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【歳時記と落語】冬至

2020年12月21日は冬至です。二十四節気の中でも重要な節気の一つです。暦では、冬至があるのが十一月と定められています。

一年で一番日が短い日と言われますが、実際にそうなるかどうかは、暦と天体の動きの関係で絶対とはいえんようですが、古く四書五経の一つ『尚書』の「堯典」の中にも 「日短」と書かれております。また「冬至一陽生(冬至は一陽生ず)」ともいい、陰の気が極まり、陽の気が生じ始めるときとされております。「一陽来復」とも言いますな。つまり冬の極まりということは、ここからは段々春に向かっていくという訳ですな。最も実際はまだまだ寒さは厳しくなっていきますが。

北宋の蘇軾の「冬至日独遊吉祥寺(冬至の日、独り吉祥寺に遊ぶ)」にも、そんなことがうかがえます。
井底微陽回未回 井底の微陽 回(めぐ)るや未だ回らざるや
蕭蕭寒雨湿枯荄 蕭蕭たる寒雨 枯荄(こがい)を湿す
何人更似蘇夫子 何人か更に似たる 蘇夫子に
不是花時肯独来 是れ花時ならざるに 肯て独り来たる

この冬至には昔から、カボチャを食べるという風習がありますな。カボチャは保存が利きますんで、昔は冬の貴重な栄養源やったんです。実際にかぼちゃにはカロテンが豊富で、体内ではビタミンに変わります。ちゃんと理にかなっているわけですな。

もう一つ、ゆず湯に入るというのもありますな。無病息災を祈るもんですが、これも実際に血行がよくなり、よう身体が温まりますから、単なるまじないという訳ではないようです。

それから、今はあんまりやりませんが、「ん」のつく食べもんを食べるというのがあります。「運」が着くようにと言うわけですな。この「ん」のつくもんというのが七つあるそうで、「なんきん」「にんじん」「れんこん」「ぎんなん」「きんかん」「かんてん」「うどん」やそうです。全部「ん」が二つつく。「うどん」は一つやとおっしゃるかもしれまへんが、漢字で書くと「饂飩(うんどん)」ですな。

この「ん」のつくもんが出てくるのが、「ん廻し」別名「田楽喰い」ですな。

若いもんが集まって酒を飲み始めますが、ただ飲んでもおもろない、というので「ん」のつく言葉をいうて、「ん」の数だけ田楽を食うという遊びをします。するとえげつないやつが出てくる。
「先年、神泉苑の門前の薬店、玄関番、人間半面半身、金看板銀看板、金看板『根本万金丹』、銀看板『根元反魂丹』、瓢箪看板灸点、と四十三本もらおか」
「おい無茶苦茶言ぅたらいかんがな」
「無茶苦茶やあらへんがな、ちゃんと筋が通ったぁる。京都に神泉苑ちゅうところがあるやろがな、あそこの前に薬屋があんねん。そこになぁ、人間の体半分に断ち割った人形が内臓や何か見せてな、玄関番みたいに置いてある。そこに金看板と銀看板があって、金看板には『根本万金丹』、銀の看板には『根元反魂丹』と書いてある。別に瓢箪型の看板があって、それには『灸点下ろします』灸(やいと)の点を下ろすちゅうことが書いたぁんねん。もっぺん言ぅてみよか」

二回言うて八十六本持って行きよった。

まあ、これは噺の中では特に季節がうかがえるようなところもありませんので、特に冬至という訳でもない。

そこで今回は「うどん」に関係した噺をひとつ。

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寒い中をうどん屋が商売しております。屋台というても今のような立派もんやない、天秤棒の両側に縦長の行李がついているようなもんです。 酔っ払いに絡まれたりもしますんで、なかなか商売になりまへん。

さて、ある町内で、若い連中が夜中に集まって札の一つもやってるんやが、ちょっと腹が減ったんで、うどんでも食おうかというわけですな。しかし、まあ、あんまり人に誇れるようなことをしているわけでもないので、大きな声でうどん屋を読んだら、近所に体裁が悪い。そこで、使いのもんがうどん屋を呼びに行きます。
「そーぉやうー」
「うどん屋」
「なんや、こしょこしょっと音がしたで。気色悪いな。だれぞいてまんのんか。いてたら出てきとくなあはれ。そーぉやうー。そーぉやうー」
「うどん屋」
「びっくりした。最前のもあんたですかいな。なんだんねん」
「うどん十杯。路地の突き当りの明かりのついてるとこや。頼むで。大きな声だしなや」
こうして、十人分売れたうどん屋、気分良くは商売を続けます。
「そーぉやうー」
「うどん屋、うどん屋」
「なんや、今晩こんなん流行ったぁんねんなぁ。ここらはこんなことして遊ぶよぉな人ばっかり寄ったはるんねんなぁ。今度は向こぉから言われるまでも無い、心得てるわ。へえ、うどんですか?」
「そや」
「十杯ですか?」
「いや、一杯でえぇ」
「あ、さよか。おかしぃなぁ。そぉか、味見やな。わいがまず一杯食ぅてみて、うまかったらお前らもみな食えっちゅうわけや。うまいこといったら十一杯売れるがな」
「お待ちどぉさんで」
「できたか? おおきに、ありがと。うまそや。ええダシ使こてるなあ。……美味かった。ごっつぉさん」
「お粗末さんでした」
「うどん屋、また明日もおいでや」
「ありがとさんで」
「うどん屋」
「へぇ?」
「お前も、風邪ひぃてんのんか?」

明治のころのうどん屋には風邪薬が売られていたそうで、風邪をひいたらうどんを食べてあったまって、この薬を飲んで寝て直したんやそうで。いまでも大阪には「うどん屋風一夜薬本舗薬局」というお店があって、風邪薬とうどん、ショウガ飴なんかを売ってはります。
この薬、壷井栄の小説『二十四の瞳』にも登場しております。

故・桂吉朝師匠と、故・桂枝雀師匠の一席が絶品です。
映像は、吉朝師匠の弟子の吉弥さんです。

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