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【歳時記と落語】立冬

2020年11月7日は立冬です。暦の上ではここからが冬ということになります。とはいえ、ようやく冷え込んできたという感じで、まだまだ冬本番には遠いですな。そもそも旧暦の季節の変わり目というのは、その兆しの頃になっているふしがあります。

その季節の変わり目、冬の到来を告げるモンといいますと、これは「木枯らし」ということになりますやろな。「木枯らし」は「凩」とも書きます。これは国字で、木を枯らす風という思いを込めた字ですな。

この「木枯らし」、気象庁の方では「10月半ばから11月末にかけて西高東低の冬型の気圧配置になった時に吹く、風速8メートル以上の北よりの風」という風に決めたあるんやそうですな。最初に吹いたのんが「木枯らし1号」。ということは、「2号」や「3号」もあるんやろうと思いますが、発表はないんやそうです。
まあ、今年は大阪では観測事史上最も早く、10月23日に観測されてしまいましたが。

またこのころになりますと、大阪では、そろそろもみじが色づいてまいります。有名なのが箕面ですな。大体11月から12月の頭がみごろです。

さて、ある船場のいとはんが女衆さん(おなごしさん)を連れて、箕面の滝へ紅葉狩りになってまいります。
帰りがけに、一番嫌いな蛇に出くわした拍子に持病の癪がでてしもうた。ところが、間の悪いことに女衆さんも薬を持ってきてない。
普通の薬では間に合わんのですが、どういうわけか薬缶のふたをなめたら止まるという「癖」がございます。
困っておりますところに、供を連れた侍が通りかかります。それがみごとな禿げ頭、つまり薬缶頭でございます。
そこで女衆さん、手打ちにされる覚悟で、侍に頭を貸してくれと頼みます。供には大笑いされるし、頭をなめられるなど情けないしで、内心はらわたが煮えたぎる思いではありますが、女衆さんの忠義に免じて頭を貸してやることにいたします。
侍は、いとはんの前に四つん這いにさせられまして、頭をなめられます。
「ひと舐めだけだぞ。これ、頭を掴むのではない。そのようにペロペロと舐
めるのではない、汁がこぼれてまいるではないか。噛むな、噛んではいかん。もうよいであろう? どうじゃ?」
「あぁ、痛みが治まりました」
礼に伺いたいというのを断り、今後は薬缶のふたをもって歩くように言いつけて侍はその場を立ち去ります。
ちょっと頭に違和感を感じた侍が供のものに声を掛けます。
「可内、こっちへまいれ。何じゃピリリと痛い、ちょっと見てくれ、どうにかなっておるか?」
「はい、歯型が二枚付いております」
「噛みおったな。可内、何ともないか?」
「まだ、漏るところまではいっておりません」

「癪の合薬(あいぐすり)」、別名を「茶瓶ねずり」「やかんなめ」とも言います。「合薬」というのは、ぴったりと合う薬という意味です。

この噺、ようはいとはんが「野がけ」にいけばええので、桜や藤や、その季節季節で行く場所や目当てを変えて演じられますんで、必ずしも紅葉狩りに限った話やないんですがな。


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