業務改善の要はオープン・コミュニケーションツールにあるという仮説
2020年3月にフリーランスに転身して1年半が経ちました。独立当初は何を自分の武器にすべきか迷いながら何でも手探り状態でしたが、ここ最近は自分の強みのようなものが見えてきたように思えます。
さて、私はスタートアップ企業やベンチャー企業の総合支援を生業にしていますが、業務上どうしてもセットになるのが「業務整備・改善」なんです。今日はそのお話をしようと思います。
サマリーだよ!
・業務改善は「目的」を明確にすべし
・業務改善は「全体最適化」を意識すべし
・業務改善は「バリューチェーン」を解き明かせ
・業務改善のマクロ視点は「元帳」・「利益構造」・「組織体系」から得よ
・業務改善のミクロ視点は「社内コミュニケーション」から得よ
・業務改善の鉄則は「ユーザーのアクション数をいかに減らすか」と心得よ
・「社内コミュニケーション」が業務の「起点」であり「分岐点」と心得よ
・「社内コミュニケーション」には「名もなき業務」が潜んでいる
・「社内コミュニケーション」を主軸に「業務フロー」を整理すべし
・「社内コミュニケーション」と業務ツールの「分断」を許すな
・「社内コミュニケーション」は「オープン」を徹底せよ
業務整備・改善の目的を整理してみる
会社が活動し続けるには「利益の最大化」が絶対条件にあがると思います。では、利益の最大化には何が必要なのでしょうか?
① ”商品” を 売る 個数 を増やす
② ”商品” を 売る 価格 を上げる
③ ”商品” を 売る 経費 を減らす
④ ”商品” を 作る 原価 を減らす
「売上をあげる」・「原価をさげる」の二方向に集約されます。業務整備・改善は主に後者の志向性です。「原価を下げる」というと何だかネガティブに思えます。それはきっと原価をさげるという手段を
① 仕入れ の 価格 を下げる
② 従業員 の 給料 を下げる
と連想してしまうからでしょう。確かに方法論としては間違っていませんし、適正価格というのもあります。しかし、これらには必ず「下げ止まり」が存在しますし「搾取」の構図に陥りがちであるのも確かです。
では、それ以外に「原価をさげる」方法はないのでしょうか?そんなことはありません。みなさんもご存じ!「生産性」の登場です。
① ”商品” を 売る 業務量 を減らす
→ 従業員1人あたりが 売る 商品の個数 を増やす
② ”商品” を 作る 業務量 を減らす
→ 従業員1人あたりが 作る 商品の個数 を増やす
これが「業務整備・改善」の主たる目的です。言われるまでもないというかたもいらっしゃるかと思いますが、当初の目的をおざなりになっている例が少なくありません。また、十分な説明をせずに「業務フローを変更します」と現場に通達してもメンバーは協力をしてくれません。
長年の「習慣」を変化させることや、新しい「習慣」を取り入れることは、人間の脳にとって大変な「コスト」なんです。
・なぜ、やるのか?
・やるとなにがおきるのか?
・そして、自分にどう跳ね返ってくるのか?
この3点の説明は現場に必須ですね。
業務改善がうまくいかない原因を考える
さぁ、業務改善しますよ!といっても急にはできません。そもそも何を改善するんだよって話です。コンサルティングのセオリーですが以下のPDCAが基本ですね。
①現状把握
②課題抽出
③施策立案
④実行
⑤効果検証
⑥改善
……なんですが。
業務体系がまだ整っていない組織では「現状把握」が一番、難しい。なんせ「型」がないことに困っているので、先方も「はい、これです」と渡せない。ふわふわと空中で漂っている雲を掴むような感覚です。
しかし、現状把握ができなければ、業務の可視化も効率化も最適な形で進められません。どんな組織でも「ぶつ切り状態の仕事」は存在せず、どんなタスク単位でも「前工程」と「後工程」があります。いわゆるバリューチェーンがあるはずなんです。
数珠つなぎになっている業務を俯瞰してみなければ、どこに問題があって、どこが改善できるのか、といった「全体最適」が図れない。業務改善がうまくいかない最大の原因が此処に集約されています。そこに紐づく失敗の原因を書き出してみましょう。
①現状把握がなされていない
→業務全体を「俯瞰」できる人/部署がいない
→業務を可視化するのにメンバーの脳内をアウトプットするほかない
→通常業務に加えて「業務改善タスク」に割く時間を持てない
→脳内アウトプットがそもそも「ストレス」で時間をつくろうと思わない
→結果的にメンバーの「負担」にフォーカスされ協力が得られない
②全体最適化ができずに部分最適化されている
→業務体系に「歪み」がうまれる その歪みを誰かが回収している
→業務体系に「重複」がうまれる その重複に誰も気がつかない
→結果的に「バリューチェーン」が分断されている
→結果的に「最小リソース」の活動になっていない
何よりも痛いなぁと感じるのが「メンバーの協力」を得られない、という点です。あくまで業務をしているのはメンバー。あくまで顧客に接しているのはメンバー。彼らの協力なくして改善はありません。そして、彼らが「作業が楽になった!仕事の質があがった!」と体感していなければ、そもそも本末転倒なプロジェクトなのです。
現状把握、まず何から取り掛かるべきか?
では、掴みどころのない「雲」をとらえるのか。もっともメンバーに負担をかけずに進める方法はないのか?を模索しました。
①直近3カ月の「総勘定元帳」を共有してもらう
②商品「ラインナップ」と「売上構造」を説明してもらう
③「組織体系」を説明してもらう
その結果、この3つだということに気がつきました。3カ月分の帳簿で何を見たいのかというと「販管費」に何が含まれているのか?という点です。帳簿が最も間違いのない一次情報なので
①社員数
②業務委託者
③SaaSツール
④請負・代行企業
が一目瞭然。ここから「これどうなってますか?」「あれどうなってますか?」と話がしやすい。
加えて、利益を構成する要素が何か?が朧気ながら見えてきます。メンバーが組織上どのような役割を担っているのかも見えてきます。これが「俯瞰」の作業です。もちろん、最初から精巧なデータを作成することはできません。
手元にあるピースを寄せ集めてまずは「一枚絵」を描くことを意識します。間違っていても問題ないです。といいますか修正ありきで企業にぶつけていきます。きちんと形があるものに対しては「これは正しい」「これは間違っている」と即座に回答できるのです。
この「一枚絵」から全体のバリューチェーンを描き出します。数字(利益)における「クリティカルパス」がどこに潜んでいるのか?を炙り出します。いいかえると、どこを改善すれば生産性が向上するのか?を定量的にはかります。これが長期KPIとして設定されます。
マクロ視点からミクロ視点への転換
KPIが見えてきたところで、それをどう達成するのか?を考えていきます。それには、業務の奥深くへ潜っていく必要があります。もちろん、現場へのヒアリングも行います。しかし、実のところヒアリングは最重要ではないと私は考えています。
なぜかというと、その業務の一側面しか覗くことができないからです。前述したとおり「変化」に対して人は防御反応をおこしがちです。
「○○○○があるからできない」「○○○○の理由で変えられない」といった言葉を何度も耳にしました。悪意があっての発言ではもちろんありません。しかし、その発言に引き摺られて、私自身も視野狭窄に陥ってしまう恐れがあります。だから、ヒアリングはほどほどが肝心(笑)
それでは「業務のピース」をどのように集めればいいのか?また、どこから改善策を打ち出せば最も効果的なのか?私は考えました。そして、表題の仮説にたどり着きます。
業務改善の要はオープン・コミュニケーションにある
業務改善というと、どうしても「会計管理ツール」「労務管理ツール」「プロジェクト管理ツール」「営業管理ツール」といったように業務領域で区切られた「管理ツール」の導入に目がいきがちです。
では、ツールの導入ですべての課題を解決できるのか?
いや、これこそ部分最適化の発端であり、諸悪の根源ではないのかと考えます。例えば、
①マーケティング施策の検証レポートをMAツールで管理しているのに、スプレットシートにまとめて、さらに報告資料を作成して、さらにチャット上でも報告している
②営業の案件管理をCRMツールに入力をしているが、入力しない人間がいるので営業事務が口頭で確認していて、さらにチャット上でも報告している
③会社あての支払請求書を経理担当者にメールで転送をして、チャット上でも報告している
こんなことってないですか?業務の負担軽減を目的に導入したはずなのに、なぜか業務量が余計に増えている。
そもそも業務の起点はどこにあるのかを考えると、どんな企業でも「コミュニケーション」が「起点」であるのと同時に「分岐点」という当たり前な事実に気がつきました。
コロナ禍によって企業内の「テキスト・コミュニケーション」が見直されていますよね。次世代は「テキスト・コミュニケーション」を主軸に業務が遂行されます。つまり、コミュニケーション・ラインを整理することが、業務フローの可視化にそのまま接続するのです。
また、メンバーの「脳内」の産物が「コミュニケーション・ツール」にフロー情報として蓄積されています。ありました。掴めなかった「雲」が。業務を構築するピースの集合体です。宝の山です。
・どんな流れで依頼をしているんだろう?
・どんなツールを使用しているんだろう?
・何が面倒な作業なんだろう?
・何に時間がかかっているんだろう?
・どこでミスが起こりやすいんだろう?
全て丸裸ですね。
そして気がつきます。最もコミュニケーション量が多い「社内コミュニケーション」と「その他の業務を行うツール」間が分断されていることに。ここに非効率が潜んでいます。
私が過去に「社内コミュニケーション」を軸に課題を整理してみた一例です。なんだか色んなところに無駄がありそうですね。これは各業務に使用しているツールの連携がうまくいっていない例だと思います。そして、業務の主戦場となっている「社内コミュニケーション・ツール」を軸足において業務設計をしていないからだといえるでしょう。
「社内コミュニケーション・ツール」を軸足において業務設計するとはどういうことなのか?それは、業務の連続性を「コミュニケーション・ツール」を起点に可視化することです。
「名もなき家事」という言葉が流行ったことがありますが、仕事の現場にもあります。「名もなき業務」が。そして、それはきっと誰かが文句を言わずにカバーしてくれています。
そして、「コミュニケーション・ツール」上で報連相を行うことを前提にツール選定や運用方法を考えることです。
◆営業の問い合わせメールの対応について
改善前)
・問い合わせメールに個人が返信対応していた
→営業間対応したかどうか確認する手間があった
・問い合わせ内容をCRMに転記していた
→転記作業が営業の負担だった
→問い合わせとCRMの情報が一致していなかった
→CRMの活用度が社員によって異なっていた
→上長CRMを活用できておらず、チャット上での報告が必要だった
・受注報告をチャットで行っていた
→CRMの情報を経理担当に転記報告していた
→報告を忘れて請求漏れが起きていた
→請求書の発行、送付を経理が営業にチャットで報告していた
改善案)
①お問い合わせメール → CRM に接続 → チャットに通知
②CRMで業務担当・ステータス管理 → リマインドをチャットに通知
③CRMで数値レポートを自動吐きだし → 数値をチャットに通知
※スプレットシートへ自動更新
これだけで随分と無駄がなくなると思いませんか?
業務を効率化するのに
①使用ツールは最小で
②報連相行為は最少で
③情報は一元管理で
は鉄則です。つまり、いかにアクション数を減らせるか。
現状利用されているツールを各分野・業務ステップごとに整理し、それが本当に必要なものかどうか検討することが業務改善のスタートライン。
もうひとつ重要なポイントがあります。それはコミュニケーションが「オープン」に設計されているかどうか?企業カルチャーとして「オープン・コミュニケーション」はとても重要な要素です。
例えば、
①○○○○について提出が遅れちゃった!怒られたくないから個別に連絡しよう
②○○○○についてミス発見しちゃった!Aさんにいうのは憚れるから、Bさんに個別に連絡しよう
③○○○○について質問したいけどみんなに見られると恥ずかしいから個別に連絡しよう
基本的に「情報共有」の手間が増えるのは悪手といえます。チャットを利用している意味がありません。また、オープンスペースだからこそ情報が蓄積されている状態で「データベース検索」を可能にしています。
そして、業務がブラック・ボックス状態ですと、不測の事態に陥った際に他のメンバーが助けることができません。業務の冗長化をはかるためにも「オープン・コミュニケーション」は必須といえるでしょう。テレワークが浸透しているいまだからこそ再度意識したい点ですね。
まとめ
・業務改善は「目的」を明確にすべし
・業務改善は「全体最適化」を意識すべし
・業務改善は「バリューチェーン」を解き明かせ
・業務改善のマクロ視点は「元帳」・「利益構造」・「組織体系」から得よ
・業務改善のミクロ視点は「社内コミュニケーション」から得よ
・業務改善の鉄則は「ユーザーのアクション数をいかに減らすか」と心得よ
・「社内コミュニケーション」が業務の「起点」であり「分岐点」と心得よ
・「社内コミュニケーション」には「名もなき業務」が潜んでいる
・「社内コミュニケーション」を主軸に「業務フロー」を整理すべし
・「社内コミュニケーション」と業務ツールの「分断」を許すな
・「社内コミュニケーション」は「オープン」を徹底せよ