見出し画像

【中高生のための「論文」入門】③情報を整理して、テーマを設定する

Mendeleyの利用

集めた資料は整理しなければならない。これについては、まず文献管理ツールを利用する方法がある。

ここでは、「Mendeley」を紹介する。

「Mendeley」は、エルゼビア社が提供する文献管理ツールであり、学術論文の管理、閲覧、情報共有を目的としている。基本的な機能とは2GBまでの容量は、無料で使用することができる。

「Mendeley」を利用するためには「https://www.mendeley.com」でメールアドレスを登録してアカウントを作成する必要がある。

基本的な操作はウェブブラウザのほか、Android・iOS向けアプリでも可能であるが、Windows・Mac向けのローカルアプリを利用することで、最大の効果を発揮する。

「Mendeley」では書誌情報を管理するだけでなくPDFを保存することができ、ビュアー上でマーカーを引く、コメントをつける等の加工も可能である。また、PDFファイルをアップロードすると、英文出れば書誌情報を自動で認識する。
論文の登録についても、ウェブ版とブラウザー用のアドイン「Mendeley Web Importer」を使うことで、CiNiiなどの論文検索サイトから、書誌情報と掲載PDFをワンクリックで取り込むことが可能である。
また、ローカルアプリ版には、Word用のプラグインが用意されており、引用の表記と引用文献一覧を、各種規定に従って、簡単に作成できる。多くの書式は英文用のため、日本語文献の表記が上手くいかないことがあるが、独立行政法人科学技術振興機構が策定した科学技術情報流通技術基準「SIST02」に則った記述方法も選択が可能であるので、これにしたがっておけば、簡単に引用の表記と引用文献一覧を作成できるため、論文の執筆の際には極めて便利である。

使い方の詳細については、「クイックリファレンス」を参照のこと。

こちらからは、解説動画も参照できるので、状況に応じて活用のこと。

パーツを作っていく

情報をどのように整理するのか?

そうした方法の中で、かつて多くの人に受け入れられたのが、民俗学者の故・梅棹忠夫(京都大学名誉教授、国立民族学博物館名誉教授)が考案した「京大カード」である。1965年に岩波書店の雑誌『図書』に連載した「知的生産の技術について」、そしてそれを書籍化した『知的生産の技術』(1969)の中で紹介され、人気を博した。
「京大カード」は、B6サイズの情報カードである。これに、論文に書きたいことや、引用したい資料などを記入して、保存しておく。そして、それを章や節の構成を考えながら並べ替えていく、というような使い方をする。

『知的生産の技術』、「京大カード」ともに、現在でも書店、文具店で購入可能であり、現役の「ツール」である。

現在では、デジタルツールが様々に発達している。デジタルツールになったことによって、画像、映像、音声データなども手軽に保存、整理できるようになったというのは、非常に大きな違いであり、進歩である。しかし、基本的な作業の意味するところは、「京大カード」から変わるところはない。
情報を「選別」し、「保存」し、「整理」し、「配列」するということである。

文献調査などで収集した情報は、その出所が明確でなければならない。したがって、引用文献の表記法に従って記録しておく必要がある。

現段階では、デジタルデータで保存しておくのが、最も利便性が高く、また安全性も高い。これは、ローカルとクラウドに自動的にデータを保存できるという点が非常に大きな役割をになっている。

HDDやSSDはアクセス回数が増えるにしたがって、つまり使えば使うほどエラーを起す確率が増えていく。ということは、論文の締め切りに近づけば近づくほど、HDDやSSDが破損する可能性が高くなるということである。よって、クラウドにデータが保存されているというのは非常に意味があることである。

紙ではその「バックアップ」を作る労力がかかりすぎるので、あまり現実的ではない。

さて、資料を収集する場合、誰かが解釈を加える前の生の情報である「一次資料」と、誰かが「一次資料」に解釈を加えた「二次資料」を区別しておくことが重要である。
論文や書籍のコピーは、mendeleyを使って保存しておくと後の執筆が楽になる。その中から、引用する可能性のある部分については、テキストにして文書として保存しておく。この際に、出典と、論文に書くつもりのコメントを記しておく。

画像1

この場合、ファイル名は「匪賊の社会史p50-52」とでもしておけばいいだろう。

そして、分野分けしたフォルダに、この文書と、必要に応じて音声、画像、映像、数値データなどを、分かりやすいファイル名で保存しておく。また、それぞれについて、コメントや出典を同名テキストファイルで保存しておく。

頭の中の白い地図

知らないことを見つけて、研究テーマに相応しい問いをたてるにはどうしたらいいだろうか。

実は人というものは全く知らないことには興味関心を抱けない。そもそも「それ」を全く知らないということは、「それ」の周辺事項にも興味関心がなかったということである。全く知らないということは、それは無関心の壁の向こう側なのである。
では、興味関心、あるいは「知的好奇心」と呼ばれるようなものはどこから湧いてくるのか?

以上の話から概ね明らかであろう。

興味関心、あるいは「知的好奇心」と呼ばれるものは、知っていることの端の知らないこと、あるいは既知空間内外に隣接した知的空白部に対して生じるものであり、それはつまり「欠如の感覚」から湧出するものである。

であるならば、既知空間の「地図」を描くことができれば、「知的好奇心」を求める「宝の地図」は完成する。
つまり「知的マップを作る」、すなわち「知っていることを整理する」ことが必要である。そして、そこから「知らないこと」を見つけ出して、「知りたいこと」にしていくのである。

このためにはたとえば、

知っていること、知りたいことをまとめる(KWL表など)

画像2

テーマから連想して広げていく(コンセプトマップなど)

コンセプトマップ

コンセプトマップ(wikipedia)

などが有効である。

 たとえば、例として「お茶」を挙げることができる。「お茶」を知らない人はいないだろう。
しかし、「お茶」の何を知っているのか、細かく見ていけば、知らない部分が出てくるはずである。

漢字圏や英語圏以外の外国で「お茶」を何と呼ぶか?
「お茶」の原産地はどこか?
「お茶」の種類は?
なぜ人は「お茶」を飲むのか?

よくよく考えれば、誰もが知っていてありふれた存在であるはずの「お茶」にも、知らないことがいくつもあることが分かる。
知っていることから、知りたいこと、疑問を導くためには、答えやすい形に分解したり置き換えたりすることが有効である。

「本当は何なのか?」を考える〔本質の再定義〕(フィリップ・K・ディックの質問)

例:世界最大の運輸会社フェデックスの創業者は、「荷物を運ぶこと」について「それは、本当は何なのか」を自問自答し、「今すぐ必要な何かを予定の時間に確実に届けること」という再定義に至って、フェデックスの事業を構築した。

5W1Hに分解する(キプリング・メソッド、アヤトゥス・カルタ)
  ・「いつ」を考える〔時期・時間〕
  ・「どこで」を考える〔場所〕
  ・「だれが」を考える〔主体〕
  ・「何を」を考える〔対称〕
  ・「なぜ」を考える〔理由・原因〕

→「なぜ」を分解する
・それはなぜかを繰り返す(なぜなぜ分析、ロジックツリー)
・原因分析のツリー(Whyツリー)
・内的要因(機構と発達)と外的要因(経緯と目的)
・ティンバーゲンの4つの問い
  機構:対象内の仕組み。直接の要因
  発達:対象内の履歴や過程。
  経緯:対象を越えた歴史的経緯や過程。
  目的:対象を越えた社会的な仕組みや要因(何のために)
・「いつ」「なにが」「どこで」「どの程度」に分解する(ケプナー・トリゴーの問題分析)
・「どのように」を考える〔過程・対策〕(ロジックツリー)
・課題解決のツリー(Howツリー)
・「本当にそうか?」を考える〔事実確認・転倒〕
・「どうなるのか」を考える〔影響・展開〕

こうした疑問をぶつけることで、ばく然とした問題を細かな問題にしていくのである。
お茶だと、「どうやって作るのか」「どこで栽培するのか」「どうやって栽培するのか」「お茶が登場した影響は」などになる。
こういう過程を経ることによって、知っていたはずのことから、初めは思いもしなかった疑問が立ち上がってくる。

しかし、こうした作業は実際には独立して行われるのではなく、資料の収集と整理と平行して行われることに注意したい。

知っていたはずのものは知らないものに変わっていくところに意外性があり、それが面白さにつながる。
そして、何をおもしろいと思うかは、自由である。

大きなものと小さなもの

さて、「KWL表」の「L」は「学んだこと」なので、後に回すとして、テーマが「こと」であった場合には、異なったアプローチも考えておく必要がある。

たとえば「都市交通」であれば、先に提示した手法だけではカバーできない部分が出てくる。
そこで、次のようなことを考えてみると、道が開ける場合がある。


・現状と理想のギャップを考える:どうなればいいか、問題のない状態とは、を考え、現状と比較し、違いの発生要因を考える(キャメロット)

・現状の構成要因を考える:現状に至るまでの、プロセスへの働きかけ、制約条件、外乱要因を考える(佐藤の問題構造図式)

こうして、問題点を洗い出して整理して、自分が面白いと思う問題ができたら、それについて調査を開始する。

ここで、文献調査で学んだことが生きてくる。
これを経ることによって、「(L)学んだこと」が埋まってくることになる。この場合、「学んだ」とは「教えられた」ではないことに注意しよう。
それは、自分で学び取った成果である。

これでも残ったいくつかの疑問、それが進むべき道となる。
疑問がいくつも残った場合、今度はそれを分類することが必要になってくる。
たとえば、ひとりでブレーンストーミングをしてみるという手法がある。

これには

・付箋に書いてグローピングしていく(KJ法)

などが、具体的な手法として存在する。
これを行うと、グルーピングされたそれぞれが「小さなテーマ」であり、グループの特徴が「大きなテーマ」になる。

さて、問題によっては考えるだけでは答えが出ない場合がある。その場合は、実験などをおこなう必要がある。
そういうときには、問題を「ハイ」「イイエ」で答えられるように設定することが望ましい。

たとえば「お茶の葉はすべて同じか」などである。

こうすると確かめる手段が分かりやすくなり、結果も判定しやすくなる。
また、実験は同じもの複数回あるいは複数個行うことが必要となる。そうすると「たまたまそうなっただけ」という偶然性を排除できる。そのためにも実験方法と結果の判別が容易な「正否」で答えられる設定にしておく方が利便性が高い。
お茶だと、沢山の種類をあつめるだけでなく、同じ種類のお茶も沢山集めるということが必要となる。また、どこまでが同じでどこからが違うのかという基準も大切です。

【参考文献】

沼崎一郎(2018)『はじめての研究レポート作成術』岩波ジュニア新書
近田政博(2015)「学術的文章の書き方入門」神戸大学附属図書館・附属図書館協同学修シリーズ
読書猿(2017)『問題解決大全』フォレスト出版
読書猿(2017)『アイデア大全』フォレスト出版
赤木かん子(2009)『お父さんが教える自由研究の書きかた』自由国民社
花村太郎(2015)「知的トレーニングの技術〔完全独習版〕」ちくま学芸文庫
東北福祉大学『学びとの出会い -リエゾンゼミ・ナビ-』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?