『アニー・ドギーバッグ』シリーズより「八人目、ルム」
アニー・ドギーバッグ。彼女は食い残された。
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【六人目へ】
「これで何人目だ?」
「十三人、てとこですか。三人同じ場所で死んでるのが二つ、二人が一つ」
トイレ、路地裏。その前は酒場。ここ数日で起きている連続殺人事件だ。手口は似通っている。拳銃で蜂の巣か、脳天に鉛玉か。時々刃物かなにかで死体が損壊している。検死によれば、死ぬ前の傷。いたぶられたというよりは、犯人に反撃しようとしたところを斬られた、といったふうだ。銃を持つ手が転がっていたりする。
「監視カメラは」
「割り出せて来ました。赤い髪の、目立つ女です。現場の近くに、その時間帯にいる」
「女か。……さっきのトイレ、男性用だったよな」
「躊躇がない、そういうやつですね。恨みか、仕事か」
「仕事なら地味に、カメラに映らないようにやる。恨みかな」
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POW! 銃弾は外れた。跳弾も躱された。残り一発。
「恨みか」
「そうさ。恨みは買い慣れてるだろ」
別の路地裏。八人目はルム。少しやばい。だんだんきつくなる。慣れては来たが。ルムが両手をこっちへかざす。避ける。壁を三角跳び、背後へ。ルムが振り返ってあざ笑う。
「そうさ、買い慣れてるね。それが『おれら』を強めるからな。押し売りだってありがたいぜ」
術中にハマるな。情報はある。あいつの死と引き換えの。殺し尽くすまでは、死ねない。
「アニー。愛してるぜえ!」
POW!
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「アニー・ドギーバッグ。偽名。本名はアニー・エインゲル。妹レミは殺された。動機は怨恨、復讐。復讐対象以外も邪魔なら躊躇なく殺す。凶悪殺人犯。ただし……」
一拍置いて、
「女性と子供は殺さない。目撃例いくつかあり。事実、殺害対象は成人男性のみ」
「多少は人道的だな。何歳からだ? ハイスクールならどうだ?」
「それは不明です。場合によっては殺すかも」
殺されたのは、ギャングか酔っ払いか通りすがり。妹を殺したギャングの暗殺。目的はそれだろう。邪魔者、目撃者は消すというわけだ。
★
銃弾は、外れた。ルムが避け、嗤う。
「下手っぴい!」
いや、狙い通り。いままでのは布石だ。誘い込んだ。場所はそこ。やつは手の内を知らない。
術。撃った弾を蘇らせる。命を削るが、惜しくはない。
POW!
「あ?」
POW! POW! POW! POW!
蘇った弾が、ルムを四方から貫く。唖然とした顔。ぐらついたところへ、トドメの一撃。
POW!
間抜け面のまま脳みそをぶち撒けてルムが死ぬ。鼻を鳴らし、蹴飛ばして、唾を吐き捨てる。
「八人目。次」