「荒野のタグ・スリンガー」#4
【前回】
「俺たちが揃ってから出て来るとは、お行儀がいいな」
「つまり、俺たちをまとめて始末する気だ。匿名の報告には気をつけたがいいな。恨みでも買ったか」
「よくあることらしいぜ」
サルーンの床板を突き破って出現したゾンビどもは、哀れな店主の喉笛を食い破り、恨めしそうな目で俺たちを睨む。ひからびた眼球で。
webゾンビ。「アーカイバー」所属者には馴染みの深い相手だ。電子遺跡に籠る悪意や怨念を糧に生まれ、食らう、アンデッド(死に損ない)ども。強くはないが数が多い。噛みつかれたら俺たちもゾンビの仲間入りだ。
「ファンクル、頼むぜ」
「ああ、ホルヘ。伏せてな」
右掌を上に向け、集中する。ホルヘは身を低くし、電子スコップを振り回してゾンビどもを威嚇する。馬小屋のサイモンは、脚が速い。無事だろう。ホルヘの馬は鼻がいい。嗅ぎつけて一緒に逃げててくれ。
エナジーが集い、掌大の「#(ハッシュタグ)」となる。俺の武器だ。
「イヤーッ!」
投擲! 旋回し、分裂し、渦を巻く! 至近距離だが仕方ない、このサルーンごと……ぶっ壊す!
KRAAAAAAAAASH!!
竜巻が起こり、サルーンが崩壊! 木片、バーボンの瓶、グラス、店主の死骸、ゾンビどもがメチャクチャに吹き飛ぶ!
「ファンクル、カウンターの中だ! webゾンビがどんどん湧いてくる!」
這いつくばったホルヘの声。俺はハッシュタグの竜巻を操り、ドリルのようにそこを掘り起こす。
DRRRRRRRRRRR!!
「ヘウレーカ!!」
KA-BOOOOOOOM!!
01110011010◆#◆
「……フー……無事か」
「なんとかな。やれやれ」
星空が見える。身を起こす。崩壊したサルーンから離れた位置、馬小屋の外に、俺とホルヘは瞬間移動していた。これもハッシュタグの力だ。左の掌。タグを介して転移する。サイモンに仕掛けておいた。念の為な。webゾンビはこっちにはいないが、すぐ嗅ぎつけてくるだろう。このまま逃げるか。
「お宝は、どうなったかな。webゾンビが食い荒らしてるか、さっきので吹っ飛んだか……サンドワームでなかっただけマシかな」
『違うわ』
ホルヘの馬、牝馬のアロミアが呟いた。彼女は鼻がいい。サイモンが鼻を鳴らした。
『ぶふん! なんだって、アロミアちゃん』
『違う。お宝は無傷よ。webゾンビたちは全部消し飛んだけど、お宝はあの下に残ってる』
俺はホルヘと顔を見合わせる。それなら、戻るしかない。彼女を信じよう。
【続く】