万里鏡が見る未来──「脱軍事化」の宇宙開発に向けて
27日夜、人工衛星打ち上げを予告していた朝鮮は早速ロケットを打ち上げた。結果的にこれは一段目の不具合により爆破され、国営朝鮮中央通信も打ち上げ後から数時間で失敗を発表した。
今回は(5月のnoteに困っていたし)このロケット発射に関する備忘録と私見を簡単にまとめていこうと思う。あくまでも個人の書き散らしなので間違っている点などはご容赦いただきたい。
新たな液体燃料方式、ロシアの関与はどのくらいなのか
今回のロケットについて、朝鮮中央通信日本語版は「新しく開発した液体酸素+石油エンジン」だとしている(ちなみにロケット名も「新型衛星キャリア・ロケット」になっている。千里馬シリーズではないのだろうか)。
この「液体酸素+石油エンジン」は一般的にLOX/ケロシンとされる推進方法で、現在これを一般的に採用している国はロシアなどとされている。
このことから、今回ある程度の技術力はロシアの協力を受けているということは想像できるが、重要なのはどの程度ロシアが関与しているかだろう。
色々調べたところ、この方式で管理が大変なのはケロシンよりも液体酸素だという。そうなるとその辺りが朝鮮で製造できているのか、という点だが、2016年9月15日の朝鮮中央通信で液体酸素も製造できるという医療用酸素工場の現地指導報道があることから、この辺りは自身で製造・管理が可能と考えられる。
またアメリカのCSISによると、4月下旬に衛星発射場でエンジンの燃焼実験をしていることから、朝鮮はおそらく独自に開発をある程度していた、ロシアの技術供与・協力は限定的だと考えることもできるだろう。
なぜこのタイミングで新機軸を、「脱軍事化」加速?
次の問題は、なぜこのタイミングで新機軸のロケットエンジンを運用したかという点だが、この鍵にもケロシンは関わっていると私は考えている。
まず第一に、ケロシンは国連制裁下でも範囲内(年間50万バレル)なら朝鮮は輸入が可能だ。そもそもケロシンは要するに灯油であり、航空燃料にも使われたりと汎用性が高い。制裁下でもロケット開発を進めるなら最適な燃料と言えるだろう。
第二にケロシンは比較的安価だということも挙げられる。キログラム単位だと液体水素が3000円に対し、ケロシンは1000円程度と、3倍程度も価格差が開いている。今後複数人工衛星を打ち上げるなら、コストカットは必至だろう。
一方で、この新機軸のロケットの大きな問題として、打ち上げまでに時間を要するというのがある。つまり、朝鮮が近年運用している弾道ミサイルと異なり、仮にこれを軍事転用しようとしたら発射の兆候を分かりやすく晒すことになるのだ。
裏を返せばそういうロケットを運用するということは、人工衛星ロケットの「脱軍事化」の現れだろう。そもそも朝鮮は制度面からしても10年代に国家宇宙開発局が創設され、この機構は制度上軍ではなく政府に所属することから、朝鮮における宇宙開発分野は軍事と切り離されるべきであった。
とはいえ従来は軍のミサイル部門との近接は度々指摘されており(ロケット開発をするうえでこれは朝鮮に限らずよく見られる)、23年の千里馬1型ロケットは朝鮮人民軍の火星17と同じエンジンを使っていると言われていた。
その状況で、わざわざ燃焼実験を行い、朝鮮中央通信の記事中で「衛星打ち上げ委員会の現場指揮専門家審議」で「新しく開発した」エンジンと強調していることは、朝鮮の宇宙開発の「脱軍事化」をアピールするものではないか。
朝鮮は宇宙開発において国際宇宙航行連盟への加盟を軍関係への背景を理由に取り消されるなど、国際進出という点では出遅れている。「脱軍事化」は朝鮮の宇宙開発の国際進出という点でも重要な課題と言えよう。
朝鮮宇宙開発の未来、「打ち上げビジネス」参戦の可能性も?
ここからは完全にオタクの私見だが、今後このような朝鮮宇宙開発の国際進出の先には何があるのだろうか。まず考えられるのは他国との宇宙開発の連携だろう。当然組むとしたら東側諸国など中心だろうが、それでもロシアや中国といった宇宙開発の重鎮揃いだ。彼らとの連携は朝鮮の宇宙開発を加速させ、当然軍事技術の向上にも寄与するだろう。
さらに言えば、もしかしたら朝鮮が「打ち上げビジネス」に参戦する可能性もゼロではない。打ち上げビジネスはイーロン・マスクのスペースX社など、一部の西側企業が中心なだけに、朝鮮が参入できれば非西側の怪しい国中心に、案外顧客を獲得できるかもしれない。そうすれば外貨稼ぎの柱にもなりうるだろう。
いずれにせよ朝鮮の先端技術開発は我々の想像をはるかに超える速度で進捗しており、安易なイメージ論は非常に危険である。そう思わせるに十分なロケット打ち上げだったと評価できる。
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