【FGO EpLW アルビオン】第四節 Get Your Fight On
(あらすじ:歴史の陰に英霊あり!エピメテウスと共に1666年のロンドンへ転移したマシュは、深夜に放火を行う謎の仮面男らを発見。怒りとともに彼らを数体倒すも、爆薬で吹き飛ばされてしまう。着地した先には、新手の英霊が二騎!)
「エピメテウスさん。敵の情報を」
じり、と間合いを測る。大型の敵は後回しにして、鞭剣男を先に始末するか。だが、リーチは向こうが長い。
『でけえ方は、あれだな。そのまンまだ』
「なんです」
『スコットランドの北に浮かぶオークニー諸島の妖怪、「ナックラヴィー」だ。口から毒と疫病の瘴気を吐く。触ると体液がネバついて取れなくなる。海から出て来て、淡水を嫌がるだ。目玉を見ても危険そうだな。何のクラスか分からねえが、たぶン……バーサーカー』
真名判明
バーサーカー・セントール 真名 ナックラヴィー
「ここは内陸。淡水が弱点なら、テムズ川に放り込めばいいわけですね。了解」
単純明快な弱点だ。瘴気や視線は面倒だが、シールドやエピメテウスで防げるか。しかし接触すると粘着するなら、近接戦闘は難しい。なにか方法を考えよう。
「では、もう一方は」
『ン。アレは……なンだろな。周りから魔力を吸ってるみてえだが……』
「おう、早うかかってこんかい! 殺(シャア)!!」
痺れを切らした敵から鞭剣が飛ぶ! マシュは見切りつつ手甲で防ぐが、鞭剣は七本! 革鞭に埋め込まれた刃は無数! 頭部を狙う鞭剣は、被っているエピメテウスが弾く。足を狙う鞭剣をジャンプして避け、さらに距離を取る。肩に少し赤い線が走るが……毒はない。いや、少しずつ傷口が広がり、皮が剥がれていく。呪いか。
「おどれの生皮ァ引っ剥がしてェ! 藁を詰め込んで人形にしたるわ!」
濁声で男が叫ぶ。マシュは少し眉根を寄せるが、構えを取ったまま半眼になり、ゆっくりと呼吸を深める。
「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……」
チャドー呼吸により、マシュの呪いの傷は徐々に塞がっていく。そして、カラテが高まる!
「メーガナーダさんの鞭剣に較べれば、どうということはありません! イヤーッ!」
懐へ飛び込むのが一番。市民の少ない左へ回り込み、壁を駆け、鞭剣をさばきつつ背後へ!
「させるかァよう!」
下卑た声が追う。男は左手を石碑に翳し、魔力を吸い続ける。鞭剣が縮み、男の拳に鋭い鉤爪となって装着された。
「殺殺殺殺殺殺殺!」
「イヤヤヤヤヤヤ!」
マシュが懐へ飛び込み、拳と蹴りを応酬しつつ、エピメテウスが観察する。石碑には「殺」の文字が七つ。全文は『天生萬物以養人、人無一善以報天、殺殺殺殺殺殺殺』。
『あれは……「七殺碑」か。てことは、こりゃあ、あれよ。「張献忠」だ。違うか』
ぎひっとセイバーは笑い、歯茎を見せる。そしてマシュを蹴り飛ばし、間合いから引き剥がす。
「ご名答。おれは剣士(セイバー)の『張献忠』様よ」
真名判明
セイバー・フレイヤー 真名 張献忠
マシュがふわりと着地し、眉根を寄せる。何かで少し読んだことはある。
「張献忠。チャイナの英霊ですか」
『ン。17世紀中頃の、流賊の親玉だ。明末の混乱に乗じて、四川省さ奪って皇帝を名乗っただが、猜疑心が強くってよ。臣民も家族も手当たり次第に、何万人も殺して殺して殺しまくって、結局は破滅しただ』
「完全に理解しました。邪悪!」
迷惑極まりない。バーサーカーの方は災害じみた妖怪だから仕方ないだろうが、彼は歴史上の大悪人というわけだ。
「ギヒヒ。この『金神七殺碑(チンシェンチーシャーペイ)』のおかげでよぅ、この戦場で人が死ねば死ぬほど、殺せば殺すほど、おれの力は増すっちゅうわけよ」
魔力がどんどんセイバーに集まってゆく。大災害の中、次々に人が死んでいっているのだ。このままでは……!
「おれがやらんでも、誰かが殺ればのぅーッ! おらァッ! 『屠蜀凌遅刀(トゥシュウリンチータオ)』!」
「最悪ですね。この場で倒します。ハイヤーッ!」
震脚! 石畳に足跡を刻み、鞭剣を回避、瞬時にセイバーの左側面へ飛び込む!再びのワン・インチ距離!
「イヤーッ!」手甲を纏った拳を石碑へ!セイバーは鞭剣と石碑を収めブリッジ回避!ワザマエ!
「イヤーッ!」その無防備股間へマシュが蹴りを放つ!セイバーはすかさずバック転回避!
「■■■■!」そこへバーサーカーが突進!長い腕を振るって掴みかかる!マシュは側転回避!タツジン!
「殺ァーッ!」セイバーが鉤爪から鞭剣を伸ばす!SWASH!マシュは拳に小円盾(バックラー)を生成、殴って弾き返す!弾く弾く弾く弾く!
「■■■■!」バーサーカーに蹴り飛ばされ、地面を転がり距離を取る!ゴジュッポ・ヒャッポ、埒が明かぬ!
「グヒヒ。おどれ、防御力は大したもんじゃが、攻撃力はさほどでもなかろうがい。一方おれはどんどん強くなる!」
「ならば、今度こそ! その石碑を破壊するまで! 破ァッ!」
三度飛び込むマシュに、セイバーは……バックステップで間合いを取り、回転跳躍して市民の中へ逃走! そしてマシュを指差し、叫ぶ!
「おらァ、あすこに不審者がいるどォ! 魔女だ!召し取れやァ!」
◆◆◆◆◆◆◆
ガンガンガン!鐘が撞き鳴らされ、プアプアプア!ラッパが吹き鳴らされる!混乱増幅!
「武装せよ!武装せよ!」「オランダとフランスの仕業だ!」「畜生、先月の報復だ!今度は奴らが祝いの火を焚こうってんだ!」「奴らが攻めて来るぞ!準備せよ!」「否、ロンドン・ガゼットにあったではないか!第五王国派のテロだ!」「いや、イエズス会だ!」「アイルランド人だ!」「どうでもカトリックに違いねえ!」「異教徒め!」「よそものめ!」「殺せ!殺せ!」「襲え!襲え!」「殺される前に殺せ!」「よそものを殺せ!貧乏人を殺せ!ペストを根絶しろ!」「清めろ!清めろ!」「シティを浄化しろ!」「燃やしちまえ!」「かがり火を燃やせーッ!」「血祭りにあげろーッ!」
セイバーの宝具『金神七殺碑』と、アサシンたちの流言蜚語、何より大火災によって、市民たちは殺気立つ! 末法!ドゥームズデイ!
◇◆◇◆◇
「ケハハハァ! 追ってこんかい、ガキャァ! 群がる人間どもを殴り倒してのォ!」
狂乱した市民たちがマシュへ殺到! セイバーにも近寄ろうとするが、鞭剣で薙ぎ払われ糧になるばかりだ! 必然的にマシュへ集中!
「卑劣漢!」
「なんとでも言えやァ! これがおれの作戦じゃァ! おれのために死ねやァ!」
瘴気を振りまき暴れまわるバーサーカーの周囲にも市民は近寄らぬ! しかしそちらへ行くわけにも行かぬ! どうする!
……その時!
ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!ダカダッ!
「『赤き鉄騎の護国卿(ロード・プロテクター)』!!!」
蹄の音! 大音声と共に、街路へ数十の騎兵が突入! 全員が黒い鋼鉄の甲冑、槍、盾、大剣、槌矛で武装し、鋼鉄の馬に乗る! たちまち彼らはバーサーカー&セイバーの前に立ちはだかり、マシュを守護するように隊列を組む! 先頭には、ひときわ大柄な漆黒の騎士!
「ぐわーっはっはっはァ!! この『シールダー』がいる限り、貴様らの好きにはさせぬぞォォ!!!!」
「シールダー!?」
マシュは驚愕し、黒騎士と騎兵隊を見る! 明らかに英霊、それも自分以外にシールダーが!?
「おお、麗しき乙女よ! そなたも英霊だな! 吾輩が守って進ぜよう!」
黒騎士は馬上から呼びかける。なんたる大声。声からすると、壮年の男性といったところだが、一体何者なのか?
「ご協力感謝いたします、シールダーさん! わたしは『シールダー』、マシュ・キリエライト!」
マシュの答えに、黒騎士も驚いた様子だ。
「なに、そなたもか? しからば吾輩も真名を名乗らねばなるまいなァ!」
狂乱市民とバーサーカーが騎兵隊へ突進! だが、崩せぬ! 全員が魔力を防御に振り向け、スクラムを組み、強固な盾となっている! 黒騎士は大剣を胸の前で構え、大音声で名乗りを上げる!
「吾輩の真名は……赤い国の赤い騎士!アーサー王の円卓の騎士が一人!!『アイアンサイド』であァる!!!」
真名判明
シールダー・レッドマン 真名 アイアンサイド
「円卓の、騎士」
マシュは目をパチクリさせる。失われたはずの『彼』の残滓が、ぴくりと動いた気がする。アイアンサイド(Ironside)。確か、マロリーの『アーサー王の死』に出て来る騎士だったか。古い文献には出てこない。「赤い騎士」という存在自体はアーサー王伝説に何人かいるが……見た目は黒いが、何が赤いのか。まあいい、天から降ったような強力な味方だ!
「アーサー王の円卓の騎士なら、聖杯についてはよく知っているでしょう。貴方は、欲しいですか」
タフに笑うマシュの問いに、アイアンサイドは胸を張って答える。
「ふん!必要なァし! ガレス殿のことやら諸々願いはあるがァ、聖杯に願うほどのこともなァし!」
『アイアンサイド、か。確か日中は強いけンども、夜中は力が弱まるンでなかったか。……あ、おらはキャスターのエピメテウスだ』
エピメテウスの呟きに、アイアンサイドは鼻を鳴らす。
「むふん。確かに本来、夜中は吾輩の力が最も弱まる時刻。しかァし!」
アイアンサイドは、燃えさかる家屋へ盾を向ける。BOBOBOBOBO……見る間に火炎が吸い寄せられ、盾に吸い込まれる。すると、見よ! 彼の漆黒の甲冑が、武装が、内なる熱により赤く輝き始めるではないか! そしてそれは、馬や騎兵隊も同じ!
「吾輩は火炎からも魔力を吸収可能ォ! 故に吾輩!この大火災の場において!」
赤熱するアイアンサイドが、馬と共に跳躍! 大剣を振りかぶり、隕石のようにバーサーカーへ飛びかかる!
「『無敵鋼人大胆不敵(インヴィンシブル・アイアンサイド)』!!!」
SMAAAAAASH!!
「■■■■■■■■■■■■!!」
KRAAAAAASH!! 石畳が爆散! 大剣一閃、バーサーカーの右腕を根もとから切断! バーサーカーは毒液を撒き散らしながら絶叫! 悶え苦しみ、引き下がって距離を取る! 傷口と、切断された右腕が炎に包まれる! なんたる恐るべき攻撃か!
「■■■■■■■■■■■■!! ■■■■■■■■■■■■!!」
「ふん! 脳天を叩き割るつもりでおったが、少しはやるではないか!」
狂乱市民たちも騎兵隊によって左右に押し開かれ、セイバーへの道が開く!
思わぬ援軍に、セイバーは動揺! 道路にタンを吐き捨て、背を向けて逃走!
「ちいッ! こうなりゃ、逃げるが勝ちよ! 死者を増やすだけ増やして、後で絶対ぶっ殺してやるぜぇ!」
「「逃がすかァ!!」」
マシュとアイアンサイド、二騎のシールダーが後を追う! 鉄騎兵も! だが!
「■■■■■■■■■■■■!!」
バーサーカー・ナックラヴィーがまだいる! 絶叫、狂乱! 重傷をものともせず、左腕で鉄騎兵を薙ぎ払い、馬上のアイアンサイドに掴みかかる! アイアンサイドは赤熱する甲冑と盾でナックラヴィーを受け止め、灼く! ZZZZZZTTT!! 立ち昇る焼き昆布めいた食欲をそそる薫り!
「■■■■■■■■■■■■!!」
「マシュ殿! ここは吾輩と鉄騎兵が引き受けた! 奴を追え!」
「はい!」
◆
『『『■■■■■■■■■■■■』』』
同時刻、テムズ川。水面にごぽごぽと泡がたち、波が動く。……なにかが、蠢いている。ザザザザザ……。水面が激しく揺らぎ、盛り上がり、なにかが……巨大ななにかが、身をもたげる。ロンドン橋を渡ってシティの南、サザークへ逃げる大勢の市民が、それを目撃する!
「「「「あ………アイエエエエエエエ!!!」」」」