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【FGO EpLW 殷周革命】第六節 九州何処埋蔵鼎

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「うぅ…………」

目覚めると布の天井。気温は低く、薄暗い。天幕の中の簡易ベッドの上だ。ったく、まだ終わらねぇのかこの悪夢は。寝ぼけ眼のまま右手を動かし、額に掌を当てる。頭がズキズキするし、全身がダルいが、まぁなんとか大丈夫だ。鼎から出されてるってこたぁ、まぁ無事なんだろう。

幔幕越しに声。作戦会議中か。
「敵は倒したが、被害は甚大だ。孟津の船着き場は当分の間使えまい……」
「東へ進み、河と汜水との合流点から渡った方が良いでしょう。冬場で水は少ないものの、ここはもともと風が強い……」

なんだか分からんが、こいつらを向こう岸へ渡すにゃ、早ぇとこあっちの連中を片付けねぇとな。んじゃ俺たちもブリーフィングといくか。どのみちグズグズしてられねぇ。

……俺って、こんなに勤勉だったかな。ウォッチャーやエピメテウスの野郎に、なんか精神操作されてねぇだろうな。ま、裏や深いこと考えてもしょうがねぇ。恩恵として受け取っておくか。帰ったら祝杯だ。

―――で、エピメテウスは、どこやったっけ。

『マスター、起きただか。数時間ほど寝てただな』
「ん、ああ、起きたぜ。枕元か。他の連中はどこだ……」
『後片付けの手伝いと警戒中だけンども、幸いにもう襲撃はねえだな。念話でランサーを呼んでみるとええだ』

身を起こし、言われるまま念話を繋げる。ランサーが答え、すぐ他の連中を呼び集めた。
「マスター、ご無事でなにより」
「おう、ご無事ご無事。……インド人さんよ、顔色悪ぃが大丈夫かよ」
「ぼちぼち……本来、あの『雲の壁』を維持するだけでもキツイんですよ。後からいろいろ盛られてますけど、私、魔術師が本職じゃないんですよ」
「あんたが頼りだからな、鼎からしっかり魔力吸っといてくれ。……おう、王様。無事でよかったぜ、だいぶ被害出しちまったが……」
「は。いや、命がけのご活躍、なんと御礼を申し上げたらよいか……今、粗末ながら夕餉をご用意致します」

あんたが死んだら、なんか俺たちも道連れらしいからな。とは言わなかったが、どうもこいつも顔色が悪い。あんなもん見りゃ当然だろうが……念話でランサーに聞いてみる。
『史書によれば、殷の紂王を倒した後、武王の余命は数年であったそうな。寿命、天数というものであろう。が、王子は既に成人しておられるとか。周公旦や太公望ら群臣もいる。あとは彼らが、歴史を繋いでいくはずだ』
ふーん。英雄様も寿命にゃ勝てねぇか。英霊たちも、基本は死んだ英雄だしな。巨人族のエピメテウスや死神のイシュタム、半分人間のシールダーは別として。

「アタシは魂食えてツヤツヤよ。どのみちあの世に行くんだもの、引導渡して損はないでしょ」
「物騒な奴だ。……まあよい。シールダー、ダ・ヴィンチ殿を呼んでくれ。作戦会議だ」
「はい」
なんだかセイバーの野郎が場を仕切ってやがる。まぁ、こいつだけ同じエンシェント・チャイナ出身らしいからな。張り切ってんだろう。

ダ・ヴィンチも呼び出され、王様も加えて、一同が車座になる。下は地べただが、敷物はいくらか敷かれている。

おっと、晩飯も来た。各々の目の前に小型テーブルが置かれ、その上に皿が並べられていく。なんか雑穀を炊いたのと川魚の煮物と、肉や野菜の細切れ入りスープ。古代だけに素朴だが、いつぞやのアトレよりゃだいぶマシだ。盃には白濁した雑穀の酒。スプーンはついてるが、この時代にゃ個人用のチョップスティック(箸)ってやつはねぇらしい。

「では、食べながら九鼎について議すとしよう。残り三つがどこにあるかだが、余に意見がある」

◇◇◇

夜、孟津、周王の天幕。セイバー・勾践が、一同を前に九鼎について講釈する。明かりは灯火と、自ら光る鼎だ。
「よいか。そもそも九鼎というのは、我が遠祖たる夏后禹が、九州の牧に銅を貢がしめて鋳造したもの。徳あれば重く、徳なければ軽し。炊かずして自ら烹え、挙げずして自ら蔵れ、遷さずして自ら行く。宗廟の宝器である」
すっ、とマスターが手を挙げる。ティピカル・ロウライフアメリカンである彼に、難しいことはわからない。
「質問。九州、ってどこだ」

いきなり話の腰を折られ、セイバーが渋い顔をする。だがまあ、相手は東洋人ではないのだ。怒ることもあるまい。
「……実のところ、九鼎や九州・五岳が盛んに言われ始めたのは、余の死後だそうだ。余の宝具の霊能も、余が死んで何百年も後に記されたに過ぎぬ。 しかし英霊として、後付けで知識はあるゆえ、教えてつかわそう。飯を食いながら黙って聞いておれ」
「うす」
「と申しても、あらかたエピメテウス殿の受け売りだがな。お前が寝ておる間に相談して聞いた話だ」
かくっとマスターがこけた。

セイバーは木の枝で地面をガリガリとひっかき、大陸の地図を描いた。そこにいくつかの河川を刻んでいく。
「禹は天下を九つに分けた。河水より南、漢水・淮水までを豫州という。余たちが今おる、ここだな」
河水らしき線の下に、ぐるりと円を描く。それから、その線の上にピシリと枝を突く。
「河水より北は冀州だ。東に行くと、河水と済水の間に允州がある。この二つは殷商の領域で、冀州には今は入れぬ」
そのまま時計回りに、河や山で区切られた領域を指摘していく。
「その東方、泰山より海に至るまでは青州。泰山より南、淮水までは徐州。淮水以南は揚州。その西、漢水以南は荊州。その西、秦嶺以南は梁州。その北、秦嶺以北が雍州で、周の領域だ。これを九州という」

ランサー、シールダー、キャスターたちは頷いているが、マスターやアサシンには耳慣れない言葉ばかりでさっぱりだ。周王は感心した様子で顎髭を撫でる。
「……ええとつまり、カリフォルニア州とかそういうのか。それがなんだってんだ」
セイバーが、右手の指を三本立て、目の前の鼎を指す。
「天下に九鼎を配置するなら、九州と対応させるであろう。ここに三鼎があるということは、いま周の勢力が三州にまたがっておることを示す。すなわち、西方の雍州と梁州、中央の豫州だ。五岳のうち華山は雍州、嵩山は豫州に含まれる」
『ふむふむ。もう一つに五岳はないが、鼎はあると。で、さっき行った嵩山の分は、もうここにあるというわけだね』
「左様。で、殷商の三鼎は冀州、允州に加え、青州も含んでおろう。恒山と泰山がこれに含まれる。泰山は徐州の北にも接しておるが」

ピシピシと枝で地面の地図を叩くセイバー。ランサーが口を開く。
「とすると、あと三つは」
「当然、その他の三州。徐州、揚州、荊州だな。ここに含まれる五岳は、南岳衝山だけだ」
『天下三分、三王鼎立というわけか。なるほど、有り得そうだ』

ダ・ヴィンチがカルデアの職員にデータを要求する。
『ええと……だとすると、以前言ったように、候補は二つ。安徽省の「古南岳」天柱山か、湖南省の衝山』
『湖南省のが南岳になったのは、確か隋以後の話。それまでは長らく、安徽省の方だったはずだなや』
「余の国にあった会稽山も禹の霊山だが、流石に遠すぎるか」
『天柱山の100kmほど北には、禹が諸侯と会盟したという塗山もあるね。あと荊州の霊山と言えば、漢水の南に荊山。だだっ広いし、黄帝が鼎を鋳たっていう荊山とは別みたいだけど……九疑山は遠すぎるし……五岳でなくても、霊地が多いなあ』
周王も発言。
「南は荊蛮や苗民、東南は淮夷や人方の領域。しばしば商の遠征を受けています。周の味方ではありませんが、商に与しているわけでもありません」
ランサーが口を挟む。
「孟津と殷の都に三つずつあるなら、残り三つも一箇所にあるかも知れぬ。希望的観測だがな」

マスターはスープを啜り、雑穀飯をかっこみながら答える。酒は残念だがいまいちだった。
「一箇所にまとめておいてくれると、こっちゃ楽でいいんだがな……」
『「遷さずして自ら行く」が本当なら、お前さンが人徳を積めば飛んで来るンでねえか』
「悪かったな、人徳がなくてよ。……んじゃ、飯食い終わったら行くか」

一足早く食べ終わったシールダーが、呟いた。
「……今回は、わたしがここに残ります」
一同が彼女を見る。続けて、
「アーチャーが結界を破った場合や、ライダーが復活した場合などに備えて、わたしがここと鼎を守った方がいいと思います」

『まあ、そうだね。今回はうまくいったが、ギリギリだったもんね……』
「過ぎたことは言わないけど、経験は活かした方がいいね。念話できるランサーも、もっかい残る?」
「……そうするしかあるまい。鼎と契約できるのはマスターだけだ。セイバー殿、アサシン殿はどうする」
「余の宝具も、アサシンの宝具も、敵を察知し罠にかけるのに長けておる。残っても良いが……」

置いてけぼりで話を進められ、マスターが拗ねる。同じ釜の飯を食ったが、どうもシールダーとは反りが合わない。
「なんでぇ、ツンツンしやがって。俺とキャスターズだけで行けってのか。こっちの戦力が足りなくてやられちまったら、お前らも全滅なんだぞ!」
見かねて、アサシンが助け舟を出す。
「まあまあ。んじゃ、今回はアタシが同行するよ。備えるに越したことはないけど、備えすぎてどっちかが疎かになってもねェ」
「へっ、あんがとよ。危なくなりゃァ、馬車で逃げりゃ済むが……だいたい、なンでシールダーと念話できねぇんだ。なんか言えエピメテウス」

愚痴るマスターに、エピメテウスが推測を述べる。
『仮契約、みたいなもンだからだろな。もともとシールダーのマスターはフジマルで、お前さンがイレギュラーな形で入れ替わっちまっただ。だから、まだ心を許してねえだ。心を開き、回路を開けば、たぶン通じるはずだ』
マスターが眉根を寄せ、両のこめかみに人差し指をつける。
「回路ってんなら、鼎を通してがっつり魔力吸われただろ。あれでなんとかなってねぇか……そりゃ」

『……セクハラな思念を送らないで下さい。ブッ殺しますよ』

即座にシールダーから物騒なレスポンスが返り、マスターは冷や汗をかく。
「うおっ、通じた。なんでぇ、心を許して無くても、回路は素直……痛ッ、頭がッ! ガチの殺気を送るな、チクショウ」
「あははは、良かったじゃあないか。んじゃランサー、アタシと代わる?」
「マスターがシールダー殿と念話できるのであれば、拙者がマスターをお守り致そう。人格的にどうであれ、彼を死なせるわけにはいかぬ」

メンバーは決まった。もう夜中だがぼやぼやしてはいられない、急いで出発だ。一同が身支度を始める。
『おらはダ・ヴィンチに地図データを送ってもらって、インプットしてナビゲーションするだ。頭さ被っとけ。夜目もきくだ』
「おう。ああ王様よ、すまねぇが、もうちょい暖かそうな服ねぇか……」

◇◇◇

インド人が新しい馬車を借り、魔力で浮かせる。
「で、どう巡る。最初にすげぇ遠くへ行って鼎がありませんでしたじゃあ、インド人の魔力がまた尽きちまうぜ」
『一番可能性が高いのが、南岳の天柱山。孟津から600kmほど東南だから、三時間か。もし見つからなければ、その北の100kmにある塗山。先にこっちでもいいけど。これで揚州、徐州の霊地を巡る。荊山は面積が広大だし、後回しでいい。どこかで見つかるはずだけど……見つからなかったら、しょうがない」
「見つからねば、一旦孟津まで戻ります。それから湖南、会稽、泰山と足を伸ばすほかない。何日かかるやら」
「全部外れなら途中で落っこちて、最悪数百kmを歩いて帰んのか。そうならねぇよう祈るしかねぇな。悠長な話だ。ま、敵がここを狙ってきても、シールダーちゃんが護ってくれるからねぇー。安心安心、ゆっくり行こうぜ」
「まだ拗ねてるんですか。……それじゃ、ちゃっちゃと行って来て下さい。異変があれば、念話します」

おお、怖い怖い。元のマスターじゃねぇとはいえ、もうちょっと穏やかにゃならねぇか。言ってみりゃ使い魔なんだからよぉ、カルデアだかの超技術でマスターにゃ絶対服従とか好意刷り込みとかそういうの、ねぇかな……。
「ありませんよ、そんなもの」
「おいおい心を読むなよ、俺にもプライバシーってもんが」
「念話を使わずとも、顔を見れば書いてあります」

「茶番はよいか。では、急いで行って来い」
セイバーとアサシン、シールダーが残り、キャスターズとランサーが俺と同行する。よし、改めて出発!

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三宅つの
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