家族と友情と恋と人生の物語。ドラマ『家族の名において』中国、2020年。
舞台は、風光明媚な厦門の下町。麺の店を営む李海潮(リー・ハイチャオ)と娘の尖尖(チェンチェン)は二人暮らし。母は最近亡くなったばかり。団地の上の階に、訳あり家族が引っ越してきたところから物語は始まります。ドラマはざっくり3パート。子ども3人の幼少期、高校生の頃、そして社会人です。
団地に引っ越してきた凌霄(リン・シャオ)の父は警官で忙しく、家庭を顧みることができません。精神的な問題を抱えていた母と父はケンカばかり。ある日、とうとう母親は出ていき、凌霄と凌パパは李父子と支え合って暮らすことになります。
凌パパ役の張晞臨(チャン・シーリン)さんは『破氷行動』でも警官役。しかも麻薬取締官。最初の頃は『家族の名において』の駐在所の警官役が、シリアス上官イメージとダブって困りました。このドラマでは、一見しっかり者そうなのに、いつも肝心なところで及び腰になる凌パパ。こういうお父さん、うちの父みたいでなんかリアルです。
そして、もう一人の家族追加。お見合いおばさんに勧められて、李パパが会った賀梅(ハー・メイ)は、息子の賀子秋(ハー・ズチウ)を李家に預けて音沙汰なしになります。子供好きで料理上手な李パパは、娘の尖尖と一緒に賀子秋を育てることを決意。こんなわけで父2人、息子2人に娘1人の不思議な家族ができあがり。
第2パートは、高校生になった元気が良すぎる尖尖の青春物語を中心に、優等生でしっかり者の凌霄、やさしくて妹の世話係の賀子秋(どちらも高3)がわきを固め、李パパがおいしい料理とやさしい言葉で3人を包んでくれる日々が続く……かと思いきや、2人の兄の実の父や母が登場して、親の権利を主張しはじめるハードな展開に。予想外でした。
中国は日本に比べて遥かに「親の老後は子供が頼り」な社会で、そもそも伝統的に子供は親の所有物って観念が強かったりするので、日本人には結構きついです。特に、中国南部は家族だけじゃなくて、一族の結びつきとかも強く広かったりするから大変。まあ、その分助け合いもするんですけど、このドラマの場合、いろんなしわ寄せが兄2人に行き過ぎ。
結局、実の親や親戚の身勝手で兄2人が犠牲になった形で、いきなり家族が離れ離れ。残された尖尖は、美術系の大学に進んで、卒業後は先輩と一緒にアトリエを構え、親友たちと3人で家を出て暮らし始めます。第3パートは、9年ぶりに厦門に戻ってきた兄2人で幕開け。もう子供時代には戻れない、ぎこちなさがいいです。
「実の親」という悩み事を抱えた尖尖の兄2人。なんとか尖尖や李パパと家族として繋がろうとするところ、背景がじっくり描かれているので違和感はないですが、いろんな意味で切ない。妹の性格を把握していて、着実に距離を詰めるさすがの長男凌霄。兄の延長線上で妹を守りたい、次兄ポジションがかわいすぎる賀子秋。3人の関係が、大人になって少しづつ変化していくところが見応えあります。
日本のドラマだと1クール12話しかないので、いろいろ展開がスピーディになりそうな場面でも、このドラマはたっぷり40話。楽しいし、うれしいけど、時間が溶ける恐ろしい沼です。主役の兄妹3人と父2人以外の登場人物もそれぞれ魅力的なので。
というわけで、私は尖尖と斉明月、唐燦の女子3人の友情や恋愛模様、彼女たちの親子関係の変化が大好き。尖尖と先輩の2人のパートナーシップはただただ羨ましいです。彼女たちの会話は、聞いていてすごく楽しいし、文章で見たときによくわからなかった単語も、このドラマの会話の流れの中で聞くとニュアンスがよくわかります。
あとは、何と言っても李パパ役の涂松岩さん。お母さんみたいに気配りの細かい、おしゃべりな役がすごくハマっていました。凌パパと2人で、本当にいいコンビ。マメむきとかしながら、子供たちの相談をしている場面が最高にかわいいし、だんだん年をとっていく演技も自然すぎて身につまされます。
最初はストーリーを追って、先へ先へとみてしまう海外ドラマですが、時間の許す限り2周ぐらいして、登場人物たちの会話を字幕とセリフでチェックしながら、何度も楽しみたいです。ドラマで使われている音楽も好き。
そして、厦門。少し前に、仕事がらみでいくつか資料を読んだので親近感。一度行ってみたいです。
後日追記:
最初は書かないでおこうかとおもったけど、やっぱり追加。このドラマで久しぶりに「童養媳」(童養夫)なんて言葉を聞きました。懐かしすぎるし、きつい。日本語訳はかなり婉曲に表現されていましたが、実際には昔、息子の嫁にするために幼女をお金で買い取る習慣のこと。
昔、中国では男性が結婚するのに結納金が必要で、貧しい人たちは高い結納金が払えないから、安い少女を買って大きくなるまでは小間使みたいにこき使って、大人になったら息子と結婚させた慣習。このドラマでは、李尖尖と結婚したい賀子秋を友達が心配していうセリフに出てきました。
一応、中華人民共和国成立後には、人身売買みたいな慣習は法律で禁止されましたが、子供の誘拐は今でもホットな社会問題だし、映画やドラマどころか、アニメの『時光代理人』でもエピソードとして出てくるくらいだから、「童養媳(夫)」なんて言葉もまだまだ残っているんでしょうけれど。尖尖が拐われそうになったエピソードあった、ため息でます。