「邪馬台国世界大戦」序章「四方つ国」(全セクション版)
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邪馬台国を巡って全面戦争が勃発した。福岡は佐賀・大分と手を結び、熊本へ戦車部隊による電撃戦を開始。武力で邪馬台国福岡説を承認させんとした。県知事は宮崎・長崎・鹿児島に救援を呼びかけ、三県も軍を派遣。佐賀と長崎、大分と宮崎が睨み合い、熊本・鹿児島連合軍は福岡軍と膠着状態となった。
事態を重く見た奈良県は周辺諸府県に軍事同盟を呼びかけ、近畿・中四国連合軍による九州征伐が行われることになった。無論、連合軍は呉越同舟だ。中部、関東、東北の諸県、そして北海道は、虎視眈々と漁夫の利を狙う。
「……それだけじゃない。沖縄に、海外。インドネシアも既に動いてる」
「なんで」
「ジャワ島だ。魏志倭人伝の方角と距離的には、そうなるだろ」
「そうなのか」
理由や敵はなんでもいい。戦争になればカネが入る。傭兵たちはそうして生きて、いつか死ぬのだ。
―――その時。遠くパプアニューギニア奥地で天岩戸が開き、
「卑弥呼たち」が出現した!
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バラバラバラバラバラ……セピック川上流域のジャングルにヘリの音が鳴り響く。軍用機。水上には兵士と機関銃を積んだボート。インドネシア軍だ!
「やつらめ。嗅ぎつけおったか」
呟いたのはパプア人の呪術師。兎めいた仮面を被り、川面に立っている。いや、鰐の背の上だ。
日本から南へ5000kmあまり、パプアニューギニア奥地。
曲がりくねる大河セピックを河口から遡上し、熱帯雨林のジャングルを進むこと1ヶ月。そこに天岩戸があった。呪術師らが聖地として崇め、しばしば人間の首を捧げて来たという。
今は、世界中に存在する「邪馬台国」のひとつだ。
日本列島での開戦を機に、インドネシア軍はパプアニューギニアへ侵攻した。邪馬台国を抑え、我が物とするためだ。自国にはジャワがある。法顕の仏国記にいう耶婆提国だ。だが、バリ島の女呪術師は告げた。「卑弥呼はニューギニアに現れる」と。そう言った途端、彼女は引きつけを起こして入院したが。
そして、これだ。
「じゃが、遅いわい。卑弥呼たちは、もう……」
ヒュルルルルル……KABOOOOOM! 爆撃だ! 川面が破裂し、呪術師は鰐ごと空へ! インドネシア軍の飛行部隊へ、飛んでいく!
「目覚めた! 世界中でな!」
◎
從郡至倭、循海岸水行、歴韓國、乍南乍東、到其北岸狗邪韓國、七千餘里。始度一海千餘里、至對馬國。…又南渡一海千餘里、名曰瀚海、至一大國。
…又渡一海千餘里、至末廬國。…東南陸行五百里、到伊都國。…東南至奴國百里。…東行至不彌國百里。…南至投馬國、水行二十日。…南至邪馬臺國、女王之所都、水行十日、陸行一月。 ―――魏志東夷伝倭人条
◎
少し前。ニューギニアの天岩戸から出現した多数の卑弥呼たちは、車座になって呪文を唱えていた。
「「「あめつちのはじめのとき たかまのはらになりませるかみのみなは あめのみなかぬしのかみ……」」」
大地が揺れ動く。地脈が通り、海底火山が反応する。環太平洋の火の輪だ。その一筋が、北上する。カロリン諸島。パラオ。マリアナ諸島。小笠原諸島。伊豆諸島。日本列島、沖縄諸島、台湾、フィリピン……。広大な海域。
魏志倭人伝に記された「倭人」の諸国。それがここにあるとしたら。何かが呼び起こされようとしている。
やがて卑弥呼たちは、影となって世界中へ散った。
天岩戸の前に残った四人の卑弥呼たちは、四方に銅鏡を向け、光を放った。
◎
――――その、遥か西。
エジプトのピラミッドの奥底で、石棺の蓋が開き、
新たな「卑弥呼たち」が目を覚ました!
2
エジプトのピラミッドから目覚めた卑弥呼たちが、砂嵐と共に百余体のミイラを率いてカイロの町を襲撃!
「アイエエエ!?」「卑弥呼!?卑弥呼ナンデ!?」「コワイ!ゴボボーッ!」
カイロ市民たちは重篤な卑弥呼・リアリティ・ショック(HRS)を起こし、発狂・嘔吐・失禁! アッラーフアクバル!
「「「「ホホホホホ……!」」」」
卑弥呼とミイラたちがあざ笑う! 黄泉の国の岩戸が開き、ヨモツシコメ・ヨモツイクサが現れたのだ!
"卑彌呼以死、大作冢、徑百餘歩、殉葬者奴碑百餘人。"
―――魏志東夷伝倭人条
「撃て!撃て!撃てーッ!」「悪魔どもを地獄へ追い返せーッ!」「アッラーフアクバル!」
KA-DOOOOOOM!KA-DOOOOOOM!KA-DOOOOOOM!
BRATATATATATATA!BRATATATATATATA!BRATATATATATATA!
戦車部隊が砲撃! 機関銃が唸り、鉄の雨が降り注ぐ! だが……効かぬ! 爆煙の中からゆらりと影が現れ、こともなげに歩み寄る!
「「「「ホホホホホ……!」」」」
「アイエエエーーーエエエ!!!」「アルハムドリッラー!」「サーイッドニ!」「アルタワーリウ!」
卑弥呼たちが銅鏡を掲げ、太陽光線を反射! ZBEEEEEEEEEEAM! 逃げ惑う軍隊を群衆を、薙ぎ払う! アルキメデス!
◎
「キエーッ!」
パプアニューギニア、セピック川上流の上空! 兎めいた仮面を被ったパプア人の呪術師が、鰐に乗ってインドネシア軍の飛行部隊へ突撃!
「撃ち落せ!」
BRTTTTTT! 機銃が鰐を粉砕! だが呪術師は鰐をヨッシーめいて捨て、さらに上空へ!
「オンゴロ・チャンダラ・マータンギー!」
謎めいた呪文をシャウトし、呪術師は四肢を大の字に突っ張る! 彼こそは卑弥呼たちの言葉を伝える男子の末裔! たちまち黒雲が沸き起こり、太陽を覆い隠す! 飛行部隊へめがけ凄まじい落雷!
「「「アバーッ!」」」
ゴウランガ! 全滅!
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同時刻!
中国山東省! 五嶽の筆頭・東嶽泰山が内側から突如爆発し、卑弥呼たちが復活!
「「「アイヤー!」」」
イランの首都テヘランの北、アルボルズ山脈の最高峰・ダマーヴァンド山が噴火! 流れる熔岩と共に卑弥呼たちが登場!
「「「アッラー!」」」
カリブ海の西インド諸島、ドミニカ共和国で大地が割れる! 卑弥呼たちが出現!
「「「オ・ディオス!」」」
アイスランドの火山群が一斉に噴火! オーロラと火柱の列の間、空中に、卑弥呼の群れが現れる!
「「「グーズ!」」」
そして……イスラエル北部のカルメル山頂に、卑弥呼たちが天から降臨! 雪崩と共に山麓のメギドの丘へ!
「「「エロヒーム!」」」
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同時刻! 日本列島各地にも卑弥呼たちが出現していた!
大分県宇佐神宮、福島県磐梯山、滋賀県比叡山、北海道歯舞諸島、長崎県壱岐島、奈良県生駒山……!
超古代史文献『竹内文書』などに説かれる「日本雛形論」あるいは「外八洲・内八洲」をご存知だろうか。日本列島は世界の雛形であり、全ては対応している。北海道は北アメリカ、本州はユーラシア、九州はエジプト、四国はオーストラリア、台湾は南アメリカ……というように。
しかし人心荒れ果てた日本列島は、もはや世界の雛形とはなり得ない。卑弥呼たちは新たな雛形を創り出そうとしている。
世界各地から出現した卑弥呼たちは、世界中に混乱と破壊を巻き起こしながら……ひとつの場所へ向かっていた。円を描くように、螺旋状に。それは台風にも似ていた。
"参問倭地、絶在海中洲島之上、或絶或連、周旋可五千餘里。"
―――魏志東夷伝倭人条
そこは……インドの東南、ベンガル湾に浮かぶ……アンダマン諸島。
チベットと日本に強く残る、父系遺伝子……Y-DNAハプログループDを持つもう一つの民族集団が孤立して住む地。アンダマン。ここもまた、邪馬台国のひとつ。そして新たな世界の雛形、淤能碁呂(おのごろ)島、胞衣(えな)となる島だ。
既に日本、ジャワ、スマトラ、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイなどからの一団がここに集っていた。彼女らは太平洋を支配する「ムー」の卑弥呼集団だ。そしてインド洋とアフリカには「レムリア」、地中海と大西洋には「アトランティス」。チベット(地臍)を中心とするユーラシア内陸部には、「スメール」の卑弥呼集団が眠っていた。
倭人とは、日本列島の住民だけではない。地球上に散らばる先史超古代文明人の末裔だ。卑弥呼はその女王であり、太陽のエネルギーによって千代に八千代に世界を支配して来た。星々の彼方からふるぶるしきものたちが到来し、黄泉国へ彼女らを封じ込めるまで。
人類が邪馬台国を探し求めるのは、そのためだ。そのパワーを独占すれば、世界を支配することも可能なのだ! だが……今の貧弱な人類文明では、彼女らを服従させることは出来ない。呼び覚ますべきではなかったのだ。
ズオオオオ……
アンダマン諸島を中心に光の輪が膨らみ、卑弥呼の霊力が世界中の地脈と繋がっていく。
終わりの時が始まった。
【「四方つ国」終わり。「伊勢の海」へ続く】
インデックス
序 「四方つ国」1 2 3 「伊勢の海」1
名鑑01 序章・ライナーノーツ
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