【中高生のための「論文」入門】①文献調査の方法
ドリアン、ドリアン!
熱帯の植物で、「果実の王様」とも呼ばれるドリアン。
最近では、日本でもタイ産の品種がスーパーの店頭などに並ぶようになった。
タイでの栽培品種における、結実性(実をつける力)に大きく影響する受粉最適温度は一体、どれくらいだろうか?
そんなことを知りたいと思い、調べようと思ったとき、一から自分で全てをおこなう必要は、実際のところほとんどない。
長い歴史の中で、誰かが自分と似たような疑問を抱いて調べていた可能性があるからである。
そうした先人の研究の成果を、「先行研究」という。
もし、先行研究で、自分の知りたいこと、突き詰めて明らかにしたいことが述べられていれば、それはもう自分で研究する必要はないということになる。この場合は、研究の方向転換が必要である。
また、その先行研究で述べられていることを足がかりに、より深い疑問にたどり着くことも、先行研究の方法や結論に対する疑問を抱くこともあるかもしれない。
それらによって、自分が進むべき道がより明確になると言える。
では、先行研究にはどうやってたどり着けばいいのか。
まずは、そこを学んでいくこととしよう。
"Let me google it."~検索エンジンを使う
まずは、検索エンジンを使ってキーワードで検索してみるというのは、最も手っ取り早い手法である。
今では、検索サービスの最大手googleは、日本でも「ググる」という言葉ができたように、英語でも「検索する」という動詞として用いられており、派生語として、「googleable(検索可能な)」や「googleability(検索容易性)」なども使用されている。
たとえば、ある日の「インフルエンザ」の検索結果は次のようなものである。
ここで、トップに表示されているのは、製薬大手の「シオノギ製薬」のサイトである。次が厚生労働省、次に「トップニュース」でニュース系のサイトの情報が表示されている。そして、その次も厚生労働省のサイトになっている。
堅めの内容ではあるが、一般向けの情報が表示されていると言っていいだろう。
ここで、検索キーワードに「site:ac.jp」と付け加えてみる。
すると、検索結果がすべて「ac.jp」つまり大学などのサイトの情報に切り替わった。
今回の場合は、最初の検索でも厚生労働省とシオノギ製薬が最初表示されていたので、信頼性にはそれほど問題はないと考えられるが、より学術的に確からしい結果を得ようとすれば、二回目の検索のような工夫が必要な場合がある。
次に、「インフルエンザ」をキーワードにして、検索対象を「書籍」に切り替えてみる。最初の画像で言えば、入力欄の下に並んでいるメニューの「もっと見る」から「書籍」を選択すればよい。
すると、このような検索結果になる。
ここで、キーワードを追加してみよう。キーワードは多い方が、検索結果を絞り込むことができる。ここでは「作用機序」というキーワードを追加してみる。これは薬物が働く仕組みを意味する医学用語である。
すると、「Common Diseaseの病態生理と薬物治療」という専門書(紙の書籍で本体10,000円+税、電子書籍で9000円+税である)がトップに表示された。二番目も一般書というには内容がかなり高度である。三番目は学術論文がヒットしている。
「インフルエンザ」だけで検索したときよりも、内容がより専門的な書籍が上に表示されるようになったと言える。
今回の場合、検索結果の多くがプレビューが表示可能なので、内容をある程度確認することができる。しかし実際には、プレビューが利用できない場合も多い。
いずれにしても、全文が見られるわけではないので、これら検索結果から、目星をつけて書籍を購入するか、図書館で借りるかして内容を確認すればよいだろう。
→Quiz1に挑戦!
公共図書館の利用と図書分類法
日本図書館協会の公共図書館集計(2018年)によると、日本全国の公共図書館は私立19館を含めて合計3296館、蔵書冊数449183冊にのぼる。
特に、地方自治体が設置し、その教育委員会が管理する公立図書館は、住民であれば、誰でも無料で利用することができる。
日本図書館協会の定める「公立図書館の任務と目標」の「第1章 基本的事項(公立図書館の役割と要件)」には以下のようにある。
また、その図書館にない資料については、近隣の図書館から取り寄せることもできる場合があるので、実際に利用できる範囲はかなり広い。
図書館の利用については、利用者登録が必要であり、基本的には名前・住所・生年月日を確認できるものを、受付カウンターに持って行き、手続きをすればよい。ただし、閲覧するだけならば、利用者登録をしなくても利用できる。
日本の図書館では、日本十進分類法という分類方法を用いて、全ての図書を3桁の番号で分類している。図書館の書架はそれにしたがって設けられている。
数字は、一番上の桁から、第1次区分「類目」、第2次区分「網目」、第3次区分「要目」となっている。
第1次区分「類目」は以下のとおりである。
0 総記
1 哲学
2 歴史
3 社会科学
4 自然科学
5 技術
6 産業
7 芸術
8 言語
9 文学
第2次区分「網目」で、それぞれを細分化する。
第3次区分「要目」でそれぞれを更に細分化する。例えば、「47 植物学」であれば以下のとおりである。
世田谷区立図書館のサイトにはよく整理された図が挙げられているので引用しておく。
これを知っていれば、図書館の書架の間を巡って行ったり来たりすることは少なくなるはずである。
また、図書館には蔵書検索サービスがあり、これは図書館内は勿論、図書館のサイトを通じて図書館外からも利用することが可能である。蔵書の有無は勿論、貸し出し状況なども確認できるため、「探しに行ったけれども図書館になかった」ということも防ぐことができる。
ネット図書検索、レファレンス協同データベース
ネット図書検索について、前回の最後で少し触れたが、ここではもう少し深く見てみよう。
多くの検索システムで入力する項目は、およそ以下のようなものである。
・書名:その本の名前
・著者名:本の著者の名前
・出版者名:本を出版した人物や団体。多くの場合は出版社名
・出版年:出版された年
・ISBN:図書の国際規格コード。本が特定されている場合には便利。
・件名:内容のキーワード
たとえば、岡山県立図書館「デジタル岡山大百科」の図書検索画面は以下のようになっている。
そして、各図書館の検索は勿論、各都道府県立図書館を中心に、都道府県内の公共図書館の蔵書を一気に検索できる検索システムを設けているところが多い。
これによって、利用可能な範囲に目的とする書籍があるかどうかを、すぐに調べることができる。
目的とする書籍が利用可能な範囲の図書館にあった場合は、そこに行って閲覧、あるいは貸し出しサービスを利用することになるが、図書館では、著作権法が許す範囲で、有料でコピーをとることもできる。
また、遠隔地の図書館に蔵書がある場合には、取り寄せをすることも可能であるし、遠隔複写サービスを利用することもできる。
また国会図書館オンラインでは、著作権の切れた書籍の一部についてはデジタルデータをインターネットを通じで閲覧することも可能である。
さて、これらは目的とする書籍が判明している場合には有効であるが、書籍が不明の場合には、目的を達するのが難しい。
そこで有効になるのが、レファレンスサービスである。
これも、書籍の利用同様、図書館内、ネットを通じた利用の両方が可能な場合が多い。
知りたいことがあっても、それを記した書籍がどれか分からない場合に、図書館の司書が調べてくれるが、回答まで数週間は時間がかかるのが通例である。
そして、国立国会図書館が中心となって、こうしたレファレンスの情報を「レファレンス協同データベース」に集約している。このデータベースでは、過去のレファレンスの結果を検索できるため、既に自分の目的とと似たようなと合わせがあった場合には、そこに回答が記されているため、問い合わせる必要が無くなるため、上手く使えば時間の短縮になる。
これらのサービス――都道府県の蔵書検索やリファレンス――のページへのアクセスについては、日本図書館協会の「公共図書館Webサイトのサービス」のページにリンク集があるので、ここから進むと良い。
CiNii、J-STAGE、Google Scholar
国立国会図書館オンラインでは、書籍のほかに雑誌掲載の論文や記事も検索結果に表示される。そして、それらを閲覧申請することも、遠隔複写を申し込むことができる(雑誌掲載の記事や論文はその全文の複写が可能だが、論文集など複数の著者による書籍掲載の論文の場合は、その論文が1著作物と認定されるため、半分を超える複写ができない)。
各種の論文検索に特化したサービスが、国立情報学研究所の「CiNii Research」と、国立研究開発法人科学技術振興機構の「J-STAGE」である。
これらのサービスでは、日本の学術論文を検索することが可能である。「CiNii」では商業誌の記事もヒットするため、全てが閲覧可能というわけではないが、多くの論文はPDF化されていたり、大学や学会のサイトへのリンクが張られたりしており閲覧可能である。「J-STAGE」では、一部、購読雑誌がクローズドになっている以外、多くの論文が無料で閲覧可能である。
また、横断サービスとして「IRDB」があるが、上記サービスの全てのデータを検索できるわけではない。
また、検索エンジンのgoogleには、「Google Scholar」という学術論文を検索するサービスがある。
「Google Scholar」の特徴は、「CiNii」などのデータベースに登録されていない大学図書館のリポジトリで公開されている論文も検索可能なところである。
また、「CiNii」の検索結果で本文が閲覧できない場合でも、雑誌を刊行している学会や法人がバックナンバーを無料で公開してる場合がある。
例えば、江戸時代の医師・緒方洪庵の医療について知りたいと、「CiNii」を検索して、
に目をつけたとする。この論文は「CiNii」からは「医中誌web」へのリンクになっており、本文を閲覧することができない。「J-STAGE」「IRDB」ではヒットしない。
しかし、「薬史学雑誌」は刊行元である日本薬史学会が最新号以外のものについては全文を公開しているので、「薬史学雑誌53(1),pp50-55」を当たれば閲覧することが可能である。
このように、データベースで公開されていないものについては、刊行元団体のサイトを確認してみることも必要である。
そして、参考になりそうな論文を見つけたら、その注や参考文献に目を向ける。論文の記述の中で、的が絞れそうな部分が別の資料や研究に基づいているのなら、それが注や参考文献、引用文献の形で示されてるはずである。その論文や書籍を探していけば、自分の知りたい知識に辿りつくはずである。
そして、それらに述べられていることは、すでに明らかであるのだから、自分が同じことを研究する必要は無いこともわかる。ただし、何らかの根拠を得て、反駁する場合は別である。
ドリアン、ドリアン!【課題】
では、最初の問題を考えてみよう!
【参考文献】
・沼崎一郎.はじめての研究レポート作成術.岩波書店,2018,250p.
・東京電機大学 編.「工学」のおもしろさを学ぶ.新装版,東京電機大学出版局,2016,200p.
・小笠原喜康,片岡則夫.中高生からの論文入門.講談社,2019,224p.
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