忍殺TRPGリプレイ【ウィー・アー・ノット・ゴナ・テイク・イット】03
前回のあらすじ:ソウカイヤ・オムラ連合は崩壊し、ニチョームやネオカブキチョはアマクダリの傘下に降った。ニチョーム近くにシマを持つヤクザの女オヤブン・スパイダーリリィは、反アマクダリ派に与したとして手練れニンジャコンビによる襲撃を受け、激戦の末に打ち倒される!その時!
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深海に沈められたバイオヒトデめいて、スパイダーリリィの混濁した意識はニューロンの闇の中に力無く浮遊していた。食らったダメージは大きい。なんたるウカツ……弱敵という侮りがあったろうか。気が急いたか。連戦ゆえの集中力の乱れ……(((……なんと情けないことか。実際情けない)))
半ば呆れ、半ば嘲るような声が、スパイダーリリィを責める。彼女のニューロンに溶けたはずの、神代の強大なニンジャソウル「シ・ニンジャ」の声だ。「黙れ」スパイダーリリィははねつけた。(((このままではお前は死ぬ。否、死ぬよりなお酷いことになろう。力を利用され、搾取されるぞ)))
「黙れ……アタイは、やる。くだらねえ連中の支配に抗う……」抗って、何をする。今の彼女は、単独では、この小さなシマを守ることもできない。手下のヤクザたちがなすすべもなく殺されていく。ニチョームも、いずれ……「ザッケンナコラー……スッゾコラー……チャースイテッコラー……!」
スパイダーリリィの自我は、消滅に抗うようにマントラめいたヤクザスラングを唱える。カラテ。パンク。反抗。だが、あのシュライエンのようにではない。この世の王にならなくてもいい。全てを支配できなくてもいい。せめて、自分の周りだけは……!「くだらねえ!」誰かが叫んだ。男の声。
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KRAAASH!窓を蹴破り、誰かが飛び込んできた。
「待たせちまったな。ドーモ、スーサイドです!」
続いて、部屋の片隅に痩せた男が現れた。「ヒヒ……そこまでにしといてくれや。ドーモ、フィルギアです」
???
「ドーモ、ヴァニティです」「ヨモツブレードです。ついに現れたか、反アマクダリの不穏分子ども」2人はアイサツを返す。「確か『サークル・シマナガシ』とかいう愚連隊の一味だったな」「その通り」フィルギアはヘラヘラと笑い、両腕を広げる。相手は手練れ、あまりイクサはしたくない。
「実際アンタらは強い。戦えば俺らも無傷じゃ済まないだろうね。ひとつ、交渉しようじゃないか」「断る!」ヴァニティは取り合わない。彼女たちが派遣された目的は、シマとアジトの奪取だけではない。アーチ級ニンジャソウル憑依者であるスパイダーリリィの身柄を確保することも重要なのだ。
「ハイデッカーどもは下でのびてるぜ。俺のジツでな」スーサイドは鉄鎖を巻いた拳を鳴らして威嚇する。スパイダーリリィはヴァニティの足元。彼女を回収し、ニチョームへ退避させねばならない。彼女はスーサイドの知る少女ヤモト・コキに瓜二つではあるが、果たして何らかの関係があるのか。
「シマとアジトはアマクダリに引き渡すから、この女をニチョームに引き渡せと言いたいのだろう? ダメだ」ヴァニティはスパイダーリリィを踏みつける。彼女の怪力ならば、小柄な少女を一人や二人背負ったところで動きに支障はない。眼の前の敵たちを倒すか、担いで逃げおおせるぐらいは。
「なら、カラテだ!」「「望むところ!」」スーサイド、ヴァニティ、ヨモツブレードはカラテを構える。一撃必殺アトモスフィア!
戦闘開始
1ターン目
「ヒヒヒ……イイイヤァアアアーーーッ!」フィルギアは覚悟をきめてヴァニティの足元に飛び込み、スパイダーリリィを抱き上げる!彼の肉体は羽毛に覆われ、フクロウの頭部と翼を持つ悪魔じみた異様な姿に変身!このまま窓から飛んで逃げるつもりだ!「ちいッ、させるか!」「イヤーッ!」
ヴァニティとヨモツブレードは、うずくまるフィルギアの翼めがけ猛攻!猛攻!猛攻!どくん……フィルギアはニンジャアドレナリンを過剰分泌し、これを……SMASH!「グワーッ!」ヴァニティの拳が一発命中!痛烈!だが致命傷ではない!「頼むぜ!スーサイド=サン!」「おう!イヤーッ!」
スーサイドは鎖を巻き付けた拳を振り上げ、手負いのヨモツブレードへ殴りかかる!「ナメ……るな!」SLAAASH!ヨモツブレードは相手の動きを先読みし、すれ違いざまに斬る!イアイドー奥義「タイノサキ」だ!「グワーッ!」出血!スーサイドはよろめく!「貴様の行動はまさに自殺行為!」
2ターン目
「死ぬなよスーサイド=サン!オタッシャデー!」フィルギアは気絶したスパイダーリリィを抱きかかえ、窓から飛び出す!バサム!大きな翼が広がり加速!夜空をニチョームの方向へ飛び去った!「ファック!テロリストどもめ!」ヴァニティは毒づくが後の祭りだ。ならばスーサイドを確保すべし!
「「イイイヤァアアアーーーッ!」」ヴァニティとヨモツブレードの猛攻!猛攻!猛攻!スーサイドは決してサンシタではないが、手練れ相手の2対1では圧倒的不利!どくん……彼は反抗精神を燃やし、ニンジャアドレナリンを最大限に過剰分泌!迫りくる拳と刃を……「イヤーッ!」見切って躱した!
「アバヨ!イヤーッ!」KRASH!スーサイドは窓を蹴破り、ビルの外へ身を躍らせた。アキレス腱をやられたヨモツブレードはともかく、ヴァニティなら追いつける。だがビルの下には、異様なものがあった。うねり、うごめく鉄の茨……鉄条網が。その中心にいる大男が、スーサイドを受け止めた。
大男は金色の目を輝かせて、周囲を見回している。ヴァニティは舌打ちした。あれは、アナイアレイターだ。強力なアーチ級ニンジャソウル憑依者。真正面から戦えば勝つ自信はあるが、他に仲間たちもいるはず。こちらは手負いもいるし、ハイデッカーたちはやられてしまったようだ。仕方なし。
「潮時だな。撤退だ」ヴァニティはそう告げ、手負いのヨモツブレードを担ぎ上げた。「追わないのですか」「逆に取り囲まれた。ミイラ取りを呪ってミイラにするつもりとはな。やってくれる」KRASH!ヴァニティは窓の逆側の壁を殴って破壊し、異様な鉄条網に絡みつかれたビルから脱出した。
戦闘終了
エピローグ
「う……」スパイダーリリィは体の痛みを感じ、目を覚ました。包帯が巻かれ、応急手当されているが、肋骨が折れ砕け、内臓もやられている。手加減されていなければ、あのまま心臓が破壊されて即死だった。「クソが……」なんたる屈辱。彼女はベッドから身を起こし、周囲を見回す。ここは。
「起きたか」薄暗い病室の片隅に、痩せた男が立っていた。「ドーモ、スパイダーリリィ=サン。俺はフィルギアです。ここはニチョームだ。アンタが殺されそうになってたから、仲間たちと一緒に駆けつけて、助けてやった」「……ドーモ」スパイダーリリィはオジギを返す。結局、ニチョームか。
「アタイに仲間になって、ニチョームを守れってンだな」フィルギアは真顔で頷いた。「そうだ。このままだと、アマクダリはネオサイタマをつまらねえ更地にしちまう。その前に、なんとかする」「どうやって」「考え中さ」フィルギアはため息をつく。「ことによっちゃ、ジグラットへカチコミだ」
かくして、スパイダーリリィはフィルギアたちによりニチョームへ庇護された。だが、アマクダリ・セクトがこれで諦めるとも思えない。秩序社会の恩恵を受け、NSTVの報道に煽られる一般市民にとって、いまやニチョームは邪悪なテロリストの巣窟だ。遅かれ早かれ多数のニンジャが攻めて来る。
善か悪か、正義か不正義かではない。互いの価値観の衝突だ。抑圧への反抗と、反抗への抑圧の対立構造だ。どちらかが強まれば、反作用でもう一方も強まるというだけに過ぎない。自由な場所を提供してほっておいてくれるのが一番だが、そうしないのなら抗い、戦うしかない。生き残るために。
【ウィー・アー・ノット・ゴナ・テイク・イット】終わり
リザルトな