謎鍋と原作の話(長月輝伝)
10話で異能と夷月族の部下を使って澹台燼が皇帝になった※とき、即位に不満を述べる臣下へスープを振る舞うシーンがあります。
原作にも同様の場面がありますが、ドラマとは少し異なります。
澹台燼が騒ぐ臣下に振る舞ったのは毒ではないものの先帝の肉が入ったスープだった、というものです。これに驚いた臣下たちは澹台燼に恭順します。実は臣下にわざと勘違いさせ、本当は豚肉を入れていたというオチはありつつ、澹台燼という存在を恐れた臣下が彼に従うようになるきっかけとなるエピソードです。
ドラマもなんだかんだ言う事をきくようになりましたが、こちらのシーンは全体に臣下のセリフと口元が合わないので、原作通りに撮られたものの、過激な内容だったため検閲時に音声のみ改変したものではと噂されています。
後で声をつけられるのが、中国ドラマの良いところでも悪いところでもありますね。
(※ドラマの入城前にはネズミだけでなく童歌や占いなどの根回し工作を夷月族の配下にさせていることがひっそり描かれています。ご注目ください。)
他に印象的な原作のシーンと言えば、澹台燼の誕生時のもの(4話)でしょうか。
母親の生命を優先して子の生命を諦めるように皇帝が指示したというところまでは同じですが、原作には本能的に殺されると思った澹台燼が母親の腹を突き破り、腹わたを手にして生え揃った歯を持ち血をすすりながら誕生する、という描写があります。こんな登場では、冷宮に入れられるのも仕方がない気がします。
ドラマでは産まれてから乳母たちに異常を発見されるというややマイルドな描写になっていました。
中国では親殺しは特に疎まれる概念と聞きますが、この"母殺し"が父王に疎まれる原因となります。けれど、最愛の女性の子どもを積極的に殺すことはできなかったというのも、また切ない部分です。
ちなみに育ての親に対する情がないことも一般常識から外れたことなので、蘭安たちを特別扱いしないしなんなら害する情の薄さ=澹台燼の人でなしの側面が強調されているとも言えそうです。
他にも葉夕霧が盛った媚薬が蠱毒でその後もふたりが定期的に発情したり、景国で飼っている虎の妖怪にも結構出番があったりと色々細かい違いはありますが、ドラマは概ね原作のエピソードを踏襲し上手く改変していると言えると思います。
さてこの原作は晋江文学城で連載されていた藤萝为枝の《黑月光拿稳BE剧本》で、紙版は《长月无烬》の名前で出版されています。
原作はより澹台燼の残忍さがマシマシで、黎蘇蘇の使命感がより強いです。
わたしはこれが初めての中文読書でしたが、ドラマほど込み入った話ではなく、使われている単語も恐らく少女小説相当であまり難しくないのでオススメです。
大筋は原作を踏襲しているドラマ版ですが、設定は異なる部分が多いです。
大きく違う部分として、
①登場人物を減らして要素がまとめられていること
②循環する世界観設定はドラマオリジナルであること
が挙げられます。
①について、例えば盛国にはもっと沢山の皇子と公主がいて、葉家にも庶子が他にもいます。話の都合上、何人かの登場人物とエピソードがまとめられてドラマ化しているようです。一番設定が盛られているのは蕭凛の部下が全員合体させられてドラえもんみたいに上古のアイテムを出してくる龐(ほう)宜之だと思われます。
次点は無邪気な師弟·月扶崖(男/ドラマでは性別変更)の要素が入っている滄九旻でしょうか。
②について、原作はわかりやすく転生する世界観で、悲惨で残虐な澹台燼が黎蘇蘇への執着を愛に昇華させていく物語です。こちらはこちらで痛ましくて仕方がない物語です。上古の神様世代はそこまで関わってこず、主cp以外の物語はあまり描かれず、仏教的概念や循環する世界観はほぼドラマのオリジナル要素です。
主に②が原因で転生できる/できないことが、結末の大きな分かれ目になっている気がしました。というわけで、わたしは原作とドラマは別物か良くて並行世界として扱うべきものだと思っています。
けれども最後まで走って救いが足りない方は、小説の最終章(127章以降?)を読んでいただければと思います。
あとは国際版YOUKUのVIPで見れるキャストインタビューのラストにちょっとした音声だけの番外がありますので、よろしければ。