忍殺TRPGリプレイ【スーパーヒューマン・ファイター】02
前回のあらすじ:ニチョームにはアマクダリの監督官ディクテイターが率いるハイデッカー部隊が派遣され、横暴極まる抑圧的支配体制が敷かれ始めた。そこへフィルギアが現れ、ニチョームと秘密裏に協力体制を結んだ。抵抗あるのみ!ディクテイターのオフィスに潜入し、機密情報を奪うべし!
◆
「……地下はどうだ」ドゥームキラーが挙手した。「地下下水道から穴を掘って、地下から潜入する」
「なるほど」「なるべく静かにしなけりゃならんが、そうすると南東の階段から4階まで直通だ。ここには監視カメラもないんだろ」「……今のところはね。ハイデッカーが通ってる様子もないわ」「よし」「オフィスの前の監視カメラは?」「一個ぐらいはハッキングでなんとかなるだろ。たぶん」
「穴掘りなら、俺がやる」フィルギアの背後で黙っていた男、ルイナーが挙手した。「そういうカラテが使えるからな」「じゃあ、よろしく」「まだなんか策は立てられないかしら。全員が光学迷彩ローブを着ていくとか」「いいぜ。ツテを辿れば調達できる」自治会員が頷いた。「じゃ、頼んだ」
かくして、ニチョーム・ストリートではアマクダリ・セクトの支配に対する最初の小さな抵抗が始まろうとしていた。人や集団を抑圧すれば、必ず抵抗運動が生じる。それは善悪や正義ではなく、物理法則にも等しい現象だ。
作戦開始
決行当日、夜。ディクテイターはニチョーム内の高級料亭へ招待され、接待を受けながら密談を行っている。3人とルイナーたちは地下下水道を奥へ進み、ヤグラ337ビルの真下に到達した。「ここだ」ルイナーは梯子をかけて天井に張り付き、チョップをゆっくりとコンクリートへめり込ませる。
ズッ、ズズッ、ズズッ……ナイフで柔らかいバターを切断するように、チョップは静かにコンクリートをくり抜き、人が通れる程の穴を空けた。ルイナーは切り出したコンクリート片を下に待つ3人に手渡すと、穴から顔を出し、ニンジャ視力とニンジャ感覚で周囲の状況を確認する。「……よし」
ルイナーが梯子から降り、3人は無言で頷くと、光学迷彩ローブを纏ってスイッチを入れた。これで少なくとも監視カメラやハイデッカーの目は欺けるだろう。「あんたらの分も準備できりゃよかったが、仕方ない」ドゥームキラーはため息をついた。監視を潜り抜けて調達できたのは3着だけだ。
「健闘を祈る」ルイナーはサムアップした。『俺もついていくから、安心してくれ』ドミネイターの纏うローブの下で蛇が囁いた。変身したフィルギアだ。彼は謎めいたジツにより蛇、コヨーテ、フクロウなどに変身することができる。ハッキングや戦闘は得意ではないが、潜入調査はお手の物だ。
潜入開始
3人はしめやかに地下からヤグラ337ビルに潜入し、光学迷彩ローブで姿を隠しながら、音もなく階段を登っていく。ニンジャ野伏力の見せ所だ。ハイデッカーたちはニンジャではなく、命じられたことをそのまま行うだけで、想定外の事態には対処し切れない。問題はオフィス前の監視カメラだ。
0101010101……ファイアランナーは無言で精神を集中させ、生体LAN端子なしに監視カメラへ超自然的なIRC接続を行う。これもニンジャのジツなのだ。監視カメラは問題なくハッキングされ、ドアが閉じられたオフィス前の光景を繰り返し映し続ける。続いてオフィスの物理鍵と電子鍵を解錠する。
……開いた。3人はしめやかにオフィスに潜入し、ドアを閉じる。電気は点いておらず暗いが、ニンジャ視力なら問題ない。壁や床は高級御影石製で、「第四帝国」の金文字がミンチョ体で描かれており、「秩序」「天下」などのショドーもある。幸い、潔癖症な彼の趣味を反映して防音加工済だ。
3人はさらにニンジャ感覚を発揮して入念に調査し、オフィス内に監視カメラや盗聴機のたぐいがないことを確認する。アマクダリに感知されればおおごとだ。ファイアランナーはデスク上のUNIXの電源を静かに入れると、両手を触れ、頭をくっつけて、超自然的ハッキングを試みる。
フィルギアは蛇の姿のままドアの外を見張り、ドミネイターとドゥームキラーは室内を物色する。些細なメモ書きや書類にも、どんな極秘情報が含まれているかわからない。冷蔵庫には高級スシやトロ粉末がある。「……!」ドゥームキラーはファイルに綴られた物理書類に目を通し、眉根を寄せた。
『ニチョーム撲滅計画』。法的秩序に基づくネオサイタマの統治を確立するため、マイノリティのヘイヴンであるニチョームはある程度の期間は存続させてガス抜きに使いつつ、抵抗運動を弾圧して徐々に規模を縮小させ、最終的には消滅に追いやるべし。その方向へ世論を誘導し……『隠れろ!』
???
蛇がドアの下をすり抜け、フィルギアの声で告げた。ウイーン……ポーン。『4階ドスエ』エレベーターの電子マイコ音声。『ディクテイターが予定より早く戻って来やがった!』「ちっ!」3人はやむなくハッキングや調査を中断し、光学迷彩ローブを纏って家具などの陰に身を潜める。
ガチャガチャ……ガチャリ。ディクテイターは物理鍵と電子鍵を開け、自分のオフィス兼私室へ戻ってきた。「ヒック……」高級料亭で接待を受け、ホロヨイ気分だ。久しぶりに外泊したいところだったが、ニチョーム監督官の職務上はそうもいかぬ。ならばせいぜい、この根城を快適にせねば。
「ここまで随分苦労したんだ……それぐらいの見返りがあっても悪くねェだろ……」彼はブツブツつぶやきながら、冷蔵庫へ近づく。ニチョームに貢納させたスシやトロ粉末に加え、ザゼンドリンクやバリキドリンク、タノシイやオハギがまだあったはずだ。ストレスフルな任務には薬物が必要だ。
『マズイわ』ドミネイターは超自然的IRC通信のジツを用い、ファイアランナーやドゥームキラーと無言で会話する。『冷蔵庫のスシとトロ粉末を拝借して、戻してない。気づかれるかも』『じゃあ、プランBね。囲んで殴るわよ』『OK』『ドアを封鎖しとかないとな。逃げられたらヤバい』『OK』
相手は酩酊しており、フィルギアも加えれば4対1、圧倒的有利だ。だが油断は禁物。騒がれたり逃げられたりする前に、速攻で昏倒させるべし!
戦闘開始
敵戦力
◆ディクテイター(種別:ニンジャ)
カラテ 6 体力 6
ニューロン 6 精神力 9
ワザマエ 8 脚力 5/E
ジツ 0 万札 10
攻撃/射撃/機先/電脳 6/ 8/ 6/ 6
回避/精密/側転/発動 8/ 8/ 8/ 0
即応ダイス:5 緊急回避ダイス:1
◇装備や所持品
◆*骨董品のニンジャモーゼル銃(レリック/カスタム・チャカガン)*
装備時側転難易度+1、精神力+1
◆パーソナルメンポ(ガスマスク)
◆伝統的礼装(ニッカポッカ)
◇ジツやスキル
◉◉タツジン:古代ローマカラテ(ジュージツ)
◉常人の三倍の脚力
●連射2
◉知識:高級嗜好品
◉交渉:威圧
◇酩酊:戦闘終了まで不覚状態
自発的行動難易度+1、敵からの攻撃・射撃難易度-1
能力値合計:20
味方戦力
◆フィルギア(種別:リアルニンジャ)
カラテ 4 体力 11
ニューロン 12 精神力 19
ワザマエ 12 脚力 6/N
ジツ 7 万札 30
攻撃/射撃/機先/電脳 4/12/12/12
回避/精密/側転/発動 12/12/12/19
即応ダイス:5 緊急回避ダイス:4
◇装備や所持品
◆ストリート装束
◇ジツやスキル
☆アーチ級リアルニンジャ(本人)、ジツLV7
☆ヘンゲヨーカイ・ジツLV3:コヨーテに変身
◉◉グレーター級ソウルの力:ニューロン+ジツ=精神力
◉◉アーチ級ソウルの力:カラテ+ジツ=体力
★アクマ・ヘンゲ・ジツ:フクロウ頭の怪人に変身
★★グレーター・アクマ・ヘンゲ・ジツ
★★フクロウへの変身:ヘンゲヨーカイ・ジツと同じ判定
飛行移動(16マス)を獲得するが、カラテ1・ワザマエ6となる
★★★ニンジャ神話知識:ジツに対する抵抗・回避難易度-1
◉挑発
◉魅了
◉疾駆
◉空中制動
●連射2、時間差、マルチターゲット
能力値合計:42
マップ
1ターン目
「フンフンフン……フンフンフン……」ガチャリ。ディクテイターは上機嫌で冷蔵庫のドアを開けた。「ン?」何か、足りない。スシやトロ粉末が見当たらない。残っていたと思ったのは記憶違いだったか。彼が訝しんだ、次の瞬間!「「「イヤーッ!」」」3人の刺客が一斉にカラテ・アンブッシュ!
「え? い、イヤーッ!」ディクテイターは瞬時に反応し、アンブッシュをブリッジ回避!タツジン!だが3人がかりだ!「シューシュシュシュ!」BOBOBO!SMASH!「グワ、アバーッ!」ドミネイターのボックス・カラテがブリッジ姿勢の弱点、脇腹を襲う!崩れたところへミネウチ・イアイ!
どくん……ディクテイターは死を覚悟した。だが彼の肉体に染み付いた古代ローマカラテが、ニンジャアドレナリンが、必死で防御体制を取らせる!カジバヂカラ!SMASH!「グワーッ!」命中!ガスマスクメンポを犠牲にし、ニンジャ耐久力でギリギリ耐えたが、もはや瀕死だ!「貴様ら!」
アイサツ前のアンブッシュは一回だけだ。3人の襲撃者はオジギし、アイサツを繰り出した。「ドーモ、ファイアランナーです」「ドミネイターです」「ドゥームキラーです。横暴な監督官殿にジキソに来たぜ」「ど、ドーモ、ディクテイターです!貴様ら、逆らったな!もうオシマイだぞ!」
3対1、圧倒的不利!だがオフィスの外へ飛び出せば監視カメラがあり、1階と6階にはハイデッカーが詰めている!アマクダリにニチョームの反乱を直ちに伝え、撲滅重点!「イヤーッ!」ディクテイターはふらつきながらも側転を繰り出し、ドアを蹴破らんと……「ここは行き止まりですよォ」
ドアの前に、突然、男が現れた。その両腕は猛禽類の脚のようになり、ディクテイターのトビゲリを掴んで止めた。そしてアイサツした。「ドーモ、ディクテイター=サン。フィルギアです」「ドーモ、ディクテイターです!き、貴様!お尋ね者の!」「暴力は嫌いだが、少し痛い目に遭ってもらう」
2ターン目
「AARGHHH!」フィルギアはそのままフクロウ頭の魔人と化し、ディクテイターの脚を掴んで壁に頭を叩きつけんとす!「い、イヤーッ!」ブリッジ姿勢で壁に張り付き衝撃を逃す!なんたる堅牢な構え!「「「イイイヤァアアアーーーッ!」」」3人は手負いのディクテイターへ一斉に襲いかかる!
ディクテイターはブリッジ姿勢を維持し、必死に耐える!耐える!耐える!なんたる堅牢さ!だが!SMASH!「グワ……アバーッ!?」ナムアミダブツ!股間にミネウチ・イアイが命中、悶絶!耐えきれぬ!堅牢なブリッジ姿勢が再び崩れ、ディクテイターは床に倒れ伏した。インガオホー!
戦闘終了
「思ったより手こずったね」ドミネイターは冷や汗を拭う。4対1とはいえ、取り逃がせばオシマイだった。なんと苦しい戦いだったことか。「爆発四散させるわけにもいかねェな。このまま拷問して、恐怖を叩き込んでやるぜ」ドゥームキラーは昏く笑う。「これ以上の暴力はよくないと思うなァ」
フィルギアは人間の姿に戻り、逸る3人を宥める。グッドマッポ・バッドマッポ・メソッドめいて。「心から屈服させなきゃ……」彼は目を細めた。
……ディクテイターは目を覚ました。ここは、オフィスの奥のベッドルームだ。……動けない。体はがんじがらめに拘束され、首筋には冷たいカタナの刃の感触。「オハヨ」ドゥームキラーはカタナを突きつけながら見下ろした。「ニチョームの統治について、ちょっとお話ししようや」「……ハイ」
エピローグ
フィルギアを交えての代わる代わるの「説得」により、ディクテイターはニチョームの要求を呑み、「ハイデッカーによる横暴行為をやめる」という誓約書にハンコをつくに至った。フィルギアの事も報告しないと誓わせた。アマクダリが監督官を更迭させれば反故になるが、ないよりはマシだ。
この事が表沙汰になればニチョームは攻め滅ぼされかねないが、そうなればディクテイターは恥をさらした上で処分され、ニチョーム自警団は反アマクダリ勢力を引き入れて武装蜂起する。アマクダリも市街地でニュークや化学兵器を使用するわけにもいかず、今のところは穏便に済ますしかない。
「……そういう次第で、少し寛大な措置をとってやる。感謝しろ!」翌日。ディクテイターはビクビクしながらヤグラ337ビルにニチョーム自治会を集め、横暴な政策を緩和することを告知した。「俺は話がわかる男だ。善政を敷けば、おのずと民衆は喜んで従う! 何事もやり過ぎは禁物……」
「やれやれ」ザクロは肩をすくめて微笑んだ。アマクダリの台頭により、ニチョームやネオサイタマの治安が劇的に改善しているのは事実だ。表社会の治安維持には関心を持たなかったソウカイヤ・オムラ連合とはそこが違う。それはいい。だが民意をあまりに強権的に抑圧すれば、必ず反発を招く。
アマクダリはそれも叩き潰すつもりだろうが、マッポーをサヴァイヴするネオサイタマの住民はしたたかだ。混沌と秩序のバランスをとり、対話し、お互いに暮らしやすい社会を悩みながらも模索していかねばならない。ニンジャのような超人でも、それは非ニンジャと変わらないのだ。
【スーパーヒューマン・ファイター】終わり
リザルトな