忍殺TRPGリプレイ【ウィン・ユア・ドリームス】02
前回のあらすじ:泣く子も叫ぶ正義の暴力集団、NSPD49課。そこに所属するニンジャデッカーたちが今回捜査するのは、数週間前からアジサイ・ストリートで起きている連続殺人事件だ。白昼堂々と殺人が行われているにもかかわらず、犯人は姿を見せていない。果たして何者のしわざなのか……?
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まずは情報収集だ。三人は資料室やUNIXルームに向かい、マッポデータベースや新聞記事から過去の事例を調べ上げる。確かに事件はアジサイ・ストリートで数週間前から発生し、被害者は軒並み即死か意識不明の重体だ。職業、年齢、性別などは、いずれも不特定。だが……共通点がひとつある!
それは犯行時刻だ!全て「平日の正午過ぎ」、午後0時15分から1時までの間に発生している!また殺人以外にも、同じ時間帯に建造物の破壊や軽傷等の事件が発生している。つまり犯人は、人間を殺すためだけに活動しているのではなく、人間を含めランダムに物理的被害をもたらしているのだ。
「これは、意志を持った誰かのしわざなのか? ビル風の影響など、なんらかの自然現象ということも考えられるが……」レッドフィストは腕組みして唸る。だとすると犯人は存在しないか、建築者の責任、ということになる。デッドエンドは納得するだろうか。「とにかく、現場に行ってみましょう」
時刻はちょうど平日の正午過ぎ。事件が起きるとすれば、それを直接調査すれば確実だ。物的証拠や被害の状況など、詳しい情報も手に入るだろう。三人は頷き、アジサイ・ストリートへ出動した!
アジサイ・ストリート
三人が乗ったマッポカーがアジサイ・ストリートにやってきた、その時!SMASH!「ペケロッパ!」眼の前で女性の頭が砕けた!ナムアミダブツ!「事件発生!」「ビンゴ!」「……!」時刻は、午後0時30分。三人は車から降り、デッカー証を見せながら「外して保持」テープを張る!
初動調査
「下がれ!我々は通りすがりのNSPD49課だ!何をするかわからんぞ!」ブラックマシーンは銃で威圧!「アイエッ!?」「49課!?」「ヤバイ!」野次馬たちやスカベンジャーは逃げ出し、現場を遠巻きに見守る。49課は正義と血に飢えた危険集団で、市民からは犯罪者よりも恐れられているのだ!
被害者は三人に応急手当を施され、最寄りの病院へ緊急搬送される。幸い発見と救助が早く一命を取り留めたものの、医師によれば頭蓋骨陥没による脳挫傷で意識不明の重体だ。意識を取り戻すかもわからないという。「頭部に何か、硬く丸い物体を、かなりの速度で叩きつけられていますね……」
医師は暗い顔で告げる。「ハンマーで直接殴られたような……」「おそらく、これだな」レッドフィストは透明なビニール袋に入れられた物体を医師に見せる。べっとりと血液が付着したそれは、ゴルフボールだ。「被害者の傍らで発見した。きっと、これが頭部に直撃したのだろう」「なんと!」
「指紋がついていればデータベースにアクセスし、犯人を突き止められる」「お手柄スね」「それと……N反応がある」レッドフィストは二人に小声で告げた。N反応、すなわちニンジャアトモスフィアだ。ニンジャは常に微量のカラテを空気中に放っており、ニンジャには独自の感覚で感知できる。
「被害者の身元がわかりました。フリープログラマーのイサリ=サンです」アイススリケンは所持品やIRC端末の調査を行い、情報を引き出す。「付近のアジサイ・チョット・ビルに入居しているケンソン・システムズ社に、派遣社員として勤務していたようですね。IDカードがあります」「ふむ」
法律に照らせばプライバシーの侵害案件だが、49課は気にしない。そしてゴルフボールに付着した指紋を調べたところ、「ハズマ」という男性のものと特定された。被害者と同じケンソン・システムズ社の若手営業社員だ。以前酒に酔って喧嘩騒ぎを起こし、マッポに指紋を登録されたことがある。
このハズマが犯人なのか?それとも真犯人は別にいるのか?さらなる調査が必要だ。三人はIRCで周辺地図を確認し、情報を整理する。
第二調査
すでに午後1時は過ぎている。推理が正しければ、次に事件が起きるのは翌日の正午過ぎだ。それまでに真犯人を探り当て、確保せねば!三人は中間報告をデッドエンドに行い、さらなる調査を開始する。デッカーの捜査能力は通常のマッポの50人分。それがニンジャとなれば……「わかったぞ」
三人はたちまち調査を終えた。アジサイ・チョット・ビルの所有者はカイカ・ソリューション社の持ちビルの一つで、本部長の「チギノ」が責任者となっている。そしてビルの屋上にはゴルフのティーグラウンドが存在し、チギノはここ数週間ほど、平日昼休みに打ちっぱなしを楽しんでいるという。
現場と件のビルの間は、1km以上は離れている。常人の打球ならプロでも300ヤード(約274m)超えがせいぜい、世界記録級で500ヤード(約457m)超というところだが、ニンジャなら可能な距離だ。また事件が起きるようになった時期と、彼の行動はピタリと一致する。真犯人は十中八九、彼だ。
では、ゴルフボールに指紋がついていたハズマは?彼についても調査したものの、めぼしい情報は得られなかった。だが裏を返せば、さほど重要な地位にいる人物ではないということ。昼休みに屋上でゴルフを楽しめるような優雅な身分ではないわけだ。ならば、なぜ彼の指紋がゴルフボールに?
「……たぶん、『セッタイ・ゴルフ』スね」ブラックマシーンがメガネを拭きながらつぶやく。「ケンソン社はカイカ社の下請けです。チギノ=サンの機嫌を取るために、ハズマ=サンがボールをセットしたとすれば、彼の指紋がついた理由が説明できます」「なるほどな」レッドフィストは頷く。
「そのチギノ本部長が邪悪なニンジャで、連続殺人事件の犯人だとします。どこかの暗黒組織に所属しているとすれば、そんな目立つようなことをするでしょうか?」アイススリケンが発言する。「ニンジャになったばかりで、そのパワーに酔いしれてるってとこか」「単独犯というわけだな。よし!」
こちらはニンジャ三人、相手は一人。多少の護衛はあるにせよ、奇襲をかけて囲んで殴れば圧倒的有利だ。証拠は揃っている。次の犠牲者が出る前に現行犯逮捕するのであれば、翌日の正午までに屋上に潜入せねばならない!だが、ビルのセキュリティは比較的厳重だ。どうやって忍び込むか……?
「前のようにヘリコプターで強襲するわけにもいかんな」「イサリ=サンのIDカードはあるけど、一人ぶんだけスね」「複製しましょう。ケンソン社の派遣社員を装えば、正面からビルに入れます」「よし」法律に照らせば犯罪だが、これも正義のためだ!準備期間は1日近くあり、彼らには充分!
潜入開始
……翌日、正午前。サラリマンスーツやオーエルスーツに身を包んで変装した三人はタクシーを降り、アジサイ・チョット・ビルに正面から向かう。入口付近には複数の監視フクスケ・ドローンが浮遊し、警備員が立っているが、複製・偽装したIDカードを受付に提示すると問題なく通過できた。
エントランスの奥にはエレベーターがある。屋上までは直通ではなく、ケンソン・システムズなど下請け企業が入った中層階までだ。そこから上層へは別のエレベーターに乗る必要がある。これもすでに調査済みだ。三人はニンジャ存在感を極力抑え、中層階行きのエレベーターに乗り込んだ。
???
ウイイイーーーンン……ポーン。『中層階ドスエ』電子マイコ音声とともにドアが開き、三人はぞろぞろとエレベーターを降りる。その時!「ソコニナオレー!テウチにしてくれる!」「アイエエエ!お許しを!デンチュウニゴザル!」正面の廊下の角から怒号と悲鳴!何事か!「狼藉者めがーッ!」
三人が駆けつけると、怒り狂った中年サラリマンがカタナを抜き払い、青年サラリマンを叱りつけている!中年はこちらに背を向け、青年はドゲザしており、ともにこちらには気づいていない。床には書類が散らばっており、不注意でぶつかるかしたのだろう。ネオサイタマではよくある事態だ。
「年収矮小なケンソンの平社員ごときが!年収壮大なドンロンの係長であるこの私に!貴様の年収は何円だ!」中年サラリマンは禿頭を真っ赤にして怒り狂っている。彼も疲れているのだろうが、このままでは目の前で青年サラリマンが斬り殺されてしまう。潜入作戦に支障が出ない程度に救援すべし!
戦闘開始
「「イヤーッ!」」SMASH!「アバーッ!?」中年サラリマンは背後から二人にミネウチ・トビゲリを食らい昏倒!ナムアミダブツ!
戦闘終了
「アイエッ!?」青年サラリマンはドゲザ姿勢から恐る恐る顔をあげた。「あ、あなた方は……!」「静かに。屋上へ行きたいの」アイススリケンは人差し指を唇に当て、片膝をついて尋ねた。青年サラリマンは驚く。「屋上へのエレベーターはあちらですが……い、今は屋上には行けませんよ!」
「それは、なぜ?」「な、なぜって……カイカ社の本部長チギノ=サンが、昼休みにゴルフしてるからですよ。うちの営業のハズマ=サンがセッタイしていて、誰も近づけるなって……毎日」「そう。じゃ、どこから行ける?」アイススリケンは冷たい指で青年の顎をつまんだ。「アイエッ……それは」
青年は震える指で、左手奥の方向を指さした。「あっちに確か、屋上施設のメンテナンスルームが……」「ありがと」「ムン」アイススリケンが指を離すと、青年はNRSで昏倒した。……周囲に監視カメラのたぐいはない。「では、あっちを調べましょう」「お、おう」「よし、行くぞ!」
【続く】
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