【FGO EpLW アルビオン】第三節 Evil Wind
――――大気が、大地が、震えている。樹木がざわつく。これは。
「時が来た!」「ぶつかる!」「殻が割れる!」「渾沌が訪れる!」 「戦争だ!戦争だ!」「最後の時だ!」「終わりの日だ!」「終わりの始まりだ!」
多数の声が脳内に響く。なんだ、これは。誰の声だ。
次の瞬間、天空に亀裂が走り……!
◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆
なんだ、あれは。天空に走った亀裂の彼方に、森林が見える。逆さの森林が。
なんだ、あれは。天空に走った亀裂の彼方に、地面が見える。逆さの地面が。
「アサシンか!?」
「えっ、セイバー!?」
互いの顔を『見上げる』。あちらとこちらの天空同士がぶつかり、卵の殻のように割れたのか。轟音と共に、世界の壁が割れ、砕け、崩れる。……やがて静かになる。互いの天空に空いた穴はそのままだ。
「ちょっと、こりゃ……あんたの方へ抜けられるのかい? 声は聞こえるし……」
アサシンは、高い木の上にいるようだ。こちらは地面。ここから穴まで、そう遠くはない。
「小枝なりなんなり、こちらへ投げ入れてみろ」
言われるままに、アサシンが小枝を縄で折り、投げ落とした。向こうから見れば、投げ上げた。穴の途中で少し留まったが、思い出したようにこちらへ落ちてきた。大丈夫そうだ。
「……いけそうだね。ええと、こっちに一騎、ライダーがいるけど……あんたの方は?」
アサシンの傍らに、なにやらもやもやしたものがいる。あれは、鳥か。その周囲に妖気を纏っている。
【ホー、ホー、ホー。どーも、ライダーです】
「ああ、余はセイバーだ。ひとりだが、こちら側にも誰かおる。先ほど集団で襲われた。……とりあえず、両方ともこっちへ来い!」
位置的に『穴』に近いのは、樹木の梢にいるあちらだ。アサシンが眉根を寄せる。
「こっちからすると、飛び上がることになるけど……そっちは地面だけ? 縄が結べそうな場所はない?」
【ホー、ホー。大丈夫さアサシン、オレが運んでやるよ】
ライダーがそう言うと、アサシンの体がふわりと持ち上がる。ライダーの周囲の妖気が腕を伸ばし、掴み上げた。そのまま両者は穴をくぐり抜け、こちら側へ降り立った。
「う、なんか今、変な感じがしたね……。ありがと、ライダー」
【どういたしまして。……ホー、ホー、やあセイバー。オレ様、協力してやってもいいよ】
ライダーは……どうも不吉な感じだ。親切なような、底意地の悪いような。『悪』の属性であることは間違いない。
「アサシン。こいつは、信用がおけるか」
「アタシもさっき出会ったばかりだけどさ。まあ、いきなり襲っても来ないし、アタシを運んでくれたし。一応信じていいんじゃない?」
腕を組み、改めてライダーに誰何する。
「ライダー。協力するというなら、そちらから真名を名乗らぬか」
【いいけど、そっちも名乗り返してね】
「よかろう」
ばさり、とライダーが翼を広げる。骨がむき出しになった片方の翼を、恭しく挨拶するように胸の前へ。
【ホー、ホー、ホー。オレ様は、風に乗りて歩むもの。『ウェンディゴ』さ。知ってる?】
真名判明
ライダー・ゴースト 真名 ウェンディゴ
「知らぬ。……余は、『勾践』だ」
「アタシは『イシュタム』。よろしく。ウェンディゴ……あー、アタシ知ってるかも。知識として」
「では、説明せい。……いや待て、こちらには敵どもがうろついておる。まずはあの廃墟の中へ隠れよう」
◆◇
天地がひっくり返るような轟音。いよいよ始まったか。ついに、この果てしない戦争に終焉が来る。
潜んでいたビルの屋上に登り、轟音の方向を見る。天空に穴が空いている。おそらくあの下に、奴らはいる。距離は……5km。
いた。鳥と、女と、少年。崩れかけたビルの中へ走っていく。来るなら来い。全ての英霊を殺し尽くし、私が聖杯を手に入れてやる。
「総員、集結!」
指令を飛ばし、あちらのビルの周辺に手勢を集める。突入し、排除せよ!
◇◆
廃墟の中。フクロウの死骸の姿をしたライダー・ウェンディゴは、くるくると頭部を回転させて周囲を見回し、余とアサシンに話しかける。
【……で、三騎揃ったところで言っておきたいんだけど。オレ様、以前ウォッチャーに聞いてるんだ。カルデアのこと、聖杯のこと】
「ほう、教えて貰おうか。ここのこと、先程のこともな。どうせ聞いておろう」
「ここというか、さっきアタシらがいたとこもだね。あっちとこっちでぶつかって通り抜けが出来るなんて、どういうことなのさ」
グルグルとライダーが喉を鳴らす。ひとつずつ質問した方がよかったか。
【んー、そうね。オレ様とアサシンがさっきいたとこは、小さな特異点。こっちもそう。たまにこうやって衝突するんだ】
「ふむ?」
【どっちにも聖杯なんかなくて、数騎か一騎かの野良英霊が、ぽつんといる。名前もついてないし、年代もわからない。大きさは様々。虚数空間の中に泡みたいに浮かんでいる、まあ孤独な特異点っていうか……そんなもんらしい。オレ様のいた場所は、どこまで行っても針葉樹林が広がってるだけ。人間含め、他に誰もいなかったよ】
余とアサシンは首をかしげる。聞いたこともない。
「何だそれは。聖杯もないのに、特異点が出来るのか」
【うん。どうしてそんなものがあるのか、なんでオレ様たちが閉じ込められてるのか、ウォッチャーも教えてくれなかった。なんだか、ちょくちょく出来るらしい。そういうのが無数にあるんだって。囚われた英霊は自決も出来ないまま、そこに住むしかない。まあオレ様もともと亡霊みたいなもんだから、森に棲む動物どものエナジー吸いながら暮らしてたけど。あんたらが来てくれてよかったよ】
なんとなくわかってきたが、なんとも奇妙な。英霊を閉じ込めるだけの特異点とは。
【あんたらが今までクリアしてきた特異点は、もうある聖杯をゲットすれば終わりだったよね。ユカタンと、エンシェント・チャイナだっけ。でも、ここにはまだ聖杯はないんだ。つまり、聖杯を作る必要があるんだって。ホー、ホー、どうすりゃいいと思う?】
アサシンと顔を見合わせ、眉根を寄せる。聖杯を作る、と言えば。
「我らも英霊、それぐらい知っておる。我らで『聖杯戦争』を行え、というのだな」
【そう、それ。あんたらカルデアの連中含めて、何騎いるんだか知らないけど―――とにかく英霊が殺し合って、最後の一騎が残ればいい。聖杯をゲット出来るのはそいつと、そのマスターだけってわけさ。他にもマスターがいるかどうか知らないけど】
ホホホ、と嗤うライダー。再びアサシンと顔を見合わせ、眉根を深く寄せる。
「最後の一騎……ってことは」
「我らは自決して、最後にシールダーを残せばいい、というわけだな」
「そうね。いろいろ事情はあるにせよ、カルデアから来たのは彼女だけだし……アタシらは別に、英霊の座に戻るだけだしねェ」
腕組みをしてアサシンと頷き合う。ライダーが意外そうに首を回す。
【あれ、オレ様を残してくれないの?】
「そんな約束はしておらん。しばらく協力するというだけだ。いずれ斬る」
【つれないねえ。……ま、いいか。オレ様も閉じ込められて退屈だったんだ。聖杯とか別にいらないし、協力しようぜ。代価はあんたらの命でいいよ】
ふん、と鼻を鳴らす。今のところ敵意はないが、見るからに邪悪だ。
「油断ならん奴だな。聞けば極北の森に棲む、邪悪な精霊だというではないか。信用などできるか!」
「アタシだって邪悪な死神様よ。こいつの肩持つわけじゃあないけど、今は味方が多いほどいいでしょ」
グフフ、とライダーが嗤う。属性は同じ『悪』だが、余は『秩序』でもある。アサシンの方がこやつと話が合うのだろう。ならばアサシンを介してこやつを操縦すればよい。范蠡ほどでなくとも、余もその程度に頭は回る。
【ねえ、オレ様、役に立つよ。空飛べるし、情報も持ってる。あ、全部告げちゃったか】
情報。このわけの分からぬ状況下、それが何よりの宝だ。あのウォッチャーめ、何を企んでおる。
「……つまり、そうした小特異点にいる連中を全て殺して、聖杯を作れということか。七騎で足りるか知らぬが。そしておそらくは、そのどれかにマスターや、他のカルデアの連中も囚われておると」
「そうなるね。運良くぶつかってくりゃいいけど……アタシら、虚数空間なんか飛べるかねェ」
【オレ様ならたぶん大丈夫。外へ、虚数空間へ出られればの話だけど】
虚数空間。特異点の間を移動する際に通った、あの妙な世界か。―――剣の柄に手をかけ、立ち上がる。
「……まずは、この小特異点におる英霊を探そう。危険なら殺し、有用なら味方とする」
「つっても、結構広そうね。敵もうろついてるってんなら、そいつを一匹捕まえて、アタシがインタビュー……」
「既に多数、この建物に近づいて来ておる。囲まれた。迎え撃つぞ」
話に気を取られ、霊剣の放つ光を迂闊にも見落としていた。あの穴があれば流石に注目されよう。
ライダーが窓から遠くのビルを見やる。
【――――あ、見つけた。たぶん、あいつが指揮官だね。こっちから行こう】
すーっと息を吸うと、周囲に生臭い風が集まり、不気味な巨人の姿をとる。
【これがオレ様の宝具、『風に乗りて歩むもの(ザ・シング・ザット・ウォークド・オン・ザ・ウィンド)』さ。乗りなよ】
◆◇
目標のビルに動き。窓から奇妙な巨人が顔を出し、外へ出た。こちらをぎろり、と見た。女と少年が巨人の掌に乗り、巨人は……旋風を巻き起こし、こちらへ飛んで来る!
問題ない。戦力は充分。射程距離まで近づいてきたところで、大声で敵に告げる。
「私は『アーチャー』。真名は――――」
両手の指を敵に向ける。背後に集めておいた『私たち』も一斉に。真名であり、宝具である、私の名を解き放つ!
「『世界最多の殺人機械(アフタマート・カラシニカヴァ)』!!」
真名判明
アーチャー・キルマシーン 真名 アフタマート・カラシニカヴァ
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