忍殺TRPGリプレイ【シャドウ・アンド・トゥルース】02
前回のあらすじ:考古学者ヒラタ・クルミのオフィスに、人探しの依頼が舞い込んだ。依頼者の死んだはずの姉、アブラメ・トウカがケオサキで目撃されたというのだ。それも、首が異様に長く伸びた姿で。クルミたちは現地での目撃者「大熊猫」から情報を得、彼女に突撃インタビューを開始する!
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大熊猫から目撃証言を聞き、カメラアイに記録された映像を見せられる。確かに、アブラメ・トウカと瓜二つ。だがその首は異様に長く、開いた障子戸から首を伸ばし、オカモチを口にくわえて中へ持ち込んでいる。まるでヨーカイだ。「もちろん、この映像は他に流出させたりしていません」
大熊猫は誓った。「こいつは信用していい。良いやつだからな」火蛇は請け負った。ふたりとも、少なくとも悪人ではなさそうだ。「……で、なんかのサイバネか、バイオサイバネかも知れねェな」火蛇は言い知れぬ怖気を感じながら、推測を述べた。「ユーレイやヨーカイなんて、非科学的だぜ」
「合成写真とかではなく、彼女らしき人物が実在することは確かめられたわ」クルミは腕組みして頷く。「後は、直接行ってインタビューね。彼女の家の座標を教えて頂戴」「了解」大熊猫はメモ用紙を取り出し、物理座標を手書きした。実際プライバシー侵害ではあるが、事件解決のためだ。
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彼女が住む家は、とある廃ビルの屋上に存在する和風の一軒家だ。ビル自体は数年前に廃墟となり、誰も住んでいないが、かつてのビルの所有者が屋上に別荘として建てたものに、彼女が勝手に住み着いているらしい。飯店への注文に使われたIPアドレスも、そこに置いてあったUNIXからのものだ。
「ビルの中にもヨタモノとか住み着いてる可能性があるな。直接屋上へエントリーしようぜ」火蛇が提案すると、大熊猫はドローンを指し示した。「これに掴まって行けばいい。一人一台だ。火蛇はダイジョブだろうけど……」「私たちもダイジョブですよ」「ええ」イユとクルミは頷いた。
……かくて三人は黄色い宅配ドローンに掴まり、廃ビルの屋上へ向かう。重金属酸性雨は止んでいるが、時刻は夕暮れ時。長居は禁物だ。……火蛇は少し彼女たちを訝しんだ。元ヒキャク・パルクールだったというイユはともかく、考古学者だというクルミは平然とドローンに掴まり、怯えもしない。
「荒事は俺に任せてくれ」火蛇が最初に屋上へ飛び降り、続いて二人が降りる。「任せたわ」「けど、なんて言えばいいんでしょうね。弟さんの名前を出せばわかってくれるでしょうか?」「奥にヤクザやスモトリ崩れがいるのかも知れねぇな。油っこい中華料理をガッツリ食えるようなのがよォ」
火蛇は脂汗を垂らして警戒した。彼はケオサキのヤクザ組織『老頭』の末端構成員だが、その支配はここまでは及んでいない。別のヤクザ組織などが絡んでいた場合、老頭の上部組織……ソウカイ・シンジケートに報告せねばならないかも知れない。果たしてそれを、上司の蠱毒が納得するだろうか。
その時。一軒家の強化障子戸が、音もなく内側から開いた。中には写真や映像で見た彼女……アブラメ・トウカが立って、こちらを見ている。「ドーモ」彼女はオジギしてアイサツした。「私に何か、御用ですか」トウカらしき女性は動揺する様子もなく、冷たく暗い視線でこちらを見つめるだけだ。
「……ドーモ、アブラメ・トウカ=サン。私はヒラタ・クルミ。こっちは助手のナワタベ=サンと、協力者の火蛇=サン」クルミは代表アイサツを返した。アイサツは大事だ。トウカらしき女性は、すっと目を細めた。「私は、アブラメ・トウカではありません。カゲツルです。お引き取り下さい」
彼女の背後、家の中は薄暗く、ロウソクの火が揺れている。電気もろくに来ていないのだろうか。否、UNIXを動かすだけの電気はあるはずだ。灯火は彼女のゆらめく影を、前方へ長く伸ばしている。「……それは、仮の名ではないかしら。貴女の弟、アブラメ・ヨジロ=サンから依頼を受けたのよ」
どくん。それを聞いた瞬間、カゲツルと名乗った女は大きく目を見開き、異様なアトモスフィアを放った。「ヨジロ……!」次の瞬間、彼女の首がするすると伸び、異様なシルエットを形作った!「「「!」」」
火蛇は目の前に現れた怪奇現象から、必死で目をそむけた。何か、自分にはわからないことが起きている。否、これはサイバネか、バイオサイバネによるものだ。ユーレイやヨーカイなど存在しない。だが。「……貴女たち二人は、ニンジャですね」カゲツルはそう言い放った。ニンジャ。ニンジャ!
火蛇は言い知れぬ恐怖に震え上がったが、クルミとイユは……頷いた。極力正体を隠していたが、彼女たちもニンジャなのだ。ただ、目の前のニンジャ・カゲツルは、彼女たちよりも強い。「……わかりました。立ち話も何ですし、お入り下さい」カゲツルは内側から玄関の戸を開き、手招きした。
「に、ニンジャ?ニンジャ、ナンデ?」火蛇はわけがわからない。だが、カゲツルから放たれる恐ろしいアトモスフィアを、クルミとイユの放つアトモスフィアが中和し、弱め、火蛇を守っていることは直感的にわかった。「説明している暇はないわ。まずは、彼女の話を聞くことにしましょう」
???
……暗い家の中に灯火が瞬き、カゲツルのシルエットを大きく浮かび上がらせている。幸い敵意はないようだが、襲いかかってくれば危険だ。三人はしめやかに玄関から入り、古びたタタミに敷かれたザブトンに奥ゆかしく座った。「確かに、私はアブラメ・トウカです。そしてヨジロは私の弟」
カゲツルことトウカは、悲しげに着物の袖で顔を覆った。「けれど、私はこの通り……ニンジャに、化け物になってしまいました。もう弟に逢うことはできません」「いつ、どうしてそうなったか、教えて貰えるかしら」クルミが問うと、トウカは頷いた。「私が目覚めたのは、霊安室でした……」
彼女によれば、こうだ。通り魔に絞め殺されて意識を失い、気づいた時は霊安室にいた。自分がニンジャとなり蘇生したことが直感的に理解できた。ならば、弟と再会できる。そう思った時、首が伸びたのだという。「この姿を弟が見ればどう思うことでしょう。私は逃げ出し、身を隠したのです」
「気持ちはわかるけどよ、もう少し弟さんを信頼してやったがいいんじゃねェのか」火蛇は意見を述べた。「姿はどうあれ、アンタが今生きてることに変わりはねェ」「ですが……弟は昔から思い込みが激しく、私に強く依存していました。少しでも気に入らないことがあると逆上して……」「うーむ」
家庭の事情で理解はできるが、いろいろと厄介だ。「それに私の首は、夜になると勝手に伸びてしまい、制御できないのです。昼間でも感情が高ぶったりすれば伸びます。これでは外を出歩くこともできません。加えてなぜだか、油っこいものが異常に食べたくなって……」「そりゃ困ったなァ」
彼女はいわば、超自然的な病気のようなものだ。専門家を探すしかない。「アンタら、ニンジャ……なんだろ。なんか解決法を知らねェか?」火蛇はクルミとイユに水を向ける。イユはクルミを見る。「わ、私は詳しくないですけど、クルミ=サンなら……」「私は考古学者で、医者じゃないわよ」
いわゆる「ろくろ首」がニンジャであったとは意外だが、伝承上でろくろ首が「治った」という例はほぼない。目撃されて恐れられ、退治されたり離縁されたり、勤め先を辞める羽目になって姿を消すというパターンがほとんどだ。神仏にすがっても効果がなく、前世のカルマによるものだとされる。
「となると、そうね。弟さんに受け入れて貰って、一緒に暮らしながら解決法を探すのが一番いいんじゃないかしら。解決法があればだけど」「そうですよ。でないとヨーカイ扱いされて退治されたり、悪い連中に利用されたりしますよ」クルミとイユは意見を述べる。カゲツルはため息をついた。
彼女が所持しているカネは残り少なく、隠れて生活していくには誰かから奪うしかない。そんな暮らしはいつまでもは続かないだろう。「わかりました。あなた方と一緒に、なんとか弟を説得……」その時!
???
カゲツルの表情が突如、険しくなった。「……弟が、来ているようです」「そりゃ良かった」「よくありません。この気配は……」『AAARGHHH!』一軒家の外、屋上に、獣じみた雄叫びが響き渡る!『姉さんに取り憑いた、邪悪な怪物め!退治してやるぞ!僕の姉さんを返せ!』ナムアミダブツ!
◆アブラメ・ヨジロ(種別:モータル、ボス級)
カラテ 3 体力 4
ニューロン 2 精神力 4
ワザマエ 4 脚力 2
ジツ 0 万札 -
攻撃/射撃/機先/電脳 3/ 4/ 3/ 4
回避/精密/側転/発動 4/ 4/ -/ -
即応ダイス:3 緊急回避ダイス:0
◇装備や所持品
▶︎生体LAN端子LV1:ニューロン判定+2、イニシアチブ+1
▶︎クロームハートLV1:体力と精神力+1
◆ジャンク・チャカガン:射撃、ダメージ1、回避E
◆バール:攻撃難易度H、回避E、基本ダメージ2、迎撃回避不可
◇ジツやスキル
◉疾駆:通常・全力移動距離+2
◉◉憎悪:カゲツル
能力値合計:9
さらに!『『GRRRRR……!』』彼が連れている二頭の犬は、暴徒鎮圧用四脚機械猟犬・ハイエナだ!オナタカミ社が富裕層の邸宅防衛用に販売しており、「オナタカミ・ハウンド」の異名を持つ!
◆ハイエナ、民生用(種別:戦闘兵器)×2
カラテ 2 体力 2
ニューロン 3 精神力 -
ワザマエ 2 脚力 4
ジツ 0 万札 1
攻撃/射撃/機先/電脳 2/ 2/ 3/ 4
◇装備や特記事項
●近接攻撃:ダメージ1
●突撃:脚力の倍距離移動し、直後の攻撃に痛打+1
●疾駆:通常・全力移動距離+2
能力値合計:7
彼は……おそらくクルミやイユの持ち物に発信機か何かを仕掛けて、全てを聴いていたのだろう。そして「独自の調査」とやらと組み合わせ、そうした結論に達したわけだ。なんたる思い込みの激しい男か!「ど、どうしましょう!」イユは慌てた。狂人だとしても、彼は依頼人で、トウカの弟だ。
「貴女の弟でしょう。なんとかしなさいよ」クルミはチベットスナギツネめいた冷たい目つきでトウカを見た。「嫌です。ああなった弟は私でも止められません」「貴女のニンジャパワーでなんとかしなさいよ」「嫌です」トウカは取り付く島もない。あの弟にしてこの姉あり、といったところか。
「じゃあ、どうしろと!」「……彼を止めて下さい。囲んで殴って大人しくさせた後、ニンジャの恐怖を叩き込めば、従順になると思います」トウカ、カゲツルはニンジャらしい意見を述べた。「なるべく私の部屋に足を踏み入れる前に片付けて下さい。でなければ……」「わかったわよ!」
三人は部屋を飛び出し、玄関から入ってきたヨジロとハイエナたちの前に立ちはだかる!ヨジロは……「ドーモ。姉を名乗る化け物はそこですね?どいて下さい」狂気!「ダメよ。貴方に逢いたくないって」「では、強制的に排除します。僕の邪魔をするやつは許さない……!」一触即発!
戦闘開始
【続く】
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