宇宙島へ13「クライマーに働く力」
「宇宙エレベーター」には、地球の引力と「宇宙エレベーター」が地球の自転に沿って円運動をすることによって発生する遠心力が働いています。この両者のよって、「宇宙エレベーター」は倒れることなく地球に対して鉛直方向に立っていることができます。
ただし、地球の引力と遠心力が均衡するのは静止衛星軌道上だけです。
ですから、静止衛星軌道より内側では地球の引力の方が遠心力よりも大きく地球に引き寄せられるように感じ、静止衛星軌道より外側では、地球の引力よりも遠心力の方が大きく、地球とは反対方向に重力が働いているように感じます。
この力は当然ですが、その上を移動する「クライマー」にも地球の引力と自身の円運動による遠心力が作用します。
それでは、クライマーに乗っている人がどのように重力を感じるのかを考えてみましょう。
と表すことができます。
基本的には宇宙エレベータ自体に働いている力と同じですが、「クライマー」の場合には移動していくため、高度の違いによる力の変化を体験することになります。
更にここでは割愛していますが、動き出したときと止まるときには加速と減速を行う必要があるため、その力を加味して考えないといけない場面も登場します。場合によっては上下が逆転するケースもあります。
さて、「クライマー」で「宇宙エレベーター」を昇っていくと、不思議な感覚に襲われることが考えられます。
それは床が傾いてくる、正確には西向きに引っ張られるので、東に傾いてしまうという感覚です。
これは回転するものの中で観測される見かけ上の力で「コリオリの力」と呼ばれます。
たとえば、メリーゴーランドの上に離れて立った二人がキャッチボールをして、AからBにボールを投げたと、ボールはメリーゴーランドの外から見るとAからBへ直線で飛んでいきます。そのあいだにAはA’にBはB’に移動しています。
一方、メリーゴーランド上から見ると、自分と相手の位置は主観的には変わりませんが、元々のAはA'に、BはB'にずれていることになります。ボールはBに向かって動いていくので、回転方向とは逆の方向に曲がっていくように見えます。
台風の渦ができるのも、この「コリオリの力」のためです。これと同じ力が、地球と同じように24時間で一回転している「宇宙エレベーター」内部に働いているのです。
そこで、時速1000kmで移動する「クライマー」の中にいる体重70kgの乗客が感じる「コリオリの力」は、2.82Nとなります。
時速1000kmで走行しているかぎり、乗客が受ける「コリオリの力」は一定ですが、乗客に働く重力は高度によって異なります。重力は高度が高くなるにつれて弱くなる地球の引力と、逆に強くなる遠心力の合計です。この2つの力は静止衛星軌道上でつりあうことはすでにのべました。確認しておくと、
すると、傾きは「コリオリの力」と重力とを合成した力の方向となります。そうすると、高度が上がるにしたがって重力が小さくなっていくので、傾きは徐々に大きくなるように感じるはずです。
体重70kgの乗客が高度500kmにいるときの重力は、先ほどの式から5.87×10の2乗Nになります。「コリオリの力」は2.82Nでした。この2つの値から、逆三角関数(逆正接)arctanを用いて角度を求めると、約4.8×10の-3乗ラジアンになります。これに180/πをかけると、普段使っている角度に直すことができます。すると、傾きは約0.28度になります。同じように高度2万kmで求めると約5.3度ほどになります。
地上から出発したときの加速は地球の引力と同じ向きですから、重力は鉛直下向きに大きくなります。コリオリの力も徐々に大きくなりますが、重力の方が大きいので大きな問題にはなりません。一方、静止衛星軌道が近づいてくると「クライマー」は減速しますが、そうすると地球の引力とは逆向きの加速度が生じて下向きの重力は更に小さくなります。減速の瞬間には、地上の乗り物同様に注が必要のようです。
ここでは、乗客に掛かる「コリオリの力」だけを問題にしましたが、「コリオリの力」は当然ですが「クライマー」の質量に対してもかかってきます。そのため「クライマー」に引っ張られる格好で、テザーも全体として西側に引っ張られてたわむことになります
【参考文献】
・石原藤夫・金子隆一(2009)「軌道エレベーター 宇宙へ架ける橋」早川NF文庫
・佐藤実(2016)「宇宙エレベーター その実現性を探る」祥伝社新書
・石川憲二(2010)「宇宙エレベーター−宇宙旅行を可能にする新技術」オーム社
・B・C・エドワーズ、F・レーガン、関根光宏(2013)「宇宙旅行はエレベーターで」オーム社
・佐藤実 (2011)「宇宙エレベーターの物理学」オーム社
・青木義男(2012)「宇宙エレベーター 人類最大の建造物」季刊大林53,p26-29
・大林組プロジェクトチーム(2012)「『宇宙エレベーター』建築構想 地球と宇宙をつなぐ10万キロメートルのタワー」季刊大林53,p30-59
・石川洋二(2012)「2050年宇宙エレベーターの旅」季刊大林53,p60-61
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