本嫌いだった智子さんを変えた、絵本の世界との出会い
福井市在住の木下智子さんは、7年前、生家である「竹中商事(株)越前屋」に店主として帰ってきた。
店名は、お父さんが営んでいた「竹中商事」の名前と、母方の実家である「越前屋」の名前を組み合わせた。この「越前屋」というのが、実はとても由緒ある家系なのだ。前田利家が武生を治めていたころ、利家に仕えていた両替屋が越前屋だった。利家に気にいられともに加賀藩へ移った越前屋は、商人でありながら武士並みの扱いを受ける名家となった。
▲こちらの本の著者は智子さんのご親戚。一族の本があるとは、由緒ある家柄だという証拠だ。
そんな一族の歴史ゆえに、智子さんは金沢に親戚を多く持つ。自身も高校・大学を金沢の親戚のもとから通っており、「敦賀を離れていた時間の方が長い」。学生時代以降もなかなか異色の経歴を辿っていた。銀行員から福祉のボランティア活動や保育士などなど、とにかく経験豊富。大人しそうな雰囲気とはギャップがあり驚いた。
「国語よりも数学。数字でバーンと答えが出る方が好きだった」という台詞からは両替屋の子孫らしさを感じる。しかし、本を読むことが好きではなかった智子さんが、本好きになったきっかけがあった。それが絵本セラピーとの出会いだった。絵本セラピーとは、大人が絵本の読み聞かせを聞き、そこから感じ取ったことを発表する場だ。特徴的なのが、読み聞かせのスタイル。抑揚をつけず淡々と読まれるお話を聞き、登場人物の心情をそれぞれが思い思いに解釈する。そして発表時には、同じお話を聞いても人によって感じ方が違うことを知る。そこから自分と他者の違いを垣間見たり、絵本の奥深いメッセージを感じたりするのを楽しむ。
「絵本セラピーを体験してから、子どもの絵本を見る目が変わり、絵本がすごく好きになりました」と言う。そして出会ったのが、ガソリンスタンドで無料配布している『童話の花束』という本だった。この本は、エネルギー会社の ENEOSが一般募集したオリジナル童話作品の中から優秀作品を集めた童話集だ。ENEOSのグループ企業などに向けてチャリティー販売されており、実際にチャリティー購入したスタンドがお客様に無料配布していたそうだ。今では毎号欠かさずもらってくるという智子さん。ガソリンスタンドのお兄さんたちともすっかり顔見知り。発行されるとガソリンスタンドのお兄さんが毎回声をかけてくれるという。
プライベートでは、お孫さんのために自宅に絵本を揃えて、遊びに来たときには読み聞かせをしている。時にはお孫さんが幼稚園の先生を真似して読み聞かせる本を(と言っても字はまだ読めないのでオリジナルなお話ができあがるそうだ)、智子さんが園児のようにして聞くことも。「一度やり始めたらエンドレスでやるからね(笑)。ご飯つくりたいな〜と思いながらも、ちゃんと付き合うことで孫が本を好きになってくれたらいいなと思うの」。
店の歴史や本の話をきっかけに、智子さんのさまざまな顔を知れた気がする。
そんな智子さんのおすすめ本や趣味の本、それらにまつわるエピソードをほんいち本棚に掲示しています。
千田書店の「ほんいち本棚 特設コーナー」では、智子さんとこの3冊にまつわるエピソードを8月12日ごろまで掲示しています。ぜひ、店頭でご覧ください。