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【FGO EpLW ユカタン】第七節 ダ・ヴィンチ・オーヴァドライヴ

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「マスター、ご無事か」
「………あ、ああ、全然無事じゃねぇが、命はある。どうやら終わったみてぇだな」
ずぶ濡れで目を覚ます。あたりはまだ暗い。ランサーの肩に担ぎ上げられてるらしい。キャスターはまだ、俺が被ったままだ。潜水ヘルメットみてぇになってて、水を呑まずには済んだ。
「こ、ここは、どこだ」

首を振って見回すと、アサシンと、見慣れねぇ女がいる。闇の中に帆柱やらなんやら見える。
「ライダーの船の上だよ」
「味方になったってのか」
『うンにゃ。呉越同舟、クレタ人の同盟……だども、戦いは終わっただ。おめでとさン』

ランサーが俺を下ろす。どうにか自分の足で立てそうだ。キャスターを頭から外すと、手のひらに乗るサイズに戻った。
アサシンの隣にいた女が歩み寄ってくる。胸はでけぇが潔癖そうな、まだガキって感じの歳だ。なんかバカでけぇ盾を担いでやがる。

「この姿では、はじめまして、◆◆◆さん。わたしはシールダー。真名は『マシュ・キリエライト』。とあるサーヴァントと人間が融合した『デミ・サーヴァント』という存在です。よろしく」

真名判明

カルデアのシールダー 真名 マシュ・キリエライト

「ああよろしく、マッシュ……いや、マシュ。世話になったな、マジでよ」
握手をしようと手を伸ばすが、無愛想にも向こうが手を伸ばさねぇ。けっ、まぁいいや。

「―――んで結局、何が起きたんだ。誰か説明してくれ」
『お前さンが聖杯を手にして、イシュチェルが解放されただ。ほンで、洪水が起きた。ライダーの船さ飛び乗って、流されて、今は海の上だ』

なるほど、船の外を見てみりゃ大海原だ。島はどうなっちまったんだろう。水の底ってわけでもあるまいが。

で、聖杯を、手にした。俺が、か。いや、でも……。
「……その聖杯は、どこにある。何か拾ったか、あの水の底でよ」
『形はねえだ。魔力の塊ちうか、システムちうか、そういうもンだで。イシュチェルの魔力と霊脈を利用して保たれてただ。お前さンが手にしたのは、ほンのひとかけら。一人分の命と、少々の魔力。あとはイシュチェルが持ってっただよ』
よくわかんねぇが、要するに命は助かったらしい。そして……
「まあいいや、これで終わりだ。これで特異点とかいうのは消えて、俺はロサンゼルスに帰れるはず……」

「まだだ」

帆柱の陰から、二人。一人は女。アーチャーだ。ってことは、もう一人は……
「俺は『ライダー』。この船を動かしている。聖杯が失われた以上、もはや敵対する理由はなくなった。お前たちの勝利だ」
中年の男。歴史映画にでも出てきそうな、いかにも航海者でございって出で立ちだ。ランサーに目を潰されたはずだが、聖杯で治したか。

「そりゃどーもよ。助けてくれてありがてぇが、船賃を払ったほうがいいかね……」
「要らん。どうせもうすぐ、この特異点は消える。我々サーヴァントは英霊の座に還らねばならん。その前に……」

ライダーは、ぎろりと俺を睨む。んだよ、まだやる気かよ。
「俺の真名を当ててみろ。分かるんならな」
俺は眉根を寄せる。知るか、そんなもん。
「全然。でもその格好と宝具からすりゃあ、ひょっとしてコロンブスか……」
「ノー」

俺は首をひねる。アサシンが代わって答えた。
「んじゃ、フランシス・ドレイクとか……」
「ノー。ヒントをやろう、スペインの探検家だ。出身はポルトガルだが」
アサシンが首をひねり、ちょっと困った顔をする。こいつにとっちゃ、誰だろうと侵略者だ。
「えーと……コルテス、ピサロ、マゼラン、ヴァスコ・ダ・ガマ……ンー、多すぎる!」

教養のない俺からすりゃ、これだけ答えただけでも大したもんだ。スペイン人やポルトガル人の名前なんて、後はサッカー選手とかしか知らねぇぞ。
「キャスター、知らねぇか」
『んー、今の中じゃ、マゼランが一番近い気がするだな。コルテスとピサロはカスティーリャ人で、ヴァスコ・ダ・ガマはポルトガルに仕えてただ』
シールダーは肩をすくめている。アーチャーは口をへの字につぐんだまま、だんまりだ。殺気満々でランサーとメンチを切り合っている。

ライダーは目を閉じて鼻を鳴らし、苦笑して首を振る。てめぇの知名度の低さを自嘲してんのか。
「全部違う。俺の真名は、『ペドロ・フェルナンデス・デ・キロス』。知るまいな。17世紀初め、南太平洋を探検した者だ」

真名判明

コスメルのライダー 真名 ペドロ・フェルナンデス・デ・キロス

「全然知らねぇ。キャスター、知ってっか」
『キロス。キロス。……えらいマイナーな奴を引っ張って来ただなあ。ああ、それでか』
「んだよ、説明しろよ」
「いや、俺が言う」
ライダーが手を後ろに組んで進み出る。

「俺はな、南太平洋のとある島を発見した男よ。島の名は『ラ・アウストリャリャ・デル・エスピリトゥ・サント』」
「長ぇな」
「聖霊(エスピリトゥ・サント)が降臨した聖日に発見し、オーストリア出身の国王を讃えてのことだ。それから俺は上陸し、植民地を作った。名付けて『ノヴァ・イェルサレム』」
「御大層な名だな」

ライダー・キロスの目つきが、だんだん怪しくなる。さっき見た、天使野郎の目だ。
「俺は、神の声を聞いたのだ。この地に新たなイェルサレムを築けと。だが失敗した。今度こそは、うまくやれるはずだった」

ああ、やっぱ、そういう奴か。狂信者ってやつァ、どうも手に負えねぇ。そんじゃアレか、聖杯を手に入れちまった俺なんか、さしずめ救世主様か。

ライダーが項垂れる。
「俺は、騙されていたのだろう。誑かされたんだ。悪魔に」
「あいつは、曲がりなりにも天使だったぜ。ねじ曲がってたが……」
「そいつじゃない。そいつは後から送り込まれて、俺の計画に賛同した。セイバーとアーチャーもだ」
「『送り込まれた』って……その悪魔が、やったってのか……」

悪魔か。この半日、散々わけの分からねぇことに付き合わされて、英霊やら神やらと顔を突き合わせてきたんだ。悪魔もそりゃ、いるんだろう。俺をここへブチ込んだのも、そいつだろう。なんでそんなことを……。

「俺が言えることは、ここまでだ。そう言うように――――――仕込んどいたのさ、オレ様がね♪
「!?」

ライダーが項垂れていた顔を上げると、陽気なイカれ顔になった。目つきも声音も全然別人だ。シールダー、アサシン、ライダーが一斉に身構えるが、アーチャーは訝しげに睨んだまま動かない。ライダーが愉しげに言う。
「こいつはオレが操ってる人形、アバターさ。そう、オレは悪魔! ソロモン王だってオレのことを知りゃしない! だってオレは神様だからな!」
「どっちだよ」
「両方ってこと! つまり二倍偉い!」
ケケケケケ、と嗤う悪魔。ライダーの額に角が、背中に皮翼が生え、尻から黒い尻尾が伸びる。顔の肉が削げ落ちて、髑髏みてぇになっていく。

「おい、なんだこいつは!」
『悪魔で神なら、魔神だろな』
「魔神柱……ではないようですね、彼が知らないなら」

シールダーがよく分からんことを呟くが、尋ねる前に悪魔が近づいてきた。
「知ってはいるだろうけど、な。あいつは『全ての知恵と狂気と愚かさを見た』ってことになってるし。設定上は。でェも、虚しいってよ! 厨二病もいいとこ! 全知のくせしてメンタル貧弱! あんなんじゃァ神様にゃなれないね! もっと邪悪にならなきゃ……」
「あー、なんでもいいや。グダグダ言いてぇのは分かったが、結局お前さんは何がしてぇんだ……」

悪魔がシシシシシと嗤う。愉しそうで何よりだ、このクソッタレが。
「何がしたいって、そりゃあもう、バカみたいに愉しみたいの。あんたらの一喜一憂を見て大笑いしたいのさ! 『ウォッチャー』だから! ―――ああそうだ、マッシュルーム・エッグプラントお嬢ちゃァん。僕ちんがキミの大事な大事な『藤丸立香』を誘拐しました」
『な……!』

シールダーが血相を変えて詰め寄る。フジなんとかって、キャスターが言ってた日本人か。
「返してほしくば、そこのイディオットなアメリカ人と一緒に、オレを追っかけ、捕まえてご覧なさい。いろいろご用意しましたので、いろいろお目にかけまする。それじゃーみなさん、アディオス! アリーヴェデルチ!」

BOMB! 爆発とともにライダーは、いや、悪魔は姿を消した。後に残された俺たちは……
「おい、この船はどうなるんだ! この、なんだ、特異点も!」
「あの悪魔とやらが、足場を残してくれているのだろう。まだお前たちに、何かさせたいようだな」
アーチャーがやっと口を開く。船は少しずつ速度を増し、暗い海を進んで行く。どこへ連れて行こうってんだ。

悪魔と入れ替わりに、空中に何かが出現した。あれだ、SF映画でよくあるホログラフィ、空中投影ディスプレイってやつか。そこに映ったのは、黒髪の美女。レイア姫……じゃねぇが、どこかで見たような……。
『マシュ!マシュ! 聞こえるか!? 見えるか!? 私だ、ダ・ヴィンチだ!』
マシュ、と呼びかけられたシールダーがパッと笑い、ホログラフィの美女に話しかける。
「ダ・ヴィンチさん! はい、聞こえます! 見えます! やっとカルデアと通信が繋がったんですね!」

アサシン、ランサー、アーチャーが顔を見合わせる。カルデアって、いやその前に。
「ダ・ヴィンチって、レオナルド……いや、お前、『モナ・リザ』じゃねぇか!」
やっと驚いた俺に向かって、美女は例のポーズを取り、憔悴した顔に見慣れたアルカイックスマイルを浮かべる。

『ああっと、初めまして◆◆◆君。そう、私はモナ・リザの姿をした、レオナルド・ダ・ヴィンチその人さ! ようやく直接話せるよ。今まであの悪魔、ウォッチャーとか名乗ってたが、そいつに邪魔されてたんだ! と言うかこの通信も、あいつに許可されてるに過ぎないんだろうが……とにかく、情報交換をしよう!』
ダ・ヴィンチの呼びかけに、他のサーヴァントも頷く。どうにも状況が未だによく分からねぇ。

◇◇◇

「サーヴァントたちが、全て、ですか……」
『ああ。職員と私を除けば、全員だ。不覚だった。聖杯や重傷者、食料庫は今のところ無事だが……いつ手を出されるか』
「精神的にキツそうな状況に追い込んで、愉悦を味わおうってのかね……」

ダ・ヴィンチの報告じゃ、ウォッチャーとかいうさっきの悪魔のせいで、『カルデア』とやらは大変らしい。なんつう迷惑なヤツだ。だがとにかく、本来のマスターであるフジマルなんとかは生きている、らしい。俺たちが特異点を攻略して行けば、返してくれると。全く信用ならねぇが、今はやるしかねぇ。次の聖杯に「ロサンゼルスに帰せ」「フジマルを返せ」って願ったって、どうせ悪魔が許さねぇんだろう。

『今は、君が頼りだ。我々カルデアも出来る限りサポートする。ウォッチャーが我々の一喜一憂を観察したいというだけなら、答えは簡単。最善を尽くし、人知人力の限りを尽くして、目にもの観せてくれようじゃないか!』

ダ・ヴィンチが鼻息も荒く宣言し、通信を一旦閉じる。確認のためもう一度開いて、挨拶をしてもう一度閉じる。通信状態は今のところ大丈夫か。
ああ、やるしかねぇ。人間死ぬ気になりゃあ、なんとかなるんだ……死にたくねぇがな。ましてや他人のためになど。
「大体いいか。じゃ、俺は少し寝るぜ。まだまだ先は長そうだしな」
「はい。カルデアとの回線は、私が開けます。用があれば呼んで下さい」
帆柱の下に横になり、目を閉じる。これが全部悪夢で、起きれば自分ちであるよう、祈りながら。

◇◇◇

……やがて、目を覚ます。残念だが、悪夢の続きだ。
東の空が明るい。船の向きとは反対方向だ。当然、船は西へ進んでいる。
早速シールダーにカルデアとの回線を開いてもらう。ダ・ヴィンチが顔を出し、朝の挨拶をした。

「で、どこへ向かってんだ、この船」
『南側に、陸地が見えるね。ユカタン半島の北側を西へ進んでいるようだ』
「だから、目的地はどこだよ。メキシコシティか?」
「……見えてきたようだぞ」

急に、目の前の海の青さが増した。海底が急に落ち込んでるんだ。有名な、ブルーホールってやつか。
だが、青さが深い部分が途方もなく広い。水平線の彼方まで……

―――待っておったぞ。ここが終点じゃ―――

頭の中に、井戸の中で出会ったイシュチェルの声が響く。サーヴァントたちにも聞こえたようだ。
「そう、ここだ。我らが目指していた場所だ。地元の神々が守っていて、今まで船では近寄れなかった」
アーチャーが呟く。ふと見上げると、空には巨大な虹がかかっている。

急に視界が上空へ吊り上げられ、空から見下ろす視点になる。半円形の青い穴が、ユカタン半島の北の海を覆っている。もう半分の半円は、陸地だ。とんでもなくでけぇ穴があるってわけだ。
「なんだ、こりゃあ……」
俺の問いに、ダ・ヴィンチが答えた。

チクシュルーブ・クレーター。白亜紀末の恐竜絶滅をもたらした、巨大隕石の衝突痕だ』

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三宅つの
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