忍殺TRPGリプレイ【アーカイヴ・オブ・ユース】03
前回のあらすじ:ソウカイヤの手練れ「チーム・フライングレッグス」に電脳部門の長ダイダロスから指令が下った。カブト・ストリートに本社事務所を置くシノン社に潜入し、オナタカミの命令で悪事を行っている証拠を盗み出せというミッションだ。データ吸い出しは順調に成功したが……?
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「クンクン、クンクン」ツカツカとエントランスホールを進みながら、ヴァニティは鼻を鳴らす。微かにニンジャアトモスフィアを感じる。それも1人や2人ではない。3人。「警備ニンジャ……ではないな。アトモスフィアが違う」ヴァニティは警戒し、眉根を寄せる。「気をつけろ」「ハイ」
ヴァニティは状況判断する。CEOと警備ニンジャの留守中に、別のネズミが忍び込んだらしい。となると相手はネズミ袋だ。ここで待ち構えて警報を鳴らさせ、警備ドローンや警備員を出させるか? しかし本来の標的を警戒させて取り逃がすのも面倒だ。まずは潜んでいる場所を探るべし!
行動継続
マップ
7ターン目
3人の侵入者はプレジデントルームから駆け出し、倉庫に身を潜め様子を窺う。巡回ドローンの速度と行動パターンからして、この時間帯には環状通路の東側を通るはずだ。ウカツに飛び出せば発見され、通報されてしまう。慎重に躱し、もと来た排気口へ……『待て。何か……嫌な予感がする』
インヴィテーションの鋭敏なニンジャ第六感が、何かを察知した。排気口から入口へ戻ろうとするのは……危険がある。巡回ドローンではなく、警備ニンジャでもない……何者かが迫っている。『じゃあ、どうする』『通路も排気口もヤバいとなると、真ん中の電算機室を突っ切っていくしかねえぞ』
『従業員がいる。通報される』『ニンジャ野伏力で駆け抜ける。見つかったら、眠ってもらう』『了解』3人は小声でダンゴウし、頷いた。発見されて通報されれば、外への脱出も困難だ。幸い3人ともサラリマンに扮装している。極力静かに、気取られぬようにせねば!『……もう少し、待機する』
8ターン目
ヴァニティとヨモツブレードは二手に分かれ、通路の北と南から進む。この2人は上位者権限を持つため、巡回ドローンに発見されても通報されることはない。トラップが発動することは有りうるが、ともに手練れであり、ウカツに発動させたりはしないだろう。「近い……近い」ヴァニティは呟く。
9ターン目
インヴィテーションは凄まじい集中力とニンジャ野伏力で、接近する新手の敵と巡回ドローン、トラップの位置を把握する。敵の索敵範囲はドローンよりは広いが、こちらには及ばない。インヴィテーションは息を吸い込み、瞬時に倉庫を飛び出すと、電算機室に潜入!「ン?」従業員が顔を上げる。
ふと視ると、東側のドアが半開きになっている。……また閉じた。空調の風かなにかで自然に開き、閉じたのだろう。従業員は気にせず作業に戻る。納期に間に合わせなければならない。どこのドアが老朽化していようが知ったことか。誰かが閉める。従業員たちは連日のデスマーチで摩耗していた。
彼がもし薄暗い天井を見上げたなら、そこにへばりつく3人のニンジャを見て悲鳴を上げていただろう。そうしなかったのは幸いだった。お互いに。「近い……近いぞ」「どこだ……」ヴァニティとヨモツブレードは電算機室の外壁沿いに、しめやかに通路を進む。だが、通路を通った痕跡はない。
10ターン目
カタタタタタ……プロココココ……電算機室にはタイピング音やUNIX電子音が響く。従業員は死んだマグロの目でUNIXモニタと向き合い、ドリンク剤をストローで吸っている。誰も薄暗い天井を見上げる者はいない。インヴィテーションは極度に精神を集中させ、鋭敏なニンジャ感覚を研ぎ澄ます……!
11ターン目
電算機室の壁の外からは、微かなニンジャアトモスフィアが2つ。そして4つの巡回警備ドローンの発する振動も感じ取れる。息をこらしてこの6つの位置と距離、移動速度とパターンを探る。……今だ!インヴィテーションは決断した。今しかない!彼は音もなく動き、電算機室の西側ドアから離脱!
フライングレッグス、コズミックサイクラーも後を追って飛び出す!ドローンも監視カメラも、動体センサーもニンジャ感覚をも欺き、3人は誰にも発見されることなく、見事にエントランスへ戻ってのけた。カラテによる戦闘は発生しなかったが、これもニンジャの恐るべきイクサであったのだ。
エントランスホールでは、来た時と同じようにトレーダー、サラリマン、警備員、エグゼクティヴなど様々な人間がたむろしており、誰もが互いに無関心だ。警備員からはトレーダーやサラリマンが遮蔽物となり、3人の姿は捉えられない。「株価が……」「政府の為替介入……」「戦争の影響が……」
3人はサラリマンらしく会話しながら、問題なくエレベーターに乗り込みその場を立ち去る。ヴァニティとヨモツブレードは結局3人のニンジャの位置を把握しきれず、本来の目的であるプレジデントルームへ向かうことにした。騒ぎを起こしてイクサになればマズイのはヴァニティたちも同じだ。
作戦終了
エピローグ
『ご苦労さまでした。ウカツに戦闘を行えば、オナタカミ側にソウカイヤ・オムラ連合攻撃の口実を与えるところでしたが、うまく切り抜けてくれましたね』秘密ブリーフィングルームのモニタから、ダイダロスは3人をねぎらう。『やはり諸君は有能だ。シックスゲイツの候補に推挙しておきます』
「「「アリガトゴザイマス!」」」」3人は深々とオジギした。ダイダロスも以前はシックスゲイツの「6人」の1人だったが、今はさらに格上の幹部としてソウカイヤの電脳部門を完全に切り盛りしている。代替が効かないほどの凄まじいハッキング能力を持つゆえだ。そんな彼でも万能ではない。
『ニンジャ複数が潜入して情報を抜き取り、捕捉されることなく脱出したという情報自体は伝わったでしょうが、ソウカイヤ所属とまではわからないはずです。わかられたとしても問題ありません。凄腕がいるという事実も伝わるのですからね』ダイダロスは受け取った情報を電子的に弄んでいる。
『あるいはこれもトラップ、トロイの木馬かも知れませんが、私にかかれば相手のバックドアに変えられます。オナタカミや官公庁、シバタ知事代行が従えるハッカーたちと渡り合うための鍵ともなるでしょう。……では、今回の報酬です』キャバァーン!ダイダロスは3人の口座に報酬を振り込んだ。
◇
時刻は午後の昼下がり。ネオサイタマ中心部では珍しくも重金属酸性雲が少し晴れ、青い雲間から病んだ太陽と昼間の月が顔を見せている。白く輝くカスミガセキ・ジグラットの遥か上には、黒い太陽めいた暗黒の渦があり、罪罰の文字と蛍光緑色の01をばら撒き続ける。現世とオヒガンの境目だ。
ジグラット最上層の一室。ネオサイタマ知事代行シバタ・ソウジロウは、それを窓から無感情に見上げる。……邪魔な存在だ。月の『アルゴス』との間のリンクを妨げ、ネオサイタマに不確定要素を振りまく災厄だ。だがあれを取り除けば、さらなるケオスがオヒガンからもたらされることだろう。
彼が夢見る理想社会、どこまでもフラットな、砂漠めいた世界の実現までの障害は、実際多い。だが、やり遂げねばならない。それが生まれる前から彼に、彼の一族に課せられた使命。青く純粋な、単純明快な天命だ。
【アーカイヴ・オブ・ユース】終わり
リザルトな