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【つの版】「逆噴射小説大賞2021」応募作品・ライナーノーツ

 おれだ。三発撃ち終えたのでライナーノーツだ。試し撃ちはせず、準備した銃弾は忘れて、一週間ごとに脳みそをひねって出してみた。おれのすきなものをかけ合わせたり、おれの過去の作品をかけ合わせたり、左右や男女のバランスをとったりしてできている。続くかどうかはわからない。撃ってないやつは撃て。今回はあまりふざけないよう真面目にやったので、全体的にシリアスめになった気がする。手応えや反応は、どれもまあまあだ。

 一昨年と昨年のはこれだ。

◆黒◆

一発目:黒色の計画

 伝奇ものだ。こないだTwitterのタイムラインに「近世英国の魔術師ジョン・ディーアステカ帝国の黒曜石の鏡を持っていた」というニュースがあったので、伝奇的にビビッと来て書いた。まるでジョジョの石仮面だ。ディーは『ネクロノミコン』の英訳をしたともされておりヤバい。

 だいたいアステカで黒曜石の鏡と言えば、皆様御存知テスカトリポカだ。それが英国へ渡るとは、時代的に英国海賊がスペインの船から掠奪したのだろうか。年代を調べてみると、ジョン・ディーが生きていたのは1527-1608年で、1580年頃から魔術にハマり、欧州を渡り歩いていたらしい。彼の冒険を描くだけでも面白くなりそうだが、晩年は魔術嫌いの国王ジェームズ1世に嫌われ不遇であったという。詐欺師つながりで徐福めいてもいるな。

 で、この頃ジェームズ暗殺を目論んでいたのがガイ・フォークスだ。おれは以前彼についていろいろ調べたのでちょうどいい。黒い鏡から地獄の黒煙とともに悪魔が現れ、彼の中の望みを引き出そうとする。黒色の計画、黒色火薬による爆殺計画を。そういうことになった。テスカトリポカを題材にしたパルプとしては、佐藤究=サンのすごい作品があるから読むといい。

◆黒◆

◆土◆

二発目:太歳頭上の惑い星

 右に寄ったので左だ。まず秋の土用だというので妖怪「土用坊主」の情報がおれのタイムラインに流れてきて、なんか面白かったので調べてみた。

https://kowaiohanasi.net/doyou-bouzu

 土用とは季節の変わり目に挟まれる土徳の強まる時期で、大地の下を土の神が蠢くために土を耕したり掘ったりしてはならぬ(犯土の禁)という俗信がある。チャイナでいえば太歳だ。これは木星に呼応して地中を動き回る肉塊で、地中から掘り起こすと祟りをなすという。「太歳頭上動土」というコトワザは「身の程知らず」ほどの意味を持っており、頭上の土ならぬ惑星が動くとしてタイトルとした。『うる星やつら』とつながったのだろう。

 こうした怪異に関わるのは、方士や道士のたぐいだろう。なんかちかごろエセ医学がREALで人心を惑わしているのが太平道の教祖張角めいていると思っていたし、黄巾は土徳でちょうどいい。患者は劉玄徳を土徳でもじって劉徳、医者は張角と角端(麒麟に似た瑞獣)をまぜて張角端だ。張角たんではない。野郎ばかりでも色気がないので、医者はサクラ先生めいて妖艶で豊満な女医にした。圭徳は蒼天航路の劉備と諸星あたるを混ぜたような女好きだ。そいつが飛頭蛮性離魂病に罹患して、夜な夜な土を食っているとはどうしたことか。太歳や財宝を掘り出しているのか、あるいはなんかの兆しか。一発目が英国とアステカだったから、ニ発目はチャイナ的現代風世界としたわけだ。なんかピックアップされてご好評いただいた。感謝します。

◆岩◆

◆狼◆

三発目:蒼い牙

 右に戻した。このところ騎馬遊牧民についてやたらとつのpediaしているので、その余波だ。見ての通りモンゴル民族の始祖神話、蒼き狼と白き牝鹿についての話だが、おれの趣味でふたりとも少年だったりする。逃げ若が混ざったようだ。でもどっちかが男装少女かも知れない。

 チンギス・カンから世代を遡っていくと、系譜上ではボルテ・チノは西暦5世紀末から6世紀頃の存在のはずだ。突厥の伊利可汗と同年代だが、アセナらはトルファンの北のボグダ山の洞窟に潜み、ボルテ・チノらはバイカル湖の彼方やアルグン川の渓谷からオノン川の源流部へやってくる。もしもそいつが実際に地上に生きた人間だったら、どんなやつだっただろう。どのみち神話なので神話類型に従い、村焼きをされたマラルの前にヒーローめいて現れたとした。シンプルに復讐の物語ではあるが、チノは村も家族もテングリにとられたので復讐しようがない。マラルと盟友になることで、目的と仲間を同時に手に入れて自らを動かすのだ。装備のいい連中は柔然か北魏か、堅昆か勅勒か、あるいは突厥か。でかい敵には違いない。

 なおマラルの持つ赤い石は、テムジンが生まれた時に持っていたという赤い血の塊のもじりだ。バイカル湖のほとりで水落ちしたら凍死するだろうと思い、マラルの親が持たせたのだろう。ラピュタのアレめいている。チノが兜を射抜くほどの弓のワザマエを持つことといい、この時代はまだいくらか神秘が残っているようだ。ともかくおれのすきなものを詰め込んでキビキビと動かせたので、なかなか気に入っている。

11/27追記:なんと、安良=サンにファンアートを描いていただきました。スゴイ!ありがとうございます!

◆蒙◆

◆古◆

 以上だ。健闘を祈る。

【ひとまずおわり】

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三宅つの
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