』『キョムー……』バイセクターとスペクターは、ディスエイブラーのニンジャアトモスフィアの消失を感じ取る。敵を追い路地裏に飛び込んだことが仇となった。多勢に無勢、負傷も大きい。撤退するか?否!彼は死の淵から戦闘兵器として蘇った男!命令なくしてブザマに撤退はできぬ!
『イイイヤァアアアーーーッ!』バイセクターは狭い路地裏を駆け抜け、ドミネイターとブライカンへギロチンチャブ投擲!「イヤーッ!」ドミネイターは回避!SMASH!「ンアーッ!」ブライカンに命中!無視できぬダメージだ!「ブライカン=サン!」「あっしに構わず、ヤツを追いなせえ!」
ドミネイターはバイセクターを追い、渾身のボックス・カラテ連打!「イイイヤァアアアーーーッ!」BOBOBOBO!『イイイヤァアアアーーーッ!』バイセクターはカラテを振り絞り、必死で躱す!躱す!躱す!SMAASAH!『ピガーッ!』一発命中!サイバネがきしみ、火花を散らす!
『キョムー……』スペクターは必然的にブライカンへ攻撃!体勢を崩した彼女は躱しきれない!クロス腕防御を貫通し、みぞおちへ冷たい腕を突き入れられる!「ンア……アバーッ!」サツバツ!凍えるような寒気が体中をむしばみ、脊髄を駆け抜ける!体内のカラテが記憶ごと吸収されているのだ!
「肉切り包丁で……骨も切る!イイイヤァアアアーーーッ!」ブライカンは歯を食いしばって恐るべきスペクターの攻撃を振り切り、バイセクターめがけ飛びかかる!イアイ!SLAASH!『ピガガーッ!』命中!バイセクターは必死で反撃!SMASH!「ンアーッ!」命中!のけぞる!双方重傷!
『イヤーッ!』「イヤーッ!」「イヤーッ!」「「『イイイヤァアアアーーーッ!』」」」ガガガガガッ!バイセクター、ブライカン、ドミネイターの3人は、路地裏を激しく飛び交いながらカラテ応酬!応酬!応酬!血しぶきが舞い、火花が散り、凄まじいカラテが竜巻めいてぶつかりあう!
『キョムー……!』スペクターは激しいカラテ圧に圧倒され、近づけない!「イイイヤァアアアーーーッ!」ファイアランナーが駆けつけ、ピストルカラテをスペクターに叩き込む!BLALALAM!『キョムー……』無効!しかし西側からは続々とニチョーム・ニンジャ自警団員が駆けつけてくる!
「イイイヤァアアアーーーッ!」ブライカンは死にものぐるいのカラテを全身にみなぎらせ、ぼろぼろになったカタナでバイセクターのカラテを弾き逸らし、関節を狙う!SLAAASH!『ピガ……ガガガーッ!』ナムアミダブツ!バイセクターの両肘と腰関節が切断され、上半身が路上に崩れ落ちた!
『アバッ……ピガッ……!』バイセクターの残骸は火花を散らし、もがいている。だが腕も脚もなければ、もはやギロチンチャブを投げることはおろか、カラテすることも逃げることもできまい。「フーッ……ハイクを詠みなせェバイセクター=サン。カイシャクしやすぜ」ブライカンは息を調える。
虫の息のバイセクターは、電子音声でうわごとを吐き続ける。『……スクエイク、アースクエイク、それでいい、俺たちの勝利だ……ミサイルが……全てを……アースクエイク、アース……』「「え」」それは電子的デジャブのもたらしたうわ言か?否!見よ!ニチョーム上空に飛来する戦闘機の影を!
06
一方その頃、アマクダリ・セクト地下秘密基地では!
無人偵察ヘリのカメラ映像、残りヤクザ数、株価推移、情報統制状況、マッポの動き、交通封鎖状況……大型戦略UNIXには、刻一刻と変化する各種データが目まぐるしく映し出される。ニチョームに対する偽装電撃作戦は、アマクダリからソウカイ・シンジケートに対する大規模な社会戦の一環だ。
「アーララ、ディスエイブラー=サンもバイセクター=サンもやられちゃったのね」戦略チャブ前の椅子に座る恰幅の良い男に、女がしなだれかかる。彼女の髪は緑色、纏うのは白衣。その指は男のこめかみに突き刺され、グリグリと動かされている。彼女の名は……脳外科医。
「スペクター=サンはまだ活動中だけど、やる?」「……やる……」こめかみに指を突き刺された恰幅の良い男は、うつろな表情でつぶやいた。栗毛色の髪は薄く、黒い瞳は見開かれ、傷だらけの醜い顔には覇気がない。身につけたヤクザスーツや多数の高級装飾品から、ヤクザであることは疑いない。
おお、見よ!彼の胸元のネクタイには、クロスカタナのエンブレムが刺繍されているではないか!「そうね。ラオモト=サンやチバ=サンなら、きっとそうするわ。ウフフ」「……親父はともかく、女々しい混血の半端者に、ヤクザの矜持などわかるものか……ラオモト家の当主は、俺だ……!」
ナムサン!彼こそはラオモト・カンの多数の庶子の一人、ラオモト・ヨルジである!チバの異母兄である彼は、複数のヤクザクランの管理を任され、複数のニンジャを手駒として持つ。だが跡継ぎ候補としてはチバに大きく水を開けられ、劣等感に苛まれていた。そこへアマクダリがつけこんだのだ。
ニチョームを襲撃しているのは、ソウカイヤ・ヨルジ派のニンジャやクローンヤクザたちだ。彼を操るアマクダリは注意深く準備を行い、この時を待っていた。ラオモト・カンやゲイトキーパー、フューネラルらはカスミガセキ・ジグラットでの交渉の席に引き出し、外界の情報を遮断させている。
チバはケオサキを巡ってオナタカミと交渉中だ。ニチョーム周辺のソウカイニンジャには、オキナワ旅行やオンセン旅行、遠隔地への出張に行かせ、あるいは野良ニンジャや暴徒をぶつけて対処させている。しかしニチョームの防御は思ったより堅牢だった。そこで「プランB」の出番というわけ。
「プランBよ、デストロイヤー=サン。豚野郎の許可が出たわ。やっちゃって!」『コーッ、シュコー……ラジャー』大型UNIXモニタのひとつには、6本のLAN直結ケーブルを頭から生やし、操縦桿を握るニンジャが映っている。彼は湾岸警備隊に所属しジェット戦闘機を操縦するアマクダリニンジャだ。
『キョート共和国のテロリストやその協力者が、ニチョーム・ストリートに潜伏している』との噂は、すでにNSTVのニュースで放映され、IRC-SNS上でももちきりだ。そこへヤクザの大群がなだれ込み、封鎖しているとなれば。謎の戦闘機がミサイルらしきものを投下しても、一発だけなら問題ない!
ネオサイタマ最大級の繁華街の近辺でバンカーバスターやデイジーカッター、ニュークを使うわけにはいかない。高性能ミサイルに搭載されているのは、ニンジャのみに感染しカロウシせしめる「タケウチ・ウイルス改善」を積んだ弾頭である。爆発すれば周囲数kmに飛散し、数時間で死滅する。
ニンジャを無力化すれば、あとはヤクザ部隊やハイデッカーを突入させて制圧すればよい。もし失敗すれば……どうとでもやりようはある。この事件を起こした時点で、ソウカイヤは分断させられているのだ。
「み、ミサイル!?」「まさか!?」ドミネイターとブライカンは、路地裏から空を見上げる。重金属酸性雨の中、点のように小さな機影が上空をよぎりながら何かを射出!ナムアミダブツ!『ブツメツ……ピガッ』バイセクターは事切れた。「どうしやす」「なんとかする!」ドミネイターは叫ぶ!
「「「「「イイイヤァアアアーーーッ!」」」」」ニチョーム・ニンジャ自警団員たちは、全員ビルの屋上へ駆け上りながら、迫りくるミサイルめがけスリケンを連続投擲!ニンジャのスリケンは石礫や鋼鉄、銃弾とはわけが違う!カラテを帯びた武器なのだ!数発が命中し、僅かに軌道を逸らす!
「こいつの出番ってわけかい!」ブライカンはその場に片膝を突いて空を見上げ、片方の掌を空中のミサイルへ向け、サイバネアイで照準を合わせる。ガションキュイーン……彼女のテッコが展開し、内蔵されたアーク放電ライフルを露出した!撃墜してもマズイが、軌道を逸らすぐらいは可能だ!
「ホノオ!」ZAAAP!稲妻が上空へ放たれ、ミサイルに絡みつく!『ピガガガガーッ!』ミサイルの電子機器が破損!大きく揺れ動くが、大質量の落下を食い止めることは不可能だ!「ブッダ……!」外からの狙撃手に撃たれたタギザワは吐血しながらブッダに祈り、スナイパーライフルを構えた。
彼は自分の正気を疑った。ミサイルを狙撃するなど正気の沙汰ではない。だが彼は行動した。ニンジャたちに倣って。BLAMN!石粒のように小さな弾丸は、ブツメツ・ミサイルの尾翼をかすめて、弱々しい金属音を鳴らした。しくじったな、と彼は直感した。だが、あながち無駄でもなかった。
微かに軌道が変わった。自動制御プログラムが働くまでの一瞬、理想的な飛行角度を生み出す。次の瞬間、ゼン・トランスの横の胸壁を蹴って、黒いニンジャが跳んだ。「Wasshoi!」禍々しくもくぐもった、何事かを押し殺すようなシャウトを放ちながら、黒いニンジャは……ミサイルに飛び乗る!
「「「エッ?」」」6人のニンジャたちとタギザワは、我が目を疑った。次いで周囲を見回し、自分たちのうちの誰でもないことを確認した。ならば、コブラ教団のニンジャか?それともアイアンコブラ総帥の鋼鉄製擬人像か?否!否である!ミサイルはそのまま落下していき……軌道を変えた!
「ワッザ……ファック……!?」ブライカンは眼前に降りてきたそれを見た。謎の黒いニンジャはミサイルの尾翼にロデオめいてしがみつき、空中でミサイルとLAN直結を行い、制御下に置いたのだ。ミサイルは路地裏の地上すれすれを飛行し、壁に激突する直前、再び上昇し……上空へ去っていった。
「……は?」アマクダリ秘密基地。ニューロサージは唖然とした。UNIXモニタには、マイナスに変わって久しい着弾秒読み数字が流れている。だがニチョームでミサイルが爆発した様子は確認できない。不発弾か?「……もう一発よ!もう一発撃ち込んで、デストロイヤー=サン!」『……ラジャー』
デストロイヤーは冷静かつ冷酷に通信を返した。タケウチ・ウイルス改善弾頭を搭載した「ブツメツ・ミサイル」はあと1発残っている。『只今緊急旋回を終了。再び攻撃可能空域へと……』その時!『……あれは!?コーッ、シュコーッ!そんな、まさか!?』デストロイヤーは激しく混乱した!
「今度は何!?カメラ切り替えて!」「ハイ」情報解析ヤクザは直ちに映像をデストロイヤーの視界カメラに切り替えた。おお、ナムアミダブツ!そこに映るのは、デストロイヤーめがけ飛んでくるブツメツ・ミサイル!そしてミサイルの上には……サーフィンめいた姿勢で立つ謎の黒いニンジャ!
その掌には黒い炎が揺らめき、ユーレイじみたニンジャが頭を掴まれてもがいている!路地裏から回収されたスペクターだ!『コーッシュコーッ!? アイエエエ……アイエエエーーーーーッ!?』デストロイヤーはNRSじみてパニックを起こし……そしてカメラ映像は、横殴りのノイズに変わった。
エピローグ
……数日後。
『夜のオイランニュースドスエ』蛍光サイバーグラスをかけたオイラン・ニュースキャスターが、着物の前をさりげなく開き、左肩から胸までを露出させて淡々と原稿を読み上げる。『先日、ネオカブキチョのニチョーム・ストリートで発生した、ヤクザクラン同士による激しい抗争事件の続報ドスエ』
『ハイデッカー部隊が突撃し、催涙ガス弾を使用して鎮圧。ミサイルを発射する戦闘機を見たという噂が広まっていますが、これはキョート共和国のスパイである終末論教団の誇大デマゴギードスエ』オイランはデスクの下で大胆に脚を組みかえる。『観光中の民間人も多数巻き込まれましたドスエ』
『ミイラ取りが呪われてミイラになる。平安時代のコトワザです』社会派スモトリ・コメンテーターが渋い顔で言う。『怖い物みたさでそんな所に行く奴が悪い。それから勿論、ニチョームという低俗なグレーゾーンの存在自体が害悪なのではないかと、私はね、以前から申し上げてきたわけですよ!』
画面後方では、非合法、薬物、癒着、キョート共和国のテロリストなどを連想させる画像が浮かび上がり、サブリミナル的にコラージュされた。『ニチョーム、コワイ!』客席から声が上がる。『ではここで、ヨロシサン製薬のCMドスエ』オイランは知性的な無表情を崩さぬままオジギした。
「……どうなるのかしら、結局」ファイアランナーは店主不在の『絵馴染』でTVを視聴しながらため息をついた。ドミネイター、ドゥームキラー、ブライカンは激闘で重傷を負い、闇医者のもとで療養中だ。店主のザクロことネザークイーンは、ニチョーム中心部のビルで各勢力と連日の交渉中である。
あの夜ニチョームを襲撃したニンジャたちとクローンヤクザ部隊は、確かにソウカイ・シンジケートに所属していた。しかしゲイトキーパーやフューネラル、デンパルスらの証言によれば、ソウカイヤでは非主流派の連中であったらしい。オナタカミにそそのかされて暴走させられたというわけか。
ならば悪いのはオナタカミだ。だが彼らはハイデッカー部隊をニチョームに堂々と駐留させ、ニチョームにもソウカイヤにも許可を得ず、不平分子を囲んで棒で叩き始めた。『ニチョーム自治会と自警団、コブラ教団、ソウカイ・シンジケートは反社会的勢力である』と主張し、法律を盾に粛々と。
それはそうだが、彼らのやり方はあまりに強権的だ。ラオモトの持つ総理大臣の座は名誉職で、その命令は全て複雑怪奇な官僚機構にたらい回しにされ、ほぼ何の効力も発揮しない。重要書類にハンコをつくだけが彼の職務であり、日本国の政治的実権はネオサイタマ知事とその代行者が握っている。
「結論が出たわ」ザクロが憔悴した顔で裏口から戻ってきた。「ドーモ。どうだった?」「……ニチョームは自治権を喪失し、市議会およびハイデッカーの管理下に置かれることに決定。コブラ教団は……いつの間にか全員いなくなっていたわ」「そんな……ソウカイヤはどうしたのよ!」「それが……」
ザクロはため息をつき、カウンター席に座った。「……ラオモト・カンやオムラとの癒着関係を始め、数々の不正行為を暴かれ……ニチョームやネオカブキチョ、ネオサイタマ中心部のいくつかのシマから手を引くよう市議会に勧告されたの。ラオモト=サンも総理大臣の座を追われるかもって」
「それじゃあ……」ファイアランナーは震えた。ザクロは頷いた。「ええ。全面戦争よ。ソウカイヤ・オムラ連合と、市議会・オナタカミ連合の激突が始まるわ。アタシたちは……巻き込まれないようにした方がよさそうね」
【ザ・ピュア・ヤクザズ・キラー・キッス】終わり