「もう結婚しちゃいなよ」
…そう周りから言われているのは、僕と僕の彼女の美咲だった。友人たちの間で、ここ最近ずっとアツアツなカップルと言われ続けている。
僕は彼女のどこに惹かれたんだったかな。二人で紡いできた過去の記憶に思いを馳せる。
学生時代、彼女が好きだった別の男の子に好意を伝えられずにいたのを見て、お節介にも告白するのを手伝ってあげたり。
その男の子が別の女の子を既に彼女にしていたことを知ったり。
泣いていた彼女を慰めるためにファミレスに行ったり。
美咲、よくメニュー表で「どれにしようか?」なんて困ったように聞いてきたっけ。
思えばいつだって彼女は優柔不断で、中々決断を下せずにいた。
それでもその慎重さが、時に僕を助けてくれることもあった。
時は大学4年生時分、僕が就活で苦戦していた頃、たまたま友人からとある商社の求人を紹介されたことがあった。
そこそこ規模の大きい会社だったし、友人たちも皆内定を済ませていた焦りもあったが、一応恋人にはどこに行くつもりなのかは打ち明けておこうと、彼女にそのことを話した。
ところが美咲は「もう少し考えた方がいいよ」と言って、就活の継続を勧めてきたのだった。
その頃は腑に落ちないままだったが、別の貿易会社に入社して1年が経過した時、ニュースで紹介された商社が倒産したことが告げられた。
だから、彼女の石橋を叩いて渡る姿勢に、ある種尊敬の念を抱いていた。
そんな尊敬の念をお互いに持ち続けたかった。
でも、こんなことってあるだろうか。
今日は結婚式当日。
「もう結婚しちゃいなよ」
その場にいた皆が、そう言っていた。
神父の「誓いますか?」に2時間近く悩んでいる美咲の姿を、僕はただ見続けることしかできなかった。
もう1個小説もどきみたいなのあったので放流。
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