忍殺TRPGリプレイ【トゥー・メニー・ルージング・ニンジャズ!】02
前回のあらすじ:ネオサイタマはアマクダリ・セクトにほぼ制圧され、ソウカイヤ・オムラ連合の残党の大多数はその軍門に降った。だがニチョームとその地下には、ネオサイタマ中から反アマクダリ派のニンジャが集結しつつある!抑圧に対する抵抗の動きは爆発寸前だ!カラダニキヲツケテネ!
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「謝罪セン。巻き込んじまって」デンパルスが頭を下げる。「いいのよ。遅かれ早かれこうなるとは思ってたの」ザクロは肩をすくめた。いまや隔離・封鎖されたニチョームには観光客が来ることもない。地下から流入する難民やニンジャたちは、街の許容能力を超えた。
ニチョームはこれまで「来る者拒まず、去る者追わず」の精神で運営されて来たものの、ハイデッカーに目をつけられて排除されるような者は、基本的にアウトロー、社会不適合者だ。善人よりも悪人が圧倒的に多く、他者との協調性に欠ける。悪行が目に余れば、ニチョームからも追放される。
……その時!
KABOOOOM!バチン! くぐもった音が地下に響き、電気が消えた!「アイエッ!」「予備電源を!」一同はニンジャ視力で問題なく視えるが、IRCやUNIXは電気がなければ動かない!「単なる事故か?それとも敵か?」「妨害工作の可能性はあるわ!警戒して!」「見張り役に連絡を!」
外は激しい土砂降りだ。サイレン音が聞こえ、パトランプが瞬く。『ニチョーム・ストリート東部、小規模発電所で火災ドスエ。ただちに避難するドスエ。ハイデッカーが市民を誘導し、消火活動にあたりますドスエ』ヤグラ337ビルから町内放送が響き、消防装備ハイデッカーたちが出動していく。
「ハイデッカーが動いてるってことは、あいつらのしわざってわけでもないか?」地上、ビルの上で様子をうかがっているのは、ドミネイターたちニチョーム自警団だ。「さあね。マッチポンプかも」「行って調査しましょう。なにか手がかりがつかめるかも」3人は頷き、ビルから身を躍らせた!
調査開始
カチグミ居住区を除けばインフラが行き届いているとは言えないネオサイタマには、ストリートごとに小規模な発電所があり、地域の電力を供給している。その一つが今、爆発しながら燃え盛っている!「アイエエエ!」「助けて!」発電所から必死で逃げ出す作業員たち!ただの事故か、それとも?
「「「消火スッゾコラー市民!」」」消防装備ハイデッカーらが直ちに駆けつけ、一糸乱れぬ動きでポンプ車を動かし、迅速な消火活動を行い始める。厄介な連中ではあるが、こういう時には頼もしい。しかし!「「「拘束スッゾコラー市民!」」」逃げ出した作業員を拘束し、尋問しようとしている!
「「「イヤーッ!」」」3人は色付きの風と化して駆け寄り、作業員3名をそれぞれ救出!路地裏からマンホールに飛び込み確保する!「アイエエエ!」「シッ。ドーモ、ニチョーム自警団です。発電所の火災の原因を調べに来ました」「アッハイ」作業員たちは頷き、言われるままに情報を提供した。
落雷や不注意による火災ではない。機材の定期メンテナンス中に、突然爆発が起きたというのだ。作業員たちも巻き込まれて何人か死傷したという。「誰かによるテロってわけ?」「そこまでは……まだ何人か取り残されてるかも」「じゃ、助けに行くか。ハイデッカーも救助作業は止めねえだろ」
3人は作業員たちを残し、発電所へ向かう。燃え盛る炎と煙が視界を遮るものの、ニンジャ視力と肺活量なら問題ない。手早く何人かの生存者を救出しつつ、火元と見られる場所を探る。「これは……」ドゥームキラーが何かを見つけた。焼け焦げた鉄製フレームと機械部品は、発電機材ではない!
「おやおや、こいつぁドーモ」煙の向こうで影が揺らめき、オジギしてアイサツした。知った顔だ。「ブライカンです」近所から救援に駆けつけたのだろう。「ドーモ、ドゥームキラーです。怪我はいいのか」「おかげさんで。しかし、やられやしたねェ。消火や作業員の救出を手伝いやす」「ああ」
ドゥームキラーは不審物に消火器をかけ、回収する。ブライカンが顔を近づけてきた。「なんですかい、そりゃ」「爆弾、だな。たぶん軍用だ。俺は詳しいからわかる」「そりゃ……テロってわけですかい」「ああ。アマクダリが難癖つけて攻め込んで来るぜ。気をつけろ」2人は小声で密談する。
「ちょいと心当たりがあるんですがね」ブライカンは低い小声で告げる。「ファイアキラー=サンを途中で見かけやした。なんかコソコソしてたみたいで」「裏切ったってのか?」「そうとは言いやせんが、気をつけたがいいかと」「ああ。一応、話も聞いとかねェとな」ドゥームキラーは頷いた。
お尋ね者のサークル・シマナガシやソウカイヤの残党に、地上の施設の警備を任せるわけにはいかない。それに、ニチョーム自警団は現在アマクダリの末端に属している。目端の利く者なら彼らを売り、アマクダリによる掃討作戦の片棒を担ぐこともあるだろう。仲間を疑いたくはないが……。
しばらくして、3人は発電所ビルの裏口から生き残った作業員たちを担いで脱出した。ガラガラガラ……ズゥン。土砂降りの雨の中、発電所ビルは焼け崩れた。ハイデッカーや住民の消火活動もあり、延焼は今のところ免れている。だがしばらくニチョームは電力に不足することになろう。
別方向から脱出したブライカンはともかく、ファイアキラーは姿も見せなかった。死んだわけでもあるまいが、実際不審。さらなる調査が必要だ。
調査継続
翌日。昨日の土砂降りの雨はさらに激しくなり、この世の終わりじみた雷雨となった。ジゴクめいた雷鳴が轟き、下水や運河が氾濫している。発電所の火災は完全に消えただろうが、反アマクダリ派の逃げ込んだ地下下水道も危険だろう。こんな時にアマクダリが攻めてくれば、どうなるか……。
ドゥームキラーはゲイバー『絵馴染』でドミネイター、ファイアランナー、ザクロと情報を共有する。ブライカンやファイアキラーは姿を見せない。ブライカンの方も怪しいと言えば怪しいが、疑いだせばきりがない。「IRCも通じないわね。彼女のアパートへ行って、確認してみましょう」
ニチョーム内の安アパートの一室。3人は雷雨を避けてなるべく屋内を進み、ファイアキラーの住処に辿り着いた。BEEP……ブザーを鳴らすと、少しして反応がある。『モシモシ。誰?』「ドーモ、ニチョーム自警団のファイアランナーです。あと、いつもの2人。ちょっと聴きたいことがあって!」
ジゴクめいた雷鳴と雷雨により会話はしばしば遮られたが、ニンジャ聴力によってなんとか意思疎通はできる。ファイアキラーはドアをあけ、3人を中へ招き入れた。「……ブライカン=サンがそんなことを?」「ええ。疑いたくはないけど」ファイアキラーは訝しみ、眉根を寄せた。「おかしいな」
「え?」「その時、そこにいるはずないよ。私と彼女、2人ともその時は地下下水道にいたんだから。発電所の火災には駆けつけてないよ」「マ?」「アー、立証は難しいけど……彼女のアパートに行ってみる?」ファイアキラーに嘘をついている様子はない。ニンジャ感覚でなんとなくわかる。
そうであるなら、ブライカンは……否、ブライカンを装った誰かが、あの場にいたことになる。炎と煙に満ちた火事場とはいえ、ドゥームキラーは全く気づかなかった。よほど変装に長けているか、あるいはジツなのか。ではなぜ、敵はそんな回りくどいことをした?疑心暗鬼で分断するためか?
KRA-TTOOOOM! 稲妻が337ビルの避雷針に落ち、周囲を一瞬白く照らし出した。01010101……エテルの流れる感覚が3人のニューロンに走り、何かを気づかせる。敵の狙いは……ザクロの暗殺だ!「『絵馴染』に戻る!ついてきて!」「了解!」4人は雷雨の中へ一斉に飛び出す!急がなくては!
???
ゴロゴロゴロゴロ……! 閉店休業状態の薄暗い『絵馴染』に、雷鳴が轟く。ザクロはドミネイターたちの使ったコップを洗っている。従業員のゲイマイコたちも、そろそろニチョームの外へ疎開させるべきだろうか。だが彼らが人質となれば問題だ。ならば地下から……からんからん。「ドーモ」
ドアが開き、濡れた人影がアイサツした。「ブライカンです。雨宿りに参りやした」「ドーモ。タオルあるわよ」「ありがとうごぜぇやす」彼女は軒先でサイバー三度笠を脱ぎ、深々とオジギした。「他の方々は」「今ファイアキラー=サンのところよ。裏切りは考えたくないけど」「そうでやすか」
ブライカンは店舗に入り、笠とコートをハンガーに掛け、差し出されたタオルを恭しく受け取る。「まったく、ひでぇ雨で」「そうね」ザクロはブライカンをしげしげと見、つぶやく。「水も滴るいい女だこと」「ありがとうごぜぇやす」「顔はいいんだから、生活態度をしっかりしなさい」「へぇ」
店内に客はいない。ブライカンはタオルで顔を拭きながら、袖口に仕込んだタケウチ・ニードルガンの狙いをザクロにつける。相手がムテキ・アティチュードの使い手であろうと、油断していれば……!
【続く】
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