【AZアーカイブ】趙・華麗なる使い魔 第9回 趙・封神大戦!!
突然、ルイズとワルドの目の前に現れた、謎の男・伏羲(ふっき)。その背後の『ゲート』から、わらわらと人々が出て来た。半透明の者や、どう見ても化け物な存在まで。
「ふ……フッキ!? 『始まりの人』って、まさか六千年前降臨された『始祖ブリミル』!?」
「まぁ、始祖だがのう。そちらで言うブリミルとやらより、ずっと昔からおるよ。異世界でも、どうやらわしらの言葉は通じるようだのう。時におぬしら、趙公明の奴を知らぬか?」
「彼が1ヶ月ほど前、急に『神界』から姿を消しました。よく調べると、他にも数十名の神が消えており、詳しく捜索した結果、ここにたどり着いたわけです。『神界』の管理者である、元始天尊さまの監督不行き届きですね。 定例会議が月一から段々伸びて、百年に一度になっていたそうですし」
「変化に乏しい世界だし、みんな不老不死だから、時間感覚がおかしくなるのはしょうがないよ。それで、宝貝もいくつかなくなっていたんだ。この世界にあってはならないオーパーツだし、回収しなくちゃね」
青い長髪で黒マントの美青年と、天使のような美少年が現れる。ルイズは思わず頬を染めた。
「プッ、プリンスは今ニューカッスル城よ! あっちの方角! 反乱軍『レコン・キスタ』の空中艦隊と戦っておられるわ!!」
「うーむ、異世界の歴史に介入するのはマズイのう……まぁとりあえず説得してみて、ダメなら再封神だ。……ところでおぬし、その杖はわしの『打神鞭』か?」
ワルドの持つ杖に伏羲が反応する。ワルドは答えない。
「でも望ちゃん、宝貝は持ってるでしょ?」
「うむ、ここにのう。ちゃんと『太極図』もついたやつが。……では、これはレプリカということか? ちと渡してもらうぞ」
伏羲が軽く杖を振ると、風の輪がワルドの手足を縛る。なすすべもなくワルドは杖を奪われ、ルイズは空中に立つ伏羲の腕に掴まる。
「あ、ありがとう……ございます、『始祖』さま」
「ニョホホホ、礼には及ばぬ」
伏羲がいきなりぬいぐるみのように簡略化した姿になり、ルイズはぎょっとした。
◆
ワルドの杖を、伏羲が調べる。確かに宝貝のようだが……。
「ムゥ……いくつかの魂魄が、この中に封印されておるっ! いなくなった劉環に、陳桐に、張桂芳と風林……む? この金髪の男は知らんぞ」
「ウェールズ皇太子だ。さっき僕が殺した」
「プ、プリンスとワルドが、さっき天数がどうとか白い女神とか、『歴史の道標』がどうとか、よく分かんないことを話してたわ……あんたたち、知ってるんでしょ!?」
ルイズは始祖相手にタメ口だ。見た目は若いし、あまり貴族らしくないからなのか。それを聞いた伏羲が、渋い顔をした。
「……ああ、よーくな。まったく数千年振りに聞いたぞ」
「やはり、奴か!! しかし、なぜまたこのような異世界に?」
「燃燈よ、あやつもわしと同様、魂魄を自在に分裂させる能力があった。その欠片が何かの拍子にこっちへ紛れ込み、この世界の影響を受け変質して、 またぞろ妙な歴史を作っておるのではないか? さしずめ六千年前の始祖降臨とやらが怪しいのう」
「……あの、あなたたち何者?」
「神だ。全知全能でも、唯一絶対でもない。もとは人間だったり妖怪だったり、いろいろだ。人類社会や地球環境がそれなりにうまく回っていくよう、調整しておる。歴史自体は人間のもので、あまりわしらは介入せんがのう」
「まだ肉体を残した『仙道』や『妖怪仙人』も沢山いるよ。僕は魂魄体の『神』。望ちゃんは『始祖』だし、やるだけやったから、今はサボり放題なんだけどね」
天使が笑う。フッキとかスースとかボーチャンとか、どれが本名なのだろうか。
「趙公明がこっちに来ていた事は、わしが始祖の力で調べたが、詳しい事は分からんでな。すまぬがちょっとおぬしらの記憶を覗かせてくれ。少しでよい」
ルイズとワルドの額に、伏羲が手袋をした掌をのせる。
「……ふむ、ふうむ、なるほどのう。あやつめ、このワルドを『封神計画』の遂行者に選んだのか。そりゃ強力な風を使えるメイジだが……『ちんとう』を倒してもあまり自慢にはならんかのう」
どうやら、ワルドもしばらく妖怪退治をしていたようだ。
「ではスープーよ、このルイズを乗せて安全なところへ連れて行け。
わしらは趙公明をどうにかせねばならん。面倒だのう」
「ラジャーっス、ご主人!!」
ルイズは、ポフッと空飛ぶ喋る白いカバの背中に座らされる。
「……ま、待って! 私もプリンスのところへ、ニューカッスルへ連れて行って! 彼は、一応私の『使い魔』よ! 説得するって言うのなら……!」
「うーむ、まぁよいが、趙公明は連れ帰るからな。我慢せい。あのような非常識で強大な存在、野放しには出来ぬぞ」
「プッ、プリンスは最も高貴な『真の貴族』よ!! 私から彼を取り上げないで! お願いよ!!」
スープーの背中で騒ぐルイズに、伏羲も閉口する。
「あーもー、めんどいのう。説得の役には立つかも知れんし、連れて行ってみるか……」
「お兄様―――――――っ、どこにおられるの―――――――――っ!!!」(ドカ――――ン)
ゲートから化け物どもが現れた。『飛刀』がいつか見せてくれた、プリンスの妹たちだ。
「げぇっ、ビーナス!! ええい急ぐぞスープー、ニューカッスル城へ! ルイズ、案内せい! ワルドは誰ぞ、そこのゲートを潜って『神界』へ封印しておけ!」
「わ、分かったわ、こっちよ! プリンスがピンチなら加勢しなきゃ!!」
「ピンチってのう……記憶を見せてもらったが、この世界の艦隊ごとき、あやつにはいくら集まろうと、ピンチのうちにも入らんぞ。核兵器でも使わねばのう」
あれだけの艦隊を向こうに回して、ピンチのうちにも入らない、だって? ……マジですか?
「え゛……なによ、カクヘイキって」
「この世界を構成するごく微小な粒子から、途轍もない力を引き出す科学技術を利用した兵器だよ。具体的にはウラニウムをね……」
「普賢よ、今はそんな話はよい。この物理オタクめが」
◆
神々とルイズは、一路ニューカッスルへ飛ぶ。すでにそこには、深い森ができていた。趙公明の生み出した妖怪密林だ。趙公明の原形『巨大花』も、『レキシントン』号を押し潰して着陸し、さらに巨大化していた。
「……遅かったか……このままでは、ここら一帯養分を吸い尽くされて、死の砂漠になりかねんぞ」
「お兄様、お迎えに参りましたわっ!!! 心配いたしましたのよ!!」
趙公明の顔がついた巨大な花が、ぐぐっと振り向いた。ルイズは仰天する。
「「おお、ビーナス、クイーン、マドンナ! それに太公望くん、もとい伏羲くん!! 久し振りだね、元気だったかい? おや、ルイズも一緒とは、どうしたことだね?」」
一行はさっそく、説得にかかる。
「趙公明よ、妹たちも心配しておるし、早く人型をとって『神界』へ帰還せい! わしら神々は、地上のことに深入りせんと、誓約したであろう!!」
「「ノン! 僕はそこのミス・ルイズ・フランソワーズに召喚され、正式に契約したのさ!! 高貴なる美少女のナイトとして、華麗に戦えるこの世界にいるのを邪魔するのかい? 帰還させたくば、僕と戦って倒してみたまえ!!!」」
趙公明が、取り込んだフネから砲火を放って威嚇する。『ガンダールヴ』の力だろうか。
「「ワルドくんはどこだい? 彼とも決着をつけねば!! ハハハハハハ!!!」」
「その人は捕まえたっス! 『神界』に戻るっスよ、趙公明さん!!」
「「ノンノン!! 僕は帰らない!!」」
「プリンス! お願いよ、もう終わったの!! やめて!!」
「「ノンノンノン!!! まだ暴れ足りない!!!」」
「……三度目、だね。望ちゃん」
「うむ……説得は失敗だ、ルイズにビーナス。では燃燈、楊戩、張奎、奴を再封神する。皆はルイズとビーナスを連れて、向こうへ下がらせい」
伏羲が神々に命令する。二人は神々に連れられて、離れたところへ避難させられた。
「……しかし、どうするんです師叔、アレを……倒すだけなら可能ですが……」
「申公豹の『雷公鞭』や哪吒の『金蛟剪』や燃燈の『盤古幡』では、この浮遊大陸ごと落としかねんな。おぬしの『六魂幡』は魂魄を消してしまうし、張奎の『禁鞭』でもアレは倒し切れんし……ぬぅ」
「やっぱりここは、望ちゃんにやってもらおうよ。せっかくだし」
「そうだのう……毛玉、セミ、普賢。ちょいと協力せい、陣を布く」
「私は毛玉ではない、袁天君でありおりはべり」
「我はセミではない、董天君なり(ミーン ミーン)」
4人は軽く相談すると、趙公明を中心に四方を囲み、宝貝を発動させる。
「……宝貝『打神鞭』と『太極符印』、及び亜空間系宝貝『寒氷陣』『風吼陣』のリンク完了……。いいよ、望ちゃん!!」
「よーし、じっとしておれ趙公明!! 太極、両儀、四象、八卦……!
空間系宝貝『誅仙陣・改』!!」(ヴヴン)
ばかでかい立体魔法陣が巨大花と森を包み、氷雪の嵐が襲い掛かる。物理を操る電脳宝貝『太極符印』が気圧や温度を調節し、宝貝同士をリンクさせる。亜空間系宝貝『寒氷陣』と『風吼陣』が吹雪を起こし、植物を切り刻む。
伏羲の『誅仙陣』は、本来は魂魄を溶かす雪を降らせるのだが、今回は『打神鞭』で風を操り、限定空間内に猛烈な疾風を吹き荒れさせる。ピシィ、ピキィと巨大植物たちが凍りついていく。
「「……う、あ、あああああああ!!! また僕が凍る、凍りつく!!」」
「プリンス!!」「お兄様!!!」
風の国アルビオンに雪風が吹き、趙公明は瞬間冷凍された。