忍殺TRPGリプレイ【ライズ・オア・フォール】02
前回のあらすじ:仲間から分断され、オナタカミの追手を逃れた若き「鷲のニンジャ」たちの次の標的は、メイライ社の専務シロウ・イスヒ。因縁深きオナタカミと手を結んだ彼を見つけ出して暗殺し、メイライ社をボスであるアシッドウルフの手に取り返さねばならない。カラダニキヲツケテネ!
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一行は地下駐車場に入り、高速エレベーターで200階に到着する。ここはホテルのエントランスだ。雅な電子オコトが流れる中、ブルームキャットはライトニンググローブを従えて悠然とカウンターに進み、受付オイランに偽造身分証と滞在予約カードを提示して、難なくチェックインを済ませた。
荷物ケースに潜んだアースハンドは遠隔ハッキングで、サイバーメイヘムはサイバネアイとニンジャ感覚で、周囲の情報を収集する。標的「シロウ・イスヒ」は実際このホテルの最上層のスイートルームに宿泊しているが、部屋番号は明らかでない。そして216階から220階までは貸し切りだ。
貸し切ったVIPの名義は「オナタカミ」。貸し切られたフロアにはホテルのスタッフさえ自由に出入りできず、武装した護衛が全フロアを巡回警備している。おそらくニンジャの護衛もいる。それらに気づかれぬよう潜入し、シロウ・イスヒのいる部屋を突き止めるしかない。そして殺す。
エレベーターはUNIX制御されていて監視カメラもあり、使うのは危険だ。階段か排気ダクトを使うべし。『私たちの部屋は215階。そこから上ってことね』ブルームキャットが荷物ケースにしなだれかかり、小声で中の二人に話しかける。『そこまで運び込ませるから、その上はヨロシク』『了解』
潜入続行
マップ
第1フロア
アースハンドとサイバーメイヘムは、ブルームキャットの部屋からしめやかに這い出し、排気ダクトや非常階段を使って、音もなく上階へ忍び込む。まるで蛇や猫のように。ニンジャ野伏力のなせるワザである。最も可能性が高そうなのは最上階、220階だが、その間にもいる可能性は否定できない。
アースハンドは天井裏から蛇めいて生命反応を探る。フロアにはオナタカミ・トルーパーが6名ずつ配備されている。ニンジャアトモスフィアは感じ取れない。サイバーメイヘムは猫めいて動き、フロアの部屋の内部を一つずつ確認していく。標的の顔写真は車内で確認しているが、ここはハズレだ。
タッ、タッ、タッ……規則的なリズムで足音が鳴る。オナタカミ・トルーパーたちが階段を巡回しているのだ。二人は油断なく身を潜め、彼らをやり過ごす。オナタカミを敵に回している以上、見つかればただでは済まない。
第2フロア
……次のフロアにも標的は見当たらなかったが、警備ニンジャの存在を確認した。黒いボディスーツめいたテック・ニンジャ装束に身を包み、腕などをサイバネ化し、小型サブマシンガン二挺とダガーナイフを装備している。オナタカミ・トルーパーを率いており危険だ。相手にすべきではなかろう。
二人は身を潜めて巡回警備をやり過ごし、しめやかにこのフロアを立ち去った。果たしてシロウ・イスヒはどこにいるのだろうか。
第3フロア
次のフロアで、二人は施錠されたスイートルームを発見した。中に標的がいるかも知れない。アースハンドはホテルのセキュリティシステムを直結ハッキングし、カメラを通して中の様子を伺う。オナタカミ・トルーパーが3人と……イタリアンスーツを纏った、直結中のハッカーニンジャが1人。
『異常なし……と言いたいが、ヒヤリ・ハットもあるしな……』彼はブツブツ呟きながらセキュリティ状態を監視している。アースハンドよりはハッキング能力が劣るようだが、彼に見つかるわけにはいかない。……やがて、先程の警備ニンジャがやってきた。二人は身を潜めて様子を注視する。
警備ニンジャはドアをノックし、インターホンで内部と通話する。「モシモシ、ドーモ、ブラックトゥースです。異常はないか」『ドーモ、フォーマルエンドです。今のところないが、何か』「こちらもないが、ニンジャ第六感が少し警告を発している。気をつけろとな」『了解』「では、また」
ニンジャが二人。オナタカミ・トルーパーもあわせれば相当な戦力だ。アースハンドたちはこのフロアから撤退した。「無用に草むらを探ればコブラにアンブッシュされる」……古事記にも書かれている。
第4フロア
次のフロアにもスイートルームがあった。それも隣り合って二つ。一方からはニンジャアトモスフィアが僅かに感じられる。護衛ニンジャとVIPというところか。二人はニンジャアトモスフィアを感じない方へ忍び込んだ。薄暗い室内には豪奢なアンティーク家具があり、椅子に誰かが座っている。
長身痩躯の白髪の老人だ。彼はアンティーク机に向かい、何か書類をチェックしているようだ。こちらには背を向けており、気づいていない。二人はシロウ・イスヒの顔写真を思い起こす。確か白髪ではなかったはず……つまり、彼ではない。二人が踵を返そうとした時、老人は突然振り向いた!
「ドーモ、珍しいご客人!」彼はこちらへ顔を向け、そう言った。しっかりとシワの刻まれた顔、もみあげから顎まで繋がった白髭。なめし革めいた皮膚の下には異常な生命エネルギーが駆け巡っている。「私はダイザキ・トウゴだ。《メフィストフェレス》と呼ぶ者もいる。アイサツしたまえよ!」
アイサツをされれば、返さねばならない。ニンジャの掟だ。アイサツ前のアンブッシュは一度だけ許されている。二人が襲いかかれば簡単に殺せる。通報されれば終わりだ。だが彼の言葉には、何か魔術的な、人を引き付ける力が感じられた。この感覚は以前、どこかで……二人は立ち上がった。
「ドーモ、アースハンドです」「サイバーメイヘムです」「いい子たちだ」メフィストフェレスは目を細め、ソファを指し示した。二人はフラフラとそちらへ歩いていき、腰をおろしてしまう。「噂はかねがね。あのスターゲイザー=サンやドラゴンベイン=サンを手こずらせたとか。恐ろしいな!」
メフィストフェレスは立ち上がり、両腕を広げて肩をすくめる。「君たちが私に飛びかかれば、私は実際ひとたまりもあるまい。だが落ち着き給え。私は君たちと話がしたいのだ。悪くない取引だと思うよ」彼は一方的に話し続ける。「私を殺しても、すぐ護衛ニンジャたちがやって来る。隣にいる」
二人は青ざめた。ここは敵の腹の中、フーリンカザンだ。罠にはめられたのだ。「我々は互いにもっと相手のことを知るべきだと思うのだ。君たちのボスについても調べた。どうやら我々に近い存在らしい。そう、『鷲のニンジャ』とは何か、知っているかね?」メフィストフェレスは質問した。
???
どくん。二人の腕のサイバネ『鷲の腕』から、黒い液体が体へ注ぎ込まれる。誰か他人にその言葉を交えて質問された時、それは自動的にそうする。二人の瞳が曇る。「「……いいえ」」「おやおや、知らないのか。それとも、そう答えるよう洗脳されているのか。こんな可愛らしい子供たちを」
メフィストフェレスは大げさに悲しげな表情をした。「では、聴き給え。それはY2Kと電子戦争以前にこの惑星を闇から支配した『鷲の一族』を守るための存在であった。私は実際詳しいのだ。かくいう私はそれではないが、一応Y2K以前にニンジャとなった者でね。『鷲の一族』とも親しかったよ」
彼は秘められた情報を開示していく。「第二次世界大戦……Y2Kの遥か前、20世紀前半に、そう呼ばれた戦争があった。それが終わったあと、私はアメリカに移住し……その国も、今は存在しないが……『鷲の一族』と知り合ったのだ。私は彼らと取引した。才覚があったのでね。随分儲けさせて貰った」
メフィストフェレスは目を細めた。「さて、アメリカには中央情報局、CIAという機関があった。国内外に秘密工作を行う重要な機関だ。暗殺や洗脳も当然行われており……その長官であった男が、ニンジャとなった。彼がアシッドウルフ=サンだ。彼は『鷲の一族』ではなかった。その手駒だ」
「手駒……『鷲のニンジャ』?」アースハンドがようやく問い返した。メフィストフェレスは顎髭を擦る。「そうなるな。そして数十年後……Y2Kが起きた。酷いものだった。世界中のUNIXが大爆発を起こし、無数の命が失われ、『鷲のニンジャ』も『鷲の一族』も滅び去った。僅かな生き残りを除いて」
「その一人が……」「そう、アシッドウルフ=サンだ。だが彼は自らの死を念入りに偽装し、ごく最近まで表に姿を現さなかった。その間に、持ち前の洗脳技術や偽装工作技術を駆使して、独自の組織を築き上げていたのだよ」彼は二人に喋る隙を、疑念を差し挟む隙を与えない。タイジン・ジツだ。
「彼の組織は。君たちは。我々と敵対すべきではない。なぜなら。我々もまた『鷲のニンジャ』であるからだ」メフィストフェレスは威圧的な声で宣言した。「我々の首領は『鷲の一族』の生き残りだ。彼は最近、我々をこう名付けた。天から下り、天下を統治する者。『アマクダリ・セクト』と」
メフィストフェレスは目を光らせた。「『鷲の一族』を首領とし、その下に無数のニンジャやモータルが集い、渾沌たる世界に真の平和と秩序をもたらすための秘密結社だ。これほど崇高な理念もあるまい。オナタカミはその一部に過ぎぬ。君たちにも、アシッドウルフ=サンにも加わって欲しい」
「「うう……!」」二人はうめき声をあげた。「君たちについても調べてある。もとソウカイ・シンジケートの下級エージェントで、アシッドウルフ=サンに籠絡・洗脳され、手駒にされているとね。だが……過去は問うまい。君たちの未来は君たちが、自分の意志で決めるのだ。渾沌か、秩序かを」
メフィストフェレスの声が部屋に鳴り響く。「生きるか死ぬか。天の高みに昇るか、ジゴクへ落ちるか。二つに一つだ。天秤は君たちに委ねられた。わかり合おう。できれば、私に力を貸して欲しいな」「「ううう……!」」二人はガタガタと震え出した。『鷲の腕』からの浸食が強まっている!
【続く】
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