豪華本『江戸の絵本』
本棚には、とても存在感のある大型本が一冊入っている。『江戸の絵本』第一巻。出版社は国書刊行会、出版年は昭和62年、1987年である。ここ最近、黄表紙への興味があって、久しぶりに手に取り、ページをめくった。
収められているのは、江戸の草双紙(赤本、黒本、青本)数えて17作。それぞれの作には、詳細な解説が添えられている。原作の全ページ影印が着いているというのが本書の最大のポイントと見受けられる。体裁は三段組のレイアウトを取る。上段は、原作の見開きのページ、中段は、翻刻、下段は語彙説明や解説である。翻刻は、原文の仮名遣いを再現しながらも、それを漢字混じりの文章に改め、漢字にふり仮名をつける。影印との対応は、もっぱら文字の位置により、絵の一部となる斜めの文字もその通りに出した。加えて人物の発言について、発言者をカッコ付きで示す。下段の注釈は、それぞれの言葉への過度な詮索はなく、同時期の文献などによる背景解説、それに物語の内容の説明に字数をさいた。古典作品、とりわけ絵の多いものを正確に、上品に伝えるためには、良い手本を示している。
いまになってこのような本を開き、絵本のようなジャンルのものを紙媒体で伝えるには限界があることにあらためて気づかされる。ここまで作り込まれたものでも、原作を影印で読むにはとてもきつくて、ほとんど不可能に近い。これ対して、いま対象作品はたいていデジタル公開されているので、インターネットのデジタル図書館にアクセスして、原作の実際のサイズよるは数倍も大きいサイズに撮影したものを、思う存分に拡大し、読みたい文字、眺めたい人物や情景をじっくり覗き込むことは、すっかりこの手の書籍の読書方法に定着したのだ。
このような一冊は、自分の蔵書に買い求める内容ではなかった。はたして贈呈本である。それも著者小池正胤氏によるものだった。いうまでもなく贈呈の相手はわたしではなかった。それは学生時代の恩師の孫宗光先生であり、扉ページには著者による丁寧な署名があった。贈呈の時間をよく見れば、まさに刊行直後だった。たしか十年も前のことだが、日本滞在の間、孫先生から連絡が入り、これをわざわざ中国から郵送してくださった。たいへん感激したことはいまも覚えている。その孫先生はいまもとてもお元気でいらしゃることが友人サークルからよく伝わってくる。