「BEEF/ビーフ」「私のトナカイちゃん」についてのメモ
突然自分の身に降りかかってきた災難。
なんで自分ばっかりこんな目に遭うんだ……
アイツが悪い……オレの敵はアイツ……
最初はそう思って戦っていたのに、相手が自分と同じ存在だと気づき、相手を見れば見るほど、鏡を覗きこむかのように自分の内面が見えてくる……
そんな現代人の心を抉るようなドラマ「BEEF/ビーフ(Beef)」と「私のトナカイちゃん(Baby Reindeer)」についてメモしておきたいと思います。
「BEEF/ビーフ」
エミー賞で8冠に輝いた人間ドラマ。BEEFは“ディスり合い”を意味するスラング。「ウォーキング・デッド」のスティーヴン・ユァンが本作で演じる主人公はどこか憎めないダメ男。ある女性と駐車場でちょっとしたトラブルが起き、それが次第に大きなバトルへと発展、彼の生活が脅かされていきます。
その様子はSNSでのちょっとした諍いが炎上していくのと同じで、燃え広がっていく火を止める手立てはありません。怒りに駆られた2人の喧嘩はどんどん過激になり、事態はどんどんカタストロフィーへ。同時に、彼らはその怒りの原点が自分自身にあると気づくことになります。
「私のトナカイちゃん」
本作はリチャード・ガッドの実体験に基づく物語。バーで働く売れない芸人が孤独な女性に一杯の紅茶を奢ったことから、ストーカー化した彼女に悩まされることになります。
ストーカーの彼女は確かに病的でエキセントリックですが、芸人の彼のギャグに笑い、彼の心の闇を感じ取り、彼に寄り添おうとします。彼女が彼の好みのタイプだったら、周囲に自慢できるスペックの持ち主だったら、2人が恋人同士になる世界線もあったでしょうか。いずれにせよ、彼は彼女との出会いを機に目を背け続けてきた自分のトラウマと向き合うことになります。
これら2作はともに最終話のエンディングが秀逸。
現代人の虚栄心と承認欲求、孤独と焦燥感を鮮やかに描き出し、今の時代をリアルに捉えた作品と言えるかもしれません。