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【中高生のための「論文」入門】②レポート・論文のルール

はじめに

→【アンケート】あなたは学術論文を書けますか?

論文は、先行研究に当たった結果を踏まえた上で、自分なりに調査、実験、思索を重ねて、根拠をもって論じなくてはいけない。
文学的な研究においては、本文の読み取りに若干の主観性が出てしまう嫌いはあるが、それでも典故に基づいた解釈の上でなければならない。
「随筆」とことなり、論文には論理的な展開と客観性と再現性が求められる。

それを支えるのが、形式である。

それは主として構造と記すべき内容と、引用のルールからなる。
これは論理的展開を明確化したものであり、再現性を約束するものであり、根拠の客観性を担保するものである。
これに従う限り、研究の水準には差はであるものの、学術論文としては完成を見ることができる。

レポート・論文のフォーマット

ここでは、レポート・論文のフォーマットについて述べるが、主として学術論文の形式に則ることにする。
とはいえ、研究の分野によっても、あるいは雑誌によっても様々であり、これと言った一つの定まった形式が存在するわけではないが、概ねのルールは共通している。

概ね以下のような流れになっている。しかし、これらの要素のどれかがかけているという学術論文も実際には多く見られる。それはその分野の執筆習慣や雑誌の規定によっている。

学術論文のフォーマット1

「主題」と「副題」は、研究の大きな目的と小さな目標に対応している。

例えば、大阪人はどうして全国で一番平均歩行速度が速いと言われるのかを明らかにしたいという大きな目的があったとすると、「主題」は「どうして大阪人は早足なのか」となる。

それをどのように、あるいはどの部分に絞って明らかにするかというのが小さな目標となる。例えば、これを京都人と比較するとして、主要な繁華街での実測とインタビューによって比較するとすると、「副題」は「繁華街における実測とインタビューによる京都との比較を通じて」となる。

「アブストラクト」は論文の要旨であり、基本的には「背景・目的・方法・結果・結論」と、論文の構成とほぼ同じ流れて内容を簡潔に説明して、興味を喚起するものである。このような要旨を「構造化要旨」といい、自然科学分野の論文に多く見られる。一方、それ以外の研究分野では、こうした項目分けをせずに研究の目的や方法を記載する「非構造化要旨」の形式をとることが多い。

英語で記載されていたり、論文の最後に回されていたりすることも多い。
いずれにしても、論文の内容が全て完成してから執筆するものである。

キーワードは、検索の利便性を高めるためのもので、内容を代表するような言葉を明記する。SNSにおけるハッシュタグのようなものだと考えればよい。

さて、いよいよ本文に入る。

本文は、概ね「序論」「本論」「結論」に分かれるが、これは論文が三つのブロックにわけられるということではない。

実際の学術論文では、「序論」が2分割になっていたり、「結論」が「結果」と「考察」とに分かれ、場合によっては更に「展望」が述べられたりもする。

序論においては、まず、問題意識や研究の目的を明らかにする。

続いて、キーワードになる言葉について、定義が必要な場合にはここでそれを行っておく。そうすれば、本文で逐次説明する必要が無くなる。

次に、動機を明らかにする。こでは、研究の新奇性や重要性があることをアピールするためである。よって、先行研究の紹介や、それらが扱っていない方向性の研究であることの明示なども行う。

方法については、どのような研究方法を取るのかを簡単に説明する。研究分野によっては、この詳細がそのまま本文になってしまうこともあるので、簡潔に済ませる。

最後に以下でどのような順序で論を展開していくかを簡単に紹介する。その中で、結果や考察について触れてもかまわないが、本来は結論部分で書く事なので、簡単に済ませておく。

本論だが、これは学術分野によってその構成が大きく異なる。例えば、食品科学分野で行われる「官能評価(味や香りなどを実際に人間が感じて得点化する検査方法)」を扱った短めの論文だと、全体が「緒言」「方法」「結果と考察」「結言」などの4段構成になることが多く、「方法」部分がここで言う「本論」に相当することになる。これはどのように行ったのかが重要なためであり、手続きが詳細に記されることになる。

先に挙げた「大阪人はなぜ早足か」という疑問に対して、実測とインタビューで考える研究ならば、大きく、実測の章とインタビューの章に分かれ、実測の章はまとめの節、大阪の節、京都の節に分かれ、大阪の節と京都の節は、それぞれ実測結果のまとめのパラグラフと、データのパラグラフに分かれる。

例えば、実測の章は以下のように書かれる事になる。

大阪と京都の繁華街で、通行人の歩行速度を実測したところ、大阪人は平均○○m/s、京都人は●●m/sで、有意な差があった(p<.05)。
大阪では、キタと呼ばれる大阪駅周辺で、ヨドバシカメラ前と曽根崎警察署近辺の2か所、ミナミと呼ばれる心斎橋から難波周辺で高島屋(南海難波駅)前と、大丸心斎橋店前の2か所の計4ヶ所で路上にマーカーを設置し、定点カメラで午前8時、午後1時、午後6時の3回、各30分間撮影を行い、映像から速度を割り出した。
映像に映っていて、速度の計測が可能だった○○人の実測データは以下のとおりである。デモグラフィックなデータに関しては映像から編別できる範囲に止めた。
ヨドバシカメラ前では、……(後略)。

「結論」では、研究内容を締めくくる。「結果」では、本文で述べたことをまとめ、「考察」では結果から導かれる論理的な展開を述べ、「展開」では反省も交えて、今後の研究の可能性を述べる。
例えば、以下のようになる。

歩行速度の実測と、大阪人と京都人によるインタビューから、大阪人が移動時間を無駄な時間と考えており、それが結果的に歩行速度を速めている可能性が示唆された。
また、京都人は目的地までの移動時間にかなりの余裕を持って見積もっているケースがインタビューでも散見でき、大阪人にはそれが見られない事から、大阪人は常に行動をギリギリの時間で見積もって行動している可能性が考えられる。つまり、常に最短時間での移動を念頭において行動しているということが考えられる。
それは、インタビューにしばしば見られる、「家でゆっくりする時間を確保したい」「目的地でゆっくり時間を過ごしたい」という、「ゆっくり」への願望の裏返しであり、目的外の移動時間を短くして目的とする時間を確保しようという功利的精神の表出であるのかもしれない。つまり、「ゆっくり」したいがために「急いでいる」のではないだろうか。
このように、大阪人の早足が明らかになったわけであるが、大阪人は早足であるにもかかわらず人にぶつからないという言説がある。東京ではしばしば人にぶつかられるという話が話題に上るが、大阪ではそれがないという。大阪人の早足という問題を研究する上では、それが事実かどうか、また事実であれば、なぜ大阪人は人にぶつからないのかを考える必要があるだろう。

→【テスト】論文の校正

注釈と引用

注釈には、以下のようなパターンがある。

具体的な内容を説明したり、補足したりする場合
参考事項を記述する必要がある場合

また、注釈には、横踏みの場合、各ページの下に記す脚注、のどや小口側につける傍注、最後にまとめて記す後注がある。書籍などに場合には、後注でも章ごとに設けられる場合と、まとめて最後におかれる場合がある。

注の種類

論文の場合は脚注または後注でもよいが、後注が用いられることが多い。

引用は、著作権法で著者の許諾無くその著作の一部を使用することができる例外規定の一つである。

その最大の要件は、引用文が飽くまでも全文の「従」である、つまり論文の著者自身が自分のいいたいことを述べるための材料として使う場合に限られる。
そして、引用の場合には、どこからどこまでが引用で、どこから持ってきたものか(出典)を明記する必要がある。

出典の明記の仕方はいくつかの方法がある。横書きの場合、代表的なものはバンクーバー方式とハーバード方式である。

バンクーバー方式は、「引用順方式」であり、本文での引用箇所に引用順に連番を振り、引用文献欄に連番順に引用文献を記述する。

 例えば、吉田荘人(2007)『漢方読みの漢方知らず: 西洋医が見た中国の伝統薬』(化学同人)の80ページから、

イギリスでは、二〇世紀までは薬草を用いた治療が医療の主流であった。しかし、化学薬品の登場により、薬草は使われなくなった。

という一文を引用する場合、

たとえば、吉田荘人は、「イギリスでは、二〇世紀までは薬草を用いた治療が医療の主流であった。しかし、化学薬品の登場により、薬草は使われなくなった(1)」と述べている。

と記し、引用文献一覧に、

(1)吉田荘人.漢方読みの漢方知らず: 西洋医が見た中国の伝統薬.化学同人,2007,216p.

などと記す。

あるいは内容を要約して記す場合も、このパターンに基本的には則る。

また、引用文が長い場合には、引用箇所の前後に一行の空白を設け、2字分インデントを下げて記す。以下のような方法である。

たとえば、吉田荘人は、
  イギリスでは、二〇世紀までは薬草を用いた治療が医療
  の主流であった。しかし、化学薬品の登場により、薬草
  は使われなくなった。(1)
と記している。

のように記す。

ハーバード方式も引用の仕方は同様であるが、本文での引用箇所に著者名と発行年を()で囲んで記述し、引用文献欄は著者名のアルファベット順(日本語のみの場合は五十音でよい)・発行年順に引用文献を列記する。

先ほどの例では、

たとえば、吉田荘人は、「イギリスでは、二〇世紀までは薬草を用いた治療が医療の主流であった。しかし、化学薬品の登場により、薬草は使われなくなった」(吉田2007;80)と述べている。

あるいは、

たとえば、吉田荘人は、
  イギリスでは、二〇世紀までは薬草を用いた治療が医療
  の主流であった。しかし、化学薬品の登場により、薬草
  は使われなくなった。(吉田2007;80)
と記している。

のように記す。

バンクーバー方式の場合、同じ文献を何度も引用した場合、引用文献一覧に文献の重複が見られることになる。ハーバード方式ではそれは起こらないが、ある著者が同じ年に発表した論文や書籍を引用する場合、「a」や「b」をつけて区別する必要が出てくる。

たとえば、以下のような引用文献リストになる。

Johnson, A. and Brown, B. (2020) 'Referencing Styles', Journal of Academic Writing, 15(2), pp. 45-60.
佐藤花子. (2019). 日本の歴史. 京都: 歴史出版.
鈴木一郎. (2020a). 経済成長と環境. 大阪: 経済学会.
鈴木一郎. (2020b). 持続可能な開発のための政策. 名古屋: 政策研究所.

別にどちらでも問題はないし、全ての論文がこの引用方法のどちらに必ず従っているわけでもない。

概ね、各学会・学会誌に於いて基準が定められている。

日本国内では、独立行政法人科学技術振興機構(JST)がバンクーバー方式を元に、参考文献の書き方「SIST02(科学技術情報流通技術基準(Standards for Information of Science and Technology 02)」を策定している。

SIST02」による引用文献一覧の記載方法は以下のようになっている。詳細については、リンク先のPDFを参照のこと。

書籍の場合、「著者名.書名.版表示,(出版地,)出版者,出版年,総ページ数,(シリーズ名, シリーズ番号, ISBN.)」となる。この内、()で囲んだ「出版地」と「(シリーズ名, シリーズ番号, ISBN.)」は任意項目なので、省略可能である。また「版表示」も初版の場合には省略してよい。

先ほどの吉田(2007)の場合、

(1) 吉田荘人.漢方読みの漢方知らず:西洋医が見た中国の伝統薬.化学同人,2007,216p.

と記すこととなる。著者が複数の場合は「,」で区切って列記する。

実際の論文では、2行目が一行目頭と揃うようにぶら下げを設定する。

また編者が筆頭著者になっている場合は、その編者の姓名の後ろに「編」と明記する。

たとえば、

(2) 東京電機大学 編.「工学」のおもしろさを学ぶ.新装版,東京電機大学出版局,2016,200p.

となる。ここで総ページ数を「216p.」「200p.」と記しているが、総ページ数の後ろに「p.」を付すことがルールであり、これは省略できない。

その中の論文を引用する場合には、「著者名.“論文名”.書名.編者名.(出版地,)出版者,出版年,開始ページ-終了ページ.」を明記する。

土肥紳一.“技術者倫理と社会的責任”「工学」のおもしろさを学ぶ.新装版,東京電機大学 編,東京電機大学出版局,2016,p.165-178.

ページ数については一般的に「p.」でかまわないが、単独ページの場合に「p.」、複数ページの場合に「pp.」と表す場合もある。
雑誌に掲載されている論文の場合、基本的には論文集掲載の場合と同じような順序になる。「著者名.論文名.誌名.出版年,巻数,号数,開始ページ-終了ページ.」となる。たとえば、以下のように記す。

山本範子.中国科幻小説の諸相(6)中華圏二大SF大賞 銀河賞と星雲賞.北星学園大学文学部北星論集.2016,vol.53,no.2,p.57-74.

巻数と号数については、頭を大文字にして「Vol.53,No.2」と記す場合や、省略形で「53(2)」と記す場合もある。

ウェブサイト中の記事の場合は、「著者名.“ウェブページの題名”.ウェブサイトの名称.更新日付.入手先,(入手日付).」を記す。著者名またはウェブサイトの名称が不詳の場合は省略される。

神崎洋治.“サイボーグ技術が社会にもたらす「3つの変化」とは メルティン CEO インタビュー(2/2)”ロボスタ.2018-05-25.https://robotstart.info/2018/05/25/meltin-intv-02.html,(参照 2020-03-25).

なお、図表を引用する場合は、引用文献一覧に記載する形式で、出典を画像に直接記載することが多い。

→【テスト】引用

【事後アンケート】

→【アンケート】あなたは学術論文を書けますか?

【参考文献】

沼崎一郎.はじめての研究レポート作成術.岩波書店,2018,250p.
東京電機大学 編.「工学」のおもしろさを学ぶ.新装版,東京電機大学出版局,2016,200p.
小笠原喜康,片岡則夫.中高生からの論文入門.講談社,2019,224p.
ryoPT,Nurse.“参考文献リスト:日本語論文スタイル【Mendeley便利機能】”.気楽な看護/リハビリLife.2020-01-19.https://kirakunurse.com/mendeley-japanese-style/ ,(参照 2020-03-26)

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