忍殺TRPGリプレイ【コンスピラーシィ・セオリー】03
前回のあらすじ:女ニンジャ・デッドリーパーのボス、アシッドウルフ。謎多き彼の正体についてフィルギアから告げられた彼女は困惑する。続けてやってきたニンジャたちは、彼女が「監視役を殺してアシッドウルフに反逆した」と告げた!次々に降りかかる事態に翻弄される彼女の運命は?
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狙いは、フィルギアたちではない!明確にこっちだ!家紋タクシーの屋根にはさっきの傭兵たちが腹這いにしがみついている!車が入れない狭い路地や下水道を行けば追いつかれないだろうが、こっちのニンジャソウル反応を追跡しているのか?そういうジツやテックがあちらにはある……!
デッドリーパーは焦った。どこへ身を潜めればいい。メイライ社か?だが自分がアシッドウルフを裏切ったとの報告が伝わっていれば、問答無用で迎撃される。クレイニアムに頭を下げて、ソウカイヤやオムラに匿ってもらうか?今さらだ。オナタカミは……完全に敵に回している。行けば殺される。
磁気嵐の荒野。ソード山脈。どれも遠すぎる。とにかく……仲間と合流しなければ。フィルギアが探すのを手伝うと言っていたが、結局のところ合流地点はどこになる?逃げ続けなければ追いつかれてしまう!「おう、見つけたぜ」「!」路地の彼方に大柄な男が立ちはだかり、目を金色に輝かせた。
「ドーモ、アナイアレイターです」
???
「……ドーモ、デッドリーパーです」アイサツを返す。アナイアレイターは手短に事情を語った。「俺はフィルギアの仲間だ。あいつの指示を受けて、ビクターってニンジャをブッ殺して来た」「……!」デッドリーパーは戦慄した。つまりフィルギアは、自分をアシッドウルフから切り離すために!
「……私は、ボスを裏切ってはいない」「ああ、そうだな。裏切ってたのはビクターのほうだ」アナイアレイターは頷いた。「アンタを手駒にして、ボスの寝首をかこうとしてた。フィルギアの野郎はそう言ってたぜ」「じゃ、ナンデ」「アンタと話をするためだってよ。監視役がいたらできねえしな」
二人は廃ビルの中を駆け抜けながら対話する。互いに手練れ。死ぬ気で戦えば倒せるかもだが、戦っている暇もない。「ビクターが死に際にか、その前にか、アンタが裏切ったって情報を流したんだろ。あいつは情報工作が得意な野郎だった」「……なるほど」納得はできた。しかし。
「そのせいで今、追われてるんだけど。ビクターの手下たちに」デッドリーパーはぼやいた。「迷惑かけちまったな。アンタの仲間はフィルギアが探してるから、ここは俺らに任せて逃げな」「何らかのジツで追跡されてる。逃げ切れない」「あいつらが追ってるのは俺だ」「私も追跡対象のはず!」
二人は廃ビルの窓から路地裏に飛び降り、マンホールから下水道に飛び込んだ。「じゃあ、一緒にあいつらをブッ殺すか」「ボスになんて言えば!」「アンタがボスを裏切ってないなら、ボスに直接そう言えばいい。信じてくれないならそれまでだろ」「……!」デッドリーパーは拳を握りしめた。
複数の手練れニンジャを、自分ひとりで撃退するのは不可能だ。ここは彼らと協力し、フィルギアが仲間を探し出して合流するまで待つしか無い。だがあいつは仲間にも妙なことを吹き込むだろう。自分が裏切ったと告げられたら?孤立だ。全てフィルギアの陰謀か!「踊らされていたってわけね」
デッドリーパーは歯を食いしばる。アシッドウルフにも、ビクターにも、クレイニアムにもフィルギアにも踊らされていた。殺人マシーンとして上の命令に従うことしか知らない彼女にとって、初めての怒りだった。騙されていたことへの、自分の愚かさへの、視野の狭さへの怒りだ!……その時。
プシュッ。デッドリーパーのサイバネアーム『鷲の翼』から、彼女の生身の肉体へ何かが注ぎ込まれる。内蔵された複数のシリンダー部品に充填された液状のLSDだ。彼女たちは無自覚のうちに、これを恒常的に体内で循環させられ、洗脳させられている! スゥーッとニューロンがクリアになった。
……遥かに良い。アシッドウルフの声が聴こえてくる。
「AAAARGHHHHH!」ボゴン!ボゴン!デッドリーパーの腕が、サイバネの付け根が歪み、脈打ち、拍動する!羽毛が生え、鉤爪がでたらめに突き出して、管となった。そこから黒い液体が染み出し、排出される。「おい、どうした?」アナイアレイターは訝しんだ。「具合でも悪いのか?おい」
「ハァーッ!ハァーッ!」デッドリーパーは息を荒げ、うずくまった。仕組みがわかってきた。この腕が、自分を……自分たちを……!恒常的に洗脳し、今のように疑念を抱いた時には、さらなる量を……!「チッ、仕方ねえ!俺が担いで……」「「見つけたぞ」」ナムサン!下水道の前後から敵が迫る!
「ドーモ、マスペインです」「ソージュンです」「クソが!アナイアレイターです!」彼はデッドリーパーをかばいつつアイサツを返した。二対二だが相手も手練れ。ここで撃退しても、追跡のジツを持つやつを見つけ出して倒さねばならない!別行動をとったスーサイドたちと合流しなければ……!
「ビクター=サンを殺したのはテメエだな。やっぱりこいつとつるんでやがったか。あと一匹いたと聞いてるがよ……」「こいつらを痛めつければ出て来るか。油断するな!」「アイアイ!」傭兵ニンジャたちはそれぞれカラテを構えた。……大気にカラテが満ちる!一撃必殺アトモスフィア!
戦闘開始
1ターン目
「AAARGHHHH!」アナイアレイターは金色の瞳を光らせ、デッドリーパーをかばいながらマスペインめがけスリケン連射!BOBOBO!「グワーッ!」一発命中!フマー・ニンジャのニンジャソウル憑依者である彼のスリケンは通常のスリケンとはわけが違うのだ!「クソが……ここで皆殺しだ!」
マスペインは鞘に納めたカタナの柄に右手を添え、低く構えた。「スゥーッ……!」カタナに熱エネルギーが高まる!恐るべきカトン・イアイの構えだ!「キエーッ!」SLASHSH!BOMB!炎を纏った刃がデッドリーパーを襲う!食らえば重傷!「……イヤーッ!」デッドリーパーは見切って回避!
さらに体勢を崩したマスペインめがけ迎撃のキックを繰り出す!「イヤーッ!」SMASH!「グワーッ!」命中!たたらを踏んでのけぞるマスペイン!デッドリーパーはさらに回転!嵐のようなピストルカラテ連打を繰り出す!「イイイ……イイイヤァアアアーーーッ!」BLALALALALALALALALAM!
どくん。マスペインは死の予感をおぼえ、肉体がニンジャアドレナリンを過剰分泌させた。全てが泥めいて遅く見える。銃弾が、カラテが、彼の心臓を貫こうと……「イヤーッ!」血涙を流しながらブリッジ回避!だが躱しきれず、痛烈な打撃と銃弾が数発命中!SMAAASH!「グワ、アバーッ!」
「オノレ!セイヤッサー!」ソージュンは下水道の内壁を蹴って接近、勢いを乗せたカラテを繰り出す!「ボンジャンハイ!」ナムサン!これはキョートのボンジャン・テンプルに伝わる「ボンジャン・カラテ」のシャウトだ!彼の拳が光って唸り、デッドリーパーの内臓を貫かんと迫る!「AARGH!」
バリバリバリバリ……アナイアレイターは全身から鉄条網を噴出させて壁を作り出し、デッドリーパーをかばう!「ヌウッ!?」ソージュンは鉄拳を鉄条網に阻まれ、貫通ならず!「GRRRRR……!」アナイアレイターもデッドリーパーも様子がおかしい。獣のごとく猛り狂っている!「ヌウ……!」
2ターン目
「AAAARGHHHHH!」アナイアレイターは距離を取り、大気中の風のエテルと重金属粒子から無数のスリケンを生成!『フォハハハハハハ!畏レヨ!』ゴウランガ!フマー・スリケン・ジツだ!狙うは重傷を負ったマスペイン!BOBOBOBOBOBO!「グワ、アババババーッ!」ナムアミダブツ!昏倒!
「イイイヤァアアアーーーッ!」デッドリーパーはコマめいて回転しつつマスペインへカイシャクせんとす!「ブッダ!」ソージュンがかばう!ガガガガガガガッ!全て捌き切りカイシャク阻止!タツジン!「ま、マッタ!ここまでだ!」ソージュンは掌を向け降参した。二対一では流石に無理だ!
???
「逃がすと思うか、クソが……!」アナイアレイターは獣めいてよだれを垂らし、金色の瞳でソージュンを睨む!コワイ!デッドリーパーもピストルカラテの構えを解こうとしない。「ま、待て!我々は傭兵に過ぎん!」『困るなあ、仕事はちゃんとしてくれなくっちゃ……』カツ、カツと靴音が響く。
靴音と声の主は、マスペインが来た方から歩み寄って来た。仕立ての良い黒いスーツを纏い、襟元には『SP』と刻まれた銀色のピンが取り付けられ、片手はオブシダンめいた黒く美しいサイバネ腕。その顔はオニめいた異様なフルメンポで覆われているが、おそらくさっきの家紋タクシーの中の男だ。
『ドーモ、初めまして。僕はドラゴングラスです』
【続く】
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