【つの版】ニンジャスレイヤーTRPGソロアドリプレイ【ゲット・ワイルド】02
前回のあらすじ:ストリートニンジャ・レッドフォックスは、情報屋のタキからカネになりそうなビズを紹介された。家出したカチグミの令嬢「エモコ」を探し出し、連れ帰るミッションだ。彼女はネオロポンギのカルト教団「ドクノキバ」にいるらしい。そこへ潜入したレッドフォックスだが……。
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レッドフォックスは注意深く監視カメラやセンサー類を回避し、ニンジャ第六感を発揮して、ビル内のとあるフロアへ辿り着いた。元は高級スポーツクラブだったと思しきこのフロアは、カラテ・ドージョーに作り替えられていた。照明は薄暗く、麝香じみた甘ったるいにおいの煙が立ち込めている。
一般に流通する薬物ではないが、明らかに有害だ。レッドフォックスは眉根を寄せ鼻をつまんだ。さらに暗がりを進むと、壁には「ドクノキバ」「コブラ」「世界征服」などと書かれたノボリと共に、鋼鉄の蛇神の頭部を模したレリーフのようなものが飾られているのが見えた。カルトの偶像だ。
「ブッダファック」レッドフォックスは小さく呟き、ニンジャ野伏力を発揮して気配を隠しつつ、忍び足でさらに奥へと進む。すると、奥から複数の声が……カラテシャウトが聞こえてきた。「「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」」レッドフォックスが中を覗くと……おお、ナムアミダブツ!
そこではジュー・ウェアを着たモータルたちが、男女の区別なく、一心不乱にカラテトレーニングを行っているではないか!ドージョーの隅では香炉の煙を吸って半狂乱状態になり、黄金のコブラ像に祈りを捧げる者もいる! その異様な光景は完全にカルト……カラテカルトだ!「なんだこりゃあ……」
ごくり。レッドフォックスが唾を飲んだその時、壁のレリーフが突然目を輝かせ、恐るべき電子音声で警告を発した!『タクシャカよ!侵入者がいるぞ!』ナムサン!その直後、前後左右のフスマが同時に開き、ジュー・ウェアを着たカルティストの群れが襲いかかって来た!「「「イヤーッ!」」」
戦闘開始
ニンジャではないが多勢に無勢!カラテに自信はないが、モータル相手にジツを使うまでもない!スリケンで対処すべし!「い、イヤーッ!」レッドフォックスはスリケンを投擲!「アバーッ!」命中!昏倒!「「イヤーッ!」」二人のカルティストがトビゲリを繰り出す!「イヤーッ!」回避!
「イヤーッ!」レッドフォックスは転がりながらスリケン投擲!「アバーッ!」命中!昏倒!「イヤーッ!」残り一人がトビゲリ!「い、イヤーッ!」レッドフォックスは必死で回避してスリケン!「アバーッ!」命中!全滅!「ハァ、ハァ、ハァ」一応殺してはいないが、しばらく動けまい。
戦闘終了
「へっ、所詮は人間!ニンジャに勝てるかよ!」レッドフォックスは無傷。全能感が彼のニューロンを満たし、下劣に目を細めさせる。ストリートのチンピラに過ぎなかった彼は無敵の超人、都市の狩人になったのだ。だがその感覚に冷水を浴びせるように、壁のコブラめいたレリーフが騒ぎ立てる!
『タクシャカよ!どうした!』「う、うるせェーッ!」SMASH!レッドフォックスは衝動的に壁のレリーフを蹴って破壊!『ピガーッ!』KABOOOM!コブラめいたレリーフは電子断末魔をあげて爆発した。「どうだ!スカッとしたぜ!」レッドフォックスは言い知れぬ畏怖を笑いによって振り払う。
そしてスリケンを拾い集めつつ、倒したカルティストたちの顔をあらためる。家出少女「エモコ」は、この中にはない。彼らや彼女らもどこかのカチグミの子弟や子女で捜索願いが出ている可能性はあるが、これほど大勢をいっぺんに連れ帰るのは無理だ。レッドフォックスはさらに奥へ進む!
???
やがて、レッドフォックスはフートンの敷かれた部屋に辿り着き、そこに眠る少女を発見する。IRC端末に標的の画像を出し、顔を確認する。間違いない、エモコだ!彼女の胸は豊満であった。「よし、このまま担いで……」「う……!」ナムサン!エモコは侵入者の気配を察知し、目を覚ました!
「……アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」レッドフォックスの姿を見たエモコは、軽いパニック状態に陥った。常人はニンジャを見るとそうなる。NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)というやつだ。だが、彼女は先程のカルティストとは異なり、問答無用で襲いかかっては来ない。
タキの見立て通り、エモコにはまだ説得の余地があるようだ。「ドーモ、レッドフォックスです。安心してくれ、エモコ=サン。俺はあんたのご両親に頼まれて、ここから連れ戻しに来たんだ」彼はハンズアップし、物柔らかに話しかける。耳や尻尾を振り動かしてカワイイ・アピールも忘れない。
エモコはうつろな目で首を横に振った。「嫌。私は望んでここに来たの」「ご両親が心配しているよ。君はまだ学生だろ。カルト教団と関わっていたなんて学校のみんなに知られたら、ムラハチにされちゃうよ?」レッドフォックスは猫撫で声で説得する。「進学にも就職にも不利。マケグミだよ」
「親も学校もクソよ」エモコの表情が険しくなった。「メガコーポに就職なんかしたくないわ。コブラ・カラテがあれば無敵だもの!」エモコは顔を上気させ、拳を構えた。「おいおい、マッタ。君がどれだけ強くても、個人の暴力では何も解決しないんだ。それが社会……」「うるさいわね!GRRR!」
エモコは説得を受け入れようとしない。レッドフォックスは直感的に、エモコがニンジャのジツに魅入られていることを理解した。つまり、このドージョーの主であるニンジャがどこかにいる……または、今はたまたま外出しているのだ。「タクシャカ」というのがそうなのだろう。どうすべきか?
カラテチョップでエモコを気絶させてもいいが、手荒なことをして彼女を傷つけた場合、彼女の両親からの成功報酬が減額される可能性がある。カルト教団のせいにすればいいかもだが、彼の立場上、直接には依頼人と交渉できない。ニンジャの洗脳を打ち破るようなジツも彼にはない。ならば……!
説得あるのみ!「ザッケンナコラー!」レッドフォックスはヤクザスラングで叱りつけた!「ヒッ」エモコが怯んだ隙に畳み掛ける!「俺はあんたのためを本気で思って言ってンだよ!どんなに居心地がよくても、ここはカルト教団なんだ!あんたのカネと人生を食い物にしちまう邪悪組織なんだ!」
「ち、違う……」「違わねェ!なあ、あんたはまだ若い!立ち直るんだ!」レッドフォックスはエモコの両肩を掴み、顔を近づけた。その目には涙!「アイエエエ……!」エモコの心臓が強く拍動し、瞳が揺れる。彼女にかけられた催眠が解け、正気を取り戻す!「アッハイ!ドーモスミマセン!」
エモコは震え上がって謝罪した。「か、カチグミの友達にパーティーに誘われて、そこから記憶があんまり……!」ゴウランガ!ニンジャアトモスフィアによる恐怖と、感情に訴えかけた説得が功を奏したのだ!「い、今すぐ家に帰りたいです……アイエエエ……」彼女は怯えて抱きついた。役得!
「ヒヒ……落ち着け、落ち着いて。もう安心だよ」レッドフォックスは下卑た笑みをこぼしつつ、彼女を掻き抱いて背中を撫でる。豊満なバストが胸にあたり、体温と鼓動と甘い香りが伝わってくる!なんたる役得!しかし堪能している暇はない。急いで逃げなければドージョー主が戻ってくる!
レッドフォックスは……用心深いが、欲深い。まだ時間はあるだろうし、多少はオミヤゲを持ち帰ってもいいのではないか? エモコの体温と感触、麝香じみた甘ったるい香りに唆され、彼はヨダレを垂らしながら、ベッドの傍らにある宝石のついたネックレスに手を伸ばした。……その時だ!
???
KRAASH!窓ガラスが外側から破られ、油断していたレッドフォックスの顔面めがけ何かが飛来した!「え?」彼はニンジャ動体視力でそれを見た。アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンだ!刃は何らかの液体で濡れており、おそらく猛毒!命中すれば重傷、あるいは死!死神の鎌が迫りくる!
どくん……!レッドフォックスの肉体は、ニンジャアドレナリンを瞬時に過剰分泌させた。ニューロンが加速し、すべての動きが泥めいてゆっくりに見える。彼はエモコを抱きかかえたまま……「イヤーッ!」血涙を流しながらブリッジ回避!スリケンはそのまま頭上を飛び過ぎ逆側の窓を破砕!
溢れるアドレナリン!加えて様々なホルモンが分泌され、彼のニューロンと肉体を衝き動かす!恐怖に対する急性ストレス反応だ!闘争か、逃走か、それとも立ちすくむか?急接近する強力なニンジャアトモスフィアに、彼は逃走を選択!顔を見られればアサシンが来る!「オタッシャデー!」
カジバ・フォース!レッドフォックスは宝石つきネックレスを懐にねじ込み、エモコを抱きかかえて連続バック転!「イヤーッ!」「アイエエエ!」そのまま割られた逆側の窓から飛び出す!高さは数十メートル、地面に激突すればニンジャでも死ぬ!「イヤーッ!」レッドフォックスは姿勢制御!
おお、ゴウランガ!彼はとっさに別のビルから突き出した「浣腸変数」のネオン看板に飛び乗り、トマトめいて潰れ死ぬ運命を免れた!「と、とっ!イヤーッ!」レッドフォックスはさらに跳躍!ネオン看板やビル屋上を蹴り渡り、重金属酸性雨の降りしきるネオサイタマの闇を全速力で駆け抜ける!
エピローグ
「ハァ、ハァ、ハァ……!」ネオロポンギから離れたレッドフォックスは息を切らせ、廃ビルの中で一息つく。エモコは気絶しているが無事だ。「タクシャカ」は追跡を試みたかも知れないが、気配は感じない。ネオサイタマの土地勘ではレッドフォックスの方が一枚も二枚も上手だったのだ。
彼はタキにIRCを送り、ミッションの成功を告げる。タキは即座にある地点を指定し、そこへエモコを送り届けさせる。セキュリティの都合上、彼女の両親がレッドフォックスやタキと直接会うことはない。このままエモコを代理人に引き渡し、それでお別れだ。もう彼女と会うこともないだろう。
🍣ミッション成功!🍣
……翌日。タキがうまく電子的取り次ぎを成功させ、レッドフォックスの電子口座にはそれなりの報酬が振り込まれた。盗み出した宝石は売却され、多少のカネになって戻ってきた。エモコはショックでこの一週間のことを忘れているというから、レッドフォックスのことも覚えていないだろう。
彼女が学校や社会でこれからどう過ごしていくかはわからない。タキもレッドフォックスも、ストリートに生きるサンシタの一人だ。この先に何が待っているかは見通せない。タキのケツモチのソウカイヤも、オナタカミとの武力衝突の影響か、提携組織から離反者が出る程度には不安定化している。
カルト組織ドクノキバ、別名コブラ教団が、この先どうなるかも不明だ。レッドフォックスのことを嗅ぎつけ、アサシンを送り込んでくる可能性もあるが、タキによればすでにソウカイヤが対処に動いているという。彼らが復讐するなら、ストリートのチンケなサンシタよりソウカイヤを狙うだろう。
「ま、この件は一件落着だ。カネもゲットしたし、これでよしとしようや」「そうだな」タキとレッドフォックスは、ピザタキのカウンターでケモビールを飲み交わした。「……おい、これヌルいぞ。冷蔵庫を直せよ」「カネがねえんだ。コトブキのバイト代とかよォ」「チッ、まあいいか……」
ピザタキには今日もほどほどに常連客が寄り付き、胡乱な連中の溜まり場となって情報を行き来させている。ここではレッドフォックスのキツネめいた異形も、街に野生バイオ動物がいるように、一つの風景に過ぎないのだ。
【ゲット・ワイルド】終わり
リザルトな