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あなたの笑顔を千年後に伝えたい。『枕草子のたくらみ』山本淳子

『枕草子』が史実通りを書いた随筆ではなく、定子のサロンの華やかさを後世に伝えるために書かれた本だということを知ったのは『うた恋い。』を読んだとき。それと同じ内容を、専門の人がちゃんと文章で書いたものを読んだのは初めて。さくさく読めて、しかもミステリのようにおもしろい本です。

「春はあけぼの」のリズム感。才気煥発で流行の最先端をいって、自信満々な清少納言。

夜をこめて鳥のそら音ははかるとも 世に逢坂の関はゆるさじ

百人一首にあるこの和歌は、高校生のときから大好きでした。なんたって、肩で風をきるような作者の姿を彷彿とさせますから。

でも、『枕草子』を書いたとき、実際は使えていた定子の両親がなくなって、叔父の藤原道長の世の中。定子は一条天皇に愛されていたけれど、とても厳しい立場におかれていて。そんな苦しい時代を吹き飛ばそうとするかのように、『枕草子』には楽しいことばかりが描かれているそうです。

可能な限り神経をつかって、道長の悪口や世の中を恨むようなことは描かず、親王たちのことも描かず、明るく聡明な定子と彼女を愛する天皇の様子、そして雅やかな定子のサロンを描く清少納言。

著者は残された多くの資料と『枕草子』の記述をつきつめながら、どのエピソードにどういう歴史的背景があって、なぜわざわざ清少納言がその話を書いたのかをあきらかにしていきます。まるで良質のミステリのように。

そして、それは単なる謎解きを越えて、清少納言や定子、一条天皇などが生きた時代をうかびあがらせてくれます。やっぱり、古典は心の栄養だし、人生の大事な指針。なにより、先輩たちの叡智ですから。

そして、いまなら大河ドラマ『光る君へ』で平安時代に興味を持った友達にもおすすめ。読み終わった後の感想をおしゃべりするのが楽しいです。



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