のりかけ・草双紙断片特定メモ
手元に、二枚の江戸版本の断片がある。すでに十年ほどもまえのことだろうか、これを丁寧に添え紙をしてフレームに入れ、研究室の壁に飾って眺めていた。ただし、題名などの内容はずっと特定していない。ここしばらくは黄表紙を読んでいるので、これを思い出して取り出し、ちょっとした挑戦をしてみた。
物語を記述する文字がかなり長く綴られている。それらを目を凝らして読むよりは、まず分かりやすところから切り込んだ。柱に書かれた題名は、「のりかけ」、それから人物の服に書き込んだその名前を現す文字は、「政」、「志」、「あ」、「丹」とあった。
手始めに、日本古典籍総合目録データベースに入り、「のりかけ」を検索した。そこで、二十六点の結果が戻ってきた。そのうち、同じ題名で違うジャンルの作は、『伊賀越乗懸合羽』はじめあわせて十四点、違う題名の作は十五作という計算にある。これなら、一つずつクリックすることが簡単だ。
ちなみに、浄瑠璃から黄表紙まで幅広いジャンルを重ねる『伊賀越乗懸合羽』は十二作と数え、かなりのヒット作と見る。まずは「コトバンク」で調べ、「世界大百科事典」などの記述が掲載され、物語の主人公の名前はには、「志津馬」、「政右衛門」などとあるのを確認できた。方向が間違っていないと励まされた。それでも、黄表紙と分類された二作は、一作はデジタルされておらず、北尾政美作は開いてみて、違う作品だと分かった。
そこで、『敵討勝乗掛』の書誌情報を開いた。『国書総目録』記載の所蔵は三作、そのうちの一作と、総目録に記載されていない一作がデジタル化されている。まず法政大学図書館古川久文庫所蔵の一点を開いてみれば、なんと手元のページとぴったりだった。
東京都立中央図書館加賀文庫所蔵も、おなじものと思われる。ただ写真フイルムからデジタル化したもので、詳細はいま一つ十分に確認できない。なお、『国書総目録』記載の国立国会図書館図書館にある所蔵は、同デジタルコレクションを調べても、所在は確認できない。
これで、この小さな作業は簡単に終了した。断片がかつて収めた書目は、『敵討勝乗掛』、二冊、曲亭馬琴著、勝川春扇画、文化十(1814)年刊、というものである。
最後に、手元の断片をスマホで撮影して、ダウンロードした同じページのデジタルファイルと並べてみた。
江戸から伝わるものを手にして、たしかに不思議な感じが隠せない。スマホのカメラで捉えても、墨の匂いさえ伝わるような迫力のあるものだ。一方では、内容をじっくり読むということとなれば、デジタルファイルのほうがはるかに便利で頼もしい。ゆっくり時間を取りたいものだ。