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【歳時記と落語】大雪

12月に入りました。2020年12月7日は「大雪(たいせつ)」、雪がいよいよ降り重なるという時期で、鰤など冬を代表する魚も旬を迎えます。

大雪というと、日本で一番の積雪を記録したのがどこか知ってはりますか。

北海道? いえ、北海道は寒さは厳しいんですが、積雪は思ったほどやないんです。
新潟? 確かに毎年の積雪は大変なもんです。
富山? 立山の雪壁の中をバスが走る光景は有名ですな。

一般的に、日本海側の北陸・東北地方は豪雪地帯でっさかいね。このあたりやと思うのが当然ですわな。
ところが、実は、滋賀県なんです。琵琶湖の東岸に聳える「伊吹山」、ここで1927年2月14日に記録された1182cmが観測史上世界一の積雪です。
滋賀県は盆地で、この伊吹山をはじめ、比良山や比叡山などに周りを囲まれております。そこから吹き下ろす強風で、予想事情に寒いんです。「ひこにゃん」でお馴染みの彦根市も、伊吹山からの「伊吹颪」で寒く、昔は数十センチの積雪は普通やったそうです。

同じように盆地の京都も底冷えは有名ですな。
比良山から琵琶湖に吹き下ろす「比良颪」のおかげで、JR湖西線は防風柵が設けられておりますが、よう停まります。1941年4月には、旧制第四高等学校の漕艇部が遭難して死者11名が出る水難事故も起こってます。
もう少し南の比叡山からも「比叡颪」が吹き下ろしてきます。琵琶湖だけやのうて、反対側の京都へも吹き下ろします。

「足摺岬」で知られる作家・田宮虎彦の作品にも「比叡おろし」がありますし、小林啓子の歌も有名ですな。

この「比叡颪」も琵琶湖では悪さをした。麓が浜大津、ちょうど対岸が「矢橋」。琵琶湖を渡る矢橋船が出るところです。

さて、京のさる商家に清吉という若旦那がおりました。よう落語に出てくる道楽息子やのうて、頭もええし、才覚もある。ところが玉に瑕やというのが、えらい悋気深いたちなんですな。嫁さんでももろうたらましに成るかと思うたら、嫁さんが被害者になるだけ。そこで、理で諭したら、なおるんやないかというので檀那寺へ預けることにいたします。
一年して帰ってくると、元来頭のええひとですから、すっかり人間ができあがった。
ところが、それに安心したのか、おとっつぁんがコロっと逝ってしまいます。懇ろに弔いをいたしまして、更に一年、勉強をいたします。すると今度は、檀那寺の和尚さんが病の床に伏してしまいます。
和尚さんは枕元へ清吉をお呼びになった。
自分にはたった一つの心残りがある。それが清吉。八分かた仕上がってるが、まだ二分ほど足らん。これでは仏造って眼入ず。このままでは成仏できない。そこで、悋気が起きた時、困ったことができた時の為に「指南書」を書いた。これをよう守るように。
そうおっしゃって和尚は大往生いたします。
ある日のこと、草津のおじのところへ、五十両という大金を届ける用事ができた。初めての旅で大金を持ち歩いているんですから、道行く人がみな盗人に見える。しかも、方向が同じやという男が声をかけてきた。盗人に目をつけられたか、困ったな、と思ったところで思い出したのが、和尚の指南書。
開けてみますと、「旅は道連れ、世は情け」と書いてある。教えに従うて、二人連れになって浜大津までやってまいります。ここから船が出ておりまして、船頭が客を呼んでおります。道連れの男が乗っていこうと誘います。
指南書には、「急がば回れ」。船を断って陸伝いでやってまいりますと、大雨が降ってきます。
「急がずば濡れざらましを、旅人のあとより晴るる野路の村雨」
大したもんで、指南書通りにゆっくりしていると、すっと晴れてきます。
夕方過ぎまして、おじさんのところに着きまして、無事五十両を渡します。陸路できたことを話しますと、
「よう船に乗らんかったこっちゃ。最前の大雨は比叡颪という奴や。矢橋船が三艘転覆してしもうてな、だれもたすからなんだちゅうはなしや」
これを聞いて清吉、浜大津で別れた男のことを思い出して、見に行きますと、やっぱり亡骸になっておりました。
矢橋船の話が伝わりますと、嫁さんが心配するやろうと、泊まっていけというおじの誘いを断って京へ帰ります。帰りがけに土産に「うばが餅」を買うていきます。
夜更けに帰り着いてみますと、明かりが付いている。そっと中を覗いてみると、頭が二つ。片一方はまだらはげ。さては間男でもしよったか、と思いますが、念のために指南書を開けてみますと、
「なる堪忍は誰もする ならぬ堪忍、するが堪忍」
それは殺生や、和尚も間違えるかもわからんともう一度開けてみますと、今度は、
「七度尋ねて人を疑え」
中に入って問い詰めてみますと、嫁の母親です。歳をとったせいで髪が抜けてきてまだらになったんですな。
翌朝、義母に詫びを言うて、三人で土産の「うばが餅」を食べようとすると、変な臭いがする。昨日買うたもんが腐ってるはずはないんやがな、おかしいなと思うて、指南書を開けてみますと、
「 うまいもんは宵に食え」
この草津名物「うばが餅」、今も草津にお店がございます。創業四百年を越えるんやそうです。同じように古うて落語に縁のあるお店が、同じ滋賀県にございます。もぐさの製造販売を行っている「亀屋佐京」です。

江州伊吹山のほとり
柏原 本家亀屋左京
薬もぐさ よろし

今で言うCMを作って、これが江戸まで聞こえたといいますな。

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