酒に救われた青春時代(自伝④)
1.沈黙が怖い
人生に違和感を覚えるきっかけ
高校時代にバスケットボール部の練習を終え、いつも電車で帰る友達との会話中
会話と会話の間の沈黙がなぜか耐えられなくなって、何かしゃべらなきゃ、という強迫観念にせきたてられ、しゃべるようになってきた
そのうち会話を楽しめなくなって息苦しくなってきた
友達が嫌いとかでもなく、むしろ気が合う感じだったのに、だんだん会話が苦痛になってきたのだ
それ以後、それまでは自然に意識せず友達とわりと楽しく会話していたのに、
気かづけば、一人でいるのを好むようになっていた
2.酒が救ってくれた
皮肉なもので、なぜか今までにない大学ならではの別世界があるような気になり集団スポーツのボート部に入部してしまった
ボート部に入り、ほどなく新観コンパなるものがあった
乾杯して苦いビールを飲み雑談した後、先輩達が列をなして新入生に注ぎにくる
コップにビールが残ったまま差し出すと、どの先輩も注ごうとしない
しかたなく、飲み干してコップが溢れるほど注がれて一息ついたかと思うが、次の先輩が来て、またそれを飲み干してから、なみなみと注がれる
全部の先輩が注ぎ終わるころには、もう周りの景色がほわほわになっている
まだ気持ち悪いというほどではなく、何か意識がほんわかして何よりだれかれとなく自由に話せてこんなに会話が愉快なのはしばらくぶりだった
ところがこれで終わらないのがボート部の恐ろしいところだ
やがて酩酊状態は極に達し、あちこちで先輩後輩が入り乱れ、わいのわいのと騒ぎ出し、
当時はやった全学連のデモ行進の真似ゴトまで始まった
やがて静かになったかと思うと、一人の先輩が優勝カップを持ち出し、そこに、なみなみとビールを注いだかと思うと新入生一人一人に飲めと回ってきた
皆の見守るなか一人一人立ち上がり、周りでわいのわいのとはやし立てる音頭の中、優勝カップのビールを飲むのだが、ほとんど飲む端から下にじょぼじょぼとこぼしている
全てが終わるころには、酩酊状態を通り越して、もうほとんどなにがなんだかわからなくなって何かふわふわ浮遊しているような感覚
この世のものとは思えぬ極楽浄土とはこのことか?
気がつけば、先輩がどこからか持ちだしてきたリヤカーに5,6人乗せられ先輩の下宿についていた
もうほとんど記憶もなく朝目覚めたら手足が入り乱れて廊下にごろ寝していた
これ以後、酒の妙味に魅せられ先輩と居酒屋にいったり、自宅でもコーラにウイスキー割して飲むようになり、あんなに苦かったビールがいつしかおいしく感じられるようになってしまった
その後も部活の練習が終わると、部室でビールやつまみを買ってきては、どんちゃん騒ぎするのが楽しかった
3.酔っぱらって初デート
男同士でもシラフではどこか緊張感があり、よほど気の合う友人でもない限り、あまり楽しめない
まして女の子ともなれば雲の上の存在
デートするなど当時はとても考えられなかった
それを救ってくれたのもやはり酒だった
ボート部にも女子部があり、練習後には部室で酒を飲みどんちゃん騒ぎをやるのだが、しばしば女の子も加わった
宴たけなわになると、エロい替え歌を割りばしたたいては大声を張り上げて歌う
女の子たちも手をたたいてはしゃいでいる
その中でも特に色白でボーイッシュで猥談にも嬉しそうに目を細めて笑う後輩のWさんは可愛い
そんな部室でのどんちゃん騒ぎが終わるころ、すでに終電もなくなり、どういうはずみか私とWさんが近くのM男の下宿に泊まることになった
その下宿でも酒豪のM男らしくまた酒盛りが始まり、そのまま3人雑魚寝してしまった
翌日目覚めると、こまめなM男が出してくれた簡単な朝食を3人でとり、W
さんと私は同じ電車なので二人で下宿を後にして、まだ酔いが醒めないふわふわした気分で並んで駅に向かって歩いていた
電車の中でもしゃべりまくり、やがてどういうはずみか私の下車駅前の映画館に行こうということになった
スティ―ブマックイーン主演の「パピオン」を二人で観た
映画を観ながら、ふと隣でポップコーンを食べながら観入っている彼女を横目で見ながら『デートしてるんだ!信じられない!』
彼女とはその後も2、3度デートしたが、手も握らず、留年で卒業できない私をしり目に先に卒業してしまった
後年、同じボート部の同期の男性と結婚してしまった.
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