「改行なんてこだわる必要ない」はホントウか? 【コピーライターの視点】
株式会社エクシングのコピーディレクター、高沼です。
サムネイルを見て違和感をおぼえた方、さすがです…!
単語の途中で行が変わっているとちょっと気持ち悪いですし、場合によっては意図と異なる解釈をされてしまいますよね…。
今回は、意外と印象を左右する「改行」についてお話ししていきたいと思います。
「改行なんてこだわる必要ない」のか?
📙 どちらが読みやすいですか?
「内容がよければ、書く人に魅力があれば、改行なんてどうでもいい」
たしかに、それも一理あるかもしれません。
けれど、下の文章なら、どちらが読みやすいでしょうか。
多くの方が、【B】の方が読みやすいと感じたのではないでしょうか。
📙 広告は努力して読むモノではない
あくまでも「私」に関して言えば、読みやすいものをつくらなければいけないと思っています。
それは、私が広告業界で働いているからです。
広告は本来、「率先して見たいもの」ではありません。
もしも私が売れっ子作家で、新作小説を書いたとします。
ファンである読者の方は、お金をわざわざ払って読んでくれるでしょう。
たとえ難解な内容でも、喜んでページをめくってくれるはずです。
けれど、広告は違います。
受け手の意思とは無関係に、いきなり目の前に現れるものだからです。
“はやくこの動画の続きが見たい”
“はやく次のページの記事が読みたい”
そんなときに、広告はふと姿を現します。
誤解を恐れずに言うならば、「迷惑者」です。
それでも、読んでもらわなくてはならない。
商品やサービスの魅力を、伝えなくてはならない。
だからこそ、私たち広告業界で働く者には“サービス精神”が求められます。
「読もう」と努力しなくても、自然に興味が湧いたり、すらすら読み進められるモノでなくてはなりません。
すると、内容はもちろん、文章の「見た目」も重要になります。
広告のようにそれほど長くない文章の場合、「読む」というよりは「見る」が正しい表現なのでは?と思うことがあります。
特に情報過多な現代においては、必要な情報か否かの判断がより素早く行われる傾向にあります。
※Facebook(現Meta)の社内調査では、「0.013秒」の間に情報を処理しているという驚きの結果も出たそうです。
一人でも多くのひとに情報を伝えたい場合、パッと見たときの印象や読みやすさを左右する、改行にこだわることは必須と言えるでしょう。
改行によって変わる印象
📙 読みやすさを求めるなら − 文節で改行すべき
読みやすさに最も配慮するなら、適切な文節で行を変えていくのが良いでしょう。
たとえば、こんなふうに。
意味的に区切りがいいところで改行することで、文章が自然と頭に入ってくるのではないでしょうか。
これは広告だけでなく、日常的なビジネスメールなどでも使えると思います。
仕事のメールを読みたくて仕方がない、という人はおそらく少ないでしょう。
だからこそ、できる限り読みやすい形式にすることで、自分の想いを誤解なく効率的に伝えられます。
もう一つ、私が仕事をする上で特に気をつけているのが、商品名や企業名で行をまたがないようにすることです。
(デザインやレイアウトによりますが、)できる限り商品名や企業名などの固有名詞は一行に収めることで、読みやすく丁寧な印象になります。
📙 “あえて改行しないスタイル”の効果①
とはいえ、必ず文節で改行すべきという訳ではありません。
たとえば、こちらの広告。
ボディコピー(本文)をあえて改行しないスタイルが印象的です。
(もちろん細かな調整はされていますが…)
紙面いっぱいに文章のみをレイアウトすることで、「世界一のカジュアルウェア企業になる」というユニクロの強い意志が視覚的に伝わってきます。
「あれ? 文節で改行しないと読みづらいんじゃなかったっけ?」と思った方もいるかもしれません。
このレイアウトが成り立つ理由は、いちばん上に大きく書かれたキャッチコピーにあると思います。
この大きな疑問を投げかけることで、読み手の興味をはじめにグッと引きつける。
「言われてみれば、なぜなんだろう?」と思わせたところに、ボディコピーで畳み掛けているのです。
最初に強いフックによって気持ちを「掴んだ」からこそ、改行なしでもすらすら読み進めてしまう。
(まさに“キャッチ”コピーですね)
企業としての強い意思を示すためにも、(まるで息つく間もなく話す人を想起させるような)このデザインは効果的に機能していると言えるでしょう。
📙 “あえて改行しないスタイル”の効果②
もう一つ、「改行しない」という選択がプラスに働いている例をご紹介します。
漫画家・カメントツさんの大人気作品、『こぐまのケーキ屋さん』。
ケーキ屋さんの店長を務めるこぐまと、店員である青年のくすっと笑えるやりとりが魅力の漫画です。
こぐまの店長は人間界のことをあまり知らないので、あらゆるものに逐一おどろきます。
そんな店長のあどけないキャラクター性を際立たせるのが、文節の途中で改行する手法です。
あえて違和感のある箇所で改行することで、店長の純粋無垢な性格とたどたどしい口調がとてもうまく表現されていると感じます。
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掘り下げてみると、意外に奥深い改行の世界。
ちいさなこだわりがおおきな成果につながると信じて、たった1文字のちがいにも敏感でありたいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!