強くてブレない女性の魅力。ドラマ『瓔珞』(延禧攻略)中国、2018年
とうとう見てしまいました。全70話もあるのでどうしようかと思ったけど、私の大好きな邱秋さんが主役の声とあっては見ないわけにはいきません。 『琅琊榜』で穆霓凰の声を担当した邱秋さん。(あと、アニメ『天官賜福』の風師も!)『瓔珞』ではイメージした宮廷ドラマを遥かに超えて、穆霓凰以上にイケメン役でした。
清朝は乾隆帝の時代。刺繍担当の女官になった魏瓔珞(ウェイ・インルオ)が持ち前の頭の良さで皇后の女官になり、令妃になり、ラストは皇后にまで上り詰める実話ベースのドラマ。インルオは、宮廷女官で非業の死を遂げた姉の敵を打つために後宮に入ります。なので、最初はミステリー風に話が進みます。
前半のインルオは、姉の死の真相を知るためには手段を選ばない尖ったナイフみたいで、頭はいいけれど突っ走りすぎて危うい感じ。心配してくれる先輩女官のいうことも聞かず、彼女の能力に嫉妬して意地悪(結果的に、自分の目的を妨害)する同僚たちを知恵で蹴散らし、皇后付きの女官に出世します。が、まだまだ若くて経験不足で、足を引っ張り返されることもしばしば。
それでも、富察(フチャ)皇后を守りつつライバルたちを黙らせ、姉の死の真相にたどりつこうとします。優しいフチャ皇后や皇后の弟傅恒(フホン)が心配しても、彼女は一切聞く耳を持ちません。前半は、とにかくその強い意志とエネルギーに視聴者は圧倒されるし、劇中でも彼女の周囲の人間が彼女のエネルギーに巻き込まれていきます。
インルオは姉の復讐一直線で知恵をめぐらすわりに、自分の安全は二の次。でも、情には情で返すし、媚をうらないし、泣き言も言わないし、弱い人には基本やさしい。だから、劇中では良心的な人ほど彼女を心配してしまうという結果になります。そして、後宮というところは善人ほど生きづらい。
というわけで、このドラマの見どころは、何があっても変わらない強強のインルオの出世っぷり以上に、彼女の周りにいる「良心も弱さも併せ持つ普通の女」たちが、後宮という閉ざされた世界でどうやって変わっていくか。登場から悪女全開の高貴妃はともかく、高貴妃の陰謀のおかげで痛めつけられていくフチャ皇后や嫻妃、そして嫻妃が狂ったせいで、また純妃や別の妃嬪たちが、他人を蹴落としてなんとも思わなくなっていく連鎖の描写がすごいです。
復讐一心で自分のことは後回しだったインルオが、姉の復讐をやりとげたものの、気がつけば初恋の人を失い、皇后を失って、一旦円明園に追い出されるまでが前半。その後数年たって、かつての同僚のために妃嬪になって後宮に戻るところから後半が始まります。彼女が目指すのはフチャ皇后と元同僚の敵討ち。
失敗に学び、年齢を重ねた瓔珞は、あせらないことを覚え、皇帝の寵愛を得て、皇后になった嫻妃や他の貴妃たちと渡り合っていきます。寵愛といっても、2人の関係は賢い者同士でキツネとタヌキのなんとかみたい。まあそれは、インルオが他の妃嬪にない自分だけの魅力で勝負しているからで、皇帝とは「信頼」で結ばれていると言い換えてもいいかも。どんな状況でも感傷に振り回されず、やるべきことをやる女への信頼。
そもそも、こういう強強の賢い女性を主役にした時代ドラマが成立するってことがすごいです。しかも、実話ベースだし。瓔珞役の呉謹言さんは、額が広くていかにも頭良さそうで、一筋縄ではいかない感じ。普通のドラマだと主人公のライバル役をやりそうです。夏達『長歌行』といい、中国ではこういう女性主人公が成立するんですね。
経験を積んで、視野を広めたインルオは、後半、自分が復讐する過程で周囲に影響を及ぼさないように心を配ります。もちろん、全てが思い通りにはいかないので、犠牲が出てしまうこともある。でも、彼女は自分の失敗も悲しみも決して顔に出さず、泣き言をいわずに受け止めて、前を向き、後宮での自分を演じ続けるところがすごい。
最終話、実らなかった初恋の相手フホンの最後の言葉を聞いたインルオ。皇后や姉の敵討ちを果たして、皇后にのぼりつめて、後宮で敵がいなくなっても、彼女は絶対に他人がいるところで泣き崩れたりしません。そんな彼女を見透かしたようなフホンの遺言がすごいです。「来世で一緒になろう」とか「ずっと好きだった」とか、そんなありきたりじゃない。
フホンの言葉が伝えられても沈黙を守るインルオ。使者が去り、女官を下がらせて、一人だけになった部屋で、彼女はようやくフホンを思い、前を向いて微笑みつつ、涙をポロリと流していうセリフ。「好。我答應」。呉謹言さんも邱秋さんも、最高の演技。ため息しか出ません。
余談ですが、フホンの死の原因になった雲南の「瘴気」。菊池先生の本によれば、高温多湿でマラリアにかかるような気候の全体を指すようです。
さて、凡人の私はインルオほど強くなれそうになれません。彼女を陥れようとして失敗して、その後はごまする側になり、インルオの子供かわいさに味方にまわった妃嬪、納蘭淳雪あたりが一番人間ぽくて憎めない感じでかわいいです。他にも、大勢の女優さんたちがみんなそれぞれに魅力的。おすすめです。